StudyMed医師国家試験

ネフロンの地図に病名を置け―輸送体から解く尿細管疾患の障害部位

第106回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第13問

糸球体と尿細管の模式図を示す。  尿細管疾患と障害部位の組合せで誤っているのはどれか。

第106回 A問題 第13問の問題画像
  1. a.Fanconi症候群 ―― ①
  2. b.Liddle症候群 ―― ②
  3. c.Bartter症候群 ―― ③
  4. d.Gitelman症候群 ―― ④
  5. e.腎性尿崩症 ―― ⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はネフロンの模式図を使って、遺伝性を中心とした尿細管疾患と障害部位の組合せを確認する問題だ。図の番号は、近位尿細管、Henleループの下行脚、太い上行脚、遠位曲尿細管、集合管の順に対応している。コツは、病名から「どの輸送体の異常か」を思い出し、その輸送体がある区間に当てはめることだよ。
医学生医学生
尿細管疾患は名前が似ていて混乱しがちです。腎臓内科の講義でも、利尿薬と一緒に覚えるといいと言われました。
ドクタードクター
それは非常にいい覚え方だ。順番に行こう。まずFanconi症候群はどこの障害かな。
医学生医学生
近位尿細管です。ブドウ糖やアミノ酸が尿に出てしまう病気でしたよね。
ドクタードクター
正解。近位尿細管は本来、ブドウ糖とアミノ酸をほぼすべて、リンや重炭酸イオン、低分子量蛋白の大部分を再吸収している。そこが全般的に障害されるので、血糖は正常なのに尿糖陽性になる腎性糖尿、汎アミノ酸尿、β2-ミクログロブリンなどの低分子量蛋白尿、低リン血症、近位尿細管性アシドーシスが出る。小児ではくる病、成人では骨軟化症をきたしうる。原因は先天性のシスチン症やWilson病、後天性では多発性骨髄腫の軽鎖や薬剤などだ。この組合せは正しい。
医学生医学生
Bartter症候群は太い上行脚で、ループ利尿薬を飲み続けている状態に似ている、と習いました。
ドクタードクター
その通り。太い上行脚のNa-K-2Cl共輸送体、NKCC2や、それと協調して働くKチャネルやClチャネルの異常で起こる常染色体潜性遺伝の疾患だ。NaClの再吸収が落ちるので体液量が減り、レニン・アルドステロン系が亢進して低カリウム血症と代謝性アルカローシスになる。血圧は正常から低め。太い上行脚ではカルシウムも再吸収しているから、尿中カルシウムが増えて腎石灰化を起こすことがある。乳幼児期の発症が多い。これも正しい組合せだ。
医学生医学生
Gitelman症候群は遠位曲尿細管で、こちらはサイアザイド類似ですね。でもBartterとの違いがいつも曖昧になります。
ドクタードクター
そこは国試頻出だからしっかり押さえよう。Gitelman症候群はサイアザイド感受性のNa-Cl共輸送体、NCCの機能喪失で起こる。低カリウム血症、代謝性アルカローシス、レニン・アルドステロン高値はBartterと共通だけど、低マグネシウム血症と低カルシウム尿症を伴うのが決定的な違いだ。発症も学童期から成人と遅めで、脱力やテタニーで見つかることが多く、比較的軽症だよ。
医学生医学生
尿中カルシウムが、Bartterでは増えて、Gitelmanでは減る。ループ利尿薬とサイアザイドの違いと同じですね。
ドクタードクター
完璧だ。薬理で習った知識がそのまま使える。では腎性尿崩症は?
医学生医学生
ADHが出ているのに集合管が反応しない病気なので、集合管で合っていると思います。
ドクタードクター
正しい。先天性ではX連鎖性のバソプレシンV2受容体遺伝子異常か、アクアポリン2遺伝子異常が原因で、後天性では炭酸リチウムの長期投与、高カルシウム血症、低カリウム血症などで起こる。デスモプレシンを投与しても尿浸透圧が上がらないことで中枢性尿崩症と区別する。
医学生医学生
残るのはLiddle症候群とHenleループ下行脚の組合せですが、Liddleは確かENaCの異常でしたよね。下行脚にENaCがあるとは聞いたことがありません。
ドクタードクター
鋭いね。それが誤りの組合せで、正解だ。Liddle症候群は、集合管の主細胞にあるアミロライド感受性の上皮型Naチャネル、ENaCの機能獲得型変異による常染色体顕性遺伝の疾患で、障害部位は集合管だ。チャネルが細胞膜から分解・除去されにくくなり、Na再吸収が過剰になる。
医学生医学生
Naの再吸収が増えるので、体液量が増えて高血圧になるわけですね。
ドクタードクター
そう。さらにNaが入ると管腔側が電気的に陰性になり、KとHの分泌が促されるから低カリウム血症と代謝性アルカローシスも起こる。体液量過剰のためレニンもアルドステロンも抑制される。見た目はアルドステロン過剰なのにアルドステロンは低い、いわゆる偽性アルドステロン症のひとつだ。
医学生医学生
臨床実習で腎臓内科を回ったとき、若い人の高血圧と低カリウム血症では原発性アルドステロン症をまず考えると教わりましたが、そこでLiddleも鑑別になるんですね。
ドクタードクター
その通り。低カリウム血症と代謝性アルカローシスはレニンとアルドステロンで整理するといい。高血圧でレニン低値・アルドステロン高値なら原発性アルドステロン症。高血圧でレニンもアルドステロンも低ければ、Liddle症候群や甘草による偽性アルドステロン症。血圧が正常から低めでレニンもアルドステロンも高ければ、Bartter、Gitelman、利尿薬、嘔吐を考える。
医学生医学生
Liddleの治療はスピロノラクトンですか。
ドクタードクター
そこが落とし穴だ。アルドステロンを介さずENaC自体が働きすぎている病態だから、アルドステロン拮抗薬のスピロノラクトンは効かない。ENaCを直接ふさぐアミロライドやトリアムテレンを使う。ちなみに下行脚はアクアポリン1を介して主に水を再吸収する区間で、ここを主座とする代表的な遺伝性尿細管疾患は国試レベルでは問われないと考えていいよ。
医学生医学生
区間ごとに輸送体と利尿薬と疾患をセットにしておけば、図の番号が変わっても対応できそうです。
ドクタードクター
まさにそれが狙いだ。近位尿細管ならアセタゾラミドやSGLT2阻害薬、太い上行脚ならループ利尿薬、遠位曲尿細管ならサイアザイド、集合管ならアミロライドやスピロノラクトン。この地図が頭に入っていれば、電解質異常の診療でも迷わなくなる。

まとめ

ネフロンは区間ごとに異なる輸送体をもち、多くの遺伝性尿細管疾患は特定の区間の輸送体異常として理解できます。Fanconi症候群は近位尿細管の全般的な再吸収障害、Bartter症候群は太い上行脚のNKCC2などの異常でループ利尿薬に類似し、Gitelman症候群は遠位曲尿細管のNCC異常でサイアザイドに類似して低マグネシウム血症と低カルシウム尿症を伴います。Liddle症候群は集合管のENaCの機能獲得型変異で、高血圧・低カリウム血症・低レニン・低アルドステロンを呈し、スピロノラクトンではなくアミロライドやトリアムテレンが有効です。腎性尿崩症も集合管のV2受容体やアクアポリン2の異常によるため、Henleループ下行脚を障害部位とする組合せは誤りです。区間・輸送体・利尿薬・疾患を一枚の地図として整理することは、低カリウム血症や高血圧の鑑別など実臨床の電解質診療の基盤になります。

解答・解説

正解はbです

ネフロンは糸球体で濾過された原尿を、近位尿細管 → Henleループ(下行脚・上行脚)→ 遠位尿細管 → 集合管の順に処理し、区間ごとに異なる輸送体が働いている。遺伝性の尿細管疾患の多くは、特定の区間にある特定の輸送体・チャネルの異常として理解できる。 模式図の番号は、①近位尿細管、②Henleループ下行脚、③Henleループ上行脚(太い上行脚)、④遠位尿細管(遠位曲尿細管)、⑤集合管に対応する。 各疾患の原因となる輸送体とその存在部位を思い浮かべ、図の番号と照合すればよい。 ・近位尿細管:ブドウ糖・アミノ酸・リン・HCO3−・低分子量蛋白の再吸収 → Fanconi症候群 ・太い上行脚:Na+-K+-2Cl−共輸送体(NKCC2)→ Bartter症候群 ・遠位曲尿細管:サイアザイド感受性Na+-Cl−共輸送体(NCC)→ Gitelman症候群 ・集合管:上皮型Naチャネル(ENaC)、バソプレシンV2受容体・アクアポリン2 → Liddle症候群、腎性尿崩症 このように整理すると、Liddle症候群の障害部位は集合管(⑤)であり、Henleループ下行脚(②)と組み合わせた選択肢が誤りである。なお、下行脚は主に水の再吸収を担う区間で、ここを主座とする代表的な遺伝性尿細管疾患は国試レベルでは問われない。

選択肢考察

  1. ×a.  Fanconi症候群 ―― ①

    組合せは正しい。Fanconi症候群は近位尿細管(①)の再吸収機能が全般的に障害される病態の総称である。近位尿細管では本来ほぼすべてのブドウ糖・アミノ酸、大部分のリン・HCO3−、低分子量蛋白が再吸収されるため、その障害により腎性糖尿(血糖は正常なのに尿糖陽性)、汎アミノ酸尿、低分子量蛋白尿(β2-ミクログロブリンなど)、リン再吸収率低下による低リン血症、近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)が生じる。小児では低リン血症によるくる病、成人では骨軟化症をきたしうる。原因には先天性(シスチン症、Wilson病など)と後天性(多発性骨髄腫の軽鎖、薬剤、重金属など)がある。

  2. ○b.  Liddle症候群 ―― ②

    この組合せが誤りであり、本問の正解である。Liddle症候群は集合管(皮質集合管の主細胞。遠位尿細管の終末部〜接合尿細管にも分布)に存在するアミロライド感受性の上皮型Naチャネル(ENaC)の機能獲得型変異による常染色体顕性(優性)遺伝疾患で、障害部位は⑤である。ENaCのβまたはγサブユニットの変異により、チャネルが細胞膜から分解・除去されにくくなり、Na再吸収が過剰となる。その結果、体液量が増えて若年発症の高血圧をきたし、Na再吸収に伴う管腔内の電気的陰性化によりK+とH+の分泌が促進され、低カリウム血症と代謝性アルカローシスを生じる。体液量過剰によりレニン・アルドステロンはともに抑制される(偽性アルドステロン症)。治療はENaC阻害薬のアミロライドやトリアムテレンであり、アルドステロンを介さない病態のためスピロノラクトンは無効である。②のHenleループ下行脚は水の透過性が高く、主に水が再吸収される区間であり、Liddle症候群とは関係しない。

  3. ×c.  Bartter症候群 ―― ③

    組合せは正しい。Bartter症候群はHenleループの太い上行脚(③)でのNaCl再吸収障害による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。原因遺伝子としてNa+-K+-2Cl−共輸送体(NKCC2)のほか、管腔側のKチャネル(ROMK)、基底側のClチャネル(ClC-Kb)やその補助サブユニットであるバーチンなどの異常が知られている。ループ利尿薬(フロセミド)を常に服用している状態に似ており、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進を示すが、血圧は正常〜低めである。傍糸球体装置の過形成もみられる。太い上行脚ではCaの傍細胞経路による再吸収も行われるため、尿中Ca排泄は増加し、腎石灰化を伴うことがある。乳幼児期に発症することが多い。

  4. ×d.  Gitelman症候群 ―― ④

    組合せは正しい。Gitelman症候群は遠位曲尿細管(④)のサイアザイド感受性Na+-Cl−共輸送体(NCC、遺伝子SLC12A3)の機能喪失型変異による常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。サイアザイド系利尿薬を服用した状態に類似し、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、レニン・アルドステロンの上昇を示し、血圧は正常〜低めである。Bartter症候群との違いは、低マグネシウム血症(尿中Mg排泄増加)と低カルシウム尿症(尿中Ca排泄減少)を伴う点であり、鑑別に有用である。Bartter症候群より発症年齢が遅く(学童期〜成人)、脱力やテタニーを契機に見つかることが多く、症状は比較的軽い。

  5. ×e.  腎性尿崩症 ―― ⑤

    組合せは正しい。腎性尿崩症は、抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)が十分分泌されているにもかかわらず、集合管(⑤)がこれに反応せず水を再吸収できない病態である。先天性ではバソプレシンV2受容体遺伝子(X連鎖性、男児に多い)またはアクアポリン2遺伝子の変異が原因となる。後天性では炭酸リチウムの長期投与、高カルシウム血症、低カリウム血症、閉塞性尿路疾患などが原因となる。低張多尿と口渇・多飲を呈し、デスモプレシン投与でも尿浸透圧が上昇しないことで中枢性尿崩症と鑑別する。

ネフロンの区間と主な輸送体・関連疾患・類似する利尿薬

・近位尿細管:Na+-ブドウ糖共輸送体(SGLT2)、アミノ酸輸送体、Na+-リン共輸送体、Na+/H+交換輸送体・炭酸脱水酵素(HCO3−再吸収)  関連疾患:Fanconi症候群、近位尿細管性アシドーシス(2型)、腎性糖尿、シスチン尿症  類似する薬剤:アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)、SGLT2阻害薬 ・Henleループ下行脚:水の透過性が高く、アクアポリン1を介して水を再吸収する。溶質はほとんど再吸収しない。 ・Henleループ太い上行脚:NKCC2、ROMK、ClC-Kb。水をほとんど透過しないため尿の希釈と髄質浸透圧勾配の形成に寄与する。Ca・Mgの傍細胞輸送も行う。  関連疾患:Bartter症候群 類似する薬剤:ループ利尿薬 ・遠位曲尿細管:NCC、TRPM6(Mg再吸収)、Ca再吸収  関連疾患:Gitelman症候群、偽性低アルドステロン症2型(Gordon症候群、NCCの活性亢進による高血圧・高カリウム血症)  類似する薬剤:サイアザイド系利尿薬 ・集合管:主細胞のENaC・ROMK(Na再吸収とK分泌、アルドステロンで調節)、V2受容体・アクアポリン2(水再吸収、ADHで調節)、間在細胞のH+-ATPase(酸分泌)  関連疾患:Liddle症候群、偽性低アルドステロン症1型(ENaCやミネラルコルチコイド受容体の機能喪失)、腎性尿崩症、遠位尿細管性アシドーシス(1型)  類似する薬剤:アミロライド・トリアムテレン(ENaC阻害)、スピロノラクトン・エプレレノン(アルドステロン拮抗)

低カリウム血症+代謝性アルカローシスをきたす疾患の整理

・血圧高値でレニン低値・アルドステロン高値:原発性アルドステロン症 ・血圧高値でレニン低値・アルドステロン低値:Liddle症候群、甘草(グリチルリチン)による偽性アルドステロン症、11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型欠損など ・血圧正常〜低値でレニン高値・アルドステロン高値:Bartter症候群、Gitelman症候群、利尿薬使用、嘔吐

POINT

・Fanconi症候群:近位尿細管(汎アミノ酸尿・腎性糖尿・低リン血症・2型RTA) ・Bartter症候群:Henleループ太い上行脚のNKCC2など(ループ利尿薬類似、尿中Ca増加) ・Gitelman症候群:遠位曲尿細管のNCC(サイアザイド類似、低Mg血症・低Ca尿症) ・Liddle症候群:集合管のENaC機能亢進(高血圧・低K血症・低レニン・低アルドステロン、アミロライドが有効) ・腎性尿崩症:集合管のV2受容体またはアクアポリン2の異常(デスモプレシン無効) ・Henleループ下行脚は水再吸収の区間であり、代表的疾患の障害部位としては出題されない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。