StudyMed医師国家試験

その脈の速さは危険信号―アナフィラキシーで「ショック」を見抜く所見

第105回医師国家試験 I問題 第28問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第28問

アナフィラキシーでショック状態を示唆するのはどれか。

  1. a.嘔吐
  2. b.喘鳴
  3. c.鼻汁
  4. d.頻脈
  5. e.膨疹

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、アナフィラキシーで出てくるたくさんの症状の中から「ショック」を示すものを選ぶ問題だ。ポイントは、ショックという言葉を正しく定義できているかどうか。症状を臓器ごとに分けて考えると見通しがよくなるよ。
医学生医学生
選択肢は全部アナフィラキシーで出る症状に見えます。どれも重そうで迷いますね。
ドクタードクター
そうだね、全部アナフィラキシーの症状ではある。だからこそ「ショックとは何か」が決め手になる。ショックをひとことで言うと?
医学生医学生
血圧が下がること…でしょうか。
ドクタードクター
おしいね。本質は、組織への酸素供給が保てなくなった「循環不全」の状態のことだ。血圧低下はその代表的な結果だけれど、定義の中心は循環が破綻していることなんだ。
医学生医学生
救急の講義で「ショックは血圧ではなく循環不全で捉えろ」と言われたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。では、アナフィラキシーでなぜ循環不全が起こるか考えよう。I型アレルギーで肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエン、血小板活性化因子などが一斉に放出されると、血管が拡張して末梢血管抵抗が下がり、さらに血管透過性が高まって血漿が血管外へ漏れ出す。
医学生医学生
血管が広がるうえに中身も減るので、二重に血圧が下がるわけですね。
ドクタードクター
その通り。そこで心臓は心拍数を上げて心拍出量を保とうとする。交感神経による代償だね。だから頻脈は循環動態が崩れかけているサインで、これが正解になる。しかも頻脈は血圧が下がりきる前から現れうるから、早期の警告として価値が高いんだ。
医学生医学生
では嘔吐はどうですか。食物アレルギーの子でよく吐くと小児科実習で聞きました。
ドクタードクター
嘔吐は消化管平滑筋の収縮や粘膜浮腫による消化器症状だ。繰り返す嘔吐や強い腹痛は重症度が高いサインではあるけれど、それ自体は循環不全を意味しない。
医学生医学生
喘鳴は呼吸が苦しくなるので、ショックに近い気がしてしまいました。
ドクタードクター
そこは混同しやすいところだね。呼気性の喘鳴は気管支収縮や気道粘膜の浮腫、吸気性の喘鳴は喉頭浮腫による上気道狭窄を反映する。特に喉頭浮腫は窒息に直結する重篤な徴候で、アドレナリン筋注の適応になる。ただ、障害されているのは気道・呼吸であって循環ではない。重症であることとショックであることは別物なんだ。
医学生医学生
鼻汁と膨疹は、花粉症や蕁麻疹と同じ局所の粘膜・皮膚症状ですね。
ドクタードクター
そう。鼻汁は鼻粘膜の血管透過性亢進や腺分泌の亢進、膨疹は真皮上層の限局性浮腫で、数時間で跡を残さず消える。皮膚症状はアナフィラキシーで最も頻度が高く、気づくきっかけになるけれど、循環不全の所見ではない。逆に皮膚症状がないアナフィラキシーショックもあるから注意が必要だよ。
医学生医学生
つまり、皮膚・呼吸器・消化器・循環器と臓器別に分けて、循環器の所見を拾えばいいんですね。頻脈のほかには血圧低下、末梢冷感、意識障害あたりでしょうか。
ドクタードクター
完璧だ。成人なら収縮期血圧90mmHg未満、または平常時から30%を超える低下が目安とされる。では治療。ショックと判断したらまず何をする?
医学生医学生
抗ヒスタミン薬とステロイドを点滴…ではないですよね。
ドクタードクター
そこはよくある誤りだね。第一選択はアドレナリンの筋注で、0.01mg/kg、成人では最大0.5mgを大腿前外側に打つ。α1作用で血管を締め、β1作用で心収縮力を高め、β2作用で気管支を広げ、化学伝達物質の放出も抑える。効果が不十分なら5〜15分ごとに繰り返す。抗ヒスタミン薬やステロイドはあくまで補助で、アドレナリンの代わりにはならない。
医学生医学生
体位も大事だとOSCEの救急の練習で教わりました。
ドクタードクター
仰臥位で下肢挙上が基本で、急に立たせたり座らせたりしないこと。酸素投与と細胞外液の急速輸液も行う。それから、いったん落ち着いても数時間後に再燃する二相性反応があるので一定時間の観察が必要だ。β遮断薬を飲んでいる人ではアドレナリンが効きにくく、グルカゴンが使われることもある。なお、迷走神経反射などで逆に徐脈になる例も少数あるから、頻脈がないから大丈夫とは言い切れないよ。
医学生医学生
脈が速いのは危険信号、でも遅くても油断しない、ということですね。

まとめ

アナフィラキシーにおけるショックとは循環不全のことであり、血管拡張による末梢血管抵抗の低下と血管透過性亢進による循環血液量の減少から血圧が下がり、代償として頻脈が生じます。頻脈は血圧低下に先立って現れうる早期のサインで、血圧低下・末梢冷感・意識障害とともにショックを示唆します。嘔吐(消化器)、喘鳴(呼吸器)、鼻汁(鼻粘膜)、膨疹(皮膚)もアナフィラキシーの症状ですが、それ自体は循環不全を意味せず、喉頭浮腫のように重篤でも「ショック」とは区別して考えます。治療の第一選択はアドレナリン0.01mg/kg(成人最大0.5mg)の大腿前外側への筋注で、仰臥位・下肢挙上、急速輸液を併せて行い、二相性反応に備えて経過観察します。症状を臓器別に整理して循環の破綻を見抜く視点は、救急の現場で迅速な判断を下すための基本です。

解答・解説

正解はdです

問われていること

アナフィラキシーでみられる多彩な症状のうち、「ショック」すなわち循環不全を示す所見を選べるかを問う問題である。

アナフィラキシーとショック

アナフィラキシーは、アレルゲンなどの曝露後に急速に出現する全身性の重篤な過敏反応である。典型的にはIgE抗体を介したI型アレルギーにより、肥満細胞や好塩基球からヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジン、血小板活性化因子などの化学伝達物質が一斉に放出されて起こる。これらの物質は皮膚・粘膜、呼吸器、消化器、循環器の複数の臓器に作用し、蕁麻疹や血管性浮腫、喘鳴・呼吸困難、腹痛・嘔吐、血圧低下などを引き起こす。 このうち「ショック」とは、組織への酸素供給が保てなくなった循環不全の状態を指す。アナフィラキシーでは、血管拡張による末梢血管抵抗の低下と、血管透過性亢進による血漿成分の血管外漏出(循環血液量の減少)が同時に起こり、血圧が低下する。心臓はこれを補おうとして心拍数を増やすため、頻脈が生じる。つまり頻脈は循環動態が破綻しつつあることを示すサインであり、血圧低下、意識障害、末梢冷感などと並んでショックを示唆する所見となる。 嘔吐・喘鳴・鼻汁・膨疹はいずれもアナフィラキシーの症状ではあるが、それぞれ消化器・呼吸器・鼻粘膜・皮膚の症状であり、それ自体は循環不全を意味しない。

選択肢考察

  1. ×a.  嘔吐

    ショックを直接示唆する所見ではない。化学伝達物質が消化管の平滑筋を収縮させ、粘膜の浮腫を起こすことで、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状が生じる。アナフィラキシーの一症状であり、特に食物アレルギーで出現しやすく、持続する強い腹痛や繰り返す嘔吐は重症度が高いことを示すが、循環不全そのものを表す所見ではない。

  2. ×b.  喘鳴

    ショックを示唆する所見ではない。喘鳴は呼吸器症状であり、呼気性喘鳴(wheeze)は気管支平滑筋の収縮と気道粘膜の浮腫による下気道の狭窄を、吸気性喘鳴(stridor)は喉頭浮腫による上気道の狭窄を反映する。特に喉頭浮腫は窒息に直結するため重篤な徴候であり、アドレナリン筋注の適応となるが、これは気道・呼吸の障害を示すもので、循環不全(ショック)を示すものではない。

  3. ×c.  鼻汁

    ショックを示唆する所見ではない。ヒスタミンなどが鼻粘膜の血管透過性や腺分泌を亢進させ、くしゃみ、鼻汁、鼻閉が生じる。結膜の充血や瘙痒を伴うこともあり、アレルギー性鼻炎(花粉症)に似た局所の粘膜症状である。

  4. ○d.  頻脈

    ショックを示唆する。アナフィラキシーでは血管拡張により末梢血管抵抗が低下し、さらに血管透過性亢進により血漿が血管外へ漏れ出して有効循環血液量が減少する(短時間に循環血液量の相当量が失われることもある)。その結果、血圧低下が起こり、これを代償するために交感神経が興奮して心拍数が増加する。頻脈は血圧が下がりきる前から出現しうるため、循環不全の早期のサインとして重要である。ショックと判断した場合は、ただちにアドレナリンを筋注し、仰臥位(下肢挙上)とし、急速輸液を行う。なお、少数ながら迷走神経反射などにより逆に徐脈を呈する例もある。

  5. ×e.  膨疹

    ショックを示唆する所見ではない。膨疹は、真皮上層の血管透過性亢進による限局性の浮腫で、瘙痒を伴い、数時間以内に跡を残さず消える皮疹である(これが多発した状態が蕁麻疹)。皮膚・粘膜症状はアナフィラキシーで最も高頻度にみられる症状であり、診断のきっかけとして重要であるが、循環不全を示すものではない。逆に、皮膚症状を欠くアナフィラキシーショックもあるため注意を要する。

アナフィラキシーの主な症状(臓器別)

・皮膚・粘膜:全身の蕁麻疹、瘙痒、紅潮、口唇・舌・眼瞼の腫脹(血管性浮腫) ・呼吸器:鼻汁、くしゃみ、嗄声、咳嗽、喘鳴、呼吸困難、低酸素血症 ・消化器:悪心、嘔吐、腹痛、下痢 ・循環器:頻脈、血圧低下、末梢冷感、失神、意識障害、失禁

アナフィラキシーショック

アナフィラキシーのうち血圧低下や意識障害を伴うものをアナフィラキシーショックという。成人では収縮期血圧90 mmHg未満、または平常時の値から30%を超える低下が目安とされる。

主な原因

食物(鶏卵、牛乳、小麦、ピーナッツ、ソバ、甲殻類など)、薬剤(抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬、造影剤、筋弛緩薬など)、ハチ刺傷、ラテックスなど。造影剤などではIgEを介さず肥満細胞が直接活性化される機序もあるが、症状と治療は同じである。

初期治療

1. 第一選択はアドレナリン0.01 mg/kg(最大量は成人0.5 mg、小児0.3 mg)の大腿前外側への筋注。α1作用で血管を収縮させて血圧を上げ、β1作用で心収縮力を高め、β2作用で気管支を拡張し、さらに肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑える。効果が不十分なら5〜15分ごとに反復する。 2. 仰臥位で下肢を挙上する(急に立たせたり座らせたりしない)。 3. 酸素投与、細胞外液の急速輸液。 4. 抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド、β2刺激薬吸入は補助的治療であり、アドレナリンの代わりにはならない。 5. 症状がいったん治まった後に再燃する二相性反応があるため、一定時間の経過観察を行う。β遮断薬内服中の患者ではアドレナリンが効きにくく、グルカゴンが用いられることがある。

POINT

・ショック=循環不全。アナフィラキシーでは血管拡張と血管透過性亢進により血圧低下・頻脈が起こる ・嘔吐(消化器)、喘鳴(呼吸器)、鼻汁(鼻粘膜)、膨疹(皮膚)はアナフィラキシーの症状だが循環不全の所見ではない ・治療の第一選択はアドレナリン筋注(0.01 mg/kg、成人最大0.5 mg、大腿前外側)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。