StudyMed医師国家試験

熱だけじゃない、冷えも危険信号―SIRS診断基準4項目を「上下」で覚える

第106回医師国家試験 B問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第106回 B問題 第15問

全身性炎症反応症候群の診断基準を満たしているのはどれか。

  1. a.末梢血白血球数6,000/mm3
  2. b.心拍数70/分
  3. c.呼吸数15/分
  4. d.尿量40 mL/時
  5. e.体温35.0℃

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は全身性炎症反応症候群、SIRSの診断基準を正確に覚えているかを問う問題だ。ポイントは2つ。基準に含まれる項目は何か、そしてそれぞれの値が「高すぎる」だけでなく「低すぎる」側にも基準があるかどうか。まずはSIRSがどんな概念か、説明できるかな。
医学生医学生
感染や外傷などで炎症性サイトカインが全身に出て、全身の炎症反応が起きている状態、ですよね。救急の講義で敗血症と一緒に習いました。
ドクタードクター
その通り。侵襲を受けるとマクロファージなどからTNF-α、IL-1、IL-6といったサイトカインが放出される。これが体温調節中枢に働いて発熱を起こし、交感神経を亢進させて頻脈や頻呼吸を起こし、骨髄から白血球を動員する。原因は感染に限らず、外傷、熱傷、大手術、急性膵炎などでも起こるんだ。では、診断基準の4項目を挙げてみよう。
医学生医学生
体温、心拍数、呼吸数、白血球数の4つで、2項目以上満たせばSIRSです。数字はたしか、体温38℃超、心拍数90/分超、呼吸数20/分超、白血球12,000/mm3超…でしたっけ。
ドクタードクター
項目の挙げ方は完璧。ただ、数字は「上」だけしか言っていないね。体温は38℃を超えるか、36℃未満。白血球は12,000/mm3を超えるか、4,000/mm3未満、あるいは桿状核球などの幼若球が10%を超える場合。呼吸数は20/分を超えるか、PaCO2が32 Torr未満でもいい。
医学生医学生
体温と白血球は低いほうも入るんですね。うっかり発熱と白血球増多だけで覚えていました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だ。重症の感染症では、発熱ではなくむしろ低体温や白血球減少を示すことがあって、それはかえって重症度が高いサインとされる。だから基準に組み込まれているんだ。それを踏まえて、正解はどれになる?
医学生医学生
体温35.0℃は36℃未満なので、体温の項目を満たします。これが正解ですね。
ドクタードクター
正解。もちろん1項目だけではSIRSと確定しないけれど、選択肢のなかで基準の項目に該当する値はこれだけだ。ほかの選択肢も確認しておこう。白血球数6,000/mm3はどうかな。
医学生医学生
4,000から12,000の間に収まっているので、増加でも減少でもなく正常値です。
ドクタードクター
そうだね。心拍数70/分も安静時の正常範囲で、90/分を超えていないから該当しない。ちなみに心拍数の項目には徐脈は含まれない。呼吸数15/分も成人の正常範囲で、20/分を超えていないから外れる。
医学生医学生
尿量40 mL/時は少し気になりました。臨床実習で集中治療室を回ったとき、尿量を毎時チェックしていたので、重症度の指標っぽい気がして。
ドクタードクター
いい疑問だ。尿量は腎灌流や臓器障害の評価には大切で、一般に0.5 mL/kg/時未満が乏尿の目安になる。でもSIRS基準の4項目には含まれていないから、値にかかわらず基準を満たすことはない。しかも体重60〜70kgの成人で40 mL/時なら、尿量はほぼ保たれているといえる。
医学生医学生
尿量や血圧、意識は臓器障害の指標で、SIRSの基準とは別物ということですね。
ドクタードクター
その整理が大事だ。ここで発展知識として敗血症の定義の変遷を押さえておこう。以前は感染症によるSIRSを敗血症と定義していた。しかしSIRS基準は感度が高い反面、特異度が低く、軽い感染症でも容易に満たしてしまう。そこで2016年のSepsis-3では、敗血症を「感染症に対する制御不能な宿主反応による、生命を脅かす臓器障害」と定義し直し、SOFAスコアが2点以上上昇することで臓器障害を評価するようになった。
医学生医学生
qSOFAもありましたよね。CBTの勉強で、呼吸数と意識と血圧の3つだったと覚えています。
ドクタードクター
よく覚えているね。qSOFAは呼吸数22/分以上、意識の変容、収縮期血圧100 mmHg以下のうち2項目以上で、集中治療室の外で敗血症を疑うきっかけに使う簡易スクリーニングだ。SIRSとは項目も数字も違うから混同しないように。さらに敗血症性ショックは、十分な輸液をしても平均動脈圧65 mmHg以上を保つのに血管収縮薬が必要で、かつ血清乳酸値が2 mmol/Lを超える状態とされる。
医学生医学生
SIRSは「炎症が全身に及んでいるか」、SOFAやqSOFAは「臓器が傷んでいるか」を見ている、という違いですね。
ドクタードクター
そのとおり。臨床では、高齢者や免疫不全の人が感染症で低体温や白血球減少を示すと、「熱がないから大丈夫」と油断しがちだ。でも実際には重症化のサインかもしれない。体温計の数字が低いときこそ、全身状態をしっかり評価する習慣をつけてほしい。

まとめ

SIRS(全身性炎症反応症候群)は、感染・外傷・熱傷・手術・急性膵炎などの侵襲により炎症性サイトカインが全身に放出された状態で、体温(38℃超または36℃未満)、心拍数(90/分超)、呼吸数(20/分超またはPaCO2 32 Torr未満)、白血球数(12,000/mm3超または4,000/mm3未満、もしくは幼若球10%超)の4項目中2項目以上で判断します。体温と白血球数は低値側にも基準があり、重症感染症では低体温や白血球減少がむしろ重症のサインとなる点が重要です。尿量・血圧・意識はSIRS基準に含まれず、臓器障害を評価するSOFAやqSOFAの項目と混同しないよう注意が必要です。現在の敗血症の定義(Sepsis-3)はSIRSではなく臓器障害を重視しており、両者の役割の違いを理解することが、救急・集中治療で敗血症を早期に見抜く力につながります。

解答・解説

正解はeです

全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)は、感染・外傷・熱傷・手術・急性膵炎など、さまざまな侵襲をきっかけに炎症性サイトカインが全身に放出され、全身性の炎症反応が生じている状態を指す概念である。1992年に米国胸部医師学会(ACCP)と米国集中治療医学会(SCCM)の合同会議で提唱された。 診断基準は次の4項目で、このうち2項目以上を満たせばSIRSと判断する。 ①体温: 38℃を超える、または36℃未満 ②心拍数: 90/分を超える ③呼吸数: 20/分を超える、または動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が32 Torr(mmHg)未満 ④末梢血白血球数: 12,000/mm3を超える、または4,000/mm3未満、あるいは幼若な白血球(桿状核球など)が10%を超える 本問は、各選択肢の値がこの4項目のいずれかの基準に該当するかを一つずつ照らし合わせる問題である。体温と白血球数は「高すぎる」だけでなく「低すぎる」場合も基準に含まれる点、そして基準の項目は体温・心拍数・呼吸数・白血球数の4つだけで、尿量や血圧は含まれない点が判断の鍵となる。

選択肢考察

  1. ×a.  末梢血白血球数6,000/mm3

    白血球数の基準は12,000/mm3を超えるか、4,000/mm3未満(または幼若白血球が10%を超える)である。6,000/mm3は成人の基準範囲(おおむね3,500〜9,000/mm3程度)に収まる正常値であり、増加にも減少にも当たらない。したがって基準を満たさない。

  2. ×b.  心拍数70/分

    心拍数の基準は90/分を超えることである。70/分は安静時の正常範囲(60〜100/分)にあり、頻脈ではない。したがって基準を満たさない。なお、SIRSの心拍数の項目には徐脈は含まれない。

  3. ×c.  呼吸数15/分

    呼吸数の基準は20/分を超えること、またはPaCO2が32 Torr未満(過換気の状態)であることである。成人の安静時呼吸数はおおむね12〜20/分であり、15/分は正常範囲内の値である。したがって基準を満たさない。

  4. ×d.  尿量40 mL/時

    SIRSの診断基準は体温・心拍数・呼吸数・白血球数の4項目で構成されており、尿量は含まれない。したがって値にかかわらず基準を満たすことはない。参考までに、尿量は腎灌流や臓器障害の評価に用いられ、一般に0.5 mL/kg/時未満が乏尿の目安とされる。体重60〜70kg程度の成人で40 mL/時であれば、ほぼ保たれた尿量といえる。

  5. ○e.  体温35.0℃

    体温の基準は38℃を超える発熱だけでなく、36℃未満の低体温も含む。35.0℃は36℃未満であり、この項目を満たす。重症感染症などでは、発熱ではなく低体温を示すことがあり、むしろ重症度が高い徴候とされるため、低体温も基準に組み込まれている。なお、SIRSと診断するには4項目中2項目以上が必要なので、この1項目だけでSIRSと確定するわけではないが、選択肢のなかで診断基準の項目に該当する値はこれだけである。

SIRSの位置づけ

SIRSは、原因を問わず全身性の炎症反応が起きていることを示す簡便な基準である。感染症を原因とするSIRSは、かつて敗血症(sepsis)と定義されていた(1991年のACCP/SCCM合同会議、1992年に発表)。SIRSを起こす感染以外の原因には、外傷、熱傷、大手術、急性膵炎、虚血などがある。

敗血症の定義の変遷

2016年に発表された新しい定義(Sepsis-3)では、敗血症は「感染症に対する制御不能な宿主反応により、生命を脅かす臓器障害が生じた状態」とされた。SIRS基準は感度が高い一方で特異度が低く、軽症の感染症でも容易に満たしてしまうことから、敗血症の定義からは外された。臓器障害は SOFA(sequential organ failure assessment)スコアが2点以上上昇することで評価する。また、集中治療室外で敗血症を疑う簡易スクリーニングとして qSOFA(quick SOFA:呼吸数22/分以上、意識の変容、収縮期血圧100 mmHg以下の3項目のうち2項目以上)が提唱された。敗血性ショックは、十分な輸液を行っても平均動脈圧65 mmHg以上を保つために血管収縮薬が必要で、かつ血清乳酸値が2 mmol/L(18 mg/dL)を超える状態と定義される。

SIRSの病態

侵襲を受けるとマクロファージなどからTNF-α、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインが放出される。これが体温調節中枢への作用(発熱)、交感神経系の亢進(頻脈・頻呼吸)、骨髄からの白血球動員(白血球増多、幼若球の出現)などを引き起こし、4項目の異常として現れる。反応が過剰に続くと、血管内皮障害や凝固異常を介して多臓器不全や播種性血管内凝固(DIC)に進展しうる。

POINT

・SIRSの診断: 以下4項目中2項目以上。  体温 >38℃ または <36℃  心拍数 >90/分  呼吸数 >20/分 または PaCO2 <32 Torr  白血球数 >12,000/mm3 または <4,000/mm3、または幼若球 >10% ・体温と白血球数は「低値」も基準に入る。 ・尿量・血圧・意識は SIRS 基準に含まれない(qSOFA や SOFA との混同に注意)。 ・現在の敗血症の定義(Sepsis-3)は SIRS ではなく臓器障害(SOFA スコア2点以上の上昇)を重視する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。