帯状疱疹のルーツを問え―「水痘にかかったことは?」が診断を支える
第106回医師国家試験 B問題 第56問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,55~57の問いに答えよ。 55歳の女性。背部の痛みを主訴に来院した。 現病歴:5日前から左の背部に痛みを自覚していた。痛みは,左の肩甲下角から側胸部にかけて皮膚表面がピリピリする感じであった。昨日鏡で患部を見たところ,皮膚病変が出現していたため受診した。 既往歴:51歳時に胃癌で手術を受けた。サバを食べた後,全身に蕁麻疹を生じたことがある。 生活歴:夫と長女との3人暮らし。ネコを6匹飼っている。 家族歴:長女がアトピー性皮膚炎である。 現症:身長152 cm,体重55 kg。体温37.0℃。脈拍72/分,整。血圧120/72 mmHg。呼吸数14/分。左の肩甲下角から側胸部にかけて皮膚病変を認める。背部の写真を別に示す。
診断と治療のために,患者に確認すべきことはどれか。

- a.喫煙歴
- b.水痘の既往
- c.東南アジアへの渡航歴
- d.野生動物との接触の有無
- e.長女のアトピー性皮膚炎の状況
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
帯状疱疹は、水痘として初感染した水痘・帯状疱疹ウイルスが知覚神経節に潜伏し、加齢や免疫低下を契機に再活性化して生じる疾患です。そのため水痘の既往(またはワクチン接種歴)を確認することは診断の前提を裏付け、抗ウイルス薬による治療へ進む根拠となりますが、成人では既往を覚えていないことも多く、不明なだけで否定はできません。喫煙歴、渡航歴、動物との接触、家族のアトピー性皮膚炎は、帯状疱疹の診断や治療方針を直接左右しない情報です。一方で、水疱には感染性があり、水痘未罹患の同居者、特に妊婦や免疫不全者には水痘として感染しうるため、感染対策の指導も重要です。疾患の病態から逆算して必要な問診を選ぶ姿勢は、医療面接全般の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理と診断
55歳女性。5日前から左の肩甲下角から側胸部にかけてピリピリとした表在性の痛みが先行し、その後同じ範囲に皮膚病変が出現した。病変は体の片側に限られ、胸神経の皮膚分節(デルマトーム)に沿って帯状に分布しており、写真では紅斑上に小水疱が集簇している。体温は37.0℃で全身状態は保たれている。 痛みを伴う急性の皮膚病変には、ウイルス感染症(帯状疱疹、単純ヘルペス)と細菌感染症(癤・癰、丹毒、蜂巣炎〈蜂窩織炎〉)があるが、細菌感染症は膿疱や広範な発赤・腫脹・熱感が主体であり、神経走行に沿った水疱の集簇は示さない。単純ヘルペスは口唇・陰部などの小範囲に限局することが多い。前駆痛、片側性・デルマトームに沿う分布、紅斑上の小水疱の集簇から、帯状疱疹と診断できる。
設問の考え方
帯状疱疹は、過去に水痘として初感染した水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が知覚神経節に潜伏し、それが再活性化して発症する疾患である。したがって「水痘にかかったことがあるか」は、この疾患が成り立つ前提条件を確かめる問診であり、診断の裏付けとなる。水痘の既往(または水痘ワクチンの接種歴)が確認できれば帯状疱疹として矛盾せず、そのまま抗ウイルス薬による治療方針へ進める。 一方、問題文には胃癌の手術歴、サバによる蕁麻疹、ネコの飼育、長女のアトピー性皮膚炎など多くの背景情報が並んでいるが、これらは帯状疱疹の診断や治療方針を直接左右するものではない。選択肢の中で本疾患の病態と結びつく情報を選ぶことが求められている。
選択肢考察
- ×a. 喫煙歴
喫煙は肺癌、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、動脈硬化性疾患などの重要な危険因子であり、一般的な問診項目ではある。しかし帯状疱疹の発症機序(VZVの再活性化)とは直接の関係がなく、喫煙歴の有無によって帯状疱疹の診断や抗ウイルス薬の選択・投与方針が変わることもない。本設問で確認すべき事項としては不適切である。
- ○b. 水痘の既往
帯状疱疹は、水痘として初感染したVZVが後根神経節などの知覚神経節に潜伏し、加齢や免疫低下を契機に再活性化して起こる。つまり帯状疱疹を発症するには、過去にVZVに感染していること(通常は水痘の既往、あるいは水痘生ワクチンの接種)が前提となる。水痘の既往を確認することは、臨床所見から考えた帯状疱疹という診断の妥当性を裏付け、抗ウイルス薬による治療へ進む根拠となる。なお、成人では幼少期の水痘を覚えていないことも多く、既往がはっきりしないだけで帯状疱疹を否定することはできない。その場合は血清VZV抗体や、水疱内容を用いたウイルス抗原・遺伝子検査で確認する。
- ×c. 東南アジアへの渡航歴
渡航歴は、デング熱、マラリア、腸チフスなどの輸入感染症を疑うときに重要な情報となる。しかし本例は無熱に近く、片側性・デルマトームに沿った小水疱の集簇という帯状疱疹に典型的な所見を示している。VZVは世界中に広く存在し、帯状疱疹は体内に潜伏していたウイルスの再活性化で生じるため、渡航による新たな感染は診断・治療に関係しない。
- ×d. 野生動物との接触の有無
野生動物との接触は、狂犬病、野兎病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、E型肝炎などの人獣共通感染症を疑う際に確認すべき事項である。また本例はネコを6匹飼っているが、ネコ関連の感染症(ネコひっかき病、パスツレラ症など)も今回の病像とは合わない。帯状疱疹はヒトの体内に潜伏したVZVの再活性化によるもので、動物との接触は関係しない。
- ×e. 長女のアトピー性皮膚炎の状況
アトピー性皮膚炎の患者では、単純ヘルペスウイルスが湿疹病変に広がるカポジ水痘様発疹症を起こすことがあるが、これは長女自身の問題であり、本患者の帯状疱疹の診断や治療を左右しない。家族のアトピー性皮膚炎の状況によって、患者への抗ウイルス薬の適応や選択が変わることはない。なお感染対策の観点で家族について確認するなら、重要なのは家族の皮膚疾患ではなく、水痘にかかったことがない(VZVに免疫のない)同居者、特に妊婦や免疫不全者がいるかどうかである。
水痘と帯状疱疹の関係
・同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV、ヒトヘルペスウイルス3型)による疾患である。 ・初感染: 水痘。主に小児期に空気感染・飛沫感染・接触感染で感染し、全身に紅斑・丘疹・水疱・痂皮が混在する発疹を生じる。 ・潜伏: 治癒後、ウイルスは知覚神経節(後根神経節、三叉神経節など)に生涯潜伏する。 ・再活性化: 加齢、悪性腫瘍、化学療法、免疫抑制薬、HIV感染、ストレスなどで細胞性免疫が低下すると再活性化し、神経支配領域の皮膚に帯状疱疹として現れる。50歳以上で発症率が高まる。
感染性について
帯状疱疹の水疱内容には感染性のウイルスが含まれ、水痘に免疫をもたない人に感染すると、その人には帯状疱疹ではなく水痘が生じる。限局性の帯状疱疹は主に接触感染だが、汎発性帯状疱疹や免疫不全者では空気感染対策も必要となる。水疱が痂皮化するまでは、水痘未罹患の小児・妊婦・免疫不全者との接触を避けるよう指導する。
本症例の背景情報の意味
・胃癌の手術歴: 悪性腫瘍は細胞性免疫低下の要因となりうる。帯状疱疹の発症を契機に、悪性腫瘍や免疫不全の有無に配慮することはあるが、本症の直接的な診断・治療方針を決める情報ではない。 ・サバ摂取後の蕁麻疹、ネコの飼育、長女のアトピー性皮膚炎: 帯状疱疹とは関係のない情報(誤りの選択肢に誘導するための記載)と考えられる。
予防
50歳以上では帯状疱疹の予防ワクチンとして、乾燥弱毒生水痘ワクチンと、不活化の組換えワクチン(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン)が使用できる。免疫不全者には生ワクチンは禁忌であり、組換えワクチンを用いる。
POINT
・帯状疱疹は水痘として初感染したVZVが知覚神経節に潜伏し、再活性化して起こる。 ・そのため帯状疱疹を発症する前提として、水痘の既往(またはワクチン接種歴)がある。 ・帯状疱疹患者から水痘未罹患者へ感染すると、水痘として発症する。 ・喫煙歴、渡航歴、動物接触歴、家族のアトピー性皮膚炎は帯状疱疹の診断・治療に直結しない。
