StudyMed医師国家試験

「家族の承諾」が開いた扉―平成21年改正臓器移植法で小児の脳死下臓器提供が可能に

第106回医師国家試験 B問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第34問

臓器の移植に関する法律の平成21年改正によって,初めて可能となったのはどれか。

  1. a.遺族の同意のない臓器摘出
  2. b.親族以外への臓器の優先提供
  3. c.15歳未満の者からの臓器提供
  4. d.臓器移植を目的とした海外渡航
  5. e.脳死した者の身体からの臓器摘出

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は臓器移植法の改正がテーマだ。ポイントは、各選択肢が「法律ができた当初からできたこと」「改正で初めてできるようになったこと」「今もできないこと」のどれに当たるかを仕分けることだよ。
医学生医学生
脳死下の臓器提供自体が改正で認められたのかと思っていました。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。臓器移植法は1997年に制定されていて、その時点で脳死した人からの臓器摘出は法的に認められていた。1999年には法律に基づく最初の脳死下臓器提供も行われている。だから脳死者からの摘出は、改正で初めて可能になったものではないんだ。
医学生医学生
では、改正前は何が問題だったのでしょう。
ドクタードクター
要件がとても厳しかったんだ。本人が生前に書面で提供の意思を示していて、さらに家族が拒まないこと、この両方が必要だった。しかも書面の意思表示は、民法の遺言可能年齢に合わせて15歳以上に限って有効とされていた。
医学生医学生
ということは、15歳未満の子どもは脳死になっても臓器を提供できなかったんですね。
ドクタードクター
その通り。小児の心臓移植などは国内ではほぼ不可能で、海外に渡って移植を受けるしかない状況が続いていた。そこへ2008年にイスタンブール宣言が出て、移植臓器はできるだけ自国内で確保すべきだという国際的な流れが強まった。これを受けて2009年に改正法が成立したんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、改正の柱が3つあると習いました。たしか家族の承諾と、年齢と、親族優先でしたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。1つ目は、本人の意思が不明でも家族が書面で承諾すれば提供できるようになったこと。2つ目は、その結果として年齢の制限が事実上なくなり、15歳未満の人からの脳死下臓器提供が可能になったこと。3つ目は、本人が書面で意思表示しておけば配偶者・子・父母へ優先して提供できるようになったことだ。
医学生医学生
それなら15歳未満の者からの臓器提供が正解ですね。親族以外への優先提供も改正でできるようになったのでは、と一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。改正で認められたのはあくまで「親族への」優先提供。親族以外の特定の人を指定して提供することは、臓器配分の公平性を保つために今も認められていない。移植を受ける人は日本臓器移植ネットワークが医学的な基準で選ぶんだ。
医学生医学生
遺族の同意がなくても摘出できる、というのはどうでしょう。家族の承諾で提供できるようになったなら、逆もありそうな気がしました。
ドクタードクター
逆だよ。改正後も、本人の意思が不明なら家族の書面での承諾が必須だし、本人が提供の意思を示していても家族が拒めば摘出はできない。家族の意向は改正の前後を通じて重視されている。なお遺族がいない場合の規定は制定当初からあったから、改正で初めて可能になったものでもない。
医学生医学生
海外渡航による移植は、もともと法律で禁止されていなかったということですね。
ドクタードクター
そう。改正前から実際に行われていたから、改正で初めて可能になったわけではない。むしろイスタンブール宣言は臓器売買や移植ツーリズムの防止を求めていて、海外渡航移植への依存を減らすことが改正の目的の一つだったんだ。
医学生医学生
小児から提供を受けるとなると、脳死判定も大人と同じでいいのか気になります。
ドクタードクター
大事な視点だね。法的脳死判定は修正齢12週未満の乳児には行わない。2回の判定の間隔は6歳以上なら6時間以上、6歳未満なら24時間以上あける。さらに改正法では、虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されないよう対応することも定められている。
医学生医学生
救急科を回ったとき、小児の重症頭部外傷では虐待の可能性も必ず考えるよう言われました。それが臓器提供の場面にもつながるんですね。
ドクタードクター
その通り。もう一つ、提供を拒否する意思は改正前後とも尊重されていて、拒否の意思表示は15歳未満でも有効とされている。本人が拒否していれば、家族が承諾しても提供はできない。意思表示カードや健康保険証、運転免許証、マイナンバーカードの意思表示欄などで、普段から意思を示しておくことが大切だね。

まとめ

臓器移植法は1997年に制定され、脳死した者からの臓器摘出はこの時点ですでに可能でしたが、本人の書面による意思表示が必須で、その意思表示は15歳以上に限って有効とされていたため、小児からの脳死下臓器提供はできませんでした。2009年の改正により、本人の意思が不明でも家族の書面による承諾で提供できるようになり、15歳未満の者からの脳死下臓器提供が初めて可能となりました。あわせて親族(配偶者・子・父母)への優先提供の意思表示も認められましたが、親族以外の特定の個人への優先提供や、遺族の意向に反する摘出は現在も認められていません。小児の法的脳死判定には修正齢12週未満を除外する、判定間隔を長くとるといった独自の基準があり、虐待を受けた児童からの提供を防ぐ仕組みも設けられています。改正の背景にあるイスタンブール宣言や「改正前後で何が変わったか」を整理しておくと、移植医療の倫理と制度を理解する土台になります。

解答・解説

正解はcです

臓器の移植に関する法律(臓器移植法)は1997(平成9)年に制定され、同年10月に施行された。この法律によって、日本で初めて脳死した者の身体からの臓器摘出が法的に認められた。ただし制定当初の法律は要件が非常に厳しく、本人が生前に書面で臓器提供の意思を示していること、しかも家族が摘出を拒まないことの両方が必要だった。書面の意思表示は民法上の遺言可能年齢に合わせて15歳以上に限って有効とされた運用のため、15歳未満の小児は脳死下で臓器を提供できず、小児の心臓移植などは海外渡航に頼るしかない状況が続いた。 2008年に国際移植学会が出したイスタンブール宣言では、移植臓器はできるだけ自国内で確保すべきだとされた。この国際的な流れも受けて、2009(平成21)年7月に改正法が成立した。改正の主な内容は次の3点である。 (1) 本人の意思が不明な場合でも、家族が書面で承諾すれば脳死下・心停止後の臓器提供ができるようになった。 (2) (1)の結果、年齢による制限が事実上なくなり、15歳未満の者からの脳死下臓器提供が可能になった。 (3) 本人が書面で意思表示しておけば、親族(配偶者・子・父母)へ優先して提供できるようになった。 このほか、臓器提供の場面では脳死が人の死であることが明確にされ、虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されないよう対応することも定められた。施行は、親族優先提供が2010(平成22)年1月、そのほかの規定が同年7月である。 本問では、各選択肢の内容が「改正前からできたのか」「改正で初めてできるようになったのか」「現在もできないのか」を一つずつ判断すればよい。

選択肢考察

  1. ×a.  遺族の同意のない臓器摘出

    誤り。改正後の法律でも、本人の意思が不明な場合には遺族の書面による承諾が必要である。本人が書面で提供の意思を示していても、遺族が摘出を拒めば摘出はできない。つまり遺族の意向は改正の前後を通じて重視されている。なお遺族がいない場合は、本人の書面による意思表示があれば摘出できるとする規定がある。しかしこの規定は制定当初の法律にもあったので、「平成21年改正によって初めて可能となった」ものには当たらない。

  2. ×b.  親族以外への臓器の優先提供

    誤り。改正で新たに認められたのは「親族への」優先提供であり、「親族以外への」優先提供ではない。本人が書面で親族への優先提供の意思を示しておけば、配偶者・子・父母に優先して提供できる。一方、特定の個人(親族以外)を指定して提供することは、臓器配分の公平性を保つため現在も認められていない。移植を受ける人は日本臓器移植ネットワークが医学的な基準に基づいて選ぶ。

  3. ○c.  15歳未満の者からの臓器提供

    正しい。改正前は本人の書面による意思表示が必須で、その意思表示は15歳以上の者に限って有効とされていた。そのため15歳未満の者は脳死下で臓器を提供できなかった。改正後は本人の意思が不明でも家族の書面による承諾で提供できるようになり、15歳未満の小児からの脳死下臓器提供が初めて可能になった。ただし、法的脳死判定は修正齢12週未満の乳児には行わない。また6歳未満の小児では2回の判定の間隔を24時間以上あける(6歳以上は6時間以上)。虐待が疑われる児童からは臓器を提供しない。

  4. ×d.  臓器移植を目的とした海外渡航

    誤り。臓器移植のために海外へ渡航することは、改正前から法律で禁じられておらず、実際に国内で移植を受けられない小児などが海外で移植を受けてきた。したがって改正で初めて可能になったものではない。むしろ改正の背景には、イスタンブール宣言(2008年)が移植臓器の自国内での確保と、臓器売買・移植ツーリズムの防止を求めたことがある。国内で提供を受けられる体制を整え、海外渡航移植への依存を減らすことが改正の目的の一つであった。

  5. ×e.  脳死した者の身体からの臓器摘出

    誤り。脳死した者の身体からの臓器摘出は、1997(平成9)年の法律制定時にすでに認められていた。改正前も本人の書面による意思表示と家族の同意という条件を満たせば可能であり、1999年には法律に基づく最初の脳死下臓器提供が行われている。平成21年改正で変わったのは提供の要件(家族の承諾だけでも提供できる、年齢制限がなくなる)であり、脳死下の摘出そのものが初めて可能になったわけではない。

臓器移植法の改正前後の比較

・脳死下の臓器提供の要件  改正前:本人の書面による意思表示が必須で、家族が拒まないこと  改正後:本人の書面による意思表示があり家族が拒まない場合、または本人の意思が不明で家族が書面で承諾した場合 ・年齢  改正前:15歳以上の意思表示のみ有効(15歳未満は脳死下提供不可)  改正後:家族の承諾により15歳未満も提供可能 ・親族優先提供  改正前:不可  改正後:本人の書面による意思表示があれば、配偶者・子・父母へ優先して提供可能 ・提供を拒否する意思  改正前後とも尊重される。改正後は、本人が拒否の意思を示していれば家族が承諾しても提供できない(拒否の意思表示は15歳未満でも有効)。

法的脳死判定の概要

・前提条件:器質的な脳障害による深い昏睡と無呼吸があり、原因疾患が確実に診断され、回復の可能性がないこと ・除外例:急性薬物中毒、低体温、代謝・内分泌障害などによる可逆的な昏睡。修正齢12週未満の乳児 ・判定項目:深い昏睡、瞳孔の固定・散大(左右とも4mm以上)、脳幹反射の消失、平坦脳波、自発呼吸の消失(無呼吸テストは最後に行う) ・2回の判定の間隔:6歳以上は6時間以上、6歳未満は24時間以上

イスタンブール宣言(2008年)

国際移植学会などがまとめた宣言で、臓器売買と移植ツーリズムを禁じ、各国が自国内で移植臓器を確保する努力をすべきだとした。日本の法改正を後押しした要因の一つである。

臓器提供の意思表示の方法

意思表示カード、健康保険証や運転免許証・マイナンバーカードの意思表示欄、インターネットでの登録などがある。

POINT

・臓器移植法は1997(平成9)年に制定され、脳死下臓器提供はこのときから可能だった。 ・2009(平成21)年改正の3本柱:①本人の意思が不明でも家族の書面承諾で提供できる、②15歳未満の者からの脳死下臓器提供が可能になった、③親族(配偶者・子・父母)への優先提供の意思表示ができる。 ・遺族(家族)が拒否すれば提供はできない。親族以外の特定の個人を指定した提供もできない。 ・法的脳死判定は修正齢12週未満には行わない。6歳未満は2回の判定の間隔を24時間以上とする。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。