胃でつかまり回腸で入る―ビタミンB12の「旅路」をたどれば巨赤芽球性貧血が見えてくる
第106回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
ビタミンB12の代謝について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.ヒトの体内で合成される。
- b.内因子と結合して吸収される。
- c.回腸末端部で吸収される。
- d.トランスフェリンと結合して細胞に輸送される。
- e.RNA合成に利用される。
対話形式の解説
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医学生まとめ
ビタミンB12はヒトの体内では合成されず、動物性食品から摂取されます。胃でハプトコリンと結合した後、十二指腸で胃壁細胞由来の内因子と結合し、その複合体が回腸末端部の受容体から吸収され、血中ではトランスコバラミン(主にII)によって細胞へ運ばれます(鉄を運ぶトランスフェリンとは別物です)。細胞内では葉酸の再生を通じてチミジル酸、すなわちDNA合成を支えるため、欠乏すると核の成熟が遅れて巨赤芽球性貧血となり、メチルマロニルCoA代謝の障害も関わって亜急性連合性脊髄変性症などの神経障害を起こします。原因として悪性貧血、胃全摘後、回腸末端の病変や切除、厳格な菜食主義を押さえ、葉酸単独投与の危険性や筋注による補充といった臨床上の注意にもつなげることが大切です。摂取から利用までの流れを理解しておくと、欠乏症の原因検索から治療選択まで一貫して考えられるようになります。
解答・解説
正解はb, cです
ビタミンB12(コバラミン)は、コバルトを含む水溶性ビタミンである。この問題を解くには、ビタミンB12が摂取されてから細胞で使われるまでの流れを順に追えるかどうかが問われている。
供給源
ビタミンB12を合成できるのは一部の細菌などの微生物だけで、ヒトは合成できない。ヒトは、微生物がつくったビタミンB12を蓄えた動物性食品(肉・レバー・魚介類・卵・乳製品)から摂取する。
吸収までの流れ
(1) 胃:食品中のビタミンB12はたんぱく質と結合している。胃酸とペプシンの働きでたんぱく質から離れると、唾液などに含まれるハプトコリン(R結合たんぱく)と結合する。 (2) 十二指腸:膵液のたんぱく分解酵素がハプトコリンを分解する。遊離したビタミンB12は、胃底腺の壁細胞から分泌された内因子(intrinsic factor:IF)と結合する。 (3) 回腸末端部:内因子-ビタミンB12複合体は、回腸末端部の上皮細胞にある受容体(キュビリンを含む受容体複合体)に取り込まれて吸収される。
輸送と利用
吸収されたビタミンB12は、血液中で主にトランスコバラミン(特にトランスコバラミンII)と結合して各組織の細胞へ運ばれ、受容体を介して取り込まれる。体内の貯蔵量は主に肝臓に数mgあり、1日の必要量(数μg)に比べて非常に多い。そのため吸収が止まっても、欠乏症が現れるまでに数年かかる。 細胞内では、ビタミンB12は次の2つの酵素の補酵素として働く。 ・メチオニン合成酵素(メチルコバラミン):ホモシステインをメチオニンにする反応で、5-メチルテトラヒドロ葉酸からメチル基を受け取る。この反応で活性型の葉酸(テトラヒドロ葉酸)が再生され、それがチミジル酸などの核酸塩基の合成に使われて、DNA合成が進む。 ・メチルマロニルCoAムターゼ(アデノシルコバラミン):メチルマロニルCoAをスクシニルCoAにする反応を担う。 したがって、ビタミンB12について正しいのは「内因子と結合して吸収される」ことと「回腸末端部で吸収される」ことである。
選択肢考察
- ×a. ヒトの体内で合成される。
誤り。ビタミンB12を合成できるのは一部の細菌などの微生物だけで、ヒトを含む動物や植物は合成できない。大腸の腸内細菌はビタミンB12をつくるが、吸収の場である回腸末端部より下流でつくられるため、ほとんど吸収されない。そのためヒトは食品からの摂取に頼るしかない。ビタミンB12は動物性食品に多く、植物性食品にはほとんど含まれない。卵や乳製品もとらない厳格な菜食主義者(ヴィーガン)では、欠乏症が起こりうる。
- ○b. 内因子と結合して吸収される。
正しい。内因子は、胃底腺の壁細胞が分泌する糖たんぱくである(壁細胞は胃酸も分泌する)。ビタミンB12は十二指腸で内因子と結合し、この複合体として回腸末端部で吸収される。内因子がなければ、生理的な摂取量のビタミンB12はほとんど吸収されない。胃全摘後、萎縮性胃炎、悪性貧血ではビタミンB12欠乏になる。悪性貧血では、壁細胞や内因子に対する自己抗体によって内因子が不足する。
- ○c. 回腸末端部で吸収される。
正しい。内因子-ビタミンB12複合体は、回腸末端部の上皮細胞にある受容体(キュビリンを含む受容体複合体)に結合して取り込まれる。回腸末端部は抱合型胆汁酸の再吸収の場でもある。回腸末端部を切除したときやクローン病などの病変があるときは、ビタミンB12欠乏と胆汁酸の吸収障害が同時に起こりうる。ほかに、盲管症候群(細菌が異常に増殖してビタミンB12を消費する)や広節裂頭条虫の感染でも、ビタミンB12の吸収が妨げられる。
- ×d. トランスフェリンと結合して細胞に輸送される。
誤り。トランスフェリンは、血液中で鉄(3価鉄)を運ぶたんぱくである。トランスフェリンと結合した鉄は、細胞表面のトランスフェリン受容体を介して、赤芽球などの細胞に取り込まれる。血液中でビタミンB12を運ぶのはトランスコバラミンである。細胞への供給を担うのは主にトランスコバラミンIIで、トランスコバラミンIIと結合したビタミンB12は、受容体を介して細胞に取り込まれる。名称が似ているので混同しないようにする。
- ×e. RNA合成に利用される。
誤り。ビタミンB12はメチオニン合成酵素の補酵素として葉酸の再生に関わる。これにより、DNAに特有の塩基であるチミン(チミジル酸)の合成を支え、DNA合成に関与する。RNAはチミンの代わりにウラシルを使うので、この経路に依存しない。そのためビタミンB12が欠乏すると、DNA合成は遅れるがRNAやたんぱく質の合成は比較的保たれる。その結果、細胞質の成熟に比べて核の成熟が遅れ(核と細胞質の成熟の解離)、大型の巨赤芽球が生じる。これが巨赤芽球性貧血の成り立ちである。
ビタミンB12欠乏症の原因
・摂取不足:厳格な菜食主義 ・内因子の不足:悪性貧血(自己免疫性萎縮性胃炎)、胃全摘後、胃切除後 ・回腸での吸収障害:回腸末端部の切除、クローン病 ・腸管内での消費:盲管症候群(腸内細菌の異常増殖)、広節裂頭条虫症 ・薬剤:メトホルミン、プロトンポンプ阻害薬の長期使用など
ビタミンB12欠乏による症状
・巨赤芽球性貧血:大球性貧血(MCVの上昇)、好中球の過分葉、汎血球減少。骨髄の中で細胞が壊れる無効造血が起こるため、間接ビリルビンとLD(乳酸脱水素酵素)が上昇する。 ・消化器症状:ハンター舌炎(舌の萎縮と疼痛) ・神経症状:亜急性連合性脊髄変性症(後索と側索の障害による深部感覚の障害と痙性麻痺)、末梢神経障害、認知機能の低下。メチルマロニルCoAが蓄積して髄鞘の形成が妨げられることなどが関係すると考えられている。 ・検査:血清ビタミンB12の低下、血中ホモシステインとメチルマロン酸の上昇。悪性貧血では抗内因子抗体、抗壁細胞抗体が陽性になる。
葉酸欠乏との違い
葉酸欠乏でも巨赤芽球性貧血が起こり、ホモシステインは上昇する。しかしメチルマロン酸は上昇せず、亜急性連合性脊髄変性症のような神経症状も通常は起こらない。ビタミンB12欠乏の患者に葉酸だけを投与すると、貧血は改善しても神経障害が進むおそれがあるので注意する。
治療
内因子の不足や吸収障害が原因の場合は、ビタミンB12を筋肉注射で投与するのが基本である。胃全摘後は、術後数年たってから欠乏症が現れることが多い。これは肝臓の貯蔵が使い果たされるまでに時間がかかるためである。
POINT
・ビタミンB12はヒトの体内では合成されず、動物性食品から摂取する。 ・胃の壁細胞が分泌する内因子と結合し、回腸末端部で吸収される。 ・血液中ではトランスコバラミン(特にトランスコバラミンII)が運ぶ(鉄を運ぶのはトランスフェリン)。 ・葉酸の再生を通じてDNA合成に関わる。欠乏すると巨赤芽球性貧血と神経障害(亜急性連合性脊髄変性症)を起こす。 ・原因として悪性貧血、胃全摘後、回腸末端部の切除・クローン病、厳格な菜食主義を押さえる。
