カロリーにならない栄養素―食物繊維から組み立てる2型糖尿病の食事療法
第106回医師国家試験 E問題 第23問
国試問題にチャレンジ
2型糖尿病の食事療法について誤っているのはどれか。
- a.食物繊維は指示エネルギーに含まれる。
- b.脂質は指示エネルギー量の25%以内とする。
- c.炭水化物は指示エネルギー量の60%以内とする。
- d.蛋白質は標準体重(kg)当たり1.2 g/日以内とする。
- e.総摂取エネルギー量は標準体重×生活活動強度で求める。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
2型糖尿病の食事療法は、標準体重(現在は目標体重)に身体活動量に応じたエネルギー係数を掛けて総エネルギー量を決め、それを三大栄養素に配分して組み立てます。出題当時の基準は炭水化物が指示エネルギーの50〜60%、蛋白質が標準体重1kgあたり1.0〜1.2g/日、脂質が25%以内で、現在は炭水化物40〜60%、蛋白質20%以下などとより柔軟な目安が示されています。食物繊維はヒトの消化酵素で分解されずほとんどエネルギーにならないため、指示エネルギーの計算には含めず、「指示エネルギーに含まれる」という記述が誤りです。食物繊維は食後血糖の上昇を抑え、LDLコレステロールを下げ、満腹感を与えるため、1日20g以上を目安に積極的な摂取が勧められます。各栄養素の数値をその根拠とセットで理解することが、患者に合わせた栄養指導の基盤になります。
解答・解説
正解はaです
2型糖尿病の治療の土台は食事療法と運動療法であり、薬物療法はその上に積み重ねるものである。食事療法の目的は、血糖値を良好に保つだけでなく、肥満の是正、高血圧や脂質異常症などの合併症リスクの軽減、腎症の進行抑制を図ることにある。 食事療法を組み立てる手順は次のとおりである。 1) まず1日の総摂取エネルギー量(指示エネルギー量)を決める。基本は「体重(標準体重、現在は目標体重)×身体活動量に応じたエネルギー係数(kcal/kg)」で求める。 2) 次にそのエネルギーを三大栄養素(炭水化物・蛋白質・脂質)にどう配分するかを決める。本問出題当時の標準は、炭水化物が指示エネルギーの50〜60%、蛋白質が標準体重1kgあたり1.0〜1.2g、残りを脂質とし、脂質は25%以内に抑える、というものであった。 3) さらにビタミン・ミネラル・食物繊維を十分に摂るよう食品を組み合わせる。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。b〜eは出題当時の食事療法の基本事項に沿った内容である。一方、食物繊維はヒトの消化酵素では分解されない成分で、ほとんどエネルギー源にならないため、指示エネルギー量の計算には含めずに扱う。したがってaが誤りである。
選択肢考察
- ○a. 食物繊維は指示エネルギーに含まれる。
誤りの記述であり、これが正解となる。食物繊維はヒトの消化酵素で分解できない難消化性の成分で、小腸ではほとんど吸収されない。一部は大腸で腸内細菌によって発酵され、短鎖脂肪酸としてわずかにエネルギーになるが、その量は発酵のされやすさで異なり、1gあたり0〜2kcal程度と非常に少ない(寒天やセルロースのように発酵されにくいものはほぼ0kcalである)。そのため、糖尿病の食事療法では食物繊維を指示エネルギーの計算に含めない。むしろ食物繊維は糖の吸収を遅らせて食後血糖の上昇を穏やかにし、満腹感を与え、LDLコレステロールを下げる作用もあるので、1日20g以上を目安に積極的に摂るよう勧められる。
- ×b. 脂質は指示エネルギー量の25%以内とする。
正しい記述である。脂質は1gあたり約9kcalと最もエネルギー密度が高く、摂りすぎると肥満や脂質異常症、動脈硬化につながる。そのため出題当時の指針では、脂質を指示エネルギーの20〜25%程度とし、25%を超えないようにするとされていた。脂質の割合が25%を超える場合は、飽和脂肪酸を減らして多価不飽和脂肪酸に置き換えるなど、脂肪酸の質に配慮する。
- ×c. 炭水化物は指示エネルギー量の60%以内とする。
正しい記述である。炭水化物は食後血糖値に最も直接影響する栄養素であるが、極端に減らすと脂質や蛋白質の摂取が増え、別の問題を生じやすい。そこで出題当時の標準では、炭水化物を指示エネルギーの50〜60%とし、60%を上限としていた。現在のガイドラインでは40〜60%を目安とし、患者の病態や嗜好に応じて柔軟に設定する考え方が示されている。
- ×d. 蛋白質は標準体重(kg)当たり1.2 g/日以内とする。
正しい記述である。出題当時、糖尿病患者の蛋白質摂取量は標準体重1kgあたり1.0〜1.2g/日(おおむね50〜80g/日)が目安とされ、1.2g/kgを上限としていた。蛋白質の過剰摂取は腎臓の糸球体に負担をかけ、糖尿病性腎症の進行を早めるおそれがあるためである。腎症が進行した段階では、さらに0.6〜0.8g/kg程度まで制限することがある。現在は、蛋白質を指示エネルギーの20%以下とする目安も用いられている。
- ×e. 総摂取エネルギー量は標準体重×生活活動強度で求める。
正しい記述として扱われる。総摂取エネルギー量は「標準体重(kg)×身体活動量に応じた体重1kgあたりのエネルギー量(kcal/kg)」で求める。出題当時の目安は、デスクワーク中心などの軽い労作で25〜30kcal/kg、立ち仕事が多い普通の労作で30〜35kcal/kg、力仕事などの重い労作で35kcal/kg以上であった。厳密には、本来の「生活活動強度」は旧来の栄養所要量で用いられた区分名(I〜IV)であり、その値自体を体重に掛けてもエネルギー量にはならない。ここでは「生活活動強度に応じた体重1kgあたりのエネルギー係数」を意味していると解釈すれば、正しい内容である。
指示エネルギー量の算出(現在の考え方)
現在の糖尿病診療ガイドラインでは、「標準体重(身長(m)²×22)」に代わって「目標体重」を用いる。目標体重は65歳未満では身長(m)²×22、65歳以上では身長(m)²×22〜25を目安とし、高齢者ではフレイル(虚弱)予防の観点から個別に設定する。これに身体活動レベルと病態に応じたエネルギー係数を掛ける。係数の目安は、軽い労作(大部分が座位)25〜30kcal/kg、普通の労作(座位中心だが通勤・家事・軽い運動を含む)30〜35kcal/kg、重い労作(力仕事や活発な運動習慣)35kcal/kg以上である。肥満者では減量を目指して少なめに設定する。
三大栄養素のエネルギー
炭水化物:約4kcal/g、蛋白質:約4kcal/g、脂質:約9kcal/g。アルコールは約7kcal/gである。食物繊維は0〜2kcal/g程度で、食事療法の計算ではエネルギーとして扱わない。
食物繊維の分類と作用
水溶性食物繊維(ペクチン、グルコマンナンなど)は粘性が高く、胃からの排出や糖の吸収を遅らせて食後高血糖を抑え、胆汁酸の再吸収を妨げてコレステロールを下げる。不溶性食物繊維(セルロースなど)は便の量を増やし、便通を改善する。糖尿病では1日20g以上の摂取が推奨される。
食品交換表
日本では「糖尿病食事療法のための食品交換表」が広く用いられ、80kcalを1単位として食品をグループ(表1〜表6と調味料)に分け、同じ表の中で食品を交換しながら栄養バランスのとれた献立を組み立てる。
POINT
・食物繊維はほとんどエネルギーにならず、指示エネルギーに含めない。むしろ積極的に摂取する(1日20g以上が目安)。 ・総摂取エネルギー量=標準体重(現在は目標体重)×身体活動量に応じたエネルギー係数(軽い労作25〜30、普通30〜35、重い35〜kcal/kg)。 ・出題当時の配分:炭水化物50〜60%、蛋白質1.0〜1.2g/kg標準体重、脂質25%以内。 ・現在は炭水化物40〜60%、蛋白質20%以下、残りを脂質とし、25%を超える場合は脂肪酸の質に配慮する。
