StudyMed医師国家試験

濁った髄液は一刻を争うサイン―膿性髄液から導く細菌性髄膜炎の治療

第106回医師国家試験 D問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第106回 D問題 第3問

腰椎穿刺で得られた検体の写真を別に示す。  この疾患の治療に使用すべきなのはどれか。

第106回 D問題 第3問の問題画像
  1. a.抗菌薬
  2. b.解熱鎮痛薬
  3. c.免疫抑制薬
  4. d.脳圧降下薬
  5. e.抗悪性腫瘍薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腰椎穿刺で得られた髄液の見た目だけから疾患を推定し、治療薬を選ぶ問題だ。注目すべきは色と透明度。まず、正常な髄液がどんな外観か思い出してみよう。
医学生医学生
正常は無色透明で、水のように見えると習いました。写真の髄液は黄白色で、向こう側が透けないほど濁っていますね。
ドクタードクター
その通り。この不透明で膿のような髄液を膿性髄液、混濁髄液と呼ぶ。濁りの正体は、多数の白血球、とくに好中球と、細菌そのもの、それに増えた蛋白なんだ。細胞数が数百/μLを超えると肉眼で濁りがわかり、数千/μL規模になるとこういう膿性の外観になる。
医学生医学生
黄色っぽいので、くも膜下出血のキサントクロミーかとも一瞬思いました。
ドクタードクター
そこは大事な引っかけポイントだね。キサントクロミーは出血後に赤血球の分解産物が髄液に出たもので、黄色でも「透明」なんだ。今回は黄色いうえに濁っている。透明か混濁かで区別するのがコツだよ。
医学生医学生
ウイルス性髄膜炎ならどう見えるんでしょうか。
ドクタードクター
ウイルス性は細胞数の増加が軽度でリンパ球優位だから、外観はほぼ透明なことが多い。つまり、ここまで濁った髄液は細菌性、すなわち化膿性髄膜炎を強く示唆するんだ。
医学生医学生
細菌性なら、治療は原因菌を叩く抗菌薬ですね。
ドクタードクター
正解。細菌性髄膜炎は治療が遅れると死亡や難聴、てんかん、知的障害などの後遺症につながる神経救急疾患だ。疑った時点で血液培養と髄液を採取し、できるだけ早く経験的に抗菌薬を始める。状況によっては画像検査や腰椎穿刺を待たずに投与することもあるくらいだ。
医学生医学生
薬の選び方はどう考えればいいですか。感染症の講義で血液脳関門の移行性が大事と聞きました。
ドクタードクター
まさにそこ。髄液中で十分な濃度が得られる薬を、殺菌的に効く高用量で静注する。原因菌がわかるまでは年齢や基礎疾患から想定される菌をカバーする。例えば成人ではセフトリアキソンなどの第三世代セフェム系にバンコマイシンを併用し、50歳以上や免疫不全ではリステリアを考えてアンピシリンを加えることが多い。
医学生医学生
解熱鎮痛薬は使わないんですか。救急外来の実習で、頭痛と発熱の患者さんにはまず鎮痛薬を出していた気がします。
ドクタードクター
症状を和らげる目的で使うことはあるよ。でもそれは対症療法で、感染そのものは治らない。脳圧降下薬も同じで、脳浮腫による頭蓋内圧亢進があればマンニトールなどの浸透圧利尿薬を補助的に使うことはあるけれど、原因への治療ではないんだ。
医学生医学生
免疫抑制薬はむしろ感染を悪化させそうです。でもステロイドを併用すると聞いたこともあって、混乱しています。
ドクタードクター
いい疑問だね。免疫抑制薬は感染防御を弱めるので不適切だ。一方でデキサメタゾンを抗菌薬の初回投与直前または同時に短期間併用することがあり、とくに肺炎球菌性髄膜炎で死亡率や難聴を減らすことが示されている。ただしこれは過剰な炎症反応を抑える補助療法で、免疫抑制を狙った治療とは位置づけが違うんだ。
医学生医学生
抗悪性腫瘍薬が選択肢にあるのは、癌性髄膜炎を意識しているんでしょうか。
ドクタードクター
その通り。胃癌、肺癌、乳癌、白血病・リンパ腫などが髄膜に播種した癌性髄膜炎では、メトトレキサートの髄腔内投与などが行われることがある。診断は髄液細胞診で腫瘍細胞を確認するのが基本で、普通はこんな膿性の混濁は示さないよ。
医学生医学生
見た目で、透明なら正常かウイルス性、混濁なら細菌性、血性なら出血、黄色透明なら古い出血、と整理できそうですね。
ドクタードクター
よくまとまっている。補足すると、光にかざすと細かい粒子が浮いて見える「日光微塵」は軽度の細胞増加で、結核性や真菌性髄膜炎でみられることがある。血性髄液では穿刺時の出血との区別も必要で、穿刺時の出血なら採取を続けるうちに色が薄くなり、遠心後の上清は無色になる。
医学生医学生
細胞の種類や糖、蛋白も合わせて見るんですよね。
ドクタードクター
そう。細菌性は多核球優位の細胞著増、蛋白著増、糖著減で、髄液糖と血糖の比が0.4未満が目安だ。結核性では単核球優位で糖低下、ADA上昇も手がかりになる。原因菌は成人で肺炎球菌が最多、新生児ではB群レンサ球菌や大腸菌が重要で、乳幼児に多かったHib髄膜炎はワクチンの普及で激減した。発熱、頭痛、意識障害に項部硬直などの髄膜刺激徴候が揃ったら、迷わず抗菌薬を急ぐ姿勢を身につけておこう。

まとめ

正常な髄液は無色透明であり、黄白色で不透明な膿性髄液は好中球や細菌、蛋白の著増を反映し、細菌性髄膜炎を強く示唆します。黄色でも透明なキサントクロミーは陳旧性出血を、ほぼ透明な髄液はウイルス性髄膜炎などを示すため、色と透明度を組み合わせて鑑別します。細菌性髄膜炎の治療の根幹は、髄液移行性のよい抗菌薬を高用量で速やかに経験的投与することであり、解熱鎮痛薬や脳圧降下薬は補助的な対症療法にとどまります。デキサメタゾンの併用は炎症を抑える補助療法で免疫抑制薬とは位置づけが異なり、抗悪性腫瘍薬は癌性髄膜炎で用いられます。髄液所見から病態を読み、治療開始の遅れを防ぐ判断力は、神経救急の現場で患者の予後を左右する重要な基礎となります。

解答・解説

正解はaです

写真の読み取り

注射器に採取された髄液は黄白色で、向こう側の目盛りが透けて見えないほど濁っている。正常な髄液は「水様透明(無色透明)」であり、このように不透明で膿のような外観を示す髄液を膿性髄液(混濁髄液)と呼ぶ。

何を考えるか

髄液の濁りは、主に多数の白血球(特に好中球)、細菌そのもの、増加した蛋白によって生じる。細胞数がおおむね数百/μL以上に増えると肉眼で混濁がわかるようになり、数千/μL以上の好中球が集まると本問のような膿性の外観となる。このような髄液を示す代表的な疾患が細菌性(化膿性)髄膜炎である。 一方、ウイルス性髄膜炎では細胞数の増加が軽度(リンパ球優位)で外観はほぼ透明であり、くも膜下出血では血性、出血から時間が経つと黄色透明(キサントクロミー)となる。本問の髄液は「黄色いが透明ではなく、濁っている」点が重要で、キサントクロミーとは区別される。

設問への考え方

細菌性髄膜炎は治療が遅れると死亡や重い後遺症(難聴、てんかん、知的障害など)につながる神経救急疾患である。治療の中心は原因菌を殺す抗菌薬であり、疑った時点で速やかに(血液培養・髄液採取後、できるだけ早く)経験的に投与を開始する。解熱薬や脳圧降下薬はあくまで補助的な対症療法であり、「使用すべき治療薬」として最も重要なのは抗菌薬である。

選択肢考察

  1. ○a.  抗菌薬

    膿性の混濁髄液から細菌性髄膜炎と判断でき、原因菌を排除する抗菌薬が治療の根幹となる。血液脳関門を通過して髄液中で十分な濃度が得られる薬剤を、殺菌的に働く高用量で静注する。原因菌が判明するまでは、年齢や基礎疾患から想定される菌をカバーするよう経験的に選択する(例: 成人では第三世代セフェム系〔セフトリアキソンなど〕にバンコマイシンを併用し、50歳以上や免疫不全ではリステリアを考えてアンピシリンを追加)。投与の遅れは予後を悪化させるため、画像検査や腰椎穿刺を待たずに開始することもある。

  2. ×b.  解熱鎮痛薬

    発熱や頭痛を和らげる目的で使われることはあるが、症状を抑えるだけの対症療法であり、感染そのものは治らない。細菌性髄膜炎で優先すべきは抗菌薬であり、本問で「使用すべき」薬として選ぶものではない。

  3. ×c.  免疫抑制薬

    免疫抑制薬は生体の感染防御を弱め、細菌感染を悪化させるおそれがあるため、細菌性髄膜炎の治療薬としては不適切である。なお、副腎皮質ステロイドのデキサメタゾンを抗菌薬の初回投与直前または同時に短期間併用することがある(特に肺炎球菌性髄膜炎で死亡率や難聴の減少が示されている)が、これは過剰な炎症反応を抑える補助療法であり、免疫抑制を目的とした治療ではない。

  4. ×d.  脳圧降下薬

    細菌性髄膜炎では脳浮腫による頭蓋内圧亢進を伴うことがあり、その場合にはマンニトールやグリセオールなどの浸透圧利尿薬を補助的に用いることがある。しかし原因への治療ではなく、必須の治療薬とはいえない。また、黄色の髄液からくも膜下出血後のキサントクロミーを連想するかもしれないが、キサントクロミーは黄色でも透明であり、本問のように混濁した髄液とは異なる。

  5. ×e.  抗悪性腫瘍薬

    抗悪性腫瘍薬は、腫瘍細胞が髄膜に播種した癌性髄膜炎(髄膜癌腫症)で用いられることがある(例: メトトレキサートの髄腔内投与)。癌性髄膜炎は胃癌、肺癌、乳癌、白血病・リンパ腫などから生じ、髄液細胞診で腫瘍細胞を確認して診断する。髄液は通常、本問のような膿性混濁を示さないため、本問には当てはまらない。

髄液の外観と考える病態

・無色透明(水様透明): 正常。ウイルス性髄膜炎でも多くは透明。 ・混濁〜膿性: 細菌性(化膿性)髄膜炎。好中球の著増、細菌、蛋白増加による。 ・日光微塵(光にかざすと細かい粒子が浮遊して見える): 軽度の細胞増加。結核性・真菌性髄膜炎など。 ・血性(赤色): くも膜下出血、脳出血の脳室穿破。穿刺時の針による出血(traumatic tap)との区別が必要で、traumatic tapでは採取を続けると徐々に色が薄くなり、遠心後の上清は無色である。 ・キサントクロミー(黄色透明): 出血後に時間が経過し、赤血球の分解産物(ビリルビンなど)が髄液に出た状態。くも膜下出血後の数日〜数週間、高度の黄疸、髄液蛋白の著明な増加(くも膜下腔の閉塞によるFroin症候群など)でもみられる。

髄膜炎の髄液所見の比較

・正常: 初圧 70〜180 mmH2O程度、細胞数 5/μL以下(単核球)、蛋白 15〜45 mg/dL、糖 50〜80 mg/dL(血糖の約60〜80%)。 ・細菌性: 初圧上昇、細胞数著増(多核球優位)、蛋白著増、糖著減(髄液/血糖比 0.4未満が目安)。 ・ウイルス性: 細胞数軽〜中等度増加(単核球優位)、蛋白正常〜軽度増加、糖正常。 ・結核性・真菌性: 細胞数中等度増加(単核球優位)、蛋白増加、糖低下。結核性ではADA(アデノシンデアミナーゼ)上昇、クロール低下。真菌(クリプトコッカス)では墨汁染色や抗原検査を行う。

細菌性髄膜炎の臨床

発熱、頭痛、意識障害、項部硬直・Kernig徴候・Brudzinski徴候などの髄膜刺激徴候が主な症状である。主な原因菌は、新生児ではB群レンサ球菌・大腸菌、乳幼児ではかつてインフルエンザ菌b型(Hib)と肺炎球菌が多かったが、ワクチンの普及によりHib髄膜炎は激減した。成人では肺炎球菌が最多で、高齢者や免疫不全者ではリステリアも考慮する。 治療は抗菌薬の速やかな経験的投与が最優先であり、デキサメタゾンの併用、頭蓋内圧亢進やけいれんへの対症療法を組み合わせる。

POINT

・正常髄液は無色透明。混濁・膿性の髄液は細菌性(化膿性)髄膜炎を示す。 ・細菌性髄膜炎の髄液: 多核球優位の細胞著増、蛋白増加、糖低下。 ・治療は抗菌薬の速やかな投与が最優先。解熱薬や脳圧降下薬は対症療法にすぎない。 ・黄色透明(キサントクロミー)は陳旧性出血などを示し、混濁した膿性髄液とは区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。