1998年、3万人の壁―グラフの「急な段差」で見抜く自殺死亡数の推移
第106回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
我が国における死因分類別死亡数のうち,「高血圧性疾患」,「結核」,「自殺」,「糖尿病」及び「不慮の事故」の年次推移を示す。 「自殺」による死亡数の推移を示すのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
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ドクターまとめ
自殺による死亡数は1970年代から2万人前後で推移した後、1998年に経済不況などを背景に急増して3万人を超え、警察庁統計では2011年まで14年連続で3万人超が続きました。グラフでは、この1990年代後半の急な段差とその後の横ばいが自殺を見分ける決め手です。不慮の事故は最も多く阪神・淡路大震災の1995年に鋭いピークをもち、糖尿病は増加、高血圧性疾患と結核は長期的に減少しているという特徴も合わせて押さえておきましょう。自殺の統計には人口動態統計と警察庁の自殺統計の2系統があり、自殺対策基本法の制定以降は減少傾向に転じたものの、若年層では依然として死因の第1位です。死因統計の推移を社会背景とセットで理解することは、国試対策だけでなく、医師として予防や支援の視点をもつための基礎になります。
解答・解説
正解はbです
人口動態統計による5つの死因(高血圧性疾患、結核、自殺、糖尿病、不慮の事故)の死亡数を、1970年(昭和45年)から2009年(平成21年)まで示したグラフである。各死因のおおよその規模(2009年時点)と、推移の特徴的な形を手がかりに対応させる。
2009年時点のおおよその死亡数
・不慮の事故:約3.8万人 ・自殺:約3.1万人 ・糖尿病:約1.4万人 ・高血圧性疾患:約0.6万人 ・結核:約0.2万人
グラフの形から読み取れる特徴
・①は1970年に4万人を超え、その後いったん3万人弱まで減少し、1995年に4.5万人程度の鋭いピークを示す。1970年前後の交通事故死の多さ(交通戦争)と、その後の交通安全対策による減少、1995年の阪神・淡路大震災による死者の急増を反映した不慮の事故の特徴的な形である。 ・②は2万人前後で推移した後、1990年代後半に急増して3万人を超え、その水準が続いている。1998年に経済不況を背景に自殺者が急増し、以後3万人超が続いたことに合致する。1985年前後の小さな山も、円高不況期の自殺者増加に対応する。 ・③は1万人前後から緩やかに増加し、1.4万人程度となっている。 ・④は2万人近くから一貫して減少し、0.6万人程度となっている。 ・⑤は1970年の約1.6万人から大きく減少し、最も少ない。 自殺による死亡数が「1998年に急増し、以後約3万人で横ばい」という推移を知っていれば、②を選べる。他の曲線の正体がわからなくても、この一点で正解に到達できる問題である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。①は不慮の事故である。5つの中で最も多く、2009年には約3.8万人である。1970年前後は交通事故死が多く4万人を超えていたが、交通安全対策の進展で減少した。1995年の突出したピークは阪神・淡路大震災による死亡の増加を反映している。
- ○b. ②
正しい。②は自殺である。1970〜1990年代前半は2万人前後で推移していたが、1998年に景気の急激な悪化などを背景に急増して3万人を超え、その後も約3万人の水準が続いた。人口動態統計では2009年の自殺死亡数は30,707人である(警察庁の自殺統計では約3.3万人で、集計方法の違いにより人口動態統計のほうが少ない)。
- ×c. ③
誤り。③は糖尿病である。生活習慣の変化と高齢化を背景に長期的には増加し、2009年には約1.4万人(13,987人)である。1995年前後の上昇には、この時期に行われた死因分類の改訂(ICD-10の導入)や死亡診断書様式の変更の影響も含まれる。
- ×d. ④
誤り。④は高血圧性疾患である。降圧治療の普及や減塩の取り組みによって死亡数は長期的に減少し、2009年には約0.6万人(6,223人)である。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は結核である。かつては死因の上位を占めていたが、生活水準の向上、抗結核薬の普及、BCG接種、結核対策の推進により大きく減少し、2009年には約0.2万人(2,159人)である。現在でも高齢者を中心に年間2,000人程度が亡くなっており、根絶された疾患ではない。
日本の自殺者数の推移
・1998年に経済不況の影響などで急増し、初めて3万人を超えた(警察庁統計)。その後2011年まで14年連続で3万人を超えた。 ・2006年に自殺対策基本法が制定され、翌2007年に自殺総合対策大綱が策定された。2016年の法改正では、都道府県・市町村に自殺対策計画の策定が義務づけられた。 ・2010年以降は減少傾向に転じ、2012年には3万人を下回った。2019年には約2万人まで減少した。 ・2020年には新型コロナウイルス感染症流行の影響もあり、11年ぶりに増加した(特に女性や若年者で増加)。その後は2万人をやや超える水準で推移している。 ・10〜30歳代では自殺が死因の第1位であることも重要である。
自殺の統計の2つの系統
・人口動態統計(厚生労働省):日本における日本人を対象とし、死亡診断書(死体検案書)をもとに集計する。 ・自殺統計(警察庁):日本における外国人を含む総人口を対象とし、捜査などにより自殺と判明した時点で計上する。 ・対象や計上時点が異なるため、警察庁の数値のほうがやや多くなる。
不慮の事故の内訳
現在の不慮の事故では、転倒・転落・墜落、不慮の窒息、不慮の溺死及び溺水(多くは高齢者の浴槽内での溺死)が上位を占め、交通事故による死亡はかつてより大きく減少している。2011年には東日本大震災により不慮の事故の死亡数が大幅に増加した。
POINT
・自殺者数は1998年に急増して3万人を超え、2011年まで3万人超が続いた ・2012年以降は3万人を下回り、近年は2万人前後で推移している ・人口動態統計の自殺死亡数は警察庁統計より少ない ・不慮の事故の死亡数は1995年(阪神・淡路大震災)と2011年(東日本大震災)に突出して増加している ・結核と高血圧性疾患の死亡数は長期的に減少し、糖尿病は増加傾向
