「指導」か「受診」か―特定健診の2段階判定値で見抜く受診勧奨の根拠
第106回医師国家試験 B問題 第42問
国試問題にチャレンジ
51歳の男性。特定健康診査の結果,薬物治療の要否について医師の判断を求める必要があると判定された。特定健康診査の結果を示す。 身長168cm,体重70kg,腹囲88cm。血圧156/82mmHg。血液生化学所見:空腹時血糖102mg/dl, トリグリセリド152mg/dl,HDLコレステロール45mg/dl,LDLコレステロール124mg/dl(基準65~139)。 医療機関受診を勧奨する根拠となった項目はどれか。
- a.血圧
- b.空腹時血糖
- c.トリグリセリド
- d.総コレステロール
- e.HDLコレステロール
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
特定健康診査の各項目には、生活習慣改善の指導対象となる「保健指導判定値」と、医療機関での精査や薬物治療の要否判断が必要となる「受診勧奨判定値」の2段階があります。受診勧奨判定値の目安は血圧140/90mmHg以上、空腹時血糖126mg/dl以上、トリグリセリド300mg/dl以上、LDLコレステロール140mg/dl以上などで、本例で該当するのは収縮期血圧156mmHgのみです。空腹時血糖・トリグリセリド・LDLコレステロールは保健指導判定値の範囲にとどまり、総コレステロールは現行の判定項目ではありません。本例は腹囲と血圧・トリグリセリドからメタボリックシンドロームにも該当しますが、これは保健指導の根拠であり、受診勧奨の根拠とは区別して理解することが重要です。健診結果を2段階の基準で読み分ける力は、公衆衛生の試験対策だけでなく、健診後の患者を適切に医療や保健指導へつなぐ臨床の場でも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
問題の構造
特定健康診査(いわゆるメタボ健診)の結果票を読み、どの項目が「受診勧奨判定値」を超えたために医療機関受診を勧められたのかを判断する問題である。特定健診では各検査項目に2段階の基準が設けられている。 ・保健指導判定値:この値を超えると生活習慣の改善指導(特定保健指導)の対象となりうる。 ・受診勧奨判定値:この値を超えると、生活習慣改善だけでなく医師による精査・薬物治療の要否判断が必要と考えられ、医療機関の受診が勧められる。 設問文の「薬物治療の要否について医師の判断を求める必要がある」とは、受診勧奨判定値を超えた項目があるという意味である。
所見の整理
各値を二つの判定値と照らし合わせると次のようになる。 ・血圧 156/82mmHg:収縮期が受診勧奨判定値(140mmHg以上)を超える。拡張期は保健指導判定値(85mmHg)未満。 ・空腹時血糖 102mg/dl:保健指導判定値(100mg/dl以上)は超えるが、受診勧奨判定値(126mg/dl以上)には達しない。 ・トリグリセリド(中性脂肪)152mg/dl:保健指導判定値(150mg/dl以上)は超えるが、受診勧奨判定値(300mg/dl以上)には遠く及ばない。 ・HDLコレステロール 45mg/dl:保健指導判定値(40mg/dl未満)にも該当せず正常。 ・LDLコレステロール 124mg/dl:保健指導判定値(120mg/dl以上)は超えるが、受診勧奨判定値(140mg/dl以上)には達しない。 ・BMI(体格指数)は70÷1.68²≒24.8で25未満だが、腹囲88cmは男性の基準(85cm以上)を超えており、内臓脂肪蓄積が疑われる。
考え方
以上より、受診勧奨判定値を超えているのは収縮期血圧のみである。他の項目は「生活習慣の改善で対応すべき段階」にとどまり、薬物治療の要否を医師に判断してもらう根拠にはならない。なお本例は腹囲88cmに加え、収縮期血圧130mmHg以上、トリグリセリド150mg/dl以上の2項目を満たすため、わが国のメタボリックシンドロームの診断基準にも該当する。メタボリックシンドロームであること自体は保健指導(積極的支援)の根拠であり、受診勧奨の直接の根拠は血圧である点を区別して理解する。
選択肢考察
- ○a. 血圧
収縮期血圧156mmHgは特定健診の受診勧奨判定値である140mmHg以上に該当する。日本高血圧学会の分類でも収縮期140〜159mmHgはⅠ度高血圧の範囲であり(拡張期が90mmHg未満のため、いわゆる孤立性収縮期高血圧の形をとる)、医療機関で血圧を再評価し、生活習慣の修正で下がらなければ降圧薬の適応を判断すべき段階である。受診勧奨の根拠となる唯一の項目である。
- ×b. 空腹時血糖
102mg/dlは保健指導判定値(100mg/dl以上)を上回るため生活習慣改善の対象とはなるが、受診勧奨判定値(126mg/dl以上、これは糖尿病型の基準値と同じ)には達していない。空腹時血糖の正常域は110mg/dl未満とされ、メタボリックシンドロームの血糖基準(110mg/dl以上)も満たさない。薬物治療を検討する根拠にはならない。
- ×c. トリグリセリド
152mg/dlは保健指導判定値およびメタボリックシンドロームの脂質基準(150mg/dl以上)をわずかに超えるが、受診勧奨判定値は300mg/dl以上であり大きく下回る。軽度の高トリグリセリド血症は、まず食事(糖質・アルコール・脂質の過剰摂取の是正)や運動による改善を図る対象であり、受診勧奨の根拠ではない。
- ×d. 総コレステロール
総コレステロールは本問では測定値が示されていない。Friedewaldの式(LDL-C=総コレステロール-HDL-C-トリグリセリド÷5)を変形して推定すると、124+45+152÷5≒199mg/dlで高値ではない。また現行の特定健診では脂質の判定にLDLコレステロール(またはnon-HDLコレステロール)、HDLコレステロール、トリグリセリドを用いており、総コレステロールそのものは判定項目ではない。メタボリックシンドロームの診断基準にも含まれない。
- ×e. HDLコレステロール
45mg/dlは保健指導判定値(40mg/dl未満)にも該当せず正常範囲である。HDLコレステロールは低いほど動脈硬化のリスクとなる項目であり、本例では問題とならない。受診勧奨の根拠にはならない。
特定健康診査・特定保健指導の概要
・高齢者の医療の確保に関する法律に基づき、2008年度から医療保険者(健康保険組合、市町村国保など)に実施が義務づけられた。対象は40〜74歳の被保険者・被扶養者である。 ・内臓脂肪型肥満に着目した健診であり、腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)またはBMI25以上を出発点として、血糖・脂質・血圧・喫煙歴の追加リスクの数により「動機付け支援」「積極的支援」に階層化して保健指導を行う。すでに服薬中の者は特定保健指導の対象外となる。 ・保健指導の階層化と受診勧奨の判定は別々に行われ、一人が両方に該当することもある。本例も腹囲基準を満たし、血糖(空腹時100mg/dl以上)、脂質(トリグリセリド150mg/dl以上)、血圧(130mmHg以上)の3リスクを有するため、階層化では積極的支援に相当し、同時に血圧が受診勧奨判定値を超えている。
主な判定値(目安)
・血圧:保健指導判定値 収縮期130以上または拡張期85以上/受診勧奨判定値 140以上または90以上(mmHg) ・空腹時血糖:100以上/126以上(mg/dl) ・HbA1c(NGSP値):5.6以上/6.5以上(%) ・トリグリセリド(空腹時):150以上/300以上(mg/dl) ・HDLコレステロール:40未満/35未満(mg/dl) ・LDLコレステロール:120以上/140以上(mg/dl)
わが国のメタボリックシンドローム診断基準(2005年)
必須項目:腹囲 男性85cm以上、女性90cm以上(内臓脂肪面積100cm²以上に相当) 上記に加え、以下のうち2項目以上 ・脂質:トリグリセリド150mg/dl以上 かつ/または HDLコレステロール40mg/dl未満 ・血圧:収縮期130mmHg以上 かつ/または 拡張期85mmHg以上 ・血糖:空腹時血糖110mg/dl以上
血圧の分類(日本高血圧学会 JSH2019、診察室血圧)
・正常血圧 120/80未満、正常高値 120〜129/80未満、高値血圧 130〜139/80〜89 ・Ⅰ度高血圧 140〜159/90〜99、Ⅱ度 160〜179/100〜109、Ⅲ度 180以上/110以上 ・収縮期140以上かつ拡張期90未満は(孤立性)収縮期高血圧とよぶ。
POINT
・特定健診には「保健指導判定値」と「受診勧奨判定値」の2段階がある。医療機関受診を勧めるのは受診勧奨判定値を超えた場合である。 ・受診勧奨判定値の目安:血圧140/90mmHg以上、空腹時血糖126mg/dl以上、HbA1c 6.5%以上、トリグリセリド300mg/dl以上、HDL-C 35mg/dl未満、LDL-C 140mg/dl以上。 ・本例で受診勧奨判定値を超えているのは収縮期血圧156mmHgのみ。血糖・トリグリセリド・LDL-Cは保健指導判定値の範囲にとどまる。 ・メタボリックシンドロームの該当は保健指導の根拠であり、受診勧奨の根拠とは区別する。 ・総コレステロールは現行の特定健診・メタボリックシンドロームの判定項目ではない。
