StudyMed医師国家試験

受精の場を体外へ―体外受精・胚移植が「効く不妊」と「効かない不妊」

第106回医師国家試験 G問題 第37問

国試問題にチャレンジ

第106回 G問題 第37問

体外受精・胚移植の適応となるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.不育症
  2. b.乏精子症
  3. c.子宮筋腫
  4. d.黄体機能不全
  5. e.両側卵管閉塞

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体外受精・胚移植がどんな不妊に適応となるかを問う問題だ。この治療が何を解決する方法なのか、仕組みから考えると答えが自然に見えてくるよ。まず、体外受精・胚移植がどういう治療か説明できるかな。
医学生医学生
排卵誘発で卵子を育てて採卵し、体外で精子と受精させて、できた胚を子宮に戻す治療ですよね。
ドクタードクター
その通り。ポイントは、本来は卵管膨大部で起こる「卵子と精子の出会い」を体外に移していることだ。つまり、受精の段階でつまずいている不妊を飛び越えられる治療なんだ。
医学生医学生
ということは、子宮や着床に問題があるケースは、体外受精をしても解決しないということですか。
ドクタードクター
鋭いね。「妊娠しない原因が受精の段階にあるか」という視点で選択肢を見ていこう。まず両側卵管閉塞はどうかな。
医学生医学生
卵管が両方詰まっていたら卵子と精子が出会えないので、自然妊娠はほぼ無理です。体外受精なら卵管を通らずに済みますね。
ドクタードクター
正解。原因としてはクラミジア感染による骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症、骨盤内手術後の癒着などが多い。そもそも体外受精は卵管性不妊の治療として開発された方法で、1978年の世界初の体外受精児も卵管閉塞の女性から生まれているんだ。
医学生医学生
産婦人科の講義で、卵管通過性は子宮卵管造影で調べると習いました。不妊検査の基本ですよね。
ドクタードクター
そう、不妊の初期検査として重要だね。次は乏精子症。男性側の問題だけど、どう考える?
医学生医学生
精子が少ないと、卵管膨大部まで届く精子が足りないので受精しにくい……。体外で卵子のすぐ近くに精子を置けば受精のチャンスが増えるので、適応になると思います。
ドクタードクター
その理解で合っている。調整した運動良好精子を卵子に直接かけられるからね。ただし段階があって、軽症ならまず調整精子を子宮内に注入する人工授精を試み、それで妊娠しない場合や中等症以上で体外受精、さらに重症で通常の体外受精でも受精しにくければ、精子1個を卵子に注入する顕微授精を行う。
医学生医学生
無精子症も体外受精でいけますか。
ドクタードクター
いい質問だ。射出精液に精子がなければ通常の体外受精はできない。精巣内精子採取術で精子を回収し、顕微授精を組み合わせることになる。では残りの選択肢。不育症はどうかな。
医学生医学生
不育症は妊娠は成立するのに流産を繰り返す状態なので、受精の問題ではない……だから適応外ですね。不妊症と名前が似ていて紛らわしいです。
ドクタードクター
まさにそこが引っかけポイント。不育症では抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、夫婦の染色体構造異常、甲状腺機能異常などを調べ、低用量アスピリンやヘパリンによる抗凝固療法、子宮形成術など原因に応じた治療をする。体外受精で受精を助けても流産は防げないんだ。
医学生医学生
子宮筋腫は、粘膜下筋腫だと着床障害の原因になると病理の講義で聞きましたが、それでも適応にならないんですか。
ドクタードクター
その場合に必要なのは筋腫核出術のほうなんだ。子宮内腔を変形させる筋腫が問題なら、子宮鏡下などで筋腫を取って内腔を正常化するのが筋道で、受精を助けても着床の障害は残る。多くの筋腫はそもそも妊孕性に大きく影響しないよ。
医学生医学生
黄体機能不全も、プロゲステロンが足りなくて内膜の着床準備が不十分になる状態だから、受精とは別の段階の問題ですね。
ドクタードクター
その通り。基礎体温の高温相が短い、黄体期中期のプロゲステロン値が低いといった所見で疑い、黄体ホルモン補充やhCGによる黄体刺激などホルモン療法で対応する。だから正解は乏精子症と両側卵管閉塞の2つだ。
医学生医学生
受精の場を体外に移す治療だから、受精の手前でつまずく卵管性不妊と男性不妊が代表的な適応、と整理できました。
ドクタードクター
完璧だ。ほかに抗精子抗体による免疫性不妊、子宮内膜症による不妊、タイミング法や人工授精を繰り返しても妊娠しない原因不明不妊も適応になる。臨床で注意したい合併症も押さえておこう。排卵誘発による卵巣過剰刺激症候群では、卵巣腫大、腹水・胸水、血液濃縮から血栓症まで起こりうる。
医学生医学生
多胎妊娠も問題になると聞きました。
ドクタードクター
そうだね。だから現在は移植する胚を原則1個にする単一胚移植で多胎を減らす取り組みが進んでいる。頻度は低いけれど異所性妊娠や子宮内外同時妊娠もありうるから、妊娠成立後も油断は禁物だ。

まとめ

体外受精・胚移植は、採卵した卵子と精子を体外で受精させて胚を子宮に戻す治療であり、卵子と精子が自然には出会えない・受精しにくい不妊に適応があります。代表は両側卵管閉塞などの卵管性不妊と乏精子症などの男性不妊で、免疫性不妊、子宮内膜症、原因不明不妊も適応となり、重症男性不妊には顕微授精、無精子症には精巣内精子採取術と顕微授精を組み合わせます。一方、妊娠は成立する不育症や、手術やホルモン療法で原因を直接治療できる子宮筋腫・黄体機能不全は、それ自体では適応になりません。卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠といった合併症も含め、「どの段階の障害を何で解決するか」という視点で生殖補助医療を整理することが、不妊診療の理解の土台になります。

解答・解説

正解はb, eです

体外受精・胚移植(IVF-ET:in vitro fertilization-embryo transfer)は、排卵誘発で育てた複数の卵子を経腟的に採取し(採卵)、体外で精子と受精させ、培養して得た胚を子宮内に戻す(胚移植)治療である。卵子と精子が出会う場所(通常は卵管膨大部)を体外に移すことで、次の2つの障害を回避できる。 ・卵子と精子が卵管内で出会えない(卵管の閉塞・機能障害) ・精子の数や運動性が不足し、自然の状態では受精に至りにくい(男性不妊) したがって適応は「受精そのものが自然には起こりにくい不妊症」であり、代表は卵管性不妊と男性不妊である。このほか、抗精子抗体による免疫性不妊、子宮内膜症による不妊、他の治療(タイミング法、人工授精など)が奏効しない原因不明不妊も適応となる。 逆に、妊娠は成立するが流産を繰り返す状態(不育症)や、受精以外の段階に原因があり、それを直接治療できる状態(子宮筋腫、黄体機能不全)は、それ自体ではIVF-ETの適応とならない。「妊娠が成立しない原因が受精の段階にあるか」という観点で各選択肢を判断するとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  不育症

    不育症は、妊娠は成立するものの流産や死産を繰り返して生児が得られない状態である(流産を3回以上繰り返す習慣流産はその一部)。受精・着床は起こるため、受精の障害を回避するIVF-ETの適応にはならない。原因として抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、夫婦の染色体構造異常、甲状腺機能異常などを検索し、抗凝固療法(低用量アスピリン・ヘパリン)や子宮形成術など原因に応じた治療を行う。したがって誤りである。

  2. ○b.  乏精子症

    乏精子症は精液中の精子濃度が低い状態である(WHO基準では精子濃度の下限は約1,500万/mL)。精子の数が少ないと、性交で腟内に射精されても卵管膨大部まで到達して受精できる精子が不足する。体外受精では調整した運動良好精子を卵子のすぐ近くに置くため、受精の機会を大きく高められる。軽症ではまず人工授精(AIH/IUI:調整精子を子宮内に注入する方法)が試みられ、それで妊娠しない場合や中等症以上ではIVF-ETの適応となる。重症で通常の体外受精でも受精しにくい場合は、1個の精子を卵子に直接注入する顕微授精(ICSI:卵細胞質内精子注入法)を行う。したがって正しい。

  3. ×c.  子宮筋腫

    子宮筋腫は子宮平滑筋から生じる良性腫瘍で、多くは妊娠性に大きな影響を与えない。ただし子宮内腔を変形させる粘膜下筋腫などは着床障害や流産の原因となりうる。その場合に必要なのは筋腫核出術(子宮鏡下手術や腹腔鏡下・開腹手術)で子宮内腔を正常化することであり、IVF-ETで受精を助けても着床の障害は解決しない。したがってIVF-ETの適応ではなく、誤りである。

  4. ×d.  黄体機能不全

    黄体機能不全は、排卵後に形成される黄体からのプロゲステロン分泌が不十分で、子宮内膜の分泌期変化(着床の準備)が不十分になる状態である。基礎体温の高温相が短い(おおむね10日未満)、黄体期中期の血中プロゲステロン値が低いなどで疑う。治療はプロゲステロン(黄体ホルモン)製剤の補充や、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)投与による黄体刺激、排卵誘発による卵胞発育の改善など、ホルモン療法が基本である。受精に障害があるわけではないため、それ自体はIVF-ETの適応とならない。したがって誤りである。

  5. ○e.  両側卵管閉塞

    両側の卵管が閉塞していると、卵子と精子が卵管膨大部で出会えず、自然妊娠は事実上起こらない。原因としてはクラミジア感染などによる骨盤内炎症性疾患、子宮内膜症、骨盤内手術後の癒着などが多い。IVF-ETは卵巣から直接卵子を採取し、体外で受精させた胚を子宮に戻すため、卵管を全く経由せずに妊娠を成立させることができる。もともとIVF-ETは卵管性不妊の治療として開発された方法であり(1978年の世界初の体外受精児の出生例も卵管閉塞の女性であった)、最も代表的な適応である。卵管形成術(卵管鏡下卵管形成術など)が選択されることもあるが、両側閉塞では体外受精が確実性の高い方法である。したがって正しい。

体外受精・胚移植の主な適応

1. 卵管性不妊:両側卵管閉塞、卵管周囲の癒着、卵管の機能障害、卵管切除後など 2. 男性不妊:乏精子症、精子無力症(運動率低下)など。重症例では顕微授精(ICSI)を併用する。 3. 免疫性不妊:抗精子抗体により精子の通過や受精が妨げられる場合 4. 子宮内膜症による不妊 5. 原因不明不妊:タイミング法や人工授精を繰り返しても妊娠しない場合

男性不妊の治療の段階

・軽症:人工授精(AIH/IUI) ・中等症:体外受精(IVF) ・重症の乏精子症・精子無力症:顕微授精(ICSI) ・無精子症:精巣内精子採取術(TESE)で得た精子を用いてICSIを行う。射出精液に精子がないため、通常の体外受精はできない。

不妊症と不育症

・不妊症:妊娠を希望し、避妊をせずに性交しているにもかかわらず、一定期間(日本産科婦人科学会の定義では1年)妊娠しない状態 ・不育症:妊娠は成立するが、流産・死産を繰り返して生児を得られない状態 両者は病態が異なるため、治療法も異なる。

体外受精に伴う主な合併症

・卵巣過剰刺激症候群(OHSS):排卵誘発により卵巣が腫大し、腹水や胸水の貯留、血液濃縮、血栓症を来す。 ・多胎妊娠:移植する胚の数を原則1個とする(単一胚移植)ことで減らす取り組みがなされている。 ・異所性妊娠:頻度は低いが、子宮内外同時妊娠も起こりうる。

POINT

・体外受精・胚移植は「卵子と精子が自然には受精しにくい」不妊症に適応がある。 ・代表的な適応は、卵管性不妊(両側卵管閉塞など)と男性不妊(乏精子症など)である。 ・免疫性不妊(抗精子抗体)、子宮内膜症、原因不明不妊も適応となる。 ・不育症は妊娠が成立する病態なので適応外である。 ・子宮筋腫は手術で、黄体機能不全はホルモン療法で、それぞれ原因そのものを治療する。 ・重症男性不妊には顕微授精(ICSI)、無精子症にはTESE+ICSIを行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。