「おっかさん」の3拍子が告げるもの―心不全のⅢ音と過剰心音の聴き分け
第106回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
心不全に特徴的な心臓の聴診所見はどれか。
- a.Ⅲ 音
- b.駆出音
- c.大砲音
- d.クリック音
- e.心膜ノック音
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
心不全に特徴的な聴診所見はⅢ音で、心室の充満圧が上昇した状態で拡張早期に血液が急速流入し、心室壁が振動して生じる低調な過剰心音です。Ⅰ音・Ⅱ音に続く3拍子の奔馬調律として聴かれ、心尖部でベル型を用いて聴取しますが、若年者や妊婦、容量負荷のある病態では生理的にも聴かれる点に注意が必要です。ほかの過剰心音は、駆出音が半月弁狭窄や肺高血圧、大砲音が完全房室ブロック、収縮中期クリックが僧帽弁逸脱症、心膜ノック音が収縮性心膜炎と対応し、Ⅳ音は心室の硬さを反映して心房細動では生じません。音の時相と発生源を病態生理と結びつけて整理しておくと、ベッドサイドの聴診から病態を推定する力が身につきます。
解答・解説
正解はaです
本問は、過剰心音・異常心音それぞれがどのような病態で聴かれるかを問う基本問題である。 心音はまず、房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖で生じるⅠ音と、半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖で生じるⅡ音が基本となる。これ以外に聴こえる音を過剰心音と呼び、聴こえるタイミング(収縮期か拡張期か、その早期か後期か)と音の性質から、背景にある病態を推定できる。 心不全では、心室の収縮力低下や拡張障害によって心室の拡張期圧(充満圧)が上昇している。この状態で拡張早期に心房から心室へ血液が急速に流れ込むと、心室壁が急に伸展されて振動し、Ⅱ音のあとに低調な音が生じる。これがⅢ音であり、心不全の代表的な聴診所見である。Ⅲ音にⅠ音・Ⅱ音が続くと3拍子のリズムとなり、馬の駆け足になぞらえて奔馬調律(gallop rhythm)と呼ばれる。 したがって、各選択肢の音が「どの時相に」「どの構造から」生じるかを整理すれば、心不全に結びつくのはⅢ音であると判断できる。
選択肢考察
- ○a. Ⅲ 音
Ⅲ音はⅡ音の約0.12〜0.2秒後、拡張早期の急速充満期に聴かれる低調な過剰心音である。心房から心室へ血液が勢いよく流入し、心室壁が伸展されることで生じる。心不全では左室充満圧が上昇し、硬く拡大した心室へ急速な流入が起こるためⅢ音が出現しやすい。低調音なので聴診器のベル型を心尖部に軽く当てて聴くのがよい。なお、小児や若年者、妊婦、甲状腺機能亢進症、心房中隔欠損症・心室中隔欠損症などの左右短絡で心室への流入血液量が増える病態では、心機能が正常でも生理的Ⅲ音を聴くことがある。中高年で新たにⅢ音が聴かれた場合は心不全を強く疑う。
- ×b. 駆出音
駆出音(ejection sound)はⅠ音の直後、収縮早期に聴かれる高調でクリック様の短い音である。心室から大動脈・肺動脈へ血液が駆出される際、狭窄した半月弁がドーム状に開放しきった瞬間や、拡張した大血管の壁が急に伸展されたときに生じる。弁性大動脈弁狭窄症・弁性肺動脈弁狭窄症(特に弁の可動性が保たれている二尖弁など)、肺高血圧症、大動脈拡張などで聴かれ、心不全に特徴的な所見ではない。心雑音ではなく過剰心音である点にも注意する。
- ×c. 大砲音
大砲音(cannon sound)は、ときおり異常に大きく響くⅠ音のことである。心房と心室が無関係に収縮する状態で、たまたま心房収縮の直後に心室収縮が起こると、房室弁が大きく開いた位置から勢いよく閉鎖するためⅠ音が著しく亢進する。完全房室ブロック(Ⅲ度房室ブロック)や房室解離でみられ、Ⅰ音の強さが拍ごとに変動するのが特徴である。同じ機序で、閉じた三尖弁に向かって右房が収縮すると頸静脈に大きな波(cannon a波)が出現する。心不全に特徴的な所見ではない。
- ×d. クリック音
収縮中期〜後期のクリック音(収縮中期クリック)は僧帽弁逸脱症の代表的所見である。収縮期に僧帽弁尖が左房側へ翻転し、弁尖や腱索が急に緊張することで高調な音が生じる。僧帽弁逆流を伴うとクリックに続いて収縮後期雑音が聴かれる。立位やValsalva法の負荷期で左室容積が減るとクリックは早く出現し、蹲踞で左室容積が増えると遅くなる。心不全に特徴的な所見ではない。
- ×e. 心膜ノック音
心膜ノック音(pericardial knock)は収縮性心膜炎で聴かれる拡張早期の過剰心音である。硬く肥厚した心膜に囲まれた心室では、拡張早期に血液が急速に流入したところで心室の拡張が急に止められ、その際に鋭い音が生じる。時相はⅢ音と近いが、Ⅲ音よりやや早く出現し、より高調で鋭い点が異なる。収縮性心膜炎では心不全に似たうっ血症状を呈するが、本音は収縮性心膜炎に特有の所見であり、一般的な心不全の特徴として問われる音ではない。
心音と過剰心音の整理
Ⅰ音: 房室弁(僧帽弁・三尖弁)の閉鎖音。収縮期の始まりを示す。 Ⅱ音: 半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)の閉鎖音。拡張期の始まりを示す。 Ⅲ音: 拡張早期(急速充満期)。心不全、容量負荷、若年者の生理的Ⅲ音。 Ⅳ音: 拡張後期(心房収縮期、Ⅰ音の直前)。心室が硬く拡張しにくいときに心房が強く収縮して生じる。高血圧性心疾患、肥大型心筋症、大動脈弁狭窄症、急性心筋梗塞などで聴かれ、健常者では通常聴かれない。心房細動では心房収縮がないためⅣ音は生じない。
時相別の過剰心音
収縮早期: 駆出音(半月弁狭窄、肺高血圧、大血管拡張) 収縮中期〜後期: 収縮中期クリック(僧帽弁逸脱症) 拡張早期: 僧帽弁開放音(僧帽弁狭窄症)、心膜ノック音(収縮性心膜炎)、Ⅲ音 拡張後期: Ⅳ音
奔馬調律(gallop rhythm)
Ⅲ音が加わるものを心室性(拡張早期)奔馬調律、Ⅳ音が加わるものを心房性(前収縮期)奔馬調律という。頻脈でⅢ音とⅣ音が重なって一つの大きな音として聴かれるものを重合奔馬調律という。
心不全の身体所見
聴診ではⅢ音のほか、肺うっ血による両側下肺野の水泡音(coarse crackles)が重要である。そのほか頸静脈怒張、肝腫大、下腿浮腫(右心不全)、四肢冷感などをあわせて評価する。
POINT
・心不全に特徴的な聴診所見はⅢ音(拡張早期、低調、心尖部でベル型で聴く)。 ・Ⅲ音は若年者や容量負荷では生理的にも聴かれるが、中高年では心不全を示唆する。 ・駆出音=半月弁狭窄・肺高血圧、大砲音=完全房室ブロック・房室解離、収縮中期クリック=僧帽弁逸脱症、心膜ノック音=収縮性心膜炎。 ・Ⅳ音は心室の硬さ(拡張障害)を反映し、心房細動では聴かれない。
