エコーは「形」と「流れ」を測る―圧を測るのはカテーテルの仕事
第106回医師国家試験 B問題 第18問
国試問題にチャレンジ
心エコー検査で計測できるのはどれか。
- a.中心静脈圧
- b.僧帽弁口面積
- c.平均大動脈圧
- d.左室収縮期圧
- e.混合静脈血酸素飽和度
対話形式の解説
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ドクターまとめ
心エコー検査は超音波の反射で心臓の形態と動きを、ドプラ法で血流速度を評価する非侵襲的検査であり、直接計測できるのは径・壁厚・面積・容積などの形態と血流速度です。僧帽弁口面積はプラニメトリ法や圧半減時間法で求められ、僧帽弁狭窄症の重症度判定と治療方針の決定に欠かせません。中心静脈圧、平均大動脈圧、左室収縮期圧、混合静脈血酸素飽和度はカテーテルで直接測定する値で、エコーでは下大静脈径や簡易ベルヌーイ式を用いた推定にとどまります。三尖弁逆流速度からの右室収縮期圧推定は肺高血圧のスクリーニングに有用ですが、あくまで推定値です。検査の原理から何が測れるかを考える姿勢は、エコーとカテーテルを適切に使い分ける臨床判断の基礎になります。
解答・解説
正解はbです
心エコー検査(心臓超音波検査)は、超音波の反射を利用して心臓の形態と動きを画像化し、さらにドプラ法で血流の速度と方向をとらえる非侵襲的検査である。したがって、エコーが直接得意とするのは「長さ・面積・容積などの形態計測」と「血流速度の計測」の二つである。 一方、圧(mmHg)や血液ガスの値そのものは、エコーでは直接測れない。圧はカテーテルを血管内・心腔内に入れて圧トランスデューサで測定するのが基本であり、酸素飽和度は採血して血液ガス分析装置やオキシメータで測るか、光ファイバー付きカテーテルで連続測定する。エコーでも、ドプラ法で得た血流速度から簡易ベルヌーイ式(圧較差 ≒ 4 × 流速[m/s]の2乗)を使って圧較差を求め、そこから心腔内圧を「推定」することはできるが、これはあくまで間接的な推算値である。 本問では、各選択肢が「エコーで画像上直接計測できる形態的指標」か、「カテーテルなど侵襲的手技で測定すべき圧・血液ガス指標」かを見分ければよい。前者に当たるのは弁口の面積であり、僧帽弁口面積が正解となる。
選択肢考察
- ×a. 中心静脈圧
中心静脈圧(central venous pressure:CVP)は上大静脈・下大静脈が右房に流入する付近の圧で、右房圧にほぼ等しい。正式な測定は中心静脈カテーテルやSwan-Ganzカテーテル(肺動脈カテーテル)、右心カテーテル検査で圧を直接測ることによる。エコーでは下大静脈(IVC)の径と呼吸による径の変化(呼吸性変動)から右房圧を大まかに見積もることはできるが、数値を直接計測するものではない。
- ○b. 僧帽弁口面積
僧帽弁口面積(mitral valve area:MVA)は心エコーで計測できる代表的な指標である。傍胸骨短軸像で拡張期に最も開いた僧帽弁口の輪郭をトレースして面積を直接求める方法(プラニメトリ法)や、連続波ドプラで求めた拡張期の左房-左室間圧較差の減衰の速さ(圧半減時間:pressure half time、PHT)からMVA ≒ 220/PHT として算出する方法がある。正常のMVAは4〜6 cm²程度で、僧帽弁狭窄症では1.5 cm²未満で中等度以上、1.0 cm²以下で高度とされ、治療方針(経皮的僧帽弁交連切開術や弁置換術の適応など)の決定に直結する。形態計測はエコーの得意分野であり、精度も高い。
- ×c. 平均大動脈圧
平均大動脈圧は、左心カテーテル検査で大動脈内にカテーテル先端を置いて圧波形を記録し、その平均値を求めて得る。臨床的には動脈ラインや血圧計で測った収縮期・拡張期血圧から「拡張期血圧+(脈圧/3)」として平均血圧を近似することも多い。いずれにせよエコーで大動脈圧そのものを計測することはできない。
- ×d. 左室収縮期圧
左室収縮期圧は、左心カテーテル検査でカテーテルを大動脈弁を越えて左室内に進め、直接測定する。エコーでは、大動脈弁狭窄がなければ左室収縮期圧は収縮期血圧とほぼ等しいとみなしたり、大動脈弁狭窄の圧較差を収縮期血圧に加えたりして推定することはあるが、これは間接的な推算にすぎず、エコーで直接計測できる値ではない。
- ×e. 混合静脈血酸素飽和度
混合静脈血とは、上大静脈・下大静脈・冠静脈洞から戻った血液が右室で十分に混ざり合ったもので、通常は肺動脈血を指す。その酸素飽和度(SvO₂)は、Swan-Ganzカテーテルで肺動脈から採血して測定するか、オキシメトリ機能付きカテーテルで連続測定する。全身の酸素需給バランスの指標であり(正常はおおむね70〜75%前後)、エコーで測れる性質の値ではない。
心エコーで評価できる主な項目
・形態計測(Mモード法・断層法):左室拡張末期径・収縮末期径、心室中隔・左室後壁の厚さ、左房径、大動脈径、弁口面積など。 ・心機能:左室駆出率(EF)、左室内径短縮率(%FS)、局所壁運動異常。 ・ドプラ法:弁通過血流速度、弁狭窄の圧較差(簡易ベルヌーイ式 ΔP ≒ 4V²)、逆流の程度(カラードプラ)、左室流入血流(E/A比など)による拡張能評価。 ・推定値:三尖弁逆流の最大流速から右室-右房間圧較差を求め、推定右房圧(下大静脈径と呼吸性変動から推定)を加えて右室収縮期圧(肺動脈狭窄がなければ肺動脈収縮期圧にほぼ等しい)を推定する。肺高血圧のスクリーニングに有用である。
心エコーが診断に特に役立つ病態の例
僧帽弁狭窄症(弁口面積、弁の肥厚・石灰化、左房拡大)、左房粘液腫(左房内の可動性腫瘤)、心膜液貯留・心タンポナーデ(エコーフリースペース、右房・右室の虚脱)、肥大型心筋症(非対称性中隔肥大、僧帽弁前尖の収縮期前方運動)、心房中隔欠損症(右心系拡大、短絡血流)、大動脈弁閉鎖不全症(拡張期逆流ジェット)など。経食道心エコーは左房内血栓や感染性心内膜炎の疣贅、大動脈解離の評価に優れる。
カテーテルで測定する項目
右心カテーテル(Swan-Ganzカテーテル):中心静脈圧・右房圧、右室圧、肺動脈圧、肺動脈楔入圧、心拍出量(熱希釈法)、混合静脈血酸素飽和度。 左心カテーテル:左室圧(収縮期圧・拡張末期圧)、大動脈圧、左室造影、冠動脈造影。
POINT
・心エコーが直接計測できるのは、径・壁厚・面積・容積などの形態と、ドプラ法による血流速度である。 ・僧帽弁口面積はプラニメトリ法や圧半減時間法で求められ、僧帽弁狭窄症の重症度判定に用いる(1.0 cm²以下で高度)。 ・中心静脈圧、大動脈圧、左室圧、混合静脈血酸素飽和度はカテーテルで直接測定する(エコーでは推定にとどまる)。 ・エコーで推定できる圧の代表は、三尖弁逆流速度からの右室収縮期圧(≒肺動脈収縮期圧)である。
