StudyMed医師国家試験

「心臓が弱いから強心薬」の落とし穴―低心機能に出た心室頻拍への正しい一手

第105回医師国家試験 I問題 第61問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第61問

45歳の男性。動悸を主訴に救急外来を受診した。失神の既往はない。以前から2度にわたる心筋梗塞で入院加療を受けており,最近の心エコー検査による左室駆出率は20%であった。救急外来におけるモニター心電図所見を別に示す。  処置として適切でないのはどれか。

第105回 I問題 第61問の問題画像
  1. a.酸素投与
  2. b.強心薬投与
  3. c.β遮断薬投与
  4. d.抗不整脈薬投与
  5. e.植え込み型除細動器移植術

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、心筋梗塞を繰り返して心機能が大きく落ちた患者さんに出た頻拍の問題だ。まずモニター心電図が何の不整脈かを見極め、次に「この患者さんで避けるべき処置は何か」を考える。背景の心臓の状態がそのまま答えにつながるよ。
医学生医学生
心電図では、普通の洞調律の途中から幅の広いQRSが規則正しく続いて、しばらくすると自然に止まって元に戻っています。心室頻拍でしょうか。
ドクタードクター
そう読めるね。幅の広いQRSが規則的に続く頻拍には、脚ブロックや変行伝導を伴う上室頻拍なども含まれるから、厳密には房室解離などを確認する。でも陳旧性心筋梗塞で左室駆出率20%という器質的心疾患がある人に出たwide QRS頻拍は、まず心室頻拍として扱うのが原則なんだ。
医学生医学生
循環器の講義で「迷ったらVTとして対応する」と教わりました。上室性だと思ってベラパミルを使うと危ない、と。
ドクタードクター
その教えはとても大事だ。心筋梗塞後の瘢痕の周りにはリエントリー回路ができやすく、単形性の心室頻拍の典型的な土台になる。そして今回は30秒未満で自然に止まっているから、非持続性心室頻拍と判断できる。
医学生医学生
自然に止まって失神もないなら、そこまで心配しなくてもいいのでは……と一瞬思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが油断しやすいところ。低心機能の人の心室頻拍は、心室細動に移行して突然死に至る危険が高い。だから治療の方向性は、心筋の酸素需給を保つこと、心室の異常な興奮を抑えること、致死的不整脈による突然死を防ぐこと、の3つだ。逆に、心筋を興奮させる処置は避けなければならない。
医学生医学生
心臓が弱っているなら強心薬で助けてあげたくなりますが、それが「適切でない」ほうなんですね。
ドクタードクター
その通り。ドパミンやドブタミン、アドレナリンといったカテコールアミンやPDEⅢ阻害薬は、細胞内のcAMPやカルシウムを増やして収縮力を上げる。でも同時に心室の自動能や撃発活動を高め、心拍数と酸素消費も増やすから、心室性不整脈を悪化させ、心室細動を誘発しかねない。今回は低心拍出状態を示す所見もないし、強心薬を使う理由がないんだ。
医学生医学生
酸素投与はどうでしょう。息苦しさの記載はないですが。
ドクタードクター
頻拍中は拡張期が短くなり、主に拡張期に流れる冠血流が減る。もともと冠動脈疾患がある人では、虚血がさらに不整脈を誘発する悪循環が起こりうる。救急対応の基本としても、低酸素があれば酸素で心筋への供給を保つのは妥当だよ。
医学生医学生
β遮断薬は心機能を下げそうで、低心機能の人に使っていいのか不安です。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。β遮断薬には陰性変力作用があるから、心不全の急性増悪時や低血圧のときは慎重に扱い、少量から始める。でも交感神経による興奮性を抑えて心室性不整脈を抑制し、心筋梗塞後や左室駆出率の低下した心不全では、長期投与で突然死を含む死亡率を下げることが示されている。長期管理では中心となる薬なんだ。
医学生医学生
抗不整脈薬は薬理学で群分けを覚えるのが大変でした。どれでもいいわけではないですよね。
ドクタードクター
その通り。低心機能では陰性変力作用の少ないアミオダロンが中心で、急性期にはリドカインも使われる。一方、Ⅰc群などのNaチャネル遮断薬は、心筋梗塞後の患者で死亡率を上げたことがCAST試験で示されていて、器質的心疾患では避ける。なお、血行動態が破綻した心室頻拍なら薬ではなく直ちに電気的除細動だ。
医学生医学生
植え込み型除細動器は、ここまで心機能が悪いと必要になりそうですね。
ドクタードクター
そう。植え込み型除細動器は心室頻拍や心室細動を自動で検出し、抗頻拍ペーシングや電気ショックで止める装置だ。心筋梗塞後で左室駆出率が35%以下の人は突然死リスクが高く、非持続性心室頻拍を伴えばさらに危険が増す。抗不整脈薬だけでは突然死を十分に防げないから、急性期を落ち着かせたうえで植え込みを検討すべき症例だよ。
医学生医学生
急性期は酸素や抗不整脈薬で安定させて、長期的にはβ遮断薬と植え込み型除細動器で突然死を防ぐ、という流れですね。
ドクタードクター
よくまとまった。臨床では、低心機能の人が心不全で入院してカテコールアミンが必要になる場面もある。そのときは不整脈の出現に注意しながら必要最小量で使う。また低カリウム血症や低マグネシウム血症、虚血など、不整脈を起こしやすくする要因の是正も忘れずに。心室頻拍を繰り返す場合はカテーテルアブレーション、QRS幅の広い心不全例では両心室ペーシング機能付きの除細動器も選択肢になるよ。
医学生医学生
「心臓が弱いから強心薬」と短絡的に考えず、まず不整脈を悪化させないことを優先する、と肝に銘じます。

まとめ

陳旧性心筋梗塞で左室駆出率が著しく低下した患者に生じた幅の広いQRSの規則的な頻拍は、まず心室頻拍として扱い、30秒未満で自然停止すれば非持続性心室頻拍と判断します。低心機能例の心室頻拍は心室細動へ移行して突然死に至る危険が高く、心筋の興奮性と酸素消費を高めるカテコールアミンやPDEⅢ阻害薬などの強心薬は不整脈を悪化させるため不適切です。酸素投与で心筋虚血を防ぎ、抗不整脈薬は陰性変力作用の少ないアミオダロンを中心に選び、Ⅰc群などのNaチャネル遮断薬はCAST試験の結果から避けます。長期的にはβ遮断薬が突然死を含む死亡率を下げ、左室駆出率35%以下の心筋梗塞後例では植え込み型除細動器による突然死予防を検討します。「心機能が悪いから強心薬」ではなく、不整脈の誘発因子を避けるという視点は、救急と循環器診療の双方で欠かせない判断です。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・45歳男性、動悸で救急受診。失神の既往はない。 ・心筋梗塞(MI)を2回起こしており、左室駆出率(LVEF:1回の収縮で左室内の血液の何%を送り出せるかの指標。正常はおおむね55〜60%以上)は20%と著しく低下している。つまり陳旧性心筋梗塞による高度の低左心機能(虚血性心筋症)の状態である。 ・モニター心電図:洞調律(RR間隔約1,000 ms、心拍数約60/分、幅の狭いQRS)の途中から、幅の広い(wide QRS)単一形態のQRS波が規則正しく連続して出現する。RR間隔はおよそ370〜450 msで、心拍数は約130〜160/分に相当する。この頻拍は数秒〜十数秒続いた後に自然に停止し、再び洞調律に戻っている。

診断へのプロセス

幅の広いQRSが規則的に続く頻拍(wide QRS tachycardia)の鑑別には、心室頻拍(VT)のほか、脚ブロックや変行伝導を伴う上室頻拍、副伝導路を介する頻拍などがある。厳密に心室頻拍と判断するには、心房の電位(P波)とQRSが無関係に出現していること(房室解離)などを確認する必要がある。しかし本例のように、陳旧性心筋梗塞と高度の左室機能低下という器質的心疾患をもつ患者に生じた幅広いQRSの頻拍は、まず心室頻拍と考えて対応するのが原則であり、実際に心室頻拍である確率も非常に高い。心筋梗塞後の瘢痕組織の周囲にはリエントリー回路が形成されやすく、単形性心室頻拍の典型的な基盤となる。 頻拍は30秒未満で自然停止していることから、非持続性心室頻拍(NSVT)と判断できる。

設問の考え方

低心機能に心室頻拍を合併した患者では、心室細動(VF)へ移行して突然死に至る危険が高い。したがって治療の方向性は、(1) 心筋の酸素需給バランスを保ち全身状態を安定させる、(2) 心室の異常な興奮性を抑えて不整脈を抑制する、(3) 致死的不整脈による突然死を防ぐ、の3点である。逆に、心筋の興奮性や酸素消費を高めて不整脈を誘発・悪化させる処置は避けなければならない。 強心薬(カテコールアミンなど)は心筋のβ1受容体刺激やcAMP増加を介して自動能と撃発活動を高め、心室性不整脈を悪化させ心室細動を誘発しうるため、本例の処置として適切でない。

選択肢考察

  1. ×a.  酸素投与

    適切な処置である。頻拍中は拡張期が短くなるため、冠動脈血流(主に拡張期に流れる)が減少し、さらに1回拍出量の低下で冠灌流圧も下がりうる。もともと冠動脈疾患があり心筋虚血を起こしやすい本例では、虚血が不整脈をさらに誘発する悪循環が生じうる。救急対応の基本(気道・呼吸・循環の確保)としても、低酸素血症があれば酸素を投与し、心筋への酸素供給を保つことは妥当である。

  2. ○b.  強心薬投与

    適切でない処置であり、これが正解である。ドパミン、ドブタミン、アドレナリンなどのカテコールアミンや、PDE(ホスホジエステラーゼ)Ⅲ阻害薬などの強心薬は、心筋細胞内のcAMPやCa2+を増やして収縮力を高める一方、心室の自動能や撃発活動を亢進させ、心拍数と心筋酸素消費量も増加させる。その結果、心室期外収縮や心室頻拍を増悪させ、心室細動を誘発する危険がある。本例は失神がなく、頻拍も自然停止しており、強心薬が必要な低心拍出状態を示す記載もない。強心薬を使う積極的な理由はなく、不整脈を悪化させるリスクの方が大きい。ジギタリスも中毒時には心室性不整脈の原因となるため、この場面では用いない。

  3. ×c.  β遮断薬投与

    適切な処置である。β遮断薬は交感神経による心筋の興奮性亢進を抑え、心拍数と心筋酸素消費量を低下させることで、虚血を背景とする心室性不整脈を抑制する。さらに、心筋梗塞後や左室駆出率の低下した慢性心不全(HFrEF)では、β遮断薬(カルベジロール、ビソプロロールなど)の長期投与が突然死を含む死亡率を下げることが示されており、本例の長期管理でも中心となる薬剤である。ただし、陰性変力作用があるため、心不全の急性増悪時や血圧低下時には慎重に扱い、少量から開始するなど投与方法には注意が必要である。

  4. ×d.  抗不整脈薬投与

    適切な処置である。心室頻拍の再発を抑えるために抗不整脈薬を用いる。低心機能例では、心筋収縮を弱める作用(陰性変力作用)が少ない薬剤を選ぶことが重要で、アミオダロン(Ⅲ群)が第一選択となり、急性期にはリドカイン(Ⅰb群)も用いられる。一方、フレカイニドなどⅠc群を中心とするNaチャネル遮断薬は、心筋梗塞後の患者で死亡率を上げたことが大規模試験(CAST)で示されており、器質的心疾患を伴う例では避ける。なお、血行動態が破綻した心室頻拍であれば、薬物ではなく直ちに電気的除細動(カルディオバージョン)を行う。

  5. ×e.  植え込み型除細動器移植術

    適切な処置である。植え込み型除細動器(ICD)は、心室頻拍や心室細動を自動で検出し、抗頻拍ペーシングや電気ショックで停止させる装置である。陳旧性心筋梗塞で左室駆出率が35%以下に低下した患者は突然死のリスクが高く、非持続性心室頻拍を伴う場合はさらに危険が増す。抗不整脈薬のみでは突然死を十分に防げないことが知られており、ICDは突然死予防に最も確実な治療である。わが国の指針でも、冠動脈疾患に伴う非持続性心室頻拍と低左心機能を有し、電気生理検査で持続性心室頻拍や心室細動が誘発される例などがICDの適応とされている。本例は急性期の不整脈を安定させたうえで、ICDの植え込みを検討すべき症例である。

心室頻拍の分類

・持続時間による分類:30秒以上持続するか、30秒未満でも血行動態の破綻により停止処置を要するものを持続性心室頻拍、心室由来の連続(一般に3拍以上、心拍数100/分超)が30秒未満で自然停止するものを非持続性心室頻拍という。 ・波形による分類:QRS波形が一定の単形性(心筋梗塞後の瘢痕を介したリエントリーが代表)と、拍ごとに変化する多形性(急性虚血、QT延長症候群に伴うtorsade de pointesなど)がある。

心室頻拍の急性期治療の流れ

・脈拍なし:心室細動と同様に心肺蘇生と電気的除細動。 ・脈拍あり、血行動態不安定(低血圧、意識障害、胸痛、急性心不全など):同期下カルディオバージョン。 ・脈拍あり、血行動態安定:抗不整脈薬(低心機能例ではアミオダロン、ニフェカラントやリドカインも選択肢)の静注。原因(虚血、電解質異常:低K血症・低Mg血症、薬剤など)の是正も並行して行う。

心筋梗塞後・低心機能例の突然死予防

・薬物:β遮断薬、レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬など心不全の標準治療が基本。抗不整脈薬ではアミオダロンが用いられるが、単独では突然死予防効果は限定的である。Ⅰ群薬(特にⅠc群)は催不整脈作用のため避ける(CAST試験)。 ・非薬物:ICDが最も確実。心室頻拍を繰り返す場合はカテーテルアブレーションで回路を焼灼することもある。心不全を合併し左脚ブロックなどでQRS幅が広い場合は、両心室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)が選ばれる。

強心薬と不整脈

カテコールアミン(ドパミン、ドブタミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)やPDEⅢ阻害薬(ミルリノンなど)は、細胞内cAMPを増やして収縮力を高めるが、同時に心室性不整脈を誘発しやすい。低心機能例に使う場合でも、不整脈の出現に注意しながら必要最小量で用いる。

POINT

・器質的心疾患(陳旧性心筋梗塞、低心機能)をもつ患者の幅広いQRS頻拍は、まず心室頻拍として扱う。 ・30秒未満で自然停止する心室頻拍は非持続性心室頻拍である。 ・心室頻拍に強心薬(カテコールアミン、PDEⅢ阻害薬など)を投与すると不整脈を悪化させ、心室細動を誘発しうるため不適切。 ・低心機能例の抗不整脈薬はアミオダロンが中心で、Ⅰ群薬(特にⅠc群)は避ける。 ・β遮断薬は心筋梗塞後・HFrEFの突然死を減らす。 ・心筋梗塞後でLVEF 35%以下の低心機能では、突然死予防としてICDを検討する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。