「要因から結果へ」を追いかける―コホート研究の本質を症例対照研究・介入研究と比べて整理する
第106回医師国家試験 G問題 第31問
国試問題にチャレンジ
コホート研究について正しいのはどれか。
- a.要因の有無によって2群に分けて追跡する。
- b.過去から現在への追跡は含めない。
- c.まれな疾患の研究に適している。
- d.介入群と非介入群とを設定する。
- e.相対危険度は計算できない。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
コホート研究は、まだ発症していない集団を要因(曝露)の有無で群分けし、追跡して疾病の発生を比較する観察研究(分析疫学)です。前向きが基本ですが、信頼できる過去の記録を用いた後ろ向きコホート研究も成立し、罹患率を直接求められるため相対危険度や寄与危険度を算出できます。一方で大規模・長期間を要し、まれな疾患には不向きで、その場合は疾病の有無で群分けしてオッズ比を求める症例対照研究が適します。研究者が介入を割り付けるのはランダム化比較試験などの介入研究であり、コホート研究とは区別されます。群分けの基準・調べる方向・算出できる指標を対比して理解することは、試験対策だけでなく臨床論文を正しく読み解く力の土台になります。
解答・解説
正解はaです
本問は、分析疫学の代表的な研究デザインであるコホート研究の特徴を問う問題である。症例対照研究や介入研究と対比しながら整理しておくと混乱しにくい。
疫学研究の分類
疫学研究は、研究者が要因(曝露)を割り付けない観察研究と、研究者が要因を割り付ける介入研究(実験疫学)に大別される。観察研究はさらに、疾病の分布を「誰に・いつ・どこで」の観点で記述する記述疫学と、要因と疾病の関連を検証する分析疫学に分かれる。分析疫学には、生態学的研究、横断研究、症例対照研究、コホート研究がある。
コホート研究とは
コホートとは、共通の特性をもつ集団のことである。コホート研究では、研究開始時点でまだ疾病を発症していない集団を、ある要因への曝露の有無(または程度)によって曝露群と非曝露群に分け、一定期間追跡して両群の疾病発生率を比較する。「要因 → 結果」の方向に調べるため、要因対照研究とも呼ばれる。 ・利点:曝露と発症の時間的前後関係が明確である。罹患率(発生率)を直接求められ、相対危険度(リスク比)や寄与危険度(リスク差)を算出できる。1つの要因から複数の疾病への影響を調べられる。曝露情報が発症前に集められるため、思い出しバイアスが入りにくい。 ・欠点:大規模な集団と長い追跡期間を要し、費用と手間がかかる。追跡中の脱落が結果をゆがめうる。発生頻度の低い疾病では発症者がほとんど得られず、研究に適さない。
考え方
「曝露の有無で群分けして追跡する」ことがコホート研究の本質である。研究者が曝露を割り付けるのは介入研究、疾病の有無で群分けして過去の曝露を調べるのは症例対照研究である、という違いを押さえれば各選択肢を判定できる。
選択肢考察
- ○a. 要因の有無によって2群に分けて追跡する。
正しい。コホート研究では、疾病をまだ発症していない集団を、調べたい要因(例:喫煙)に曝露されている群とされていない群に分け、その後の疾病(例:肺癌)の発生を追跡して比較する。このため要因対照研究とも呼ばれる。これに対し、症例対照研究は疾病の有無で群を分け、過去の曝露状況をさかのぼって比較する(患者対照研究)。
- ×b. 過去から現在への追跡は含めない。
誤り。コホート研究の基本形は、現在から将来に向かって追跡する前向き(プロスペクティブ)コホート研究だが、職場の健診記録や診療録など過去の曝露情報が信頼できる形で残っていれば、過去のある時点を起点としてそこから現在までの疾病発生を調べる後ろ向き(ヒストリカル)コホート研究も行える。後ろ向きであっても「曝露群と非曝露群を比べて発生を見る」という方向は変わらない。短期間・低コストで行える一方、既存記録の精度や欠損に結果が左右されやすい。
- ×c. まれな疾患の研究に適している。
誤り。発生率の低い疾患では、大きな集団を長期間追跡しても発症者がごくわずかしか得られず、統計的に意味のある比較ができないため、コホート研究には適さない。まれな疾患の要因探索には、すでに発症した患者を集めて比較する症例対照研究が向いている。反対に、まれな曝露(特殊な職業性曝露など)の影響を調べる場合はコホート研究が適している。
- ×d. 介入群と非介入群とを設定する。
誤り。研究者が意図的に介入(薬剤投与、保健指導など)を行う群と行わない群を設定するのは介入研究であり、その代表がランダム化比較試験(RCT)である。コホート研究は観察研究であり、曝露の有無は対象者の生活や環境によってすでに決まっているものを観察するだけで、研究者が割り付けることはない。
- ×e. 相対危険度は計算できない。
誤り。コホート研究では曝露群・非曝露群それぞれの罹患率(発生率)を直接求められるため、相対危険度(曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率)と寄与危険度(曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率)のどちらも計算できる。相対危険度を直接計算できないのは症例対照研究であり、こちらでは代わりにオッズ比を求め、疾患がまれな場合にはオッズ比が相対危険度の近似値となる。
コホート研究と症例対照研究の比較
・群分けの基準:コホート研究は要因(曝露)の有無、症例対照研究は疾病の有無。 ・調査の方向:コホート研究は要因から結果へ(原則前向き)、症例対照研究は結果から要因へ(後ろ向き)。 ・適する疾病:コホート研究は頻度の高い疾病、症例対照研究はまれな疾病。 ・算出できる指標:コホート研究は罹患率・相対危険度・寄与危険度、症例対照研究はオッズ比(罹患率は求められない)。 ・時間・費用:コホート研究は大きい、症例対照研究は小さい。 ・主なバイアス:コホート研究は追跡中の脱落、症例対照研究は思い出しバイアスや対照群の選び方による選択バイアス。
関連指標
・相対危険度(リスク比)= 曝露群の罹患率 ÷ 非曝露群の罹患率。要因と疾病の関連の強さを示す。 ・寄与危険度(リスク差)= 曝露群の罹患率 − 非曝露群の罹患率。曝露によって上乗せされた罹患の大きさを示し、公衆衛生上の対策効果の見積もりに役立つ。 ・寄与危険度割合 = 寄与危険度 ÷ 曝露群の罹患率。曝露群の罹患のうち曝露に起因する割合を示す。
代表的なコホート研究
フラミンガム研究(米国、心血管疾患の危険因子を解明)、久山町研究(福岡県、脳卒中や生活習慣病の疫学)などが知られる。
POINT
・コホート研究は、曝露の有無で群を分けて追跡し、疾病の発生を比較する観察研究(分析疫学)である。 ・前向きが基本だが、過去の記録を用いる後ろ向きコホート研究もある。 ・罹患率を直接求められ、相対危険度・寄与危険度を計算できる。 ・まれな疾患には不向きで、そちらは症例対照研究(オッズ比)が適する。 ・研究者が介入を割り付けるのは介入研究(RCTなど)であり、コホート研究ではない。
