StudyMed医師国家試験

かかとの数滴が未来を守る―濾紙血でみつける新生児マススクリーニングの対象疾患

第106回医師国家試験 E問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第9問

ある検査に用いる検体の写真を別に示す。  この検査の対象疾患に含まれるのはどれか。

第106回 E問題 第9問の問題画像
  1. a.Rh不適合
  2. b.帽状腱膜下血腫
  3. c.ビタミンK欠乏症
  4. d.ホモシスチン尿症
  5. e.免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉〈ITP〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は写真の検体が何かを見抜き、そこから検査の目的と対象疾患を答える問題だ。写っているのは、専用の濾紙の円の中に血液を染み込ませて乾かしたもの。この「乾燥濾紙血」が何の検査に使われるかが分かれば、答えはぐっと絞れるよ。
医学生医学生
産婦人科の臨床実習で、生まれて数日の赤ちゃんのかかとから採血して濾紙に染み込ませているのを見ました。あれが新生児マススクリーニングですよね。
ドクタードクター
その通り。新生児マススクリーニングは、生まれたときには症状がなくても、放置すると知的障害や成長障害、代謝クリーゼ、さらには死亡に至りうる先天性疾患を、発症前に見つけて治療につなげるための公的な検査だ。採血はふつう生後4〜6日、かかとを穿刺して行う。
医学生医学生
どうして生まれてすぐではなく、数日待つんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。アミノ酸代謝異常症などは、哺乳が始まってタンパク質が体に入ってこないと血中の異常値が現れにくい。早すぎる採血は偽陰性の原因になるんだ。だから哺乳が確立した頃に採血する。
医学生医学生
対象疾患は、小児科の講義でフェニルケトン尿症やクレチン症が出てきたのを覚えています。
ドクタードクター
かつての対象は6疾患で、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症だった。現在はタンデムマス法の導入で、アミノ酸代謝異常症に加えて有機酸代謝異常症や脂肪酸代謝異常症まで、約20疾患に拡大している。
医学生医学生
じゃあ選択肢の中では、アミノ酸代謝異常症のホモシスチン尿症が該当しますね。
ドクタードクター
正解だ。ホモシスチン尿症は主にシスタチオニンβ合成酵素の欠損で、メチオニンの代謝が途中で止まり、血中のメチオニンやホモシスチンが上昇する常染色体潜性遺伝の疾患だ。濾紙血ではメチオニン高値で拾い上げる。
医学生医学生
症状はMarfan症候群に似ているんでしたっけ。CBTで水晶体偏位の向きの違いがよく問われました。
ドクタードクター
よく覚えているね。やせ型高身長や長い四肢などMarfan様の体型を示すけれど、水晶体偏位はMarfan症候群が上方に多いのに対して、ホモシスチン尿症では下方偏位が多い。さらに知的障害、骨粗鬆症、血栓塞栓症も起こしうる。早期に見つけてメチオニン制限・シスチン添加食を始めたり、ビタミンB6反応型ならその大量投与を行ったりすることで、合併症を防げるんだ。
医学生医学生
ほかの選択肢も新生児の病気なので迷いました。ビタミンK欠乏症も新生児期に大事ですよね。
ドクタードクター
大事な疾患だけど、評価の手段が違う。新生児ではビタミンKの胎盤移行が少なく、腸内細菌叢も未熟で、母乳のビタミンK含量も少ないから、凝固因子が不足して新生児メレナや頭蓋内出血を起こすことがある。診断はPTやAPTTの延長、PIVKA-Ⅱ高値などの凝固検査で行い、予防としてビタミンK2シロップを投与する。濾紙血のスクリーニング対象ではないんだ。
医学生医学生
Rh不適合は血液型と抗体の検査で見るものですね。
ドクタードクター
そう。Rh(D)陰性の母体が抗D抗体を作り、それが胎盤を通過して胎児の赤血球を壊す病態で、母体の間接Coombs試験や児の直接Coombs試験、ビリルビン値で評価する。予防として感作前の母体に抗Dヒト免疫グロブリンを投与するのも大切なポイントだ。
医学生医学生
帽状腱膜下血腫は分娩外傷なので、先天性代謝異常を探す検査とは方向性がまったく違いますね。
ドクタードクター
その通り。吸引分娩などで帽状腱膜と骨膜の間に出血し、縫合線を越えて広がるから大量出血でショックになることもある。診断は頭部の触診と画像検査、ヘモグロビンの推移だ。ITPも、血小板に対する自己抗体による後天性疾患で、血小板数の測定と除外診断で評価する。どれもスクリーニングの枠組みには入らない。
医学生医学生
マススクリーニングで陽性になったら、もう診断確定なんですか。
ドクタードクター
そこは臨床で誤解しやすい点だね。スクリーニング陽性はあくまで「疑い」で、精密検査で確定診断する。また低出生体重児では、甲状腺機能低下症を見逃さないために再採血することがある。地域によってはSCIDやSMAなどを加えた拡大スクリーニングも行われているよ。逆に、かつて対象だったヒスチジン血症は治療の必要性が乏しいと分かって外された。対象疾患の選定には「早く見つければ治療で予後が変わる」という条件があるんだ。
医学生医学生
見つけるだけでなく、見つけて治療できることがスクリーニングの意味なんですね。
ドクタードクター
その視点を持てると、対象疾患の暗記もただの羅列ではなくなるはずだ。保護者に説明する場面でも、その理解がきっと役に立つよ。

まとめ

かかとから採取した血液を濾紙に染み込ませた乾燥濾紙血は、新生児マススクリーニングの検体であり、哺乳確立後の生後4〜6日に採血します。対象はかつてフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症の6疾患でしたが、現在はタンデムマス法により有機酸・脂肪酸代謝異常症を含む約20疾患に拡大しています。ホモシスチン尿症はメチオニン高値で発見され、水晶体下方偏位、Marfan様体型、血栓症、知的障害を来すため、早期の食事療法やビタミンB6投与が重要です。Rh不適合、帽状腱膜下血腫、新生児ビタミンK欠乏症、ITPは、それぞれ抗体検査、画像検査、凝固検査、血小板数で評価する疾患であり、スクリーニングの対象ではありません。「早期発見により治療で予後を変えられる」というスクリーニングの原則を理解しておくと、対象疾患の整理と臨床での家族への説明に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

写真の検体

示されているのは、新生児の足底(かかと)から採取した血液を専用の濾紙に円形に染み込ませて乾燥させた「乾燥濾紙血」である。これは新生児マススクリーニング(先天性代謝異常等検査)に用いられる検体である。

新生児マススクリーニングとは

生まれた時点では症状がなくても、放置すると知的障害や成長障害、重い代謝クリーゼ(急性の代謝異常発作)、死亡に至る先天性疾患を早期に発見し、発症前に治療を始めるための公的な検査である。原則として生後4〜6日(哺乳が確立した時期)に採血し、濾紙血を検査機関に送付して測定する。 対象疾患は、かつては細菌の発育抑制を利用したガスリー法などで測定するフェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース血症と、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)、先天性副腎過形成症の6疾患であった。現在ではタンデムマス法(タンデム質量分析法)の導入により、アミノ酸代謝異常症、有機酸代謝異常症、脂肪酸代謝異常症まで含む約20疾患に拡大している。

設問への考え方

選択肢の中でこの濾紙血検査の対象となっているのは、アミノ酸代謝異常症であるホモシスチン尿症だけである。そのほかの選択肢は、血液型・抗体検査、画像検査、凝固検査、血小板数測定など別の方法で診断する疾患であり、マススクリーニングの対象ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  Rh不適合

    Rh不適合(Rh血液型不適合妊娠)は、Rh(D)陰性の母体がRh(D)陽性の胎児赤血球に感作されて抗D抗体(IgG)を産生し、この抗体が胎盤を通過して胎児・新生児の赤血球を破壊する病態である。溶血性貧血、早期から進行する高ビリルビン血症、重症例では胎児水腫を来す。診断は妊娠中の母体の血液型検査と間接Coombs試験(不規則抗体スクリーニング)、出生後の児の直接Coombs試験、ビリルビン値測定などで行い、新生児マススクリーニングの対象ではない。予防として、感作前のRh(D)陰性妊婦には抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。

  2. ×b.  帽状腱膜下血腫

    帽状腱膜下血腫は、分娩時(特に吸引分娩)の外力により帽状腱膜と骨膜の間の導出静脈などが破綻して生じる出血である。この腔は頭蓋全体に広がるため、血腫は縫合線や正中を越えて拡大し、大量出血による失血性ショックや高度の黄疸、頭蓋内出血の合併を来すことがある。診断は視診・触診による頭部の波動性腫脹の確認と、頭部CT・超音波などの画像検査、ヘモグロビン値の経時的測定による。先天性疾患ではなく、マススクリーニングの対象ではない。

  3. ×c.  ビタミンK欠乏症

    新生児ではビタミンKの胎盤移行が少ないこと、腸内細菌叢が未熟であること、母乳中のビタミンK含量が少ないことから、ビタミンK依存性凝固因子(第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子)が不足し、新生児メレナや頭蓋内出血などの出血症状を来すことがある。検査ではプロトロンビン時間(PT)延長、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長、ヘパプラスチンテスト低値、PIVKA-Ⅱ(ビタミンK欠乏時に産生される不完全な凝固因子)高値を認める。これらの凝固検査で診断する疾患であり、マススクリーニングの対象ではない。予防として、出生後・産科退院時・1か月健診時などにビタミンK2シロップを経口投与する。

  4. ○d.  ホモシスチン尿症

    ホモシスチン尿症は、主にシスタチオニンβ合成酵素の欠損により、メチオニンの代謝中間体であるホモシステインがシスタチオニンへ代謝されず、血中メチオニン・ホモシスチンが上昇する常染色体潜性(劣性)遺伝のアミノ酸代謝異常症である。未治療では知的障害、水晶体偏位(下方偏位が多い)、Marfan症候群に似たやせ型高身長・長い四肢、骨粗鬆症、血栓塞栓症などを来す。乾燥濾紙血の血中メチオニン高値で発見でき、旧来の6疾患の時代から現在まで新生児マススクリーニングの対象疾患である。発見後はメチオニン制限・シスチン添加食、ビタミンB6(ピリドキシン)反応型ではその大量投与などで治療する。

  5. ×e.  免疫性血小板減少性紫斑病〈特発性血小板減少性紫斑病〉〈ITP〉

    ITPは、血小板に対する自己抗体によって血小板が主に脾臓で破壊され、血小板数が減少(10万/μL未満)する後天性の自己免疫疾患である。小児では、ウイルス感染後に急性発症し、多くは自然に軽快する病型が多い。骨髄の巨核球は正常〜増加し、血小板関連IgG(PAIgG)が増加することがある。診断は血算による血小板数の測定と他疾患の除外で行い、新生児マススクリーニングの対象ではない。なお、母体のITPでは抗血小板抗体が胎盤を通過して新生児に一過性の血小板減少を起こすことがあるが、これも血小板数の測定で評価する。

新生児マススクリーニングの対象疾患(公費で行われる主な疾患)

1. アミノ酸代謝異常症:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、シトルリン血症1型、アルギニノコハク酸尿症 2. 有機酸代謝異常症:メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、イソ吉草酸血症、メチルクロトニルグリシン尿症、ヒドロキシメチルグルタル酸(HMG)血症、複合カルボキシラーゼ欠損症、グルタル酸血症1型 3. 脂肪酸代謝異常症:中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症、極長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症、三頭酵素(TFP)欠損症、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT)1欠損症・2欠損症 4. 糖代謝異常症:ガラクトース血症 5. 内分泌疾患:先天性甲状腺機能低下症(TSH高値で発見)、先天性副腎過形成症(主に21-水酸化酵素欠損症、17-ヒドロキシプロゲステロン高値で発見) ※アミノ酸・有機酸・脂肪酸代謝異常症はタンデムマス法で一度に測定する。地域によっては重症複合免疫不全症(SCID)や脊髄性筋萎縮症(SMA)などを対象に加える拡大スクリーニングも行われている。 ※かつて対象だったヒスチジン血症は、治療の必要性が乏しいことが判明し、1990年代に対象から除外された。

検査の実際

・採血時期:生後4〜6日。哺乳開始後でないとアミノ酸などの上昇が現れにくいため、早すぎる採血は偽陰性の原因となる。 ・採血部位:足底(かかと)を穿刺し、濾紙の円を血液で表裏まで均一に満たして自然乾燥させる。 ・低出生体重児などでは、甲状腺機能低下症の見逃しを防ぐため再採血を行うことがある。 ・スクリーニング陽性はあくまで「疑い」であり、精密検査で確定診断する。

POINT

・乾燥濾紙血は新生児マススクリーニングの検体である(生後4〜6日に足底から採血)。 ・旧来の対象6疾患:フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症、ホモシスチン尿症、ガラクトース血症、先天性甲状腺機能低下症、先天性副腎過形成症。 ・現在はタンデムマス法により有機酸・脂肪酸代謝異常症を含む約20疾患に拡大している。 ・Rh不適合、帽状腱膜下血腫、新生児ビタミンK欠乏症、ITPはマススクリーニングの対象ではなく、それぞれ抗体検査、画像検査、凝固検査、血小板数で評価する。 ・ホモシスチン尿症:水晶体偏位、Marfan様体型、血栓症、知的障害。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。