StudyMed医師国家試験

水疱を破って細胞を見る―Tzanck試験と皮膚科の「何を見る検査か」整理術

第106回医師国家試験 B問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第33問

水疱内容の検索に有用なのはどれか。

  1. a.硝子圧法
  2. b.Tzanck試験
  3. c.ダーモスコピー試験
  4. d.サーモグラフィー検査
  5. e.苛性カリ〈KOH〉直接鏡検法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚科の外来検査がテーマだ。選択肢に並んだ検査はどれも皮膚科でよく使うものだけど、それぞれ「何を調べるための検査か」がはっきり分かれている。その目的を一つずつ整理できれば、水疱の中身を調べる検査は自然に浮かび上がるよ。
医学生医学生
水疱の中身というと、液体を吸って培養に出すイメージが浮かびました。
ドクタードクター
培養やPCRも確かに使うけれど、外来ですぐにできる古典的な方法がある。水疱の蓋を破って、水疱底のびらん面を擦り取り、スライドガラスに塗ってGiemsa染色などで顕微鏡で見る。これがTzanck試験だ。
医学生医学生
臨床実習の皮膚科で、帯状疱疹の患者さんの水疱から先生が検体を取っていたのを見ました。あれがTzanck試験だったんですね。
ドクタードクター
そう、まさにそれ。ヘルペスウイルス、つまり単純ヘルペスウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスに感染した細胞は互いに融合して、核をいくつも持つ大きな細胞になる。これを多核巨細胞、ウイルス性巨細胞と呼ぶんだ。
医学生医学生
天疱瘡でも使うと講義で聞いた気がします。ウイルスとは全然違う病気なのに不思議です。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。天疱瘡ではデスモグレインに対する自己抗体で表皮細胞同士の接着がはがれる。これを棘融解といって、ばらばらになって丸くなった棘融解細胞、いわゆるTzanck細胞が見えるんだ。原因は違っても、水疱底の細胞の形に特徴が出るという点で共通している。
医学生医学生
では、ほかの選択肢はなぜ違うのでしょう。硝子圧法も皮疹を直接調べる方法ですよね。
ドクタードクター
硝子圧法はガラス板で皮疹を押して色の変化を見る方法で、紅斑と紫斑の区別に使う。紅斑は血管の拡張だから押すと血液が逃げて色が消える。紫斑は血管の外に出た赤血球だから押しても消えない。中身を調べる検査ではないね。
医学生医学生
OSCEの練習で、押して消える赤みかどうかを確認する手技を習いました。ダーモスコピーはほくろを見る道具ですよね。
ドクタードクター
その理解でいい。皮膚表面の乱反射を抑えて拡大し、色素の分布や血管構造を観察する。悪性黒色腫と色素細胞母斑の鑑別、基底細胞癌や脂漏性角化症の診断に役立つ非侵襲的な検査だ。サーモグラフィーは赤外線で皮膚温を画像化するもので、Raynaud現象のような末梢循環障害の評価などに使う。
医学生医学生
KOH法は少し迷いました。足白癬で小さな水疱ができるタイプがあると習ったので。
ドクタードクター
鋭いね。実際、小水疱型の足白癬では水疱蓋を検体にすることもある。ただKOH法の目的は、水酸化カリウムで角質を溶かして真菌の菌糸や胞子を探すこと。見ているのは真菌であって、水疱内容の細胞を調べているわけではないんだ。
医学生医学生
つまり、水疱の原因を細胞の形から推定するのがTzanck試験、ということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として押さえておきたいのは、Tzanck試験の限界だ。多核巨細胞が見えてもヘルペスウイルス感染とは言えるけれど、単純疱疹か帯状疱疹・水痘かは区別できない。そこで蛍光抗体法でのウイルス抗原検出、迅速抗原検査、PCRなどを追加する。
医学生医学生
天疱瘡の場合も、Tzanck試験だけで確定はしないんですよね。
ドクタードクター
そう。確定には皮膚生検で表皮内水疱を確認し、蛍光抗体直接法で表皮細胞間へのIgG沈着を見て、血清の抗デスモグレイン抗体も測る。一方、水疱性類天疱瘡は表皮下水疱なので棘融解細胞は出てこない。水疱の深さの違いが所見の違いにつながるわけだ。
医学生医学生
病理実習で、表皮内水疱と表皮下水疱を見比べたのを思い出しました。
ドクタードクター
その知識がそのまま臨床で生きる。Tzanck試験は数分から十数分で結果が出るから、目の前の水疱の原因を素早く絞り込みたいときにとても便利なんだ。あわせて、パッチテストはIV型アレルギー、プリックテストはI型アレルギー、Nikolsky現象は天疱瘡などで見られる表皮剝離、というように、皮膚科の検査は目的とセットで覚えておこう。

まとめ

水疱内容の検索にはTzanck試験を用い、水疱底を擦過した細胞をGiemsa染色などで観察します。ヘルペスウイルス感染症では多核巨細胞(ウイルス性巨細胞)、天疱瘡では棘融解細胞がみられ、迅速に水疱の原因を推定できますが、ウイルスの種類の区別や天疱瘡の確定には抗原検査・PCRや皮膚生検・蛍光抗体法などの追加検査が必要です。硝子圧法は紅斑と紫斑の区別、ダーモスコピーは色素性病変の拡大観察、サーモグラフィーは皮膚温の評価、KOH直接鏡検法は真菌の検出と、それぞれ目的が異なります。皮膚科の外来検査を「何を見る検査か」で整理しておくと、実際の診療で適切な検査を素早く選べるようになります。

解答・解説

正解はbです

本問は、皮膚科外来で行われる代表的な検査の目的と対象を問うている。水疱をつくる疾患には、ウイルス感染症(単純疱疹、帯状疱疹、水痘)、自己免疫性水疱症(天疱瘡、類天疱瘡)、細菌感染症(伝染性膿痂疹)などがあり、水疱の中身や水疱底の細胞を調べることで原因の手がかりが得られる。 選択肢の検査を「何を見る検査か」で整理すると、硝子圧法は紅斑と紫斑の区別、ダーモスコピーは色素性病変などの拡大観察、サーモグラフィーは皮膚温の測定、KOH直接鏡検法は真菌の検出であり、いずれも水疱の内容を調べる検査ではない。水疱を破って水疱底の細胞を採取し、染色して観察するTzanck試験だけが、水疱内容の検索に用いられる。Tzanck試験では、ヘルペスウイルス感染症であればウイルス性巨細胞(多核巨細胞)が、天疱瘡であれば棘融解細胞がみられ、数分〜十数分程度で結果が得られる簡便で迅速な検査である。

選択肢考察

  1. ×a.  硝子圧法

    硝子圧法は、ガラス板(スライドガラスなど)で皮疹を押さえて色調の変化をみる方法で、紅斑と紫斑の区別に用いる。紅斑は真皮の血管拡張・充血によるため、圧迫で血液が押し出されて色が消える。紫斑は血管外に漏れ出た赤血球(出血)によるため、圧迫しても消えない。水疱の内容を調べる検査ではない。

  2. ○b.  Tzanck試験

    Tzanck試験は、水疱の蓋を破って水疱底(びらん面)を擦過するか、スライドガラスを押し当てて細胞を採取し、Giemsa染色などで鏡検する検査であり、水疱内容の検索に有用である。単純疱疹・帯状疱疹・水痘では、ウイルスによる細胞融合で生じた多核巨細胞(ウイルス性巨細胞)がみられる。天疱瘡では、表皮細胞どうしの接着が失われて(棘融解)丸く遊離した棘融解細胞(Tzanck細胞)がみられる。簡便かつ迅速に水疱の原因を推定できる。

  3. ×c.  ダーモスコピー試験

    ダーモスコピーは、偏光フィルターやゼリーで皮膚表面(角層)の光の乱反射を抑え、拡大して表皮から真皮浅層の色素分布や血管構造を観察する非侵襲的な検査である。悪性黒色腫と色素細胞母斑の鑑別、基底細胞癌、脂漏性角化症などの診断に有用である。水疱の内容を調べる検査ではない。

  4. ×d.  サーモグラフィー検査

    サーモグラフィーは、体表から放射される赤外線を検出して皮膚表面温度の分布を画像化する検査である。末梢循環障害(Raynaud現象など)の評価や、炎症部位の温度上昇の把握などに用いられる。水疱の内容を調べる検査ではない。

  5. ×e.  苛性カリ〈KOH〉直接鏡検法

    KOH直接鏡検法は、採取した鱗屑・爪・毛などの検体に水酸化カリウム(KOH)溶液を加えて角質を溶かし、顕微鏡で真菌の菌糸や胞子を観察する検査である。白癬(皮膚糸状菌症)、カンジダ症、癜風などの診断に用いられ、培養検査に比べてはるかに簡便・迅速である。足白癬の小水疱型では水疱蓋を検体とすることもあるが、目的は真菌要素の検出であり、水疱内容そのものを調べる検査ではない。

Tzanck試験の実際

新しい水疱を選び、水疱蓋を破って(または除去して)水疱底を軽く擦過し、スライドガラスに塗抹して乾燥させ、Giemsa染色などを行って鏡検する。 ・ヘルペスウイルス感染症(単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス):核が複数で、核内封入体を伴うことのある多核巨細胞。単純疱疹と帯状疱疹・水痘の区別はTzanck試験ではできないため、蛍光抗体法によるウイルス抗原検出、イムノクロマト法による迅速抗原検査、PCR法などを追加する。 ・天疱瘡:デスモグレインに対する自己抗体により表皮細胞間の接着が失われ、丸く孤立した棘融解細胞がみられる。確定診断には皮膚生検(表皮内水疱、蛍光抗体直接法で表皮細胞間へのIgG沈着)と血清抗デスモグレイン抗体の測定を行う。 ・水疱性類天疱瘡は表皮下水疱であり、棘融解細胞はみられない(好酸球が目立つことがある)。

皮膚科の主な外来検査のまとめ

・硝子圧法:紅斑(消える)と紫斑(消えない)の区別 ・Tzanck試験:水疱底の細胞診(ウイルス性巨細胞、棘融解細胞) ・ダーモスコピー:色素性病変・腫瘍の拡大観察 ・KOH直接鏡検法:真菌(白癬、カンジダ、癜風)の検出 ・パッチテスト:Ⅳ型アレルギー(アレルギー性接触皮膚炎)の原因検索 ・プリックテスト:Ⅰ型アレルギーの原因検索 ・Nikolsky現象:一見正常な皮膚を擦ると表皮が剝離する現象で、天疱瘡やブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群などでみられる ・皮膚描記法:皮膚を擦ったあとの反応をみる(蕁麻疹での膨疹形成、アトピー性皮膚炎での白色皮膚描記症) ・サーモグラフィー:皮膚温分布の評価(末梢循環障害など)

POINT

・水疱内容(水疱底の細胞)の検索にはTzanck試験を用いる。 ・ヘルペスウイルス感染症では多核巨細胞、天疱瘡では棘融解細胞がみられる。 ・硝子圧法は紅斑と紫斑、ダーモスコピーは色素性病変、KOH法は真菌、サーモグラフィーは皮膚温をみる検査である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。