肘窩と手首の真ん中を狙え―正中神経伝導検査の「刺激ポイント」を解剖から読み解く
第106回医師国家試験 B問題 第35問
国試問題にチャレンジ
左前腕の写真を別に示す。 正中神経の運動神経伝導検査を行う際,電気刺激部位として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
運動神経伝導検査では、神経を遠位と近位の2点で刺激して支配筋からCMAPを記録し、2点間の距離を潜時の差で割って伝導速度を求めます。正中神経の刺激部位は、肘窩の中央(上腕二頭筋腱・上腕動脈の内側)と手関節掌側の中央(長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間)で、記録は母指球の短母指外転筋から行います。肘の内側上顆付近や手関節の尺側は尺骨神経の刺激部位、母指球は記録部位であって刺激部位ではない点を区別することが大切です。手根管症候群では終末潜時の延長がみられ、伝導速度の低下は脱髄、振幅低下は軸索障害を示唆します。写真の向きを母指から判断し、神経の走行と検査の原理を結びつけて考える力は、電気生理検査の結果を臨床に生かす土台になります。
解答・解説
正解はa, cです
運動神経伝導検査の原理
運動神経伝導検査(motor nerve conduction study:MCS)では、運動神経を皮膚の上から電気で刺激する。すると神経が支配する筋から複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)が生じるので、これを筋の上に置いた表面電極で記録する。同じ神経を遠位と近位の2か所で刺激し、CMAPが出るまでの時間(潜時)の差と、2つの刺激点の間の距離から運動神経伝導速度(MCV)を求める。 MCV(m/s)= 2つの刺激点の間の距離(mm)÷(近位刺激の潜時 − 遠位刺激の潜時)(ms) 遠位刺激の潜時には神経筋接合部での伝達や筋線維の興奮にかかる時間も含まれる。2点の潜時の差をとるとこれらの時間が打ち消されるので、神経の中を伝わる速さだけを求められる。この原理から、刺激部位は「その神経が皮膚の近くを通る場所」を神経の走行に沿って2か所以上選ぶことになる。
写真の読み方
写真は左前腕を手掌が上を向くように(回外位で)示している。母指が写真の上側にあるので、写真の上側が橈側(外側)、下側が尺側(内側)である。 ・①:肘窩のほぼ中央。上腕二頭筋腱の内側にあたる。 ・②:肘の尺側(内側上顆の付近)。 ・③:手関節掌側のほぼ中央。 ・④:手関節掌側の尺側寄り。 ・⑤:母指の付け根の橈側。
正中神経の走行と刺激部位
正中神経は上腕では上腕動脈に沿って内側二頭筋溝を下り、肘窩で上腕動脈の内側、上腕二頭筋腱の内側を通る。そこから円回内筋の2頭の間を抜けて前腕の中央を下り、手関節では長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間を通って手根管に入り、手掌に至る。したがって正中神経を皮膚の上から刺激しやすいのは、肘窩の中央(①)と手関節掌側の中央(③)である。記録電極は、正中神経が支配する母指球筋(短母指外転筋)の上に置くのが標準的な方法である。
選択肢考察
- ○a. ①
正しい。①は肘窩の中央で、上腕二頭筋腱と上腕動脈の内側にあたる。正中神経はここで比較的浅いところを通るので、近位側の刺激部位として標準的に使われる。①と③の2点で刺激し、潜時の差と2点の間の距離から前腕部の正中神経の運動神経伝導速度を求める。
- ×b. ②
誤り。②は肘の尺側、内側上顆の付近にあたる。ここは尺骨神経が内側上顆の後方にある尺骨神経溝(肘部管)を通る部位に近く、尺骨神経の伝導検査で近位側の刺激部位に使われる。正中神経はここより橈側の肘窩の中央を通るので、正中神経の刺激部位としては適切でない。
- ○c. ③
正しい。③は手関節掌側のほぼ中央で、長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間にあたる。正中神経はここを通って手根管に入る。遠位側の刺激部位として標準的に使われ、通常は母指球筋(短母指外転筋)の記録電極から一定の距離(約7~8cm)離れた点で刺激する。この遠位刺激で得られる潜時を終末潜時(遠位潜時)という。手根管症候群では、手根管を越える区間で伝導が遅れるため、終末潜時の延長がみられる。
- ×d. ④
誤り。④は手関節掌側の尺側寄りで、尺側手根屈筋腱の橈側にあたる。ここは尺骨神経が尺骨動脈とともに通る部位で、尺骨神経の伝導検査で遠位側の刺激部位に使われる(記録は小指外転筋から行う)。正中神経の刺激部位ではない。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は母指の付け根の橈側で、橈骨神経浅枝(感覚枝)が通る領域にあたる。橈骨神経浅枝は、感覚神経伝導検査で刺激や記録に使われることがある。正中神経の運動神経伝導検査では母指球筋(短母指外転筋)の上に記録電極を置くが、そこは記録部位であって刺激部位ではない。いずれにしても、⑤は正中神経を刺激する部位としては適切でない。
上肢の主な神経の標準的な刺激部位と記録部位(運動神経伝導検査)
・正中神経:刺激は手関節(長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間)と肘窩(上腕動脈の内側)。必要に応じて腋窩でも刺激する。記録は短母指外転筋(母指球)。 ・尺骨神経:刺激は手関節(尺側手根屈筋腱の橈側)、肘の下と肘の上(尺骨神経溝をはさむ2点)。記録は小指外転筋(小指球)。 ・橈骨神経:刺激は前腕の伸側、肘の外側(上腕二頭筋と腕橈骨筋の間)、上腕の外側(橈骨神経溝)。記録は示指伸筋など。
神経伝導検査で分かること
・伝導速度の低下や潜時の延長:主に髄鞘の障害(脱髄)を示す。例:ギラン・バレー症候群の脱髄型、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)、シャルコー・マリー・トゥース病1型。 ・CMAP振幅の低下:主に軸索の障害(軸索変性)を示す。例:多くの糖尿病性ニューロパチー、アルコール性ニューロパチー。 ・伝導ブロック:近位で刺激したときのCMAP振幅が遠位で刺激したときより明らかに小さくなる現象で、限局した脱髄を示す。 ・上肢の運動神経伝導速度の正常値はおおむね50m/s以上である(施設によって基準値は異なる)。
手根管症候群
手根管で正中神経が圧迫される絞扼性神経障害で、中年女性、妊娠、透析患者、甲状腺機能低下症、関節リウマチなどに多い。母指から環指の橈側半分のしびれがあり、進行すると母指球筋が萎縮する。検査では、正中神経の運動神経の終末潜時の延長と、手首をまたぐ区間での感覚神経伝導速度の低下がみられる。前腕部(①と③の間)の伝導速度は保たれることが多い。
感覚神経伝導検査
感覚神経を刺激し、神経そのものの活動電位(感覚神経活動電位:SNAP)を記録する検査である。正中神経では、指に巻いたリング電極と手関節の間で刺激と記録を行う。
POINT
・運動神経伝導検査:神経を遠位と近位の2点で刺激し、支配筋からCMAPを記録する。MCV=2点の間の距離÷潜時の差。 ・正中神経の刺激部位は、手関節掌側の中央(長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間)と肘窩(上腕動脈の内側)。記録部位は短母指外転筋。 ・尺骨神経の刺激部位は、手関節の尺側と肘の内側(尺骨神経溝の付近)。記録部位は小指外転筋。 ・写真の向き(どちらが橈側・尺側か)を母指の位置から判断する。
