StudyMed医師国家試験

網膜は剝がれ、眼底は夕焼けに染まる―メラノサイトを狙う原田病の「急性期」と「回復期」

第106回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第106回 A問題 第14問

Vogt-小柳-原田病でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.豚脂様角膜後面沈着物
  2. b.前房蓄膿
  3. c.雪玉状硝子体混濁
  4. d.漿液性網膜剝離
  5. e.夕焼け状眼底

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、Vogt-小柳-原田病、略して原田病の眼所見を問う問題だ。ぶどう膜炎の所見はどれも似た名前で混乱しやすいけれど、コツは「その病気の炎症がどこで起きているか」と「病期によって所見が変わる」という2点を意識すること。まず、原田病がどんな病気か説明できるかな。
医学生医学生
ぶどう膜炎の一つで、白髪や難聴も出る病気、というくらいの記憶です。
ドクタードクター
そこまで覚えていれば上出来。原田病はメラノサイト、つまり色素細胞を標的にした自己免疫疾患なんだ。メラノサイトは眼の脈絡膜だけでなく、髄膜、内耳、皮膚や毛髪にもいる。だから両眼の汎ぶどう膜炎に加えて、頭痛などの髄膜炎症状、難聴や耳鳴、そして後から白斑や白髪が出てくる。日本人を含むアジア人に多く、HLA-DR4との関連が知られているよ。
医学生医学生
メラノサイトのある場所が全部やられる、と考えると覚えやすいですね。眼科の講義で、サルコイドーシス、Behçet病と並んで日本の三大ぶどう膜炎と習いました。
ドクタードクター
その3つを比べられるかが、この問題の本質だ。原田病の眼の主病変は脈絡膜にある。脈絡膜に強い炎症が起きて分厚く腫れると、何が起こると思う?
医学生医学生
脈絡膜のすぐ内側は網膜色素上皮なので……そこが傷んで、液が網膜の下に漏れるのでしょうか。
ドクタードクター
その通り。網膜色素上皮は脈絡膜と網膜の間のバリアの役目を担っている。そのバリアが破綻すると、脈絡膜からの滲出液が網膜の下にたまって、後極部に多発性の漿液性網膜剝離ができる。これが急性期の最も重要な所見で、正解の一つだ。感冒のような前駆症状のあと、両眼の視力が急に落ちる、という経過が典型だよ。
医学生医学生
臨床実習で眼科を回ったとき、OCTで網膜の下に液がたまっている画像を見せてもらいました。中心性漿液性網脈絡膜症でも同じように見えると言われた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。漿液性網膜剝離そのものは中心性漿液性網脈絡膜症でもみられる。原田病では両眼性・多発性で、OCTでは網膜下液の中に隔壁のような構造が見えたり、脈絡膜が著明に肥厚していたりするのが特徴なんだ。蛍光眼底造影では点状の蛍光漏出が多発する。では、もう一つの正解は何だろう。
医学生医学生
夕焼け状眼底ですね。でも、なぜ夕焼けのように見えるのかまでは説明できません。
ドクタードクター
ここもメラノサイトで考えるとわかる。炎症で脈絡膜のメラノサイトが壊されて色素が抜けると、普段は色素に隠れている脈絡膜血管の赤色が透けて見えるようになる。それで眼底全体が橙赤色、まさに夕焼け空のようになるんだ。発症から数か月後の回復期の所見で、皮膚の白斑や白髪が目立つのと同じ時期だね。
医学生医学生
急性期は網膜剝離、回復期は脱色素で夕焼け状眼底。時期の違う2つの所見が両方正解なんですね。
ドクタードクター
そういうこと。では残りの選択肢を整理しよう。豚脂様角膜後面沈着物と雪玉状硝子体混濁は、どの病気の典型所見だったかな。
医学生医学生
どちらもサルコイドーシスだったと思います。でも原田病も肉芽腫性ぶどう膜炎なので、豚脂様の沈着物は出てもおかしくない気がして迷いました。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。確かに原田病も分類上は肉芽腫性で、遷延・再発して前眼部の炎症が主体になった時期には豚脂様角膜後面沈着物がみられることはある。ただ、初発の急性期の主役はあくまで脈絡膜で、この所見は原田病を特徴づけるものではない。国試ではサルコイドーシスの所見として押さえておこう。雪玉状硝子体混濁は炎症細胞の塊が硝子体に浮かぶもので、下方に数珠状に並ぶと真珠の首飾り状と呼ばれる。これもサルコイドーシスの代表所見だ。
医学生医学生
前房蓄膿はBehçet病ですね。好中球が前房の下にたまって水平な液面をつくる所見だと習いました。
ドクタードクター
正解。Behçet病の眼発作に特徴的で、体位で移動しやすい。感染性眼内炎やHLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎でもみられる。Behçet病は非肉芽腫性で好中球主体の炎症だから、脈絡膜主体の肉芽腫性炎症である原田病とは性質が違うんだ。
医学生医学生
原田病の診断では、眼以外の所見も使うのでしょうか。
ドクタードクター
大事なところだね。髄液検査でリンパ球優位の細胞増多があること、感音難聴があることなどを眼所見と合わせて診断する。治療はステロイドの大量全身投与で、パルス療法を行うことも多く、数か月かけてゆっくり減らす。減量が早すぎると再発して遷延型に移行し、夕焼け状眼底や併発白内障、続発緑内障を起こしやすくなる。ステロイドが効きにくい例ではシクロスポリンや抗TNF-α抗体も使われるよ。
医学生医学生
片眼の外傷のあとに両眼に同じようなぶどう膜炎が起きる病気もありましたよね。
ドクタードクター
交感性眼炎だね。穿孔性眼外傷や内眼手術のあとに両眼性のぶどう膜炎が起こり、漿液性網膜剝離や夕焼け状眼底など原田病とよく似た像を示す。どちらもメラノサイトに対する自己免疫と考えられていて、外傷や手術の既往があるかどうかが区別の手がかりになる。所見の名前を丸暗記するより、炎症の場とメカニズムから理解しておくと、こうした類縁疾患にも応用が利くよ。

まとめ

Vogt-小柳-原田病はメラノサイトを標的とする自己免疫疾患で、両眼性の汎ぶどう膜炎に髄膜炎症状、感音難聴、白斑・白髪などを伴います。眼の主病変は脈絡膜にあり、急性期には網膜色素上皮のバリア破綻による多発性の漿液性網膜剝離が、回復期には脈絡膜の脱色素で血管の赤色が透けて見える夕焼け状眼底がみられます。豚脂様角膜後面沈着物や雪玉状硝子体混濁はサルコイドーシス、前房蓄膿はBehçet病の代表所見として区別して覚えておくことが重要です。治療はステロイドの大量全身投与と緩徐な漸減が基本で、減量が早いと遷延・再発しやすく、外傷後に生じる交感性眼炎とは病歴で鑑別します。三大ぶどう膜炎の所見を「炎症の場」と「病期」で整理する考え方は、眼科診療でぶどう膜炎を鑑別する際の土台になります。

解答・解説

正解はd, eです

Vogt-小柳-原田病(VKH、以下原田病)は、メラノサイト(色素細胞)を標的とする自己免疫疾患である。メラノサイトは眼のぶどう膜(特に脈絡膜)、髄膜、内耳、皮膚・毛髪に分布するため、両眼性の汎ぶどう膜炎に加え、髄膜炎症状(頭痛、髄液細胞増多)、内耳症状(難聴、耳鳴、めまい)、皮膚・毛髪症状(白斑、白髪、脱毛)が出現する。日本人を含むアジア人に多く、HLA-DR4(DRB1*04:05)との関連が知られている。サルコイドーシス、Behçet病とともに日本の三大ぶどう膜炎の一つである。 本問では、各選択肢の所見がどのぶどう膜炎に特徴的かを病期と結びつけて整理することが求められる。 ・急性期(発症〜数週):感冒様の前駆症状(発熱、頭痛、咽頭痛)に続き、両眼の急激な視力低下をきたす。主病変は脈絡膜にあり、脈絡膜の炎症・肥厚によって網膜色素上皮のバリアが破綻し、後極部に多発性の漿液性(滲出性)網膜剝離が生じる。視神経乳頭の発赤・腫脹も伴う。 ・回復期(数か月後):脈絡膜のメラノサイトが破壊されて脱色素が進み、脈絡膜の血管の赤色が透けて見える夕焼け状眼底となる。皮膚の白斑や白髪もこの時期に目立つ。 したがって、急性期の代表所見である漿液性網膜剝離と、回復期の代表所見である夕焼け状眼底が正解となる。一方、豚脂様角膜後面沈着物と雪玉状硝子体混濁はサルコイドーシス、前房蓄膿はBehçet病の典型所見として覚えておく。

選択肢考察

  1. ×a.  豚脂様角膜後面沈着物

    豚脂様角膜後面沈着物は、類上皮細胞やマクロファージを含む大型で脂っぽく見える沈着物で、肉芽腫性ぶどう膜炎の指標となる所見である。代表疾患はサルコイドーシスであり、国試ではサルコイドーシスの特徴として問われる。原田病も分類上は肉芽腫性ぶどう膜炎であり、遷延・再発して前眼部炎症が主体になった時期などに認められることはあるが、初発急性期の主病変は脈絡膜であり、本症を特徴づける所見とはいえない。このため本問では選ばない。

  2. ×b.  前房蓄膿

    前房蓄膿は、前房内に遊走した好中球などの白血球が重力で下方にたまり、水平な液面(ニボー)を形成したものである。Behçet病の眼発作に特徴的で、体位によって移動しやすい。そのほか、細菌・真菌による感染性眼内炎、HLA-B27関連の急性前部ぶどう膜炎、角膜潰瘍などでもみられる。原田病の炎症は脈絡膜が主体の肉芽腫性炎症であり、前房蓄膿は通常みられない。

  3. ×c.  雪玉状硝子体混濁

    雪玉状硝子体混濁は、炎症細胞の集塊が硝子体中に丸い白色の塊として浮遊して見えるもので、サルコイドーシスによるぶどう膜炎の特徴的所見である。下方の硝子体に数珠状に並ぶことが多い(真珠の首飾り状)。原因不明の中間部ぶどう膜炎でもみられる。原田病では急性期に網膜剝離が主体であり、雪玉状混濁は典型的ではない。

  4. ○d.  漿液性網膜剝離

    原田病急性期の最も重要な眼底所見である。脈絡膜の肉芽腫性炎症によって脈絡膜が肥厚し、網膜色素上皮の外側血液網膜関門が破綻すると、脈絡膜からの滲出液が網膜下にたまり、後極部に多発性の漿液性網膜剝離が生じる。光干渉断層計(OCT)では網膜下液と隔壁状構造、脈絡膜の著明な肥厚がとらえられ、フルオレセイン蛍光眼底造影では多発する点状の蛍光漏出とその後の網膜下への色素貯留がみられる。ステロイド大量療法(パルス療法を含む)により速やかに吸収されることが多い。なお、漿液性網膜剝離は中心性漿液性網脈絡膜症などでもみられるが、原田病では両眼性・多発性である点が特徴である。

  5. ○e.  夕焼け状眼底

    原田病の回復期(発症から数か月後)にみられる特徴的な眼底所見である。脈絡膜のメラノサイトが炎症により破壊されて色素が失われると、通常は色素で隠れている脈絡膜血管の赤色が透見されるようになり、眼底全体が夕焼け空のような橙赤色を呈する。皮膚の白斑や白髪と同じく、メラノサイト傷害の結果として生じる脱色素所見であり、急性期の治療が不十分な例や再発を繰り返す例で目立ちやすい。周辺部には網脈絡膜萎縮による斑状の病巣(Dalen-Fuchs斑に相当する小結節の瘢痕)を伴うことがある。

日本の三大ぶどう膜炎の特徴

・サルコイドーシス:肉芽腫性。豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節、隅角結節、テント状周辺虹彩前癒着、雪玉状・真珠の首飾り状の硝子体混濁、網膜静脈周囲炎(静脈周囲の結節性白鞘)。全身では両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、血清ACE・リゾチーム・可溶性IL-2受容体の上昇など。 ・Vogt-小柳-原田病:肉芽腫性、両眼性の汎ぶどう膜炎。急性期は多発性漿液性網膜剝離と視神経乳頭発赤・腫脹、回復期は夕焼け状眼底。眼外症状として髄膜炎(髄液細胞増多)、感音難聴・耳鳴、白斑、白髪、脱毛。 ・Behçet病:非肉芽腫性。前房蓄膿、網膜血管炎・網膜出血を伴う眼発作を繰り返し、視力予後が悪い。全身では口腔内アフタ、外陰部潰瘍、結節性紅斑などの皮膚症状、針反応。HLA-B51と関連。

原田病の診断と治療

・診断:両眼性の漿液性網膜剝離などの眼所見に、髄液細胞増多(リンパ球優位)、難聴などの眼外所見を合わせて行う。OCTでの網膜下液・脈絡膜肥厚、蛍光眼底造影での多発性蛍光漏出が重要である。 ・治療:ステロイドの全身大量投与(パルス療法を含む)を行い、数か月かけて漸減する。減量が早すぎると再発し、遷延型に移行して夕焼け状眼底や併発白内障・続発緑内障などを生じやすい。ステロイド抵抗例ではシクロスポリンや生物学的製剤(抗TNF-α抗体)が用いられる。

交感性眼炎との関係

片眼の穿孔性眼外傷や内眼手術の後に両眼にぶどう膜炎が生じる交感性眼炎は、原田病と非常に類似した病像(漿液性網膜剝離、夕焼け状眼底など)を示す。いずれもメラノサイトに対する自己免疫と考えられており、外傷・手術歴の有無で区別する。

POINT

・原田病はメラノサイトを標的とする自己免疫疾患で、眼(両眼性汎ぶどう膜炎)、髄膜、内耳、皮膚・毛髪が侵される。 ・急性期:多発性の漿液性網膜剝離、視神経乳頭発赤、髄液細胞増多、難聴 ・回復期:夕焼け状眼底、白斑、白髪 ・豚脂様角膜後面沈着物・雪玉状硝子体混濁 → サルコイドーシス ・前房蓄膿 → Behçet病 ・治療はステロイド大量全身投与

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。