膝が赤く腫れて歩けない8歳―関節でも骨でもない「皮膚の感染」に選ぶ一本の抗菌薬
第119回医師国家試験 D問題 第31問
国試問題にチャレンジ
8歳の女児。膝が痛くて歩けないことを主訴に両親に連れられて来院した。3日前から左膝の痛みが生じ,2日前に発熱を認めた。昨日から左膝が痛くて歩けなくなった。薬剤に対するアレルギーはない。意識は清明。身長125cm,体重27kg。体温37.3℃。脈拍100/分,整。血圧110/60mmHg。呼吸数24/分。咽頭に発赤は認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。左膝の写真を下に示す。左膝の関節可動域に制限を認めない。血液所見:赤血球403万,Hb 11.3g/dL,Ht 35%,白血球14,000(桿状核好中球6%,分葉核好中球67%,好酸球1%,単球12%,リンパ球14%),血小板34万。血液生化学所見:総蛋白6.7g/dL,AST 35U/L,ALT 23U/L,LD 358U/L(基準145~320)。CRP 18mg/dL。膝関節MRIで関節腔や骨髄に異常を認めない。 初期治療で投与すべきなのはどれか。

- a.クラリスロマイシン
- b.クリンダマイシン
- c.セファゾリン
- d.メロペネム
- e.レボフロキサシン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
小児の発熱を伴う膝周囲の痛みでは、蜂窩織炎・化膿性関節炎・急性骨髄炎の鑑別が重要で、関節可動域が保たれ、MRIで関節腔や骨髄に異常がなければ、境界不明瞭な発赤・腫脹を示す蜂窩織炎と判断できます。蜂窩織炎の主な起炎菌はβ溶血性連鎖球菌と黄色ブドウ球菌で、入院治療が必要な場合は両者を確実にカバーする狭域の第1世代セフェム、セファゾリンの静注が初期治療の標準です。メロペネムのような広域薬は温存すべきで、クリンダマイシンは劇症型感染症の併用やβラクタムアレルギー時の代替、マクロライドは耐性率の高さから不適、ニューキノロンは小児に原則禁忌です。改善が乏しい場合はMRSAや膿瘍を考え、強い疼痛や急速な進行があれば壊死性筋膜炎を疑う必要があります。「感染の場所」「起炎菌」「最も狭く確実な薬」の順に考える姿勢は、あらゆる感染症診療の基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・8歳女児。3日前に左膝痛が始まり、2日前に発熱、昨日からは痛みで歩けなくなった。急速に悪化する局所の炎症である。 ・体温37.3℃、脈拍100/分、呼吸数24/分。意識清明で血圧も保たれており、ショックなどの重篤な全身状態ではない。 ・写真では左膝の周囲に境界の不明瞭な発赤・腫脹が広がっている。 ・白血球14,000/μLと増加し、好中球(桿状核+分葉核)が73%と優位、CRP 18mg/dLと著明に上昇しており、細菌感染症を強く示唆する。 ・薬剤アレルギーはない。
鑑別診断のプロセス
小児の発熱を伴う膝の痛み・発赤では、皮膚・皮下組織の感染(蜂窩織炎)、関節内の感染(化膿性関節炎)、骨の感染(急性骨髄炎)を区別することが重要である。 ・化膿性関節炎では関節内に膿が貯留し、関節を少し動かすだけで激痛が走るため、可動域が著しく制限される。本症例は可動域制限がなく、MRIで関節腔に異常(関節液貯留など)もないため否定的である。 ・急性骨髄炎は小児では長管骨の骨幹端に好発し、MRIで骨髄の信号変化として早期に描出される。本症例は骨髄に異常がなく否定的である。 ・したがって、炎症の主座は関節や骨ではなく皮膚・皮下組織にあり、蜂窩織炎と診断できる。歩けないのは、膝周囲の皮下の炎症による疼痛のためと考えられる。
治療薬選択の考え方
蜂窩織炎の主な起炎菌は、A群β溶血性連鎖球菌(化膿レンサ球菌)を中心とするβ溶血性連鎖球菌と黄色ブドウ球菌である。この2菌種を確実にカバーし、かつ不必要に広域でない抗菌薬を選ぶのが原則である。痛みで歩行できず、発熱とCRP高値を伴うことから、入院のうえ経静脈的に治療するのが妥当であり、第1世代セフェム系のセファゾリン静注が初期治療の標準的選択となる。広域抗菌薬の安易な使用は耐性菌の出現や腸内細菌叢の破綻を招くため避ける。
選択肢考察
- ×a. クラリスロマイシン
マクロライド系抗菌薬で、マイコプラズマ、クラミジア、百日咳菌などの非定型病原体による感染症や、ヘリコバクター・ピロリ除菌、非結核性抗酸菌症(リファンピシン・エタンブトールとの併用)に用いられる。わが国ではA群連鎖球菌や黄色ブドウ球菌のマクロライド耐性率が高く、蜂窩織炎の初期治療として、特に静注治療が必要な中等症以上に選択する薬ではない。
- ×b. クリンダマイシン
リンコマイシン系(リンコサミド系)抗菌薬で、連鎖球菌、黄色ブドウ球菌(一部の市中感染型MRSAを含む)、嫌気性菌に抗菌力をもつ。細菌の蛋白合成を阻害して毒素産生を抑える作用があり、劇症型A群連鎖球菌感染症や壊死性筋膜炎ではβラクタム系薬に併用される。βラクタム系薬にアレルギーがある場合の代替薬にもなるが、本症例はアレルギーがなく、耐性菌の存在やClostridioides difficile感染症(偽膜性腸炎)の誘発リスクもあるため、通常の蜂窩織炎の第一選択ではない。
- ○c. セファゾリン
第1世代セフェム系抗菌薬で、蜂窩織炎の主要な起炎菌であるメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)とβ溶血性連鎖球菌の両方に良好な抗菌力をもち、スペクトラムが比較的狭い。小児でも安全に使用でき、薬剤アレルギーもないため、静注による初期治療に最も適している。治療開始後に改善が乏しい場合や、膿瘍形成・MRSA保菌歴などがある場合には、MRSAを考慮して抗菌薬の変更・追加(バンコマイシンなど)や切開排膿を検討する。
- ×d. メロペネム
カルバペネム系の広域抗菌薬で、グラム陽性菌・グラム陰性菌(緑膿菌を含む)・嫌気性菌まで幅広く覆う。蜂窩織炎の起炎菌(MSSA、連鎖球菌)にも効くが、必要以上に広域であり、耐性菌の誘導を避けるため、重症の院内感染、発熱性好中球減少症、耐性グラム陰性桿菌感染症など、本当に必要な場面のために温存すべき薬である。なおMRSAには無効である。
- ×e. レボフロキサシン
ニューキノロン系抗菌薬で、呼吸器感染症(レジオネラや肺炎球菌を含む)、尿路感染症、緑膿菌感染症などに用いられる広域抗菌薬である。蜂窩織炎の第一選択ではなく、さらに動物実験で幼若動物の関節軟骨障害が報告されていることから、わが国の添付文書では小児への投与は原則として禁忌とされている(炭疽などの例外を除く)。
蜂窩織炎(蜂巣炎)
真皮深層から皮下脂肪組織に及ぶ急性の細菌感染症である。小さな外傷、虫刺され、湿疹や足白癬などの皮膚バリア破綻部位から細菌が侵入して発症する。 ・症状:境界不明瞭な発赤、腫脹、熱感、圧痛、発熱。 ・起炎菌:β溶血性連鎖球菌(特にA群)、黄色ブドウ球菌。 ・丹毒との違い:丹毒はより浅い真皮の感染で、主にA群連鎖球菌による。境界明瞭で隆起した鮮紅色の紅斑を呈し、顔面に多い。 ・注意すべき鑑別:壊死性筋膜炎(皮膚所見に比べて不釣り合いに強い疼痛、急速な進行、紫斑・水疱、ショック。緊急のデブリードマンが必要)、化膿性関節炎、骨髄炎、深部静脈血栓症など。
治療
・軽症で全身状態が良好なら、経口のセファレキシン(第1世代セフェム)や広域でないペニシリン系などで外来治療。 ・発熱、広範な病変、歩行困難などを伴う場合は入院し、セファゾリン静注などで治療する。 ・患部の安静・挙上、冷却も補助的に有効である。 ・膿瘍形成があれば切開排膿を行う。MRSAが疑われる場合はバンコマイシンなどを用いる。
小児の発熱を伴う関節周囲の痛みの鑑別
・化膿性関節炎:関節の腫脹・熱感、可動域の著明な制限、関節液の混濁。関節破壊を防ぐため緊急の関節穿刺・排膿と抗菌薬投与が必要。 ・急性骨髄炎:長管骨骨幹端に好発。単純X線の変化は発症後10日〜2週間程度遅れて現れるため、早期診断にはMRIが有用。 ・蜂窩織炎:関節可動域は保たれ、画像で関節腔・骨髄に異常がない。
抗菌薬の主な特徴
・セファゾリン(第1世代セフェム):MSSA・連鎖球菌。皮膚軟部組織感染症や術後感染予防に用いる。 ・クリンダマイシン(リンコマイシン系):グラム陽性球菌・嫌気性菌。毒素産生抑制作用。偽膜性腸炎に注意。 ・クラリスロマイシン(マクロライド系):非定型病原体、ピロリ除菌、非結核性抗酸菌症。 ・メロペネム(カルバペネム系):極めて広域。重症・耐性菌感染症に温存する。 ・レボフロキサシン(ニューキノロン系):広域。小児には原則禁忌。
POINT
・発熱、局所の発赤・腫脹があっても、関節可動域が保たれ、MRIで関節腔・骨髄に異常がなければ蜂窩織炎を考える。 ・蜂窩織炎の起炎菌はβ溶血性連鎖球菌と黄色ブドウ球菌。 ・初期治療は両者をカバーする狭域の第1世代セフェム(静注ならセファゾリン、経口ならセファレキシン)。 ・カルバペネムなどの広域抗菌薬を安易に使わない。 ・ニューキノロン系は小児に原則禁忌。
