熱だけじゃない、冷えも危険信号―SIRS診断基準4項目を「上下」で覚える
第106回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
全身性炎症反応症候群の診断基準を満たしているのはどれか。
- a.末梢血白血球数6,000/mm3
- b.心拍数70/分
- c.呼吸数15/分
- d.尿量40 mL/時
- e.体温35.0℃
対話形式の解説
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ドクターまとめ
SIRS(全身性炎症反応症候群)は、感染・外傷・熱傷・手術・急性膵炎などの侵襲により炎症性サイトカインが全身に放出された状態で、体温(38℃超または36℃未満)、心拍数(90/分超)、呼吸数(20/分超またはPaCO2 32 Torr未満)、白血球数(12,000/mm3超または4,000/mm3未満、もしくは幼若球10%超)の4項目中2項目以上で判断します。体温と白血球数は低値側にも基準があり、重症感染症では低体温や白血球減少がむしろ重症のサインとなる点が重要です。尿量・血圧・意識はSIRS基準に含まれず、臓器障害を評価するSOFAやqSOFAの項目と混同しないよう注意が必要です。現在の敗血症の定義(Sepsis-3)はSIRSではなく臓器障害を重視しており、両者の役割の違いを理解することが、救急・集中治療で敗血症を早期に見抜く力につながります。
解答・解説
正解はeです
全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome:SIRS)は、感染・外傷・熱傷・手術・急性膵炎など、さまざまな侵襲をきっかけに炎症性サイトカインが全身に放出され、全身性の炎症反応が生じている状態を指す概念である。1992年に米国胸部医師学会(ACCP)と米国集中治療医学会(SCCM)の合同会議で提唱された。 診断基準は次の4項目で、このうち2項目以上を満たせばSIRSと判断する。 ①体温: 38℃を超える、または36℃未満 ②心拍数: 90/分を超える ③呼吸数: 20/分を超える、または動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が32 Torr(mmHg)未満 ④末梢血白血球数: 12,000/mm3を超える、または4,000/mm3未満、あるいは幼若な白血球(桿状核球など)が10%を超える 本問は、各選択肢の値がこの4項目のいずれかの基準に該当するかを一つずつ照らし合わせる問題である。体温と白血球数は「高すぎる」だけでなく「低すぎる」場合も基準に含まれる点、そして基準の項目は体温・心拍数・呼吸数・白血球数の4つだけで、尿量や血圧は含まれない点が判断の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 末梢血白血球数6,000/mm3
白血球数の基準は12,000/mm3を超えるか、4,000/mm3未満(または幼若白血球が10%を超える)である。6,000/mm3は成人の基準範囲(おおむね3,500〜9,000/mm3程度)に収まる正常値であり、増加にも減少にも当たらない。したがって基準を満たさない。
- ×b. 心拍数70/分
心拍数の基準は90/分を超えることである。70/分は安静時の正常範囲(60〜100/分)にあり、頻脈ではない。したがって基準を満たさない。なお、SIRSの心拍数の項目には徐脈は含まれない。
- ×c. 呼吸数15/分
呼吸数の基準は20/分を超えること、またはPaCO2が32 Torr未満(過換気の状態)であることである。成人の安静時呼吸数はおおむね12〜20/分であり、15/分は正常範囲内の値である。したがって基準を満たさない。
- ×d. 尿量40 mL/時
SIRSの診断基準は体温・心拍数・呼吸数・白血球数の4項目で構成されており、尿量は含まれない。したがって値にかかわらず基準を満たすことはない。参考までに、尿量は腎灌流や臓器障害の評価に用いられ、一般に0.5 mL/kg/時未満が乏尿の目安とされる。体重60〜70kg程度の成人で40 mL/時であれば、ほぼ保たれた尿量といえる。
- ○e. 体温35.0℃
体温の基準は38℃を超える発熱だけでなく、36℃未満の低体温も含む。35.0℃は36℃未満であり、この項目を満たす。重症感染症などでは、発熱ではなく低体温を示すことがあり、むしろ重症度が高い徴候とされるため、低体温も基準に組み込まれている。なお、SIRSと診断するには4項目中2項目以上が必要なので、この1項目だけでSIRSと確定するわけではないが、選択肢のなかで診断基準の項目に該当する値はこれだけである。
SIRSの位置づけ
SIRSは、原因を問わず全身性の炎症反応が起きていることを示す簡便な基準である。感染症を原因とするSIRSは、かつて敗血症(sepsis)と定義されていた(1991年のACCP/SCCM合同会議、1992年に発表)。SIRSを起こす感染以外の原因には、外傷、熱傷、大手術、急性膵炎、虚血などがある。
敗血症の定義の変遷
2016年に発表された新しい定義(Sepsis-3)では、敗血症は「感染症に対する制御不能な宿主反応により、生命を脅かす臓器障害が生じた状態」とされた。SIRS基準は感度が高い一方で特異度が低く、軽症の感染症でも容易に満たしてしまうことから、敗血症の定義からは外された。臓器障害は SOFA(sequential organ failure assessment)スコアが2点以上上昇することで評価する。また、集中治療室外で敗血症を疑う簡易スクリーニングとして qSOFA(quick SOFA:呼吸数22/分以上、意識の変容、収縮期血圧100 mmHg以下の3項目のうち2項目以上)が提唱された。敗血性ショックは、十分な輸液を行っても平均動脈圧65 mmHg以上を保つために血管収縮薬が必要で、かつ血清乳酸値が2 mmol/L(18 mg/dL)を超える状態と定義される。
SIRSの病態
侵襲を受けるとマクロファージなどからTNF-α、IL-1、IL-6などの炎症性サイトカインが放出される。これが体温調節中枢への作用(発熱)、交感神経系の亢進(頻脈・頻呼吸)、骨髄からの白血球動員(白血球増多、幼若球の出現)などを引き起こし、4項目の異常として現れる。反応が過剰に続くと、血管内皮障害や凝固異常を介して多臓器不全や播種性血管内凝固(DIC)に進展しうる。
POINT
・SIRSの診断: 以下4項目中2項目以上。 体温 >38℃ または <36℃ 心拍数 >90/分 呼吸数 >20/分 または PaCO2 <32 Torr 白血球数 >12,000/mm3 または <4,000/mm3、または幼若球 >10% ・体温と白血球数は「低値」も基準に入る。 ・尿量・血圧・意識は SIRS 基準に含まれない(qSOFA や SOFA との混同に注意)。 ・現在の敗血症の定義(Sepsis-3)は SIRS ではなく臓器障害(SOFA スコア2点以上の上昇)を重視する。
