StudyMed医師国家試験

「誰に・どの法律で届けるか」―医師の届出義務を法律の目的から整理する

第106回医師国家試験 E問題 第30問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第30問

医師の届出義務と関連する法律の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.異状死体の発見 ―― 医師法
  2. b.結核患者の診断 ―― 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律〈感染症法〉
  3. c.診療所の開設 ―― 医療法
  4. d.フグ中毒患者の診断 ―― 食品衛生法
  5. e.麻薬中毒者の診断 ―― 刑法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医師が診療の中で知った事実を行政や警察に届け出る「届出義務」の問題だ。届出の対象とその根拠となる法律の組合せから、誤っているものを選ぶ。丸暗記に頼るより、「その法律は何を守るためにあるのか」と結びつけると迷わなくなるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で一覧表をもらいましたが、届出先や期限まで混ざってしまって、正直あやふやです。
ドクタードクター
それなら一つずつ法律の目的から確認していこう。まず異状死体の発見。これはどの法律だと思う?
医学生医学生
医師法第21条ですよね。CBTの前に「24時間以内に警察署」とセットで覚えました。
ドクタードクター
その通り。医師法は医師の身分と業務を定める法律で、死体や妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めたら、24時間以内に所轄警察署へ届け出る。犯罪の発見や捜査への協力が目的の規定だから、届出先が警察になるわけだ。次は結核。
医学生医学生
結核予防法、と書きそうになりましたが、今は感染症法でしたっけ。
ドクタードクター
よく気づいたね。結核予防法は2007年に廃止されて感染症法に統合され、結核は二類感染症に位置づけられている。診断したら直ちに保健所長を経由して都道府県知事に届け出る。感染症のまん延防止という目的に沿った仕組みだ。だからこの組合せは正しい。
医学生医学生
診療所の開設が医療法なのも、医療提供体制を定める法律だから自然ですね。
ドクタードクター
そう。医師が診療所を開設したときは、開設後10日以内に都道府県知事、保健所を設置する市や特別区ではその市長・区長に届け出る。ちなみに病院の開設や、医師以外の者が診療所を開設する場合は、事前の「許可」が必要になる。届出と許可の違いも問われやすいポイントだ。
医学生医学生
フグ中毒は食中毒扱いだから食品衛生法、で合っていますか。
ドクタードクター
合っている。フグ中毒はテトロドトキシンによる自然毒食中毒で、食品衛生法上の食中毒に含まれる。食中毒の患者や疑いのある者を診断したら、直ちに最寄りの保健所長へ届け出る。原因食品をすばやく特定して被害の拡大を防ぐための規定だね。
医学生医学生
となると、麻薬中毒者が刑法、というのが残ります。麻薬は犯罪だから刑法、という発想に引っ張られそうでした。
ドクタードクター
まさにそこが引っかけだ。刑法は犯罪と刑罰を定める法律で、医師の届出義務は規定していない。麻薬中毒者の届出は麻薬及び向精神薬取締法に定められていて、診断したら速やかに都道府県知事へ届け出る。だから誤っている組合せはこれだ。
医学生医学生
届出先が警察じゃなく都道府県知事なのは、取り締まりよりも治療につなげる意味があるからですか。
ドクタードクター
いい読みだね。この届出は麻薬中毒者の医療と保護、たとえば精神保健指定医の診察を経た措置入院などにつなげることを目的としている。一方で、覚醒剤中毒者についてはこれに相当する医師の届出義務はなく、精神保健福祉法による対応が中心になる。麻薬と覚醒剤で扱いが違う点も混同しやすいよ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、薬物依存の患者さんの対応は守秘義務との兼ね合いが難しいと指導医の先生がおっしゃっていました。
ドクタードクター
臨床では大事な視点だね。法律で定められた届出は守秘義務違反にはならないけれど、届出の要否や対象を正しく理解していないと、不要な情報提供や逆に届出漏れにつながる。ほかにも、児童虐待は疑いの段階で児童虐待防止法に基づき市町村や児童相談所へ通告すること、医師自身も2年ごとに医師法に基づく現況の届出があることも合わせて押さえておこう。
医学生医学生
届出の対象、法律、期限、届出先を、法律の目的と一緒に表にまとめ直してみます。
ドクタードクター
それが一番確実だ。異状死体は警察、感染症と食中毒は保健所、麻薬中毒者と診療所開設は都道府県知事、と届出先から逆にたどれるようにしておくと、組合せ問題にも強くなるよ。

まとめ

医師の届出義務は複数の法律に分散しており、異状死体は医師法(24時間以内に所轄警察署)、結核を含む感染症は感染症法(二類なら直ちに保健所長経由で都道府県知事)、医師による診療所開設は医療法(10日以内に都道府県知事)、フグ中毒を含む食中毒は食品衛生法(直ちに保健所長)に基づきます。麻薬中毒者の届出は麻薬及び向精神薬取締法に定められ、速やかに都道府県知事へ届け出るもので、刑法には医師の届出義務の規定はありません。この届出は処罰ではなく医療・保護につなげることが目的であり、覚醒剤中毒者には同様の医師の届出義務がない点も区別しておく必要があります。各法律の目的と届出先・期限を結びつけて整理しておくことは、試験対策だけでなく、臨床で適切に届出を行い守秘義務とのバランスをとるための基礎になります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

医師には、診療の過程で知った特定の事実を行政機関や警察に届け出る義務が、さまざまな法律で課されている。本問は、届出の対象となる事柄と、その根拠となる法律の組合せを問う問題で、「誤っているもの」を選ぶ。

考え方

届出義務は、それぞれの法律の目的と結びつけて整理すると覚えやすい。 ・医師法:医師の身分と業務を定める。異状死体の届出(第21条)は医師の業務上の義務として規定されている。 ・感染症法:感染症の発生予防とまん延防止を目的とし、医師による感染症患者の届出(第12条)を定める。結核も現在はこの法律で扱う。 ・医療法:病院・診療所などの医療提供体制を定め、開設の許可・届出を規定する。 ・食品衛生法:飲食に起因する衛生上の危害の防止を目的とし、食中毒患者の届出を定める。フグ中毒は食中毒に含まれる。 ・麻薬及び向精神薬取締法:麻薬の乱用防止を目的とし、麻薬中毒者の届出を定める。 刑法は犯罪と刑罰を定める法律であり、医師の届出義務は規定していない。したがって「麻薬中毒者の診断―刑法」の組合せが誤りである。

選択肢考察

  1. ×a.  異状死体の発見 ―― 医師法

    組合せは正しい。医師法第21条により、医師は死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。犯罪の発見や捜査への協力を目的とした規定である。

  2. ×b.  結核患者の診断 ―― 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律〈感染症法〉

    組合せは正しい。結核はかつて結核予防法で扱われていたが、2007年に同法が廃止・感染症法に統合され、現在は二類感染症に位置づけられている。二類感染症を診断した医師は、直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出る(感染症法第12条)。

  3. ×c.  診療所の開設 ―― 医療法

    組合せは正しい。医療法により、臨床研修等を修了した医師が診療所を開設したときは、開設後10日以内に診療所所在地の都道府県知事(保健所を設置する市・特別区ではその市長・区長)に届け出る。なお医師・歯科医師以外の者が診療所を開設する場合や、病院を開設する場合は、事前に都道府県知事の許可が必要である。

  4. ×d.  フグ中毒患者の診断 ―― 食品衛生法

    組合せは正しい。フグ中毒はテトロドトキシンによる自然毒食中毒であり、食中毒として扱われる。食品衛生法により、医師は食中毒患者またはその疑いのある者を診断し、あるいはその死体を検案したときは、直ちに最寄りの保健所長に届け出なければならない。

  5. ○e.  麻薬中毒者の診断 ―― 刑法

    この組合せが誤りである。麻薬中毒者の届出は麻薬及び向精神薬取締法(第58条の2)に規定されており、医師は診察の結果、受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、速やかにその者の氏名・住所・年齢・性別などを都道府県知事に届け出なければならない。この届出は麻薬中毒者の医療・保護(措置入院など)につなげることを目的としている。刑法には医師の届出義務の規定はない。

医師の主な届出義務(根拠法・期限・届出先)

・異状死体・異状死産児の検案:医師法、24時間以内、所轄警察署。 ・一類〜四類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、五類の一部(侵襲性髄膜炎菌感染症、麻疹、風疹など):感染症法、直ちに、保健所長を経て都道府県知事。 ・五類感染症(全数把握の多く):感染症法、7日以内、保健所長を経て都道府県知事。 ・食中毒(疑いを含む):食品衛生法、直ちに、保健所長。 ・麻薬中毒者:麻薬及び向精神薬取締法、速やかに、都道府県知事。 ・医師による診療所の開設:医療法、開設後10日以内、都道府県知事(保健所設置市・特別区では市長・区長)。 ・死産(妊娠12週以後):死産の届出に関する規程、7日以内、市町村長(届出人は父母など。医師は死産証書・死胎検案書を作成)。 ・児童虐待(疑いを含む):児童虐待防止法、速やかに、市町村・福祉事務所・児童相談所(通告)。 ・医師の現況:医師法、2年ごと(12月31日現在)、翌年1月15日までに住所地の都道府県知事を経由して厚生労働大臣。

麻薬中毒者に関する補足

麻薬中毒者は、都道府県知事の判断により精神保健指定医の診察を経て、麻薬中毒者医療施設への措置入院の対象となりうる。なお、覚醒剤中毒者については麻薬及び向精神薬取締法のような医師の届出義務はなく、精神保健福祉法による対応が中心となる。

POINT

・異状死体→医師法、24時間以内に警察署へ。 ・結核(二類感染症)→感染症法、直ちに保健所長経由で都道府県知事へ。 ・医師による診療所開設→医療法、10日以内に都道府県知事へ。 ・食中毒(フグ中毒を含む)→食品衛生法、直ちに保健所長へ。 ・麻薬中毒者→麻薬及び向精神薬取締法、速やかに都道府県知事へ。刑法に医師の届出義務の規定はない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。