StudyMed医師国家試験

転移があっても治せる癌―絨毛癌を支える2つの薬、メトトレキサートとアクチノマイシンD

第108回医師国家試験 I問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第108回 I問題 第33問

妊娠性絨毛癌に用いる薬剤はどれか。2つ選べ。

  1. a.メトトレキサート
  2. b.マイトマイシンC
  3. c.アドリアマイシン
  4. d.アクチノマイシンD
  5. e.酢酸メドロキシプロゲステロン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は妊娠性絨毛癌の化学療法で使う薬を選ぶ問題だ。抗癌薬の名前を丸暗記するより、「絨毛性腫瘍ではどの薬が軸になるか」と「ほかの薬はどの癌で使うか」を対応づけて整理すると迷わなくなる。まず、絨毛癌とはどんな腫瘍だったか覚えているかな。
医学生医学生
胎盤をつくる栄養膜細胞、トロホブラストが悪性化した腫瘍ですよね。胞状奇胎のあとに起こりやすいと習いました。
ドクタードクター
その通り。奇胎後が多いけれど、正常分娩や流産、異所性妊娠のあとにも起こりうる。血行性転移が多く、いちばん多いのは肺、次いで腟や脳、肝臓だ。ここまで聞くとかなり怖い癌に思えるよね。
医学生医学生
血行性に広がるなら、予後はかなり悪いイメージです。
ドクタードクター
ところが、絨毛癌は抗癌薬への感受性が非常に高く、転移があっても化学療法で治癒を目指せる数少ない固形癌なんだ。しかも腫瘍がhCGを産生するから、血中hCGが腫瘍量を鋭敏に映す。治療効果の判定にも再発の監視にも使える、とても優秀な腫瘍マーカーだよ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、奇胎のあとにhCGを毎回グラフにして下がり方を追っている患者さんを見ました。あれが続発症の監視だったんですね。
ドクタードクター
そう。順調に下がらない、あるいは再上昇したら、侵入奇胎や絨毛癌を疑って転移を検索する。では本題だ。絨毛性腫瘍の化学療法で中心になる薬は何だろう。
医学生医学生
薬理の講義で、葉酸代謝拮抗薬のメトトレキサートが絨毛性疾患に効くと聞いた気がします。
ドクタードクター
正解の一つだ。メトトレキサートはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害して核酸合成を止め、増殖の速い細胞を障害する。侵入奇胎のような低リスク例なら単剤で、絨毛癌なら多剤併用の一部として使う。大量投与ではホリナート、つまりロイコボリンで救援するのもセットで覚えておこう。異所性妊娠の薬物療法に使われるのも同じ理屈だね。
医学生医学生
もう一つは抗腫瘍性抗生物質のどれかですか。マイトマイシンCとアドリアマイシンとアクチノマイシンDで迷います。
ドクタードクター
そこが本問の山場だ。答えはアクチノマイシンD。DNAに結合してRNA合成、つまり転写を阻害する薬で、メトトレキサートと並ぶ絨毛性腫瘍の二本柱だ。メトトレキサートが効かない、使いにくい場合の単剤療法にも使う。小児のWilms腫瘍や横紋筋肉腫にも使われる薬だね。
医学生医学生
名前が似ていて紛らわしいです。マイトマイシンCは何に使うんでしたっけ。
ドクタードクター
マイトマイシンCはDNAを架橋して複製を妨げる薬で、胃癌や膵癌などの消化器癌、肛門管癌の化学放射線療法、表在性膀胱癌の膀胱内注入などで使う。泌尿器科を回ったら膀胱内注入で出会うかもしれない。絨毛癌の標準治療には入らないよ。
医学生医学生
アドリアマイシンは心毒性で有名なアントラサイクリン系ですよね。婦人科でも使いませんでしたか。
ドクタードクター
よく覚えているね。ドキソルビシンのことで、婦人科では子宮体癌のAP療法、子宮肉腫、再発卵巣癌のリポソーム製剤などで使う。蓄積量依存の心筋障害が要注意だ。婦人科で使う薬ではあるけれど、絨毛癌の標準薬ではない。
医学生医学生
酢酸メドロキシプロゲステロンはホルモン剤なので、ホルモン依存性の腫瘍向けでしょうか。
ドクタードクター
その推論で合っている。高用量MPA療法は、子宮内膜異型増殖症や、筋層浸潤のない高分化型類内膜癌で妊孕性温存を希望する人に使う。エストロゲン依存性の内膜増殖を黄体ホルモンで抑えるわけだ。絨毛癌はホルモン依存性ではないから使わない。
医学生医学生
整理すると、絨毛性腫瘍はメトトレキサートとアクチノマイシンDが軸で、残りは子宮体癌や消化器癌などの薬ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。発展として実際のレジメンも押さえておこう。絨毛癌では多剤併用が基本で、代表がEMA/CO療法。エトポシド、メトトレキサート、アクチノマイシンDに、シクロホスファミドとビンクリスチンを組み合わせる。抵抗例ではシスプラチンを含むEMA/EP療法などに切り替える。
医学生医学生
hCGが測れなくなったら治療終了でいいんですか。
ドクタードクター
そこが臨床での大事な注意点だ。hCGが検出感度以下になっても微小な残存腫瘍がありうるから、再発予防に数コースの地固め療法を追加し、その後も長期間hCGを追い続ける。脳転移や出血、薬剤抵抗性の病巣には手術や放射線療法も組み合わせるよ。

まとめ

妊娠性絨毛癌は栄養膜細胞由来の悪性腫瘍で、肺などへ血行性転移しやすい一方、化学療法への感受性が非常に高く、転移例でも治癒が期待できます。治療の軸は葉酸代謝拮抗薬のメトトレキサートと転写阻害薬のアクチノマイシンDで、低リスクの絨毛性腫瘍では単剤、絨毛癌ではEMA/CO療法などの多剤併用療法の構成薬として用います。マイトマイシンCは消化器癌や膀胱癌、アドリアマイシンは子宮体癌や子宮肉腫、酢酸メドロキシプロゲステロンは妊孕性温存を希望する初期子宮体癌などで用いられ、絨毛癌の標準薬ではありません。治療効果判定と再発監視には血中hCGが鋭敏な指標となり、陰性化後も地固め療法と長期の経過観察が必要です。薬剤と対象疾患を対応づけて覚えることは、婦人科腫瘍の化学療法全体を理解する土台になります。

解答・解説

正解はa, dです

妊娠性絨毛癌は、妊娠に伴って生じる絨毛性疾患(gestational trophoblastic disease)のうち最も悪性度の高い腫瘍であり、胎盤を形成する栄養膜細胞(トロホブラスト)が悪性化したものである。胞状奇胎の後に発生することが多いが、正常分娩、流産、異所性妊娠の後にも発生しうる。血行性に転移しやすく、肺転移が最も多く、次いで腟・脳・肝などへ転移する。 絨毛癌は抗癌薬に対する感受性が非常に高く、転移があっても化学療法で治癒を目指せる数少ない固形癌である。また腫瘍がhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を産生するため、血中hCG値が腫瘍量を鋭敏に反映し、治療効果判定や再発の監視に用いられる。 化学療法の中心となる薬剤は、葉酸代謝拮抗薬のメトトレキサート(MTX)と、抗腫瘍性抗生物質のアクチノマイシンD(Act-D)であり、これらにエトポシド、シクロホスファミド、ビンクリスチンなどを組み合わせた多剤併用療法が行われる。本問ではこの2剤を選べばよい。他の選択肢は、それぞれ別の癌腫で用いられる薬剤である。

選択肢考察

  1. ○a.  メトトレキサート

    メトトレキサートは葉酸代謝拮抗薬で、ジヒドロ葉酸還元酵素を阻害してDNA合成に必要な核酸の生成を妨げ、増殖の速い細胞を障害する。絨毛性腫瘍に対して最も基本となる薬剤であり、侵入奇胎・存続絨毛症などの低リスク例では単剤で、絨毛癌ではEMA/CO療法(エトポシド・メトトレキサート・アクチノマイシンD/シクロホスファミド・ビンクリスチン)などの多剤併用療法の一部として用いられる。副作用として骨髄抑制、口内炎、肝障害、間質性肺炎などがあり、大量投与時には活性型葉酸であるホリナート(ロイコボリン)による救援療法を併用する。なお、異所性妊娠の薬物療法にも用いられる。

  2. ×b.  マイトマイシンC

    マイトマイシンCはDNAに架橋を形成して複製を阻害する抗腫瘍性抗生物質である。胃癌・膵癌などの消化器癌、肛門管癌の化学放射線療法、表在性膀胱癌の膀胱内注入療法などで用いられるが、絨毛癌の標準的な治療薬には含まれない。

  3. ×c.  アドリアマイシン

    アドリアマイシン(一般名ドキソルビシン)はアントラサイクリン系の抗腫瘍性抗生物質で、トポイソメラーゼIIの阻害やDNAへのインターカレーション(塩基対の間への入り込み)によって作用する。婦人科領域では子宮体癌(シスプラチンとのAP療法)、子宮肉腫、再発卵巣癌(リポソーム製剤)などで用いられるほか、乳癌や悪性リンパ腫などでも使用される。蓄積量に依存した心筋障害が特徴的な副作用である。絨毛癌の標準的な治療薬には含まれない。

  4. ○d.  アクチノマイシンD

    アクチノマイシンD(一般名ダクチノマイシン)は、DNAに結合してRNAの合成(転写)を阻害する抗腫瘍性抗生物質である。メトトレキサートと並ぶ絨毛性腫瘍の主要な治療薬であり、低リスク例では単剤で(メトトレキサートが無効・使用困難な場合にも用いる)、絨毛癌ではEMA/CO療法やMEA療法(メトトレキサート・エトポシド・アクチノマイシンD)などの多剤併用療法の構成薬剤として用いられる。絨毛性腫瘍のほか、ウィルムス腫瘍や横紋筋肉腫などの小児腫瘍にも用いられる。副作用として骨髄抑制、悪心・嘔吐、口内炎、脱毛があり、血管外漏出で強い組織障害を起こす。

  5. ×e.  酢酸メドロキシプロゲステロン

    酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)は合成黄体ホルモン製剤である。高用量MPA療法は、子宮内膜異型増殖症や、筋層浸潤のない高分化型(G1)類内膜癌の初期子宮体癌で、妊孕性(妊娠する能力)の温存を希望する場合のホルモン療法として用いられる。子宮体癌の多くはエストロゲン依存性であり、黄体ホルモンで内膜の増殖を抑える。一方、絨毛癌はホルモン依存性の腫瘍ではなく、MPAは治療に用いない。

絨毛性疾患の分類

・胞状奇胎(全胞状奇胎・部分胞状奇胎):絨毛の嚢胞化を特徴とする。全胞状奇胎は通常、雄核発生(父親由来の染色体のみ)で、続発症のリスクが高い。 ・侵入奇胎:奇胎の絨毛が子宮筋層や血管内へ侵入したもの。 ・絨毛癌:絨毛構造を欠き、栄養膜細胞(細胞性・合胞体性トロホブラスト)が異型性をもって増殖する悪性腫瘍。 ・胎盤部トロホブラスト腫瘍、類上皮性トロホブラスト腫瘍:まれな腫瘍で、hCG産生が少なく化学療法が効きにくい。

奇胎後の管理と絨毛癌の発見

胞状奇胎の除去後は、血中hCG値を定期的に測定し、正常値まで順調に下降することを確認する。下降が遅れたり再上昇したりした場合には、侵入奇胎や絨毛癌などの続発症を疑い、胸部CTなどで転移を検索する。臨床的に侵入奇胎と絨毛癌の区別がつかない場合は、絨毛癌診断スコアを用いて判定する。

化学療法の選択

・侵入奇胎・存続絨毛症など:メトトレキサートまたはアクチノマイシンDの単剤療法が基本。 ・絨毛癌:多剤併用療法が基本。代表はEMA/CO療法(エトポシド、メトトレキサート、アクチノマイシンD/シクロホスファミド、ビンクリスチン)で、MEA療法なども用いられる。抵抗例ではシスプラチンを含むレジメン(EMA/EP療法など)が用いられる。 ・血中hCGが検出感度以下となった後も、再発予防のため数コースの追加化学療法(地固め療法)を行う。 ・化学療法に抵抗する病巣や、脳転移・出血などに対しては、手術や放射線療法を組み合わせる。

POINT

・絨毛性腫瘍の化学療法の中心はメトトレキサート(MTX)とアクチノマイシンD(Act-D)。 ・絨毛癌では多剤併用療法(EMA/CO療法:エトポシド・MTX・Act-D/シクロホスファミド・ビンクリスチン)が基本。 ・絨毛癌は化学療法の感受性が高く、転移例でも治癒が期待できる。血中hCGが腫瘍マーカーとして治療効果判定・経過観察に有用。 ・アドリアマイシンは子宮体癌・子宮肉腫、MPAは妊孕性温存を希望する初期子宮体癌・子宮内膜異型増殖症で用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。