StudyMed医師国家試験

境界くっきり、熱く光る頬―「深さ」で見分ける丹毒と蜂窩織炎

第120回医師国家試験 D問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第24問

50歳の女性。顔面の皮疹を主訴に来院した。3日前から38℃台の発熱,悪寒を認め,顔面に熱感を伴う皮疹が出現し,急速に両側に拡大した。右耳後部リンパ節の腫大を認めた。血液所見:赤血球458万,Hb 12.5g/dL,白血球12,100,血小板34万。CRP 7.8mg/dL。右顔面の皮疹の写真を下に示す。  最も考えられる診断はどれか。

第120回 D問題 第24問の問題画像
  1. a.せつ
  2. b.丹毒
  3. c.ひょう疽
  4. d.ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
  5. e.蜂窩織炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔面に急に広がった赤い皮疹から、細菌性皮膚感染症の病名を絞り込む問題だ。注目してほしいのは、皮疹より先に出た全身症状と、紅斑の「境界」と「広がり方」。この2つで答えがかなり決まるよ。まず、全体像をどう捉えたかな。
医学生医学生
高熱と悪寒、白血球とCRPの上昇、耳の後ろのリンパ節腫大がそろっているので、細菌感染だと思いました。
ドクタードクター
いいね。所属リンパ節が腫れているのは、顔面の病変から流れ込むリンパの反応と考えられる。では、細菌性の皮膚感染症で候補になるのは?
医学生医学生
皮膚科の講義で、丹毒と蜂窩織炎はよく比べられると習いました。ただ、正直どちらも「赤く腫れて熱い」で区別がつきません。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だ。両者を分けるのは炎症が起こる深さなんだ。丹毒は真皮の浅いところとリンパ管の感染で、主な原因菌はA群β溶血性レンサ球菌。炎症が浅いから、皮膚面より少し盛り上がった、光沢のある浮腫性紅斑になり、周りの正常皮膚との境界がくっきりする。
医学生医学生
蜂窩織炎のほうはもっと深い、ということですね。
ドクタードクター
そう。蜂窩織炎は真皮深層から皮下脂肪組織の感染で、黄色ブドウ球菌が代表、レンサ球菌も原因になる。深いところの炎症は表面から見るとぼんやり広がるから、紅斑の境界は不明瞭になりやすい。写真では頬に鮮紅色でつやのある浮腫性紅斑があって、境界がはっきりしている。これは丹毒の見え方だね。
医学生医学生
しかも片側から両側の頬へ一気に広がっていますね。SLEの蝶形紅斑を一瞬思い浮かべました。
ドクタードクター
鋭い連想だ。丹毒は顔では片頬から鼻を越えて反対側へ広がり、蝶形に近い分布になることがある。ただSLEの蝶形紅斑は熱感や圧痛に乏しく、経過もゆっくり。悪寒を伴う高熱で突然始まり、熱くて痛い紅斑が数日で広がるのは丹毒の典型的な経過なんだ。だから最も考えられるのは丹毒になる。
医学生医学生
蜂窩織炎は除外してよいのでしょうか。
ドクタードクター
この問題では、境界明瞭で急速に拡大する点から丹毒の像により合う、と判断する。ただ実際の診療では両者が重なる例も多く、はっきり分けられないこともある、とは知っておいてほしい。残りの選択肢も見ておこう。せつはどうかな。
医学生医学生
毛包炎が深くなって硬結を伴う、毛穴に一致した赤い結節ですよね。中心に膿栓があるイメージです。
ドクタードクター
その通り。主に黄色ブドウ球菌による1つの毛包の深い化膿で、隣り合う複数の毛包に及ぶと癰になる。局所の結節だから、顔全体に広がる紅斑や38℃台の全身性発熱は普通示さない。ひょう疽は?
医学生医学生
指先の化膿でしたっけ。臨床実習の外科外来で、ささくれから指が腫れた患者さんを見ました。
ドクタードクター
そう、手指や足趾の末節の化膿性炎症の総称で、拍動性の痛みが特徴だ。顔面には使わない病名だね。最後にブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群はどうだろう。
医学生医学生
乳幼児に多くて、表皮剝脱毒素でNikolsky現象が陽性になる病気だったと思います。
ドクタードクター
よく覚えているね。毒素がデスモグレイン1を切断し、口囲の放射状亀裂から全身に熱傷様の紅斑と表皮剝離が広がる。成人では腎機能障害や免疫不全がない限りまれだ。今回は健常な成人で、表皮剝離もないから合わない。
医学生医学生
皮膚の細菌感染症は、どの深さの病気かで整理すると覚えやすそうですね。
ドクタードクター
まさにそれがおすすめ。浅い順に、伝染性膿痂疹が表皮、毛包炎からせつ・癰が毛包、丹毒が真皮浅層、蜂窩織炎が真皮深層から皮下、そして最も深いのが壊死性筋膜炎だ。見た目に比べて痛みが強すぎる、紫斑や水疱、壊死が出る、全身状態が急に悪くなる、というときは壊死性筋膜炎を疑って、緊急のデブリードマンを考える必要がある。
医学生医学生
丹毒の治療はペニシリンでよいですか。
ドクタードクター
レンサ球菌が主体だから、ペニシリン系抗菌薬が第一選択になる。症状が落ち着いても再燃を防ぐため10〜14日程度は続けるのが一般的だ。それから、治療後は溶連菌感染後急性糸球体腎炎に注意して尿所見を確認しておこう。ASOの上昇も診断の参考になる。リンパ浮腫があると同じ場所に繰り返す習慣性丹毒もあるから、足白癬の亀裂など入り口の管理も大切だよ。

まとめ

悪寒を伴う高熱で突然発症し、熱感と光沢のある境界明瞭な浮腫性紅斑が顔面で急速に広がり、所属リンパ節腫大や炎症反応上昇を伴う場合は丹毒を考えます。丹毒は主にA群β溶血性レンサ球菌による真皮浅層の感染症で、炎症が浅いため境界が明瞭になるのに対し、真皮深層から皮下に及ぶ蜂窩織炎では境界が不明瞭になりやすい点が鑑別の要です。せつは毛包の深い化膿、ひょう疽は指先の化膿、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は乳幼児に多い表皮剝離とNikolsky現象が特徴で、いずれも本例の像とは合いません。治療はペニシリン系抗菌薬が第一選択で、治療後は溶連菌感染後急性糸球体腎炎に注意します。皮膚細菌感染症を「炎症の深さ」で整理する視点は、壊死性筋膜炎のような緊急疾患を見逃さないためにも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・50歳女性。3日前に38℃台の発熱と悪寒で急に発症し、それに続いて顔面に熱感を伴う皮疹が出現した。皮疹は短期間で両側の頬へ広がっている。 ・右耳後部リンパ節が腫れており、顔面の病変から流れ込む所属リンパ節の反応と考えられる。 ・白血球12,100/μLと増加し、CRP 7.8mg/dLと高値である。細菌感染による急性炎症に合う。 ・写真では、顔面に光沢のある鮮紅色の浮腫性紅斑がみられ、周囲の正常皮膚との境界がはっきりしている。

診断へのプロセス

高熱・悪寒といった全身症状、熱感を伴う紅斑、所属リンパ節腫大、炎症反応上昇がそろっており、まず急性の細菌性皮膚感染症を考える。候補は丹毒と蜂窩織炎である。両者を分けるのは、炎症の起こる深さと、それによる紅斑の見え方である。 ・丹毒は真皮の浅いところ(およびリンパ管)の感染症で、主な原因菌はA群β溶血性レンサ球菌である。炎症が浅いため、皮膚面よりやや盛り上がった、光沢のある浮腫性紅斑となり、境界が明瞭になる。顔面と下腿に多く、顔面では片側の頬から鼻を越えて反対側へ広がり、蝶形に近い分布になることがある。悪寒を伴う高熱で突然始まるのが典型である。 ・蜂窩織炎(蜂巣炎)は真皮深層から皮下脂肪組織の感染症で、主な原因菌は黄色ブドウ球菌である(レンサ球菌も原因となる)。炎症が深いため、紅斑の境界は不明瞭になる。 本例は、悪寒を伴う発熱で突然発症し、境界明瞭な浮腫性紅斑が顔面で急速に両側へ広がっていることから、丹毒と診断する。

設問の考え方

「顔面」「発熱・悪寒が先行」「急速に拡大する境界明瞭な浮腫性紅斑」「所属リンパ節腫大」の組み合わせが丹毒の決め手である。毛包に限った結節(せつ)、指先の感染(ひょう疽)、表皮が剝がれる毒素性疾患(SSSS)は、病変の部位や性状が合わない。

選択肢考察

  1. ×a.  せつ

    せつ(癤)は、1つの毛包とその周囲に起こる深い化膿性炎症で、主に黄色ブドウ球菌が原因である。毛包炎(毛孔に一致した小さな紅色丘疹・膿疱)が悪化して硬結を伴うようになり、毛孔に一致した有痛性の紅色結節となる。中心に膿栓をもち、やがて自潰・排膿する。隣り合う複数の毛包に及んだものは癰(よう)とよぶ。病変は局所の結節であり、本例のように顔面に広がる浮腫性紅斑や38℃台の全身性発熱をふつうは示さないので、誤りである。

  2. ○b.  丹毒

    丹毒は、主にA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)による真皮浅層の感染症で、顔面と下腿に好発する。悪寒を伴う高熱で突然発症し、熱感と圧痛の強い、光沢のある境界明瞭な浮腫性紅斑が急速に拡大する。所属リンパ節腫脹や白血球増加・CRP上昇を伴うことが多く、表面に水疱ができることもある。本例の発熱・悪寒の先行、顔面で両側に広がる境界明瞭な浮腫性紅斑、耳後部リンパ節腫大、炎症反応上昇はいずれも丹毒に一致するので、正しい。

  3. ×c.  ひょう疽

    ひょう疽(瘭疽)は、手指や足趾の末節に起こる化膿性炎症の総称で、爪の周りの化膿性炎症(化膿性爪囲炎)が代表的である。小さな外傷やささくれ、深爪などから黄色ブドウ球菌やレンサ球菌が入って起こり、指先が赤く腫れて拍動性の痛みを生じる。顔面には起こらない病名なので、誤りである。

  4. ×d.  ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群

    ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(staphylococcal scalded skin syndrome:SSSS)は、黄色ブドウ球菌が産生する表皮剝脱毒素(exfoliative toxin)が血流にのって全身の皮膚に届き、表皮の細胞どうしをつなぐデスモグレイン1を切断することで起こる。乳幼児に好発し、発熱とともに口や眼の周りの発赤から始まり、口囲の放射状の亀裂や痂皮がみられる。その後、全身に熱傷のような有痛性の紅斑、弛緩性水疱、表皮剝離・びらんが広がり、Nikolsky現象(一見正常な皮膚をこすると表皮が剝がれる)が陽性になる。成人では腎機能障害や免疫不全がある場合を除いてまれである。本例は50歳の健常成人で、顔面に限った浮腫性紅斑であり、表皮剝離もないので、誤りである。

  5. ×e.  蜂窩織炎

    蜂窩織炎(蜂巣炎)は、真皮深層から皮下脂肪組織に起こる細菌感染症で、主な原因菌は黄色ブドウ球菌である(レンサ球菌も原因となる)。下肢に多く、顔面にも起こる。発赤・腫脹・熱感・疼痛を生じ、発熱を伴うこともある。ただし炎症の主座が深いため、紅斑の境界は不明瞭で、丹毒ほど急速に拡大しないことが多い。本例は境界明瞭で光沢のある浮腫性紅斑が急速に両側へ広がっており、丹毒の像により合うので、誤りである。なお、実際の診療では両者が重なり合う例も多く、はっきり区別できないこともある。

皮膚細菌感染症の深さによる整理

・伝染性膿痂疹(とびひ):表皮(角層下)。黄色ブドウ球菌による水疱性膿痂疹と、レンサ球菌による痂皮性膿痂疹がある。 ・毛包炎 → せつ → 癰:毛包とその周囲。主に黄色ブドウ球菌。 ・丹毒:真皮浅層とリンパ管。主にA群β溶血性レンサ球菌。境界明瞭。 ・蜂窩織炎:真皮深層から皮下脂肪組織。主に黄色ブドウ球菌。境界不明瞭。 ・壊死性筋膜炎:浅筋膜とその周囲。A群レンサ球菌、または複数の菌の混合感染。皮膚所見に比べて痛みが強すぎる、紫斑・水疱・壊死、急速な進行、全身状態の悪化があれば疑い、緊急でデブリードマン(壊死組織の切除)を行う。

丹毒の要点

・誘因:鼻腔・耳・口の周りの小さな傷、足白癬の亀裂などが細菌の入り口になる。リンパ浮腫があると同じ部位に再発しやすい(習慣性丹毒)。 ・検査:白血球増加、CRP上昇、ASO(抗ストレプトリジンO抗体)上昇。皮膚から原因菌が検出されることは少ない。 ・治療:ペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン内服、重症ならアンピシリンなど点滴)が第一選択である。症状が治まっても再燃を防ぐため10〜14日程度投与を続ける。レンサ球菌感染後の急性糸球体腎炎に注意し、治療後に尿所見を確認する。 ・顔面の鑑別:全身性エリテマトーデスの蝶形紅斑(発熱があっても熱感や圧痛は乏しく、経過はゆっくり)、接触皮膚炎(かゆみが主体で発熱がない)、帯状疱疹(神経の支配領域に沿って片側に小水疱が集まる)など。

POINT

・丹毒=A群β溶血性レンサ球菌による真皮浅層の感染症。顔面・下腿に好発する。 ・悪寒を伴う高熱で突然発症し、光沢のある境界明瞭な浮腫性紅斑が急速に拡大する。所属リンパ節腫脹を伴う。 ・蜂窩織炎は真皮深層〜皮下組織の感染症で、紅斑の境界は不明瞭。主な原因菌は黄色ブドウ球菌。 ・治療はペニシリン系抗菌薬。治療後は溶連菌感染後急性糸球体腎炎に注意する。 ・せつ=毛包の深い化膿、ひょう疽=指先の化膿、SSSS=乳幼児で表皮剝離・Nikolsky現象陽性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。