StudyMed医師国家試験

hCGは「絨毛の量」を映す鏡―定量値が決め手になるのは胞状奇胎

第106回医師国家試験 E問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第106回 E問題 第24問

ヒト絨毛性ゴナドトロピン〈hCG〉の定量が診断に最も有用なのはどれか。

  1. a.切迫流産
  2. b.多胎妊娠
  3. c.妊娠悪阻
  4. d.胞状奇胎
  5. e.子宮内発育遅延

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はhCGの定量がどの疾患の診断にいちばん役立つかを問う問題だ。鍵になるのは「hCGはどこで作られ、何を反映しているのか」という一点。そこが分かれば、5つの選択肢はすっきり整理できるよ。まず、hCGを産生する細胞は覚えているかな。
医学生医学生
胎盤の絨毛にある合胞体栄養膜細胞ですよね。発生学の講義で、妊娠黄体を維持するホルモンだと習いました。
ドクタードクター
その通り。hCGは黄体を刺激してプロゲステロン分泌を続けさせ、妊娠初期を支えている。着床直後から分泌が始まり、妊娠4週頃には尿の妊娠検査薬で陽性になる。血中濃度は妊娠8〜10週頃にピークを迎え、その後は下がって一定の値で推移するんだ。
医学生医学生
妊娠のたびに出るホルモンなら、妊娠に関係する異常はどれもhCGで分かりそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。hCGはあくまで「絨毛の量と活動性」を反映する。だから、絨毛そのものが異常に増える病気ほど定量値の意味が大きい。逆に、妊娠が確定した後の産科的な異常の多くは、超音波や臨床症状で診断するんだ。
医学生医学生
絨毛が異常に増える病気というと、胞状奇胎ですね。
ドクタードクター
正解。胞状奇胎は栄養膜細胞が異常増殖し、絨毛の間質が水腫状に腫れてブドウの房のようになる疾患だ。栄養膜細胞が大量に増えるから、hCGは同じ週数の正常妊娠よりはるかに高い値になり、10万mIU/mLを超えることも珍しくない。超音波で子宮内に多数の小嚢胞がみられる像と合わせて診断し、子宮内容除去術で得た組織の病理で確定する。
医学生医学生
病理実習で、全胞状奇胎は父親由来の染色体だけでできていると聞いて驚いた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。全胞状奇胎は多くが雄核発生で、核型は多くが46,XX、胎児成分を欠く。部分胞状奇胎は多くが3倍体で、胎児成分を伴うことがある。では、ほかの選択肢も確認しよう。切迫流産はどうかな。
医学生医学生
出血や腹痛があっても胎児が生きている状態なので、hCGが下がっていないかを見るのかなと思いました。
ドクタードクター
発想は分かるけれど、診断の決め手は内診で子宮口が閉じていることと、経腟超音波で胎嚢や心拍を確認することだ。ごく初期で胎嚢が見えない時期には、異所性妊娠との区別などにhCGの経時変化を参考にすることはある。ただ、切迫流産そのものの診断で最も有用な検査とはいえないね。
医学生医学生
多胎妊娠は絨毛が多いぶん、hCGも高くなりそうです。
ドクタードクター
傾向としてはその通り。でも個人差が大きく、hCGの値から胎児の数を決めることはできない。診断は超音波で胎嚢や胎児の数を数えて行い、同時に絨毛膜性・羊膜性の判定を妊娠初期にしておくことが周産期管理で重要になる。
医学生医学生
妊娠悪阻もhCGが高いと起こりやすいと習った気がします。
ドクタードクター
そう、hCGが高い多胎妊娠や胞状奇胎では悪阻が重くなりやすい。ただ、妊娠悪阻の診断は脱水、体重減少、ケトン尿といった臨床症状と全身状態で行うもので、hCGの数値で決めるわけではない。子宮内発育遅延、今でいう胎児発育不全も、超音波で児頭大横径や腹囲、大腿骨長を測って推定胎児体重を出し、基準と比べて診断する。hCGは使わないね。
医学生医学生
つまり、妊娠中の産科的異常は超音波や症状で診て、hCGの定量が主役になるのは絨毛性疾患ということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。もう一つ大事なのが、胞状奇胎ではhCGが治療後の腫瘍マーカーになること。子宮内容除去術の後は定期的にhCGを測り、順調に下がって陰性化するかを追う。娩出後5週、8週、24週の判別線を上回るような経過非順調型なら、侵入奇胎や絨毛癌の発生を疑って精査するんだ。
医学生医学生
臨床実習の婦人科外来で、奇胎後の患者さんに避妊を指導していたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
その通り。妊娠するとhCGが上がって、腫瘍の再燃と区別できなくなるからね。ほかにも、hCGはTSHとα鎖が共通なので、著しい高値では甲状腺機能亢進症を起こしたり、卵巣を刺激して黄体化嚢胞をつくったりする。β鎖がhCGに特有だから、特異的な測定にはβhCGを用いる。逆に、妊娠初期にhCGの増え方が鈍ければ異所性妊娠や流産を考える、という低値側の使い方もセットで覚えておこう。

まとめ

hCGは合胞体栄養膜細胞が産生する糖蛋白ホルモンで、絨毛の量と活動性を反映します。そのため、栄養膜細胞が異常増殖する胞状奇胎では著しい高値を示し、診断の重要な手がかりとなるうえ、子宮内容除去術後には侵入奇胎や絨毛癌の発生を見張る腫瘍マーカーとして欠かせません。一方、切迫流産、多胎妊娠、胎児発育不全は主に超音波断層法で、妊娠悪阻は臨床症状と全身状態で診断し、hCGの定量値は決め手になりません。hCGのα鎖はTSHなどと共通でβ鎖が特異的であること、高値で甲状腺機能亢進症や黄体化嚢胞を伴いうることも関連知識として重要です。「その検査値が何を反映しているか」から有用な場面を考える姿勢は、検査を正しく使い分ける臨床判断の基本になります。

解答・解説

正解はdです

ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)は、胎盤の絨毛を覆う合胞体栄養膜細胞(syncytiotrophoblast)が産生する糖蛋白ホルモンである。妊娠黄体を維持してプロゲステロン分泌を続けさせる働きをもつ。非妊娠時にはほとんど産生されず、受精卵の着床直後から分泌が始まり、妊娠4週頃には尿中で検出できるようになる。血中濃度は妊娠8〜10週頃にピークに達し、その後は低下して一定の値で推移する。 hCGは絨毛(栄養膜)の量や活動性を反映するので、絨毛が異常に増殖する疾患ほど定量の価値が高い。その代表が胞状奇胎をはじめとする絨毛性疾患であり、hCGは診断の手がかりとなるだけでなく、治療後の経過観察で残存病変や続発する絨毛癌・侵入奇胎を見つける腫瘍マーカーとしても欠かせない。 一方、妊娠していることが確定した後の産科的な異常(流産、多胎、胎児発育不全など)の診断は主に超音波断層法で行い、妊娠悪阻は臨床症状で診断する。いずれもhCGの「定量値」が診断の決め手にはならない。この対比から、hCG定量が最も有用なのは胞状奇胎である。

選択肢考察

  1. ×a.  切迫流産

    切迫流産は、妊娠22週未満に性器出血や下腹部痛があるが、子宮口は閉じていて胎児(胎芽)が生存している状態である。診断は内診で子宮口が開いていないことを確認し、経腟超音波で胎嚢・胎芽の心拍を確認して行う。すでに妊娠は確定しており、hCGが妊娠相応に出ていることも予想されるので、hCG定量が診断を左右することはない。なお、ごく初期で超音波で胎嚢がまだ見えない時期には、異所性妊娠との区別や妊娠継続性の判断にhCGの経時変化を参考にすることはあるが、切迫流産そのものの診断に最も有用な検査とはいえない。

  2. ×b.  多胎妊娠

    多胎妊娠では胎盤(絨毛)の量が多いためhCGは単胎より高くなる傾向がある。しかし値の個人差が大きく、hCG値から胎児の数を決めることはできない。多胎妊娠の診断は、超音波断層法で胎嚢や胎児の数を数えることで行う。さらに超音波では、膜性(一絨毛膜性か二絨毛膜性か、一羊膜性か二羊膜性か)の診断も妊娠初期に行い、これが周産期管理を決める上で重要である。

  3. ×c.  妊娠悪阻

    妊娠悪阻は、つわり(妊娠初期の悪心・嘔吐)が重症化し、脱水、体重減少、電解質異常、尿中ケトン体陽性などを伴って治療を要する状態である。hCGが高いほど症状が強い傾向があるとされ、hCG高値となる多胎妊娠や胞状奇胎では悪阻が起こりやすい。しかし妊娠悪阻の診断は臨床症状と全身状態(体重減少、ケトン尿など)で行い、hCGの定量値で診断するわけではない。

  4. ○d.  胞状奇胎

    胞状奇胎は、絨毛の栄養膜細胞が異常に増殖し、絨毛間質が水腫状に腫れてブドウの房状になる疾患である。栄養膜細胞が大量に増えるため、血中・尿中hCGは同じ妊娠週数の正常妊娠と比べて異常な高値(しばしば10万mIU/mLを超える)を示し、診断の重要な手がかりとなる。診断は超音波断層法の所見(全胞状奇胎では子宮内に多数の小嚢胞がみられる像)と合わせて行い、最終的には娩出(子宮内容除去術)した組織の病理診断で確定する。さらに術後はhCGを定期的に測定し、順調に低下して陰性化するかを確認する。低下が遅れたり再上昇したりする場合は、侵入奇胎や絨毛癌の発生を疑う。このように診断から経過観察までhCG定量が中心的役割を担う。

  5. ×e.  子宮内発育遅延

    子宮内発育遅延(現在は胎児発育不全:fetal growth restriction、FGRと呼ぶ)は、胎児の発育が妊娠週数に比べて遅れている状態である。診断は超音波断層法で児頭大横径(BPD)、腹囲(AC)、大腿骨長(FL)を測定して推定胎児体重を算出し、週数ごとの基準値(-1.5SD以下が目安)と比較すること、また一定期間をおいた再計測で発育の停滞を確認することで行う。hCGの定量はFGRの診断には用いない。

hCGの構造と測定

hCGはα鎖とβ鎖からなる。α鎖はLH、FSH、TSHと共通で、β鎖がhCGに特有である。このため、特異的に測定するにはβ鎖を認識する方法(βhCG)を用いる。尿中hCGを用いる市販の妊娠検査薬は、おおむね妊娠4週(次回月経予定日頃)から陽性となる。

hCGが高値・低値になる主な状態

高値:正常妊娠(特に初期)、多胎妊娠、胞状奇胎、侵入奇胎、絨毛癌、一部の胚細胞腫瘍(絨毛癌成分を含むもの)など。 低値や増加不良:異所性妊娠(子宮外妊娠)、流産(稽留流産や進行中の流産)など。妊娠初期には、正常妊娠ならhCGがおよそ2日で2倍近くに増えるため、増え方が鈍い場合は異所性妊娠や流産を考える。

胞状奇胎の概要

全胞状奇胎:多くは雄核発生(父親由来の染色体のみ、核型は多くが46,XX)。胎児成分はなく、hCGが著しく高い。 部分胞状奇胎:多くは3倍体(69,XXYなど)。胎児成分を伴うことがある。 症状:不正性器出血、妊娠週数に比べて大きい子宮、重い悪阻、妊娠高血圧症候群の早期発症、hCGの甲状腺刺激作用による甲状腺機能亢進症、hCG刺激による卵巣の黄体化嚢胞など。 治療:子宮内容除去術を行い、その後はhCGを定期的に測定する。取扱い規約では、娩出後5週で1,000mIU/mL、8週で100mIU/mL、24週でカットオフ値を判別線とし、いずれかでこれを上回る場合を経過非順調型として、侵入奇胎や絨毛癌の発生を疑い精査する。経過観察中は、hCG値の解釈を妨げないよう避妊を指導する。

POINT

・hCGは合胞体栄養膜細胞が産生し、絨毛の量と活動性を反映する。 ・胞状奇胎・侵入奇胎・絨毛癌などの絨毛性疾患では、hCGが診断と治療後の経過観察(腫瘍マーカー)の両方に必須である。 ・流産、多胎妊娠、胎児発育不全の診断は超音波断層法、妊娠悪阻は臨床症状で診断する。 ・血中hCGは妊娠8〜10週頃にピークとなる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。