StudyMed医師国家試験

骨折線の先に何がある?―上顎骨骨折で起こる咬合障害と頬のしびれ

第106回医師国家試験 A問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第57問

18歳の女子。オートバイを運転中に転倒したため搬入された。意識は清明。頭部に外傷はないが,鼻出血を認める。顔面骨3D-CT(A)と頭部単純CT(B)とを別に示す。  この患者の症状として考えられるのはどれか。2つ選べ。

第106回 A問題 第57問の問題画像
  1. a.複視
  2. b.左眼球突出
  3. c.咬合障害
  4. d.左顔面神経麻痺
  5. e.左頬部知覚障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔面外傷の画像から骨折部位を読み取り、そこから起こりうる症状を予測する問題だ。考え方のコツは、「骨折線がどこを通り、その周りにどんな構造があるか」を思い浮かべること。まず、鼻出血があるという情報から何を考えるかな。
医学生医学生
鼻の中の粘膜が傷ついているということなので、鼻骨か、副鼻腔の壁が折れている可能性でしょうか。
ドクタードクター
いい推論だね。鼻出血は鼻腔や副鼻腔の粘膜損傷を示していて、上顎洞の壁を含む中顔面の骨折を疑う手がかりになる。では画像を見てみよう。顔面骨の3D-CTでは、左の上顎骨に骨折線があって、それが左の眼窩下孔の付近まで達している。一方で、鼻骨や眼窩の壁には明らかな骨折がない。頭部CTでも眼窩底や篩骨洞、頭蓋内に異常は見られないんだ。
医学生医学生
眼窩も鼻骨も巻き込んでいない上顎骨の骨折ということは、Le Fort分類でいうとⅠ型ですか。
ドクタードクター
そう考えていい。Le FortⅠ型は上顎の下部を水平に横切る骨折で、歯槽部を含む上顎の下の部分が分離する。Ⅱ型は鼻骨から眼窩を通る錐体状、Ⅲ型は顔面全体が頭蓋から外れる頭蓋顔面分離だったね。
医学生医学生
CBTの勉強で、ⅠⅡⅢと上に行くほど重症と覚えました。Ⅰ型で歯槽部が外れるなら、歯並びに影響が出そうです。
ドクタードクター
まさにそこが一つ目の正解だ。上顎骨には上の歯列がついているから、骨片がずれると上下の歯がうまくかみ合わなくなる。これが咬合障害で、上顎骨骨折や頬骨骨折で最も多くみられる症状なんだ。
医学生医学生
もう一つは、骨折線が眼窩下孔に届いているのがヒントですね。眼窩下孔を通るのは確か眼窩下神経でした。
ドクタードクター
その通り。眼窩下神経は三叉神経第2枝、つまり上顎神経の終枝で、眼窩底の溝と管を通って眼窩下孔から顔に出てくる。支配するのは頬部、下眼瞼、鼻翼、上口唇の皮膚感覚だ。ここが圧迫されたり損傷されたりすると、左の頬のしびれや感覚の鈍さが出る。
医学生医学生
解剖実習で、眼窩下孔から神経が扇状に広がるのを確認したのを思い出しました。頬の知覚障害が二つ目の正解ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。では、ほかの選択肢がなぜ違うかも見ていこう。複視はどうだろう。
医学生医学生
顔面外傷で複視というと、眼窩底の吹き抜け骨折で下直筋が挟まるパターンを思い浮かべます。
ドクタードクター
その通り。眼窩底骨折で外眼筋や周囲の組織が骨折部に挟み込まれると眼球運動が制限されて複視が出る。でも今回は眼窩底を含めて眼窩の壁に骨折がないから、その根拠がないんだ。
医学生医学生
眼球突出も眼窩の問題ですよね。でも吹き抜け骨折だと、むしろ眼球が引っ込むと習った気がします。
ドクタードクター
正しいよ。眼窩底骨折では眼窩の容積が増えるから眼球陥凹になることが多い。外傷で眼球突出が起こるのは、球後血腫のように眼窩の中に何かが溜まるときだ。今回は眼窩内に血腫も骨折もないから否定的だね。
医学生医学生
顔面神経麻痺は、顔の骨折だからありそうに思ったのですが。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすい。顔面の「感覚」は三叉神経、「動き」は顔面神経と分けて考えよう。外傷性の顔面神経麻痺は、顔面神経が走る側頭骨の骨折、特に錐体部を横切る横骨折で起こりやすい。上顎骨骨折で顔面神経麻痺が合併するのはきわめてまれで、今回のCTにも側頭骨骨折の所見はないんだ。
医学生医学生
感覚は三叉神経、運動は顔面神経。そう整理すると、頬のしびれと顔面神経麻痺を取り違えなくなりそうです。
ドクタードクター
いいまとめだ。発展として、型が上がるとどうなるかも押さえておこう。Ⅱ型やⅢ型では眼窩が骨折に巻き込まれるから、複視や眼球陥凹、眼窩下神経障害が出やすくなる。さらに頭蓋底骨折を合併すると髄液鼻漏が起こりうる。Ⅲ型では顔面が縦に伸びたように見えることもあるよ。
医学生医学生
救急科の実習で顔面外傷の患者さんを見たとき、先生が口を開けさせて噛み合わせを確認していました。あれはこういう意味だったんですね。
ドクタードクター
そう、診察では咬合と頬の知覚、眼球運動を必ずチェックする。それから実際の骨折は分類どおりにきれいには起こらず、左右差があったり複数の型が混ざったりすることも多い。高エネルギー外傷なら頸椎や頭蓋内の損傷も忘れずに評価しよう。深い切創があるときは、顔面神経の断裂や耳下腺管、涙小管の損傷にも注意が必要だ。

まとめ

顔面骨折では、骨折線がどこを走り、その周囲にどの構造があるかを考えると症状を予測できます。上顎骨の下部が水平に分離するLe FortⅠ型骨折では、上顎の歯列を含む骨片がずれるため咬合障害が代表的な症状となり、骨折線が眼窩下孔に及べば眼窩下神経(三叉神経第2枝の終枝)の障害で頬部・上口唇・鼻翼の知覚障害が起こります。複視や眼球陥凹は眼窩底骨折など眼窩の損傷、眼球突出は球後血腫、顔面神経麻痺は側頭骨骨折を示唆するため、眼窩や側頭骨に骨折がなければ考えにくくなります。Ⅱ型・Ⅲ型では眼症状や髄液鼻漏も加わりうるため、型ごとの骨折線と周囲構造を対応させて覚えることが大切です。顔面の感覚は三叉神経、運動は顔面神経という基本を意識すると、外傷の診察で何を確認すべきかが明確になります。

解答・解説

正解はc, eです

所見の整理

18歳の女子で、オートバイ走行中の転倒という高エネルギー外傷である。意識は清明で頭部に外傷はないが、鼻出血がみられる。鼻出血は鼻腔・副鼻腔の粘膜損傷を示し、上顎洞の壁を含む中顔面(顔の中央部分)の骨折を疑う手がかりとなる。

画像の読み取り

顔面骨3D-CT(A)では、左上顎骨に骨折線があり、それが左の眼窩下孔(眼窩の下縁のすぐ下にある小孔)の付近まで達している。一方、鼻骨や眼窩の壁には明らかな骨折を認めない。頭部単純CT(B)でも、眼窩底(眼窩の床)、鼻骨、篩骨洞に異常はなく、頭蓋内にも出血などの所見はない。以上から、眼窩や鼻骨を巻き込まない上顎骨の骨折であり、Le Fort(ル・フォー)Ⅰ型骨折に相当すると判断する。

設問の考え方

骨折した部位の周囲にどのような構造があるかを考えて、起こりうる症状を選ぶ。上顎骨には上顎の歯列が付いているため、骨片がずれると上下の歯のかみ合わせ(咬合)が乱れる。また、骨折線が眼窩下孔に及んでいるので、ここを通る眼窩下神経(三叉神経第2枝=上顎神経の枝)の損傷が起こりうる。逆に、眼窩内の構造(眼球・外眼筋)や側頭骨内を走る顔面神経が障害される根拠は画像上に見当たらない。

選択肢考察

  1. ×a.  複視

    複視(物が二重に見える)は、眼窩底骨折(吹き抜け骨折)で下直筋や周囲の軟部組織が骨折部に挟み込まれて眼球運動が制限される場合や、眼窩の変形で眼球位置がずれる場合に生じる。本例ではCT上、眼窩底を含む眼窩壁に骨折がなく、眼球運動を障害する要因がないため考えにくい。

  2. ×b.  左眼球突出

    外傷による眼球突出は、眼窩内出血(球後血腫)や眼窩容積の減少など眼窩内の病変で起こる。本例では眼窩内に血腫や骨折を示す所見がないため否定的である。なお眼窩底骨折では、眼窩容積が増すためむしろ眼球陥凹をきたすことが多い。

  3. ○c.  咬合障害

    上顎骨には上顎の歯槽突起と歯列が含まれる。Le Fort Ⅰ型骨折では歯槽部を含む上顎下部が骨片として分離・偏位するため、上下の歯のかみ合わせが乱れる咬合障害(開咬など)が生じる。咬合障害は上顎骨骨折や頬骨骨折で最も多くみられる症状であり、本例でも十分に考えられる。

  4. ×d.  左顔面神経麻痺

    外傷性の顔面神経麻痺は、顔面神経が走行する側頭骨の骨折(特に錐体部を横切る横骨折)で起こることが多い。上顎骨骨折に顔面神経麻痺が合併することはきわめてまれ(1%未満の報告)であり、本例のCTでも側頭骨骨折を示す所見はないため考えにくい。

  5. ○e.  左頬部知覚障害

    眼窩下神経は三叉神経第2枝(上顎神経)の終枝で、眼窩底の眼窩下溝・眼窩下管を通って眼窩下孔から顔面に出て、頬部・下眼瞼・鼻翼・上口唇の皮膚感覚を支配する。本例では3D-CTで左眼窩下孔に骨折線が達しており、同神経が圧迫・損傷されて左頬部のしびれや感覚鈍麻が起こりうる。

Le Fort分類(上顎骨骨折の分類)

・Ⅰ型(水平骨折、Guérin骨折):梨状口の下部から上顎洞の前壁・側壁を水平に走り、翼状突起に至る。歯槽部を含む上顎下部が分離する。 ・Ⅱ型(錐体状骨折):鼻骨・上顎骨前頭突起から眼窩内側壁・眼窩底、眼窩下縁付近を経て翼状突起に至る。鼻・上顎が錐体状に分離し、眼窩下神経障害や眼症状、髄液鼻漏を伴いうる。 ・Ⅲ型(頭蓋顔面分離):前頭頬骨縫合・鼻前頭縫合・眼窩を横断し、顔面骨全体が頭蓋から分離する。顔面の延長(馬面様顔貌)、髄液鼻漏などを伴う。 実際の骨折は分類どおりでなく、左右差がある、複数の型が混在するなどの例も多い。

中顔面骨折で注意すべき症状

・咬合障害(上顎骨・頬骨骨折で最も多い) ・眼窩下神経障害による頬部・上口唇・鼻翼の知覚低下 ・眼窩が関わる場合:複視、眼球陥凹、眼球運動障害 ・頬骨骨折:頬部の平坦化、開口障害(頬骨弓骨折が側頭筋や筋突起に当たる) ・鼻出血、Ⅱ・Ⅲ型では髄液鼻漏(頭蓋底骨折の合併)

顔面外傷で見落としやすい損傷

骨折のほかに、顔面神経の断裂(深い切創)、涙小管の断裂、耳下腺管(ステノン管)の損傷にも注意する。神経断裂は顕微鏡下での神経縫合・再建が必要となる。

POINT

・Le Fort Ⅰ型骨折は歯槽部を含む上顎下部の水平骨折で、咬合障害が代表的症状である。 ・骨折線が眼窩下孔に及ぶと眼窩下神経(三叉神経第2枝)障害で頬部の知覚障害が起こる。 ・複視・眼球突出/陥凹は眼窩の損傷、顔面神経麻痺は側頭骨骨折を示唆する。 ・画像では骨折線が眼窩下孔に達しているかどうかを確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。