押しても消えない赤紫色―硝子圧ひとつで見抜く「紫斑」という皮疹
第106回医師国家試験 F問題 第25問
国試問題にチャレンジ
45歳の男性。皮疹を主訴に来院した。2週前に両側の下腿の皮膚病変に気付いたが,疼痛や瘙痒感はなかった。1週前から皮膚病変が拡大してきたため受診した。両側の下腿から足背にかけて皮膚病変がみられる。病変は隆起しておらず,圧迫しても赤紫色が消退しない。下腿から足背にかけての写真を別に示す。 この病変を特徴づける皮疹の種類はどれか。

- a.丘疹
- b.膨疹
- c.紫斑
- d.苔癬化
- e.毛細血管拡張
対話形式の解説
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ドクターまとめ
平坦で、硝子圧法で押しても色が消えない赤紫色の斑は紫斑であり、真皮や皮下組織への出血を意味します。押して色が消える紅斑や毛細血管拡張は血管内の血液による赤みであり、隆起する丘疹・膨疹、慢性の掻破で生じる苔癬化とも、隆起の有無・硝子圧・経過から区別できます。紫斑を認めたら、血小板・凝固因子・血管壁のどこに異常があるかを血小板数やPT・APTTなどで調べ、正常なら血管炎や血管壁の脆弱性を考えて皮膚生検も検討します。点状出血か斑状出血か、下腿優位かといった分布や大きさも鑑別の手がかりになります。皮疹を正しい用語で記述することは、皮膚所見から全身疾患にたどり着くための第一歩です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・45歳男性。2週前に両側下腿の皮膚病変に気付き、1週前から拡大している。 ・疼痛・瘙痒感はない。 ・分布は両側の下腿から足背にかけてである。 ・病変は平坦で隆起がない(触診で盛り上がりを触れない)。 ・圧迫しても赤紫色が消えない。
皮疹の種類をどう見分けるか
皮膚の病変(発疹)は、見た目と触った感触から「原発疹」(最初に現れる皮疹)と「続発疹」(原発疹に続いて生じる変化)に分類し、それぞれ名前が決められている。どの皮疹かを判断するには、主に次の2点を確かめる。 1) 隆起しているかどうか:平らな病変は「斑」の仲間(紅斑、紫斑、色素斑、白斑など)であり、盛り上がる病変は丘疹、結節、膨疹、水疱などである。 2) 圧迫すると色が消えるかどうか:ガラス板(スライドガラスなど)で病変を押して色の変化を見る方法を硝子圧法(ディアスコピー)という。赤い色が血管内の血液によるもの(充血・血管拡張)なら、押すと血液が押し出されて色が薄れる。赤い色が血管の外に漏れた血液(出血)によるものなら、押しても血液は移動しないので色は残る。 本例は「隆起しない」ので平坦な斑であり、「圧迫しても赤紫色が消えない」ので血管外への出血である。平坦で硝子圧で消えない赤紫色の斑、すなわち紫斑と判断できる。写真でも下腿から足背にかけて、大小さまざまな赤紫色の斑が多数散在しており、この判断と矛盾しない。
鑑別疾患への展開
紫斑と分かれば、次は原因の検討に進む。原因は大きく、①血小板の異常(特発性血小板減少性紫斑病、薬剤性、白血病・再生不良性貧血など骨髄疾患)、②凝固因子の異常(血友病、ビタミンK欠乏、肝障害、播種性血管内凝固など)、③血管壁の異常(IgA血管炎、老人性紫斑、ステロイド紫斑、壊血病など)に分けられる。下腿に左右対称に出やすいのは、立った姿勢で血管にかかる圧(静水圧)が高く、出血しやすいためである。本問はその手前の段階で、皮疹の名前を正しく言えるかを問うている。
選択肢考察
- ×a. 丘疹
丘疹は、直径がおおむね10mm以下で、皮膚面から盛り上がる中身の詰まった(充実性の)皮疹である。これより大きいものは結節と呼ぶ。本例は隆起しないと明記されており、丘疹は当てはまらない。なお、IgA血管炎などでは紫斑が少し盛り上がり触れることがあり(palpable purpura、触知できる紫斑)、この場合でも皮疹の本質は紫斑である。
- ×b. 膨疹
膨疹は、真皮の浅い部分に限局して起こる一時的な浮腫(むくみ)で、蕁麻疹に典型的な皮疹である。盛り上がり、多くは強いかゆみを伴い、通常は数時間(おおむね24時間以内)で跡を残さず消える。本例は隆起せず、かゆみもなく、2週間にわたり持続・拡大しており、膨疹とは合わない。
- ○c. 紫斑
紫斑は、真皮や皮下組織に血液が漏れ出した出血によって生じる、紫紅色〜赤紫色の平坦な斑である。血液が血管の外にあるため、硝子圧法で押しても色が消えない点で、押すと色が消える紅斑(血管拡張・充血による)と区別される。本例は「隆起しない」「圧迫しても赤紫色が消えない」という2つの所見がそろっており、紫斑である。時間がたつと、ヘモグロビンが分解されて青紫色→緑色→黄褐色と色調が変わり、やがて消えていく点も特徴である。
- ×d. 苔癬化
苔癬化は続発疹の一つで、長期間掻いたりこすったりすることで皮膚が厚く硬くなり、皮野(皮膚表面の細かい網目状の区画)と皮溝(その溝)が粗く目立つようになった状態である。慢性湿疹やアトピー性皮膚炎などでかゆみが続いた結果として生じる。本例は瘙痒がなく、経過も2週間と短く、赤紫色の平坦な斑という所見とは合わない。
- ×e. 毛細血管拡張
毛細血管拡張は、真皮浅層の細い血管が元に戻らない形で拡張し、延びたり曲がりくねったりして、赤い細い線状・網状の血管として透けて見える状態である。酒皶、強皮症、長期のステロイド外用、日光による皮膚の老化などでみられる。血液は血管の中にあるので、硝子圧で押すと色は薄れる(消退する)。本例は圧迫で色が消えず、また線状の血管としてではなく斑状に見えるので、毛細血管拡張ではない。
原発疹と続発疹
原発疹:斑(紅斑、紫斑、色素斑、白斑)、丘疹、結節、腫瘤、水疱、膿疱、嚢腫、膨疹など。 続発疹:びらん、潰瘍、鱗屑、痂皮、亀裂、瘢痕、萎縮、苔癬化など。 毛細血管拡張は血管の変化として扱われ、平坦な赤色病変の鑑別として紅斑・紫斑と並べて問われることが多い。
紅斑・紫斑・毛細血管拡張の見分け方
・紅斑:真皮の血管が拡張・充血して赤く見える。硝子圧で消える。 ・紫斑:血管外への出血。硝子圧で消えない。 ・毛細血管拡張:拡張した細い血管が線状・網状に見える。硝子圧で消える。
紫斑の大きさによる呼び分け
・点状出血(ペテキア):直径数mmまでの小さな点状の紫斑。血小板減少や血管炎でみられやすい。 ・斑状出血(エクキモーシス):それより大きく広がった紫斑。凝固異常などでみられやすい。 ・血腫:さらに深部に血液がたまり盛り上がったもの。筋肉内や関節内の出血は凝固因子異常(血友病など)に特徴的である。
紫斑をみたときの検査
血小板数、プロトロンビン時間(PT)、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)、フィブリノゲン、FDP・Dダイマーなどで、血小板・凝固・血管のどこに原因があるかを絞り込む。血小板も凝固も正常なら、血管炎(IgA血管炎など)や血管壁の脆弱性(老人性紫斑、ステロイド紫斑、ビタミンC欠乏)を考え、必要に応じて皮膚生検を行う。
POINT
・平坦で、硝子圧(ガラス板での圧迫)でも色が消えない赤紫色の斑は紫斑(=皮膚内の出血)である。 ・硝子圧で色が消えれば紅斑(充血)や毛細血管拡張、消えなければ紫斑。 ・隆起していれば丘疹・結節・膨疹などを考える。膨疹は一過性で強いかゆみを伴う。 ・苔癬化は慢性の掻破による続発疹で、皮膚が厚くなり皮野・皮溝が目立つ。 ・紫斑を見たら、血小板・凝固因子・血管壁のどこの異常かを検査で調べる。
