「減らす」ではなく「やめる」―禁煙治療のスタートラインに立つために
第106回医師国家試験 D問題 第4問
国試問題にチャレンジ
妻に禁煙を促された患者が来院した。 禁煙治療の開始準備として適切でないのはどれか。
- a.禁煙の意思確認
- b.禁煙開始日の設定
- c.喫煙開始年齢の把握
- d.喫煙本数の目標設定
- e.ニコチン依存症の判定
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
禁煙治療の目標は喫煙の完全中止であり、本数を減らす目標を設定することは喫煙の継続を容認するメッセージとなるため、開始準備として適切ではありません。初診では、本人の禁煙の意思と行動変容ステージの確認、TDS(5点以上で依存症)によるニコチン依存症の判定、喫煙開始年齢と本数からのBrinkman指数の算出、禁煙開始日の設定を行います。治療薬はニコチン代替療法を開始日から、バレニクリンを開始日の1週間前から用い、12週間の治療中は呼気CO濃度で成果を確認します。喫煙をニコチン依存症という病気として捉え、断酒と同様に「やめる」ことを目指す考え方は、外来での禁煙支援や患者指導の基本となります。
解答・解説
正解はdです
テーマ
禁煙治療を始める前に何を確認・準備するかを問う問題である。喫煙はニコチンへの依存症であり、アルコールや薬物の依存症と同様に「量を減らす」のではなく「完全にやめる(断煙)」ことが治療目標となる。
禁煙治療の開始準備
日本の禁煙外来(「禁煙治療のための標準手順書」に基づく)では、初回診察でおおむね次のことを行う。 ・喫煙状況の把握: 1日の喫煙本数、喫煙開始年齢・喫煙年数、過去の禁煙歴など。 ・ニコチン依存症の評価: TDS(Tobacco Dependence Screener)によるスクリーニング。 ・禁煙の意思確認と動機づけ: 本人がやめたいと思っているかを確認し、喫煙の害や禁煙の利益を説明する。 ・禁煙開始日の設定と治療薬の選択: ニコチン代替療法や経口禁煙補助薬を開始する。 ・呼気一酸化炭素(CO)濃度の測定: 喫煙状況の客観的指標、禁煙の成果の確認に用いる。
設問への考え方
禁煙治療のゴールは喫煙本数ゼロであり、「1日○本まで」といった減煙の目標を立てることは、喫煙を続けてよいというメッセージになり治療の方針に反する。本数を徐々に減らすやり方はニコチン依存が続き、結局元の本数に戻りやすい。したがって、開始準備として適切でないのは喫煙本数の目標設定である。
選択肢考察
- ×a. 禁煙の意思確認
適切である。禁煙治療は本人の意思が前提であり、本問のように家族に促されて受診した場合は特に、本人がどの程度やめたいと考えているかを確かめる必要がある。保険診療による禁煙治療でも、「直ちに禁煙することを希望している」ことが対象要件の一つになっている。意思が不十分なら、喫煙の害や禁煙の利益を伝えて動機づけを高めることから始める。
- ×b. 禁煙開始日の設定
適切である。「この日から一本も吸わない」という日を具体的に決めることで、準備と実行がしやすくなる。治療薬の開始時期もこの日を基準に決まり、ニコチンパッチなどのニコチン代替療法は禁煙開始日から使用し、経口禁煙補助薬のバレニクリンは禁煙開始日の1週間前から内服を始める(開始日までは喫煙してよい)。
- ×c. 喫煙開始年齢の把握
適切である。喫煙開始年齢から喫煙年数がわかり、1日の喫煙本数と掛け合わせてBrinkman指数(喫煙指数)を算出できる。Brinkman指数は累積喫煙量の目安として、肺癌やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などのリスク評価に使われるほか、保険適用の禁煙治療の要件(35歳以上では200以上)の判定にも用いる。また、若年で喫煙を始めた人ほどニコチン依存が強い傾向がある。
- ○d. 喫煙本数の目標設定
適切でない。禁煙治療の目標は喫煙を完全にやめることであり、減らす本数の目標を設定するのは治療の考え方と合わない。本数を減らすと1本あたりを深く吸い込むなどしてニコチン摂取量が思ったほど減らないことがあり、依存も持続するため再び本数が増えやすい。少しでも吸えば喫煙欲求がよみがえるため、開始日からきっぱりやめる方法が基本である。
- ×e. ニコチン依存症の判定
適切である。禁煙外来ではTDS(10項目の質問票)を用い、10点満点中5点以上をニコチン依存症と判定する。依存の程度は治療薬の選択や離脱症状への備えにも関わり、保険適用の禁煙治療を行うためにも必須の評価である。
保険適用の禁煙治療の対象
以下をすべて満たす患者が対象となる。 1. TDSでニコチン依存症と判定(5点以上) 2. 35歳以上ではBrinkman指数(1日喫煙本数×喫煙年数)が200以上(2016年の改定で35歳未満はこの要件が撤廃された) 3. 直ちに禁煙することを希望している 4. 禁煙治療について説明を受け、文書で同意している 標準的な治療は12週間で計5回の診察を行い、毎回呼気CO濃度を測定する。
禁煙補助薬
・ニコチン代替療法: ニコチンパッチ、ニコチンガム。ニコチンを喫煙以外の経路で補い、離脱症状を和らげながら量を減らしていく。禁煙開始日から使用する。 ・バレニクリン: ニコチン受容体(α4β2)の部分作動薬。受容体を適度に刺激して離脱症状を抑えると同時に、喫煙しても満足感を得にくくする。禁煙開始日の1週間前から内服し、計12週間用いる。副作用に悪心、異常な夢、眠気などがあり、服用中の自動車運転などは避けるよう注意される。
行動変容ステージ(多理論統合モデル)
無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期の順に進む。準備期(1か月以内に禁煙するつもりがある段階)が禁煙開始の好機である。無関心期・関心期の人には、喫煙の害や禁煙の利点を伝えて動機づけを高める。短時間の禁煙支援には「5A」(Ask: 喫煙状況を尋ねる、Advise: 禁煙を勧める、Assess: 禁煙の意思を評価する、Assist: 禁煙を支援する、Arrange: フォローアップを手配する)という枠組みがある。
離脱症状
イライラ、落ち着かない、集中困難、不眠、食欲増加・体重増加、強い喫煙欲求など。禁煙後数日以内にピークとなり、多くは2〜4週間でおさまっていく。
POINT
・禁煙治療の目標は喫煙の完全中止であり、減煙(本数の目標設定)は行わない。 ・開始準備: 喫煙状況の把握(Brinkman指数)、TDSによるニコチン依存症の判定、禁煙の意思確認、禁煙開始日の設定。 ・TDS 5点以上でニコチン依存症。Brinkman指数=1日喫煙本数×喫煙年数。 ・バレニクリンは禁煙開始日の1週間前から、ニコチン代替療法は禁煙開始日から開始する。
