StudyMed医師国家試験

男性医師と女性患者、二人きりの診察室―診察の質を守る「シャペロン」という答え

第105回医師国家試験 H問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第29問

28歳の女性。息切れと下腿浮腫とを主訴に一人で来院した。診察室は男性医師一人である。  診察に際し,対応として適切なのはどれか。

  1. a.身体診察は行わない。
  2. b.血圧と脈拍のみ測定する。
  3. c.衣類の上から診察をする。
  4. d.胸部の聴診は背部のみ行う。
  5. e.女性の看護師を同席させて診察をする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医学的な診断そのものではなく、異性の患者さんを診察するときにどう配慮するかを問う問題だ。ポイントは「患者さんへの配慮」と「必要な診察の質」をどう両立させるか。まず、息切れと下腿浮腫という訴えから、どんな診察が必要になるか考えてみよう。
医学生医学生
心不全をまず考えるので、心音と肺音の聴診、頸静脈怒張、下腿の浮腫の確認は欠かせないと思います。
ドクタードクター
いいね。ほかにもネフローゼ症候群などの腎疾患、肝疾患、甲状腺機能低下症、深部静脈血栓症、肺高血圧症、若い女性なら妊娠関連の病態や周産期心筋症、貧血も鑑別に挙がる。だから胸部、頸部、腹部、下肢をしっかり診る必要があるんだ。
医学生医学生
でも男性医師一人だと、患者さんが嫌がるかもしれないので、診察は控えめにした方がいい気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。異性であることは、必要な診察を省略したり簡略化したりする理由にはならない。身体診察をまったく行わないのは論外で、心不全や腎疾患のような重要な病気を見逃すおそれがある。
医学生医学生
血圧と脈拍だけ測る、というのも同じ理由でだめですね。
ドクタードクター
その通り。バイタルサインは大切だけど、それだけでは心音や肺音、頸静脈怒張、肝腫大、浮腫の性状といった情報が得られない。診察範囲を狭めることは、配慮したことにはならないんだ。
医学生医学生
衣類の上から聴診するのはどうでしょう。OSCEの練習では、服を着たまま聴診器を当てて注意された同級生がいました。
ドクタードクター
まさにその理由で不適切だよ。服越しだと衣擦れの音が入って、微弱な心雑音やラ音を聞き逃しやすい。下腿浮腫も、皮膚を直接見て指で押し、圧痕が残るかどうかを確かめる必要がある。聴診や浮腫の評価は、直接肌に触れて行うのが原則だ。
医学生医学生
背中だけ聴診すれば、胸を出さなくて済むと思ったんですが……。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、背部から聴けるのは主に肺の音だ。心臓の各弁領域での心音や心雑音は、前胸部に聴診器を当てないと評価できない。心不全が鑑別の上位にあるこの症例で、前胸部の聴診を省くのは不適切だね。
医学生医学生
では、女性の看護師さんに同席してもらって、きちんと診察するのが正解ですね。
ドクタードクター
正解。異性の患者さんの診察に立ち会う第三者をシャペロンと呼ぶ。女性看護師が同席することで患者さんの羞恥心や不安が和らぐし、密室で二人きりになる状況を避けられる。そのおかげで、胸部や下肢を露出した必要十分な診察が行えるんだ。
医学生医学生
患者さんのためだけでなく、医師側を守る意味もあるんですか。
ドクタードクター
そう、それも大事な目的だ。シャペロンには、患者さんの安心とプライバシーの保護、診察手技の補助、そして医療者が不当な疑いをかけられたときの証人になる、という役割がある。双方を誤解やトラブルから守る仕組みなんだ。
医学生医学生
産婦人科の実習でも、男性の先生が内診するときは必ず看護師さんが付いていました。
ドクタードクター
産婦人科や泌尿器科では特に重視されるね。乳房や外陰部、直腸の診察は、同性の医師であってもシャペロンを考慮する場面がある。あわせて、診察の目的と脱衣が必要な理由を事前に説明して同意を得ること、露出は必要な部位に限ってタオルや掛け物で覆うこと、カーテンで仕切って更衣の時間とスペースを確保することも基本だ。
医学生医学生
配慮というのは診察を減らすことではなく、やり方を工夫することなんですね。
ドクタードクター
その通り。診察の質を落とさず、患者さんの尊厳を守る方法を選ぶ。研修医になると忙しくて省略したくなる場面もあるけど、看護師さんに一声かける習慣は自分自身を守ることにもつながるよ。

まとめ

男性医師が女性患者を診察する際は、女性看護師などの同性スタッフを同席させる(シャペロン)ことで、患者の羞恥心や不安を和らげつつ、密室で二人きりになる状況を避けて医師・患者双方をトラブルから守ることができます。息切れと下腿浮腫では心不全、腎疾患、肝疾患、甲状腺機能低下症、深部静脈血栓症など幅広い鑑別が必要で、前胸部の聴診や浮腫の圧痕確認など、着衣を除いた直接の診察が欠かせません。診察を省く、バイタルサインだけにする、衣類の上から聴診する、背部のみ聴診するといった対応は、配慮のつもりでも重要な疾患の見逃しにつながります。事前の説明と同意、露出を最小限にする工夫とあわせて、診察の質と患者の尊厳を両立させる姿勢は、診療科を問わずすべての医師に求められる基本です。

解答・解説

正解はeです

状況の整理

若年女性が息切れと下腿浮腫を訴えて単独で受診し、診察にあたるのは男性医師一人という設定である。問われているのは医学的判断そのものではなく、異性の患者を診察するときの配慮のあり方である。

必要な診察の範囲

息切れと下腿浮腫の組み合わせでは、心不全、腎疾患(ネフローゼ症候群など)、肝疾患、甲状腺機能低下症、深部静脈血栓症、肺高血圧症、妊娠関連の病態など幅広い鑑別が必要になる。そのためには以下の身体診察が欠かせない。 ・胸部:前胸部での心音(Ⅲ音・Ⅳ音、心雑音)の聴取、心尖拍動の位置、背部を含めた肺野の聴診(湿性ラ音、呼吸音減弱=胸水) ・頸部:頸静脈怒張の有無 ・腹部:肝腫大、腹水の有無 ・下肢:浮腫の左右差、圧痕(pitting)の有無、皮膚の色調や性状 これらは着衣の上からでは正確に評価できず、胸部や下肢を露出して観察・聴診する必要がある。

考え方

診察の質を落とさずに、患者の羞恥心や不安に配慮し、さらに医師・患者双方を誤解やトラブルから守る方法を選ぶ。その答えが、同性の医療スタッフ(女性看護師)の立ち会い(シャペロン)である。診察の必要性を説明して同意を得ること、露出は必要最小限にとどめタオル等で覆うことも併せて行う。

選択肢考察

  1. ×a.  身体診察は行わない。

    誤り。息切れと下腿浮腫の原因を明らかにするには身体診察が不可欠であり、心不全や腎疾患などの重要な疾患を見逃すおそれがある。異性であることは診察を省略する理由にならず、配慮の方法を工夫して必要な診察を行うべきである。

  2. ×b.  血圧と脈拍のみ測定する。

    誤り。バイタルサインは重要だが、それだけでは心音・肺音、頸静脈怒張、肝腫大、浮腫の性状などの情報が得られず、病態の把握には不十分である。診察範囲を狭めることで配慮したことにはならない。

  3. ×c.  衣類の上から診察をする。

    誤り。衣類越しの聴診では衣擦れの雑音が入り、微弱な心雑音や副雑音(ラ音)を聞き逃しやすい。下腿浮腫も、皮膚を直接観察し指で圧迫して圧痕の有無を確かめる必要がある。必要な部位は露出して診察し、露出範囲を最小限にするなどの配慮で対応する。

  4. ×d.  胸部の聴診は背部のみ行う。

    誤り。背部からでは主に肺の聴診しかできず、心臓の聴診(各弁領域での心音・心雑音)は前胸部に聴診器を当てなければ行えない。心不全が鑑別の上位に挙がる本症例で前胸部の聴診を省くことは不適切である。

  5. ○e.  女性の看護師を同席させて診察をする。

    正しい。男性医師が女性患者を診察する際、女性看護師に立ち会ってもらうことで、患者の羞恥心や不安が和らぎ、同時に密室で二人きりになる状況を避けて不適切な行為の疑いやトラブルから医師・患者双方を守ることができる。これにより、胸部や下肢を露出した必要十分な診察を行える。

シャペロン(chaperone)

異性の患者の診察、特に胸部・乳房・外陰部・直腸などの診察時に立ち会う第三者をいう。目的は、①患者の安心感とプライバシーの保護、②診察手技の補助、③医療者側が不当な疑いを受けないための証人となること、である。産婦人科や泌尿器科の診察では特に重視される。

異性患者を診察する際の配慮

・診察の目的と内容、脱衣が必要な理由を事前に説明し同意を得る ・露出は必要な部位に限り、タオルや掛け物で他の部位を覆う ・カーテンで仕切り、更衣のスペースと時間を確保する ・必要に応じて同性スタッフを同席させる

息切れ+下腿浮腫の主な鑑別

・心疾患:うっ血性心不全(頸静脈怒張、Ⅲ音、肺ラ音)、収縮性心膜炎 ・腎疾患:ネフローゼ症候群、急性・慢性腎不全 ・肝疾患:肝硬変(低アルブミン血症、腹水) ・内分泌:甲状腺機能低下症 ・血管:深部静脈血栓症(片側性浮腫)とそれに続く肺血栓塞栓症 ・若年女性では妊娠、周産期心筋症、貧血なども考慮する

POINT

・異性の患者であっても、必要な身体診察を省略・簡略化してはならない。 ・聴診や浮腫の評価は、衣服を除いて直接行うのが原則である。 ・男性医師が女性患者を診察するときは女性看護師を同席させ(シャペロン)、密室で二人きりにならないようにする。 ・事前の説明と同意、露出を最小限にする工夫もあわせて行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。