点滴開始直後に倒れた!―応援を待つ間の「最初の一手」は原因を断つこと
第106回医師国家試験 C問題 第25問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。右下腹部痛を主訴に来院し,急性虫垂炎の診断で入院となった。末梢静脈路を確保し,抗菌薬の点滴静注を開始したところ,気分不良を訴え意識を失った。直ちに応援の医師と看護師とを呼んだ。 応援が来るまでに,まず行うべき対応として適切なのはどれか。
- a.プロプラノロールの静脈内投与
- b.アトロピンの筋肉内投与
- c.腹部超音波検査
- d.点滴の中止
- e.気管挿管
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
抗菌薬の点滴開始直後に気分不良と意識消失をきたした場合は、まず薬剤によるアナフィラキシーショックを疑い、応援を待つ間に原因薬剤の点滴を直ちに中止します。このとき静脈路は抜かずに細胞外液へ切り替えて確保し、その後の急速輸液や薬剤投与に備えます。続いて呼吸・循環の評価、仰臥位で下肢挙上、酸素投与、アドレナリン筋注(成人0.01 mg/kg、最大0.5 mg、大腿前外側)へと進みます。β遮断薬はショックと気管支攣縮を悪化させ、アトロピンは病態を改善せず、検査や気管挿管は原因除去より優先されません。「原因が続いていればまず断つ」という急変対応の原則は、薬剤投与を日常的に行うすべての医療者にとって欠かせない基本です。
解答・解説
正解はdです
状況の整理
・50歳男性。急性虫垂炎で入院し、抗菌薬の点滴静注を開始した直後に、気分不良を訴えて意識を失った。 ・薬剤投与の開始と症状出現の時間的関係が極めて密接であり、まず抗菌薬によるアナフィラキシー(ショック)を疑う。
アナフィラキシーとは
アレルゲン(ここでは抗菌薬)への曝露後、短時間のうちに全身性のアレルギー反応が起こり、生命を脅かしうる状態である。多くはIgEを介したI型アレルギーで、肥満細胞や好塩基球からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、血管拡張と血管透過性亢進による血圧低下、気道浮腫、気管支攣縮などを生じる。血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックという。静脈内投与では発症が特に速く、重症化しやすい。
まず何をすべきか
急変時の対応では、原因が続いているならそれを最優先で断つ。本例では、原因と考えられる抗菌薬がいまも体内に流れ込み続けているため、応援を呼んだ後にその場ですぐ実行できる最初の行動は、点滴(抗菌薬)の投与中止である。 その際、確保してある静脈路は抜去せず、抗菌薬を含まない細胞外液(生理食塩液など)に交換して残しておく。この静脈路は、その後の急速輸液や薬剤投与に不可欠となるからである。 続いて、反応・呼吸・脈拍の確認(心停止なら心肺蘇生)、仰臥位で下肢挙上、酸素投与、そしてアナフィラキシーの第一選択薬であるアドレナリンの筋肉内注射へと進む。
選択肢考察
- ×a. プロプラノロールの静脈内投与
プロプラノロールは非選択的β遮断薬である。心拍数と心収縮力を低下させるため、ショックの血圧低下をさらに悪化させる。加えて、β2受容体遮断により気管支攣縮を助長し、第一選択薬であるアドレナリンの効果(β作用)も弱める。アナフィラキシーでは禁忌に近い不適切な薬剤である。なお、もともとβ遮断薬を服用している患者のアナフィラキシーはアドレナリンが効きにくく、その場合はグルカゴンの投与が考慮される。
- ×b. アトロピンの筋肉内投与
アトロピンは抗コリン薬で、症候性徐脈や有機リン中毒などに用いる。アナフィラキシーの基本治療薬ではなく、ショックの病態(血管拡張・血管透過性亢進による血圧低下、気道浮腫)を改善しない。アナフィラキシーで筋肉内注射すべき薬剤はアドレナリン(成人では0.01 mg/kg、最大0.5 mg を大腿前外側に筋注)である。また、筋注は薬剤投与の手段であり、原因薬剤の中止より先に行うべき対応ではない。
- ×c. 腹部超音波検査
意識消失という緊急事態の原因は、腹部病変ではなく投与直後の抗菌薬によるアナフィラキシーと考えられる。腹部超音波検査は虫垂炎の評価には有用だが、この場面で行うと原因薬剤の中止や蘇生処置を遅らせるだけである。全身状態が安定してから行うべき検査である。
- ○d. 点滴の中止
抗菌薬の点滴開始直後に意識を失っており、原因として抗菌薬によるアナフィラキシーが最も疑われる。原因薬剤が投与され続けている限り病態は悪化し続けるため、真っ先にその流入を止める必要がある。点滴の中止は特別な器具や人手がなくても直ちに一人で行える処置であり、応援を待つ間にまず行うべき対応として最も適切である。なお、静脈路そのものは抜かず、抗菌薬を含まない輸液に切り替えて確保しておく。
- ×e. 気管挿管
気管挿管は、喉頭浮腫などによる上気道閉塞や呼吸停止があり、気道確保が必要な場合に行う処置である。準備に器具と人手を要し、応援到着前に一人で最初に行う処置ではない。原因薬剤の投与中止と呼吸・循環の評価が先であり、挿管の適応はその評価結果によって判断する。ただしアナフィラキシーでは喉頭浮腫が急速に進行しうるため、気道の状態は注意深く観察し続ける。
アナフィラキシーの初期対応の流れ
1. 原因(アレルゲン)の除去:点滴中の薬剤であれば直ちに中止する。 2. 助けを呼ぶ(院内であれば応援要請、必要なら院内救急コール)。 3. 意識・呼吸・循環(ABC)を評価する。心停止であれば直ちに心肺蘇生を開始する。 4. アドレナリン筋注:0.1%アドレナリン(1 mg/mL)を0.01 mg/kg(成人最大0.5 mg、小児最大0.3 mg)、大腿前外側に筋注する。効果が不十分なら5~15分ごとに反復できる。 5. 体位:仰臥位で下肢を挙上する(呼吸困難が強ければ楽な姿勢に、嘔吐があれば回復体位に)。急に立たせたり座らせたりしない。 6. 高流量酸素投与、静脈路からの細胞外液の急速輸液。 7. 補助的治療:抗ヒスタミン薬(皮膚症状の改善)、β2刺激薬吸入(気管支攣縮)、副腎皮質ステロイド(遷延・二相性反応の予防を期待して用いられることがあるが、その効果の根拠は限定的)。 8. 症状が消失しても、数時間後に再燃する二相性反応がありうるため経過観察する。
アドレナリンが第一選択である理由
α1作用による血管収縮で血圧を上げ、粘膜浮腫を軽減する。β1作用で心収縮力を高め、β2作用で気管支を拡張し、肥満細胞からの化学伝達物質の放出も抑える。アナフィラキシーの主要な病態すべてに作用する唯一の薬剤である。
薬剤投与時の注意
抗菌薬などを初めて投与するときは、投与開始後しばらく患者のそばで状態を観察し、皮膚の紅潮・蕁麻疹、口唇や口腔内の違和感、しびれ感、気分不良、喘鳴、頻脈、血圧低下などの前駆症状に注意する。アナフィラキシーでは意識消失に至る前にこれらの症状が出現することが多い。
POINT
・薬剤の点滴中に急変したら、まずその薬剤の投与を中止する(静脈路は抜かずに細胞外液に切り替えて確保する)。 ・アナフィラキシーの第一選択薬はアドレナリン筋注(0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、大腿前外側)である。 ・β遮断薬はアナフィラキシーを悪化させ、アドレナリンを効きにくくする。β遮断薬服用者ではグルカゴンを考慮する。 ・気管挿管は上気道閉塞や呼吸停止など気道確保が必要な場合に行う。
