StudyMed医師国家試験

「人生会議」は早めに、何度でも―ACPを支える情報提供の力

第120回医師国家試験 C問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第25問

成人に対するアドバンス・ケア・プランニング〈ACP〉の実施において正しいのはどれか。

  1. a.医療チームの方針を優先する。
  2. b.終末期に入ってから実施する。
  3. c.安易に希望を変更しないように説明する。
  4. d.患者の意思決定能力が不十分な場合は実施しない。
  5. e.病状が進行すると出現するかもしれない症状を説明する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はアドバンス・ケア・プランニング、ACPの基本的な考え方を問う問題だ。着眼点は「誰が主体か」「いつ始めるか」「一度決めたら終わりか」「何を支援するか」の4つ。まず、ACPとはどんなものか説明できるかな。
医学生医学生
臨床医学総論の講義で「人生会議」という愛称を習いました。将来に備えて、受けたい医療を事前に決めておくこと、でしょうか。
ドクタードクター
おおむね合っているけれど、もう少し広い概念なんだ。ACPは、将来の病状の変化や意思決定能力の低下に備えて、本人の価値観や希望、受けたい・受けたくない医療やケアについて、本人・家族等・医療ケアチームが前もって繰り返し話し合い、共有していくプロセスを指す。書類を1枚作って終わり、というものではないんだよ。
医学生医学生
「プロセス」というのがポイントなんですね。事前指示書とは違うんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。アドバンス・ディレクティブ、つまり事前指示は、意思決定能力を失ったときに備えて、希望する医療や代理判断者を前もって表明しておくこと。リビングウィルはその一形態だね。ACPはそうした表明も含みつつ、価値観の共有を含めた話し合いの過程全体を指すんだ。では、正解はどれだと思う?
医学生医学生
本人が選ぶためには、この先どうなるかを知らないと決められないので、病状が進んだときに出てくるかもしれない症状を説明する、が正しいと思います。
ドクタードクター
正解。例えば呼吸困難や疼痛、嚥下障害、意識障害など、これから起こりうる症状と、その時の対応方法を前もってわかりやすく伝えておく。そうすると本人は、人工呼吸や経管栄養を望むか、どこで療養したいか、といった具体的な希望を考えられるようになる。適切な情報提供はACPの前提なんだ。
医学生医学生
医療チームの方針を優先する、というのは、専門家の判断のほうが医学的に正しいから、という意味では一見もっともらしく見えました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいね。医療ケアチームの役割は、医学的に妥当な選択肢や見通しを示して、本人が納得して決められるよう支えることだ。主体はあくまで本人で、チームの方針を本人の意向より優先させるのはACPの趣旨に反する。
医学生医学生
終末期に入ってから実施する、も違いますよね。緩和ケア科を回ったとき、意識が落ちてから家族が慌てて決断を迫られる場面を見ました。
ドクタードクター
貴重な経験だね。終末期には病状の悪化や意識障害、認知機能の低下で、本人が意思を表明できなくなっていることが多い。だからACPは元気なうちや診断後の早い段階から始めて、病状の節目ごとに繰り返すことが推奨されているんだ。
医学生医学生
「安易に希望を変更しないように」というのも、一度決めたことがぶれると現場が困るから、という発想でしょうか。
ドクタードクター
そういう発想になりがちだけれど、誤りだ。人の希望は病状の進行や治療経過、家族の状況によって変わるのが自然で、変わることを前提に話し合いを重ねるのがACPだ。「気持ちはいつでも変えていい」と伝え、変化があればそのつど話し合って記録を更新し、関係者で共有する。
医学生医学生
意思決定能力が不十分な場合は実施しない、というのはどうですか。本人が決められないなら話し合いの意味がない気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこも大事なところ。能力が十分でなくても、本人に可能な範囲で意向を確かめつつ、家族等から本人が以前どう考えていたかを聴き取り、多職種で本人の意思を推定する努力をする。意思決定能力が不十分なことは、話し合いをしない理由にはならないんだ。
医学生医学生
本人主体、早期から、変更可能、そして十分な情報提供。この4つで選択肢を判断すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」も押さえておこう。2018年の改訂でACPの考え方が盛り込まれ、在宅医療・介護の現場も想定し、医療ケアチームに介護従事者も含められた。本人の意思を推定する人として、家族に限らず信頼できる人を前もって決めておくことの重要性も示されている。
医学生医学生
本人の意思が確認できないときは、どういう順番で方針を決めるんでしょうか。
ドクタードクター
家族等が本人の意思を推定できればその推定意思を尊重し、推定できない場合や家族等がいない場合は、本人にとって最善の方針を医療ケアチームが慎重に判断する。決定が難しいときは、複数の専門家による話し合いの場で助言を受ける。もう一つ臨床での注意点として、DNARは心停止時に心肺蘇生を行わないという指示であって、それ以外の治療を控えるという意味ではないことも覚えておいてほしい。
医学生医学生
DNARだからと検査や治療まで控えてしまわないように気をつけます。外来の段階から少しずつ話題にしていくのが大切なんですね。
ドクタードクター
そう、ACPは特別なイベントではなく、日々の診療の延長にある対話なんだ。11月30日は「人生会議の日」とされているから、患者さんだけでなく自分自身の問題としても考えてみるといいよ。

まとめ

アドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」)は、将来の病状変化や意思決定能力の低下に備え、本人の価値観や希望を本人・家族等・医療ケアチームが繰り返し話し合い共有するプロセスです。主体は本人であり、元気なうちや病気の早い段階から始め、希望は変わってよいものとしてそのつど話し合い記録を更新します。本人が適切に選べるよう、今後起こりうる症状や病状の見通しをわかりやすく説明することがACPの前提となり、意思決定能力が不十分な場合でも家族等とともに本人の推定意思を探り最善の方針を検討します。厚生労働省のガイドライン(2018年改訂)の手順や、DNARが心肺蘇生以外の治療の差し控えを意味しない点もあわせて押さえておくと、終末期に限らず日常診療での意思決定支援に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

テーマ

アドバンス・ケア・プランニング(advance care planning:ACP)の基本的な考え方を問う問題である。

ACPとは

ACPは、将来の病状の変化や意思決定能力の低下に備えて、本人が大切にしている価値観や希望、受けたい・受けたくない医療やケアについて、本人・家族等・医療ケアチームが前もって繰り返し話し合い、共有していくプロセスである。我が国では2018年に厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」がACPの考え方を取り入れて改訂され、同年「人生会議」という愛称が定められた。

押さえるべき原則

(1) 主体は本人であり、医療ケアチームは本人の意思決定を支援する立場にある。 (2) 健康なうちや病気の早い段階から始め、終末期になってから慌てて行うものではない。 (3) 一度決めたら終わりではなく、心身の状態や環境の変化に応じて考えは変わりうるものとして、繰り返し話し合い、そのつど記録・共有する。 (4) 本人が意思を示せなくなった場合に備え、本人の意思を推定できる家族等(信頼できる人)にも話し合いに加わってもらう。 (5) 本人が適切に選択できるよう、病状・予後の見通し、今後起こりうる症状や選択肢となる治療・ケアについて十分な情報を提供する。

解き方

これらの原則に照らし、本人主体・早期から・変更可能・情報提供という観点で各選択肢を判断する。本人の意思決定の前提となる情報提供を述べた選択肢が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  医療チームの方針を優先する。

    ACPは本人の自己決定を尊重するための取り組みであり、話し合いの中心は本人の価値観と意向である。医療ケアチームは医学的に妥当な選択肢や見通しを示し、本人が納得して決められるよう支える役割を担うが、チームの方針を本人の意向より優先させることはACPの趣旨に反する。

  2. ×b.  終末期に入ってから実施する。

    終末期に入ると、病状の悪化や意識障害・認知機能の低下によって本人が自分の意思を表明できなくなっていることが多い。ACPは本人が元気なうち、あるいは病気の診断後の早い段階から始め、病状の節目ごとに繰り返し話し合うことが推奨されている。

  3. ×c.  安易に希望を変更しないように説明する。

    人の希望や考えは病状の進行、治療経過、家族の状況などによって変わるのが自然であり、変わることを前提に話し合いを重ねるのがACPである。本人には「気持ちはいつでも変えてよい」ことを伝え、変化があればそのつど話し合い、記録を更新して関係者で共有する。希望の変更を制限するような説明は誤りである。

  4. ×d.  患者の意思決定能力が不十分な場合は実施しない。

    意思決定能力が十分でない場合でも、本人に可能な範囲で意向を確かめつつ、家族等から本人が以前どのように考えていたかを聴き取り、多職種で本人の意思を推定する努力を行う。ガイドラインでは、家族等が本人の意思を推定できる場合はその推定意思を尊重し、推定できない場合や家族等がいない場合は、医療ケアチームが家族等と十分に話し合って本人にとって最善の方針を慎重に判断するとされている。意思決定能力が不十分であることは、話し合いを行わない理由にはならない。

  5. ○e.  病状が進行すると出現するかもしれない症状を説明する。

    本人が将来の医療やケアを選ぶためには、この先どのような経過をたどり、どのような症状(呼吸困難、疼痛、嚥下障害、意識障害など)や状況が起こりうるかを知っておく必要がある。病状や予後の見通し、起こりうる症状とその対応方法を前もってわかりやすく説明することで、本人はそれらを踏まえた具体的な希望(例えば人工呼吸や経管栄養を望むか、どこで療養したいか)を考えられるようになる。適切な情報提供はACPの前提となる重要な要素である。

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(厚生労働省)

・2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」として策定され、2015年に名称変更、2018年に改訂された。 ・2018年改訂の主なポイント:ACPの概念を盛り込んだこと、病院だけでなく在宅医療・介護の現場も想定したこと、医療ケアチームに介護従事者を含めたこと、本人の意思を推定する者として家族等(家族に限らず信頼できる人を含む)を前もって定めておくことの重要性を示したこと、話し合った内容をそのつど文書にまとめて共有すること。 ・方針決定の手順:(1)本人の意思が確認できる場合は、本人と医療ケアチームが十分に話し合ったうえで本人の意思決定を基本とする。(2)本人の意思が確認できない場合は、家族等が本人の意思を推定できればその推定意思を尊重し、推定できなければ家族等と十分に話し合い本人にとって最善の方針をとる。家族等がいない場合や家族等が判断を医療ケアチームに委ねる場合は、本人にとって最善の方針をとる。(3)方針決定が困難な場合などには、複数の専門家からなる話し合いの場を設けて検討・助言を受ける。

関連用語

・アドバンス・ディレクティブ(事前指示):意思決定能力を失った場合に備えて、受けたい医療・受けたくない医療や代理判断者を前もって表明しておくこと。リビングウィルはその一形態である。ACPは事前指示書の作成そのものではなく、価値観の共有を含めた話し合いのプロセス全体を指す点が異なる。 ・DNAR(do not attempt resuscitation):心停止時に心肺蘇生を行わないという指示。ACPの話し合いの結果として決められることがあるが、DNARは心肺蘇生以外の治療を差し控えることを意味しない。 ・「人生会議」の愛称は2018年に決まり、11月30日(いい看取り・看取られ)が「人生会議の日」とされている。

POINT

・ACPは本人主体で、本人・家族等・医療ケアチームが繰り返し話し合い、共有するプロセスである(愛称は「人生会議」)。 ・元気なうち・病気の早い段階から始める。終末期になってからでは遅い。 ・希望は変わってよい。変わるたびに話し合い、記録を更新する。 ・意思決定能力が不十分でも、家族等とともに本人の推定意思を探り、最善の方針を検討する。 ・今後起こりうる症状や病状の見通しを説明することが、本人の意思決定の前提となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。