「膿」の字にだまされない―本当に細菌感染なのは丹毒だけ
第105回医師国家試験 I問題 第23問
国試問題にチャレンジ
急性の細菌感染症はどれか。
- a.丹毒
- b.掌蹠膿疱症
- c.壊疽性膿皮症
- d.急性汎発性膿疱性乾癬
- e.顔面播種状粟粒性狼瘡
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
丹毒は主にA群β溶血性レンサ球菌が真皮浅層に感染して起こる急性の細菌感染症で、発熱とともに顔面や下腿に境界明瞭でやや隆起する鮮紅色の浮腫性紅斑が広がり、ペニシリン系抗菌薬で治療します。一方、掌蹠膿疱症や汎発性膿疱性乾癬の膿疱は無菌性であり、「膿疱=細菌感染」ではありません。壊疽性膿皮症は炎症性腸疾患や血液疾患に合併する無菌性の好中球性皮膚症でパテルギーがあり、顔面播種状粟粒性狼瘡は結核菌との関連が否定的な肉芽腫性疾患です。名称に惑わされず病態で疾患を理解することは、抗菌薬の不要な投与や不適切なデブリドマンを避ける臨床判断に直結します。
解答・解説
正解はaです
皮膚科領域で「膿皮症」「膿疱」「狼瘡」など感染症を連想させる名称をもつ疾患の中から、実際に細菌感染によって急性に起こるものを選ぶ一般問題である。 皮膚疾患の名称には、歴史的経緯から感染症と誤解されやすいものが多い。例えば「膿疱」は膿(好中球の集まり)がたまった皮疹を指すが、膿疱があるからといって細菌感染とは限らず、細菌が検出されない無菌性膿疱をつくる疾患が数多く存在する。また「狼瘡」はもともと皮膚結核(尋常性狼瘡)などに使われた語だが、結核菌が関与しない疾患の名称にも残っている。 選択肢のうち、病原細菌の感染によって急性に発症する疾患は丹毒のみである。丹毒は主にA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)が真皮の浅い層に感染して起こり、急な発熱とともに境界明瞭な紅斑が広がる。そのほかの選択肢は、いずれも無菌性の炎症(免疫学的機序によるもの)または原因が確立していない肉芽腫性疾患であり、細菌感染症ではない。
選択肢考察
- ○a. 丹毒
正しい。丹毒は主にA群β溶血性レンサ球菌による真皮浅層を主体とした急性の細菌感染症である。顔面や下腿に好発し、悪寒・発熱などの全身症状を伴って、熱感・圧痛のある鮮紅色の浮腫性紅斑が急速に拡大する。紅斑はやや盛り上がり、周囲の正常皮膚との境界が明瞭であるのが特徴で、より深い皮下組織まで炎症が及び境界が不明瞭となる蜂窩織炎との区別点となる。血液検査では白血球増多、CRP上昇、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)上昇がみられる。治療はペニシリン系抗菌薬が第一選択である。再発を繰り返すことがあり、リンパ浮腫や足白癬などの皮膚バリアの破綻が誘因となる。
- ×b. 掌蹠膿疱症
細菌感染症ではない。掌蹠膿疱症は手掌・足底に無菌性の小膿疱が多数、慢性・反復性に出現し、紅斑や鱗屑、角化を伴う疾患である。膿疱の内容を培養しても細菌は検出されない。扁桃炎・歯性病巣(虫歯や歯周病)などの病巣感染、喫煙、金属アレルギーが発症・増悪因子として知られ、扁桃摘出や歯科治療、禁煙で改善することがある。これらは病巣感染が免疫反応を介して皮疹を誘発するもので、膿疱そのものが感染巣であるわけではない。胸肋鎖骨間骨化症などの骨関節炎(掌蹠膿疱症性骨関節炎)を合併することがある。
- ×c. 壊疽性膿皮症
細菌感染症ではない。名称に「膿皮症」とあるが、無菌性の好中球浸潤を主体とする炎症性疾患(好中球性皮膚症の一つ)である。下肢など四肢に好発し、膿疱や結節から始まって急速に拡大する有痛性の潰瘍を形成する。潰瘍の辺縁は紫紅色で堀のように掘れ込んでいる(穿掘性)のが特徴である。潰瘍性大腸炎、Crohn病などの炎症性腸疾患、高安動脈炎、関節リウマチ、骨髄異形成症候群などの血液疾患を合併することが多い。治療は副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬などで、抗菌薬は無効である。軽微な外傷や手術を契機に病変が悪化するパテルギー(pathergy)現象がみられるため、安易なデブリドマン(壊死組織の外科的除去)は避ける。
- ×d. 急性汎発性膿疱性乾癬
細菌感染症ではない。汎発性膿疱性乾癬は、発熱などの全身症状とともに全身の潮紅(紅斑)の上に無菌性膿疱が多発する重症の疾患である。尋常性乾癬が先行して経過中に膿疱化するタイプと、先行病変なく新たに発症するタイプがある。IL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の変異などIL-36を中心とした自然免疫の異常が関与する。膿疱内に細菌はなく、表皮内に好中球が集まったKogoj海綿状膿疱が組織学的な特徴である。治療にはレチノイド(エトレチナート)、シクロスポリン、生物学的製剤(TNF-α阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬、IL-36受容体阻害薬など)が用いられる。低カルシウム血症や低アルブミン血症、感染症の続発などを合併し得るため、全身管理が重要である。
- ×e. 顔面播種状粟粒性狼瘡
細菌感染症ではない。顔面播種状粟粒性狼瘡は、主に青壮年の顔面、とりわけ下眼瞼を含む眼囲や頬、鼻周囲に、粟粒大の赤褐色丘疹が多発する慢性の炎症性疾患である。病理組織学的には中心に乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫がみられる。かつては結核菌に対するアレルギー反応による結核疹と考えられ「狼瘡」の名が付いたが、現在は結核菌との関連は否定的で、肉芽腫を形成する酒皶(しゅさ)の近縁疾患とする考えが有力である。数年の経過で瘢痕を残して自然に治癒することが多く、テトラサイクリン系抗菌薬が抗炎症作用を期待して用いられる。
丹毒と蜂窩織炎の比較
・丹毒:主にA群β溶血性レンサ球菌。真皮浅層の感染。境界明瞭でやや隆起する鮮紅色の浮腫性紅斑。顔面・下腿に好発。 ・蜂窩織炎:黄色ブドウ球菌やレンサ球菌。真皮深層〜皮下脂肪組織の感染。境界不明瞭な紅斑・腫脹。下腿に好発。 ・いずれも急性の細菌感染症で、発熱、局所の熱感・疼痛を伴い、抗菌薬で治療する。急速に進行して皮膚の紫斑・水疱・壊死や激痛、ショックを伴う場合は壊死性筋膜炎を疑い、緊急の外科的デブリドマンを考える。
無菌性膿疱をきたす主な疾患
・掌蹠膿疱症 ・膿疱性乾癬(汎発性、限局性) ・角層下膿疱症(Sneddon-Wilkinson病) ・疱疹状膿痂疹(妊娠時に発症する膿疱性乾癬の一型) ・急性汎発性発疹性膿疱症(AGEP:主に薬剤による) ・Behçet病の毛包炎様皮疹
名称に惑わされやすい非感染性皮膚疾患
・壊疽性膿皮症:好中球性皮膚症。炎症性腸疾患や血液疾患に合併する。 ・顔面播種状粟粒性狼瘡:肉芽腫性疾患。結核菌との関連は否定的。 ・(参考)尋常性狼瘡は実際に結核菌による皮膚結核であり、顔面播種状粟粒性狼瘡とは別の疾患である。
皮膚の主な細菌感染症
伝染性膿痂疹(とびひ:黄色ブドウ球菌、A群β溶血性レンサ球菌)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、毛包炎・癤(せつ)・癰(よう)、丹毒、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎など。
POINT
・丹毒=A群β溶血性レンサ球菌による真皮浅層の急性感染症。境界明瞭な浮腫性紅斑、顔面・下腿、治療はペニシリン系。 ・掌蹠膿疱症・膿疱性乾癬の膿疱は無菌性であり、「膿疱=細菌感染」ではない。 ・壊疽性膿皮症は無菌性の好中球性皮膚症で、炎症性腸疾患や血液疾患に合併し、パテルギーがある。 ・顔面播種状粟粒性狼瘡は眼囲の類上皮細胞肉芽腫性丘疹で、結核菌感染症ではない。
