4時間の下敷きと赤い尿―救出後に牙をむく圧挫症候群
第106回医師国家試験 E問題 第61問(連問)
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連問の共通文
次の文を読み,61~63の問いに答えよ。 45歳の男性。爆発事故現場で受傷したため搬入された。 現病歴:爆発によって崩落した建物の下敷きになり,4時間後に救出された。 現症:意識は清明。体温37.6℃。脈拍108/分,整。血圧98/62 mmHg。呼吸数24/分。SpO2 100%(4 L/分酸素投与下)。両下肢と殿部とを中心に広範囲に点状出血を認める。右下肢に運動麻痺と知覚障害とを認める。救急室の看護師から,尿が赤いとの報告を受けた。
この患者の尿所見でみられる可能性が高いのはどれか。
- a.血尿
- b.乳び尿
- c.白血球尿
- d.ヘモグロビン尿
- e.ミオグロビン尿
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
重量物による長時間の圧迫から救出された患者で赤褐色尿を認めた場合は、圧挫(クラッシュ)症候群による横紋筋融解とミオグロビン尿を考えます。虚血に陥った骨格筋が再灌流で崩壊し、ミオグロビン・カリウム・CKなどが全身に放出され、小分子のミオグロビンは糸球体で濾過されて尿をポートワイン色にします。ミオグロビン尿とヘモグロビン尿はいずれも尿潜血陽性・沈渣赤血球陰性ですが、ミオグロビン尿では血漿が着色しにくくCKが著明に上昇する点で、また血尿とは沈渣赤血球の有無で区別します。ミオグロビンは尿細管閉塞などから急性腎障害を、再灌流に伴う高カリウム血症は救出直後の心停止を引き起こしうるため、救出前後からの大量輸液と心電図・電解質の監視が欠かせません。受傷機転から病態を予測して先手を打つ考え方は、災害医療や救急診療の根幹となる重要な視点です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・受傷機転:爆発で崩れた建物の下敷きとなり、救出まで4時間を要した。体の一部(ここでは殿部と両下肢)が長時間にわたり重量物で圧迫されていたことになる。 ・バイタルサイン:意識清明、脈拍108/分の頻脈、血圧98/62 mmHgとやや低め、呼吸数24/分の頻呼吸。循環血液量の減少(損傷した筋肉への体液の移動、いわゆるサードスペースへの漏出)や代謝性アシドーシスに対する呼吸性代償を示唆する。 ・身体所見:圧迫部位である両下肢と殿部に広範な点状出血、右下肢に運動麻痺と知覚障害。圧迫による皮膚・筋肉・末梢神経の障害と考えられる。 ・尿:赤色を呈している。
診断へのプロセス
長時間の圧迫とその解除(救出)という経過、圧迫部位の皮膚所見と神経障害、そして赤色尿の組み合わせは、圧挫(クラッシュ)症候群を強く示唆する。圧迫で虚血に陥った骨格筋は、救出によって血流が再開すると(再灌流)急速に崩壊し(横紋筋融解)、筋細胞内のミオグロビン・カリウム・CK(クレアチンキナーゼ)などが一気に全身循環へ流れ出る。ミオグロビンは分子量約17,000と小さく、糸球体で容易に濾過されて尿中に排泄されるため、尿は赤褐色(ポートワイン色、コーラ色)となる。
設問の考え方
「尿が赤い」ときには、尿中の赤血球(血尿)、ヘモグロビン、ミオグロビン、あるいは食物・薬剤による着色を考える。本例では溶血の原因も尿路外傷を示す所見も乏しく、筋肉の長時間圧迫という病歴が最も直接的な説明を与えるため、ミオグロビン尿が最も考えやすい。なお続く検査(62・63問)ではCK 36,000 IU/Lと著明な上昇がみられ、筋崩壊が裏付けられている。
選択肢考察
- ×a. 血尿
血尿は尿中に赤血球が混入した状態で、腎・尿管・膀胱などの損傷や結石、腫瘍で生じる。下半身の外傷なので尿路の鈍的損傷が絶対に否定されるわけではないが、腹部・骨盤部の損傷や側腹部痛を示す記載はなく、積極的に支持する所見に乏しい。長時間の筋圧迫という病歴からは、尿の赤色は筋由来の色素で説明する方が自然である。なおミオグロビン尿では試験紙の潜血反応は陽性になるが、尿沈渣に赤血球はほとんど認めない点が血尿との鑑別になる。
- ×b. 乳び尿
乳び尿は脂肪を含むリンパ液が尿路に漏れ出して尿が乳白色に濁る状態で、多くはリンパ管と尿路との間に異常な交通が生じることによる。原因としてはバンクロフト糸状虫によるフィラリア症が代表的だが、現在の日本ではほとんどみられない。色調は白色であり、本例の「赤い尿」とは合わない。
- ×c. 白血球尿
白血球尿(膿尿)は尿路感染症や間質性腎炎などで生じ、尿は混濁するが赤色にはならない。受傷直後の患者であり、尿路感染を疑わせる経過もない。
- ×d. ヘモグロビン尿
ヘモグロビン尿は血管内溶血によって生じる。遊離ヘモグロビンはまずハプトグロビンと結合し、その結合能を超えた分が尿へ排泄されて赤色尿となる。原因には不適合輸血、発作性夜間ヘモグロビン尿症、行軍ヘモグロビン尿症、重症熱傷などがあるが、本例に溶血を起こす要因は見当たらない。ヘモグロビン尿でも尿潜血は陽性・沈渣赤血球は陰性となるためミオグロビン尿と紛らわしいが、ヘモグロビン尿では血漿も赤く着色し、ハプトグロビンが低下することが多い。一方ミオグロビンはハプトグロビンと結合せず、分子量も小さいため速やかに尿中に排泄され、血漿は着色しにくい。この点が両者の見分け方になる。
- ○e. ミオグロビン尿
ミオグロビンは骨格筋細胞内で酸素を貯蔵する色素蛋白である。建物の下敷きで4時間圧迫された下肢・殿部の筋肉は虚血に陥り、救出後の再灌流で横紋筋融解が進む。放出されたミオグロビンは糸球体で濾過され、尿を赤褐色(ポートワイン色)にする。長時間の圧迫・救出・赤色尿という経過は圧挫症候群の典型であり、尿所見として最も可能性が高い。ミオグロビンは酸性尿の中で尿細管に円柱を形成し、また直接の尿細管毒性や腎血管収縮を起こして急性腎障害(AKI)の原因となるため、臨床的にも重要な所見である。
圧挫(クラッシュ)症候群とは
四肢や殿部などの骨格筋が重量物で長時間(一般に数時間以上)圧迫された後、圧迫が解除されることで発症する全身性の障害である。地震による建物倒壊(阪神・淡路大震災で多数報告された)、爆発・崩落事故、長時間の意識障害で同一体位のまま倒れていた場合などでみられる。
病態
1.圧迫中:筋肉が虚血となり、筋細胞膜が障害される。 2.圧迫解除(再灌流)後:壊れた筋細胞から次の物質が全身へ流出する。 ・カリウム:高カリウム血症から致死的不整脈・心停止へ(救出直後の急変の主因)。 ・ミオグロビン:尿細管の閉塞・障害による急性腎障害。 ・乳酸などの酸:代謝性アシドーシス。 ・CK、AST、ALT、LDなど:筋逸脱酵素として上昇(診断・重症度の指標)。 3.損傷筋肉への大量の体液移動により循環血液量が減少し、ショックに至りうる。損傷筋肉はカルシウムを取り込むため低カルシウム血症も起こる。 4.浮腫により筋区画内圧が上がると、コンパートメント症候群を合併する。
赤色尿の鑑別
・血尿:尿潜血陽性、沈渣に赤血球あり。 ・ヘモグロビン尿:尿潜血陽性、沈渣赤血球なし、血漿は赤色、ハプトグロビン低下。 ・ミオグロビン尿:尿潜血陽性、沈渣赤血球なし、血漿は着色しにくい、CK著明高値。 ・ほかにポルフィリン尿、ビーツなどの食品や薬剤(リファンピシンなど)による着色がある。
注意点
救出直後は意識清明で一見元気にみえても、急に心停止や腎不全に陥ることがある(救出直後の急変)。そのため圧迫されていた時間と部位を必ず確認し、救出前後からの大量輸液が重要となる。
POINT
・長時間の圧迫からの救出+赤褐色尿 → 圧挫症候群によるミオグロビン尿を考える。 ・ミオグロビン尿では尿潜血陽性だが尿沈渣の赤血球はほとんどない。 ・ヘモグロビン尿との違い:ミオグロビン尿では血漿は着色しにくく、CKが著明に上昇する。 ・ミオグロビンは急性腎障害の原因となり、高カリウム血症は救出直後の心停止の原因となる。
