顔から口の中まで散らばる水疱―「分布」と「新旧混在」で見抜く成人の水痘
第105回医師国家試験 H問題 第28問
国試問題にチャレンジ
24歳の女性。発熱と発疹とを主訴に来院した。3日前から微熱があり,昨日から全身に小丘疹が生じ水疱化してきた。薬剤歴に特記すべきことはない。顔面を含む全身と口腔内に小水疱が散在している。顔面の写真を別に示す。 最も考えられる診断はどれか。

- a.麻疹
- b.風疹
- c.水痘
- d.帯状疱疹
- e.伝染性単核球症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
発熱に続いて、顔面・体幹・頭皮・口腔内を含む全身に小水疱が散在し、紅斑・丘疹・水疱・痂皮といった新旧の皮疹が混在していれば、VZV初感染である水痘を考えます。同じVZVでも、痛みが先行し片側の一つのデルマトームに沿って水疱が帯状に並ぶなら帯状疱疹であり、分布が鑑別の決め手です。麻疹・風疹・伝染性単核球症の発疹は紅斑・丘疹が主体で水疱はつくらず、コプリック斑、耳後部リンパ節腫脹、異型リンパ球などの随伴所見で区別します。成人の水痘は重症化しやすく水痘肺炎に注意が必要で、抗ウイルス薬による治療の適応となるほか、空気感染対策やすべての発疹が痂皮化するまでの出席停止など、感染管理の知識も臨床で欠かせません。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・24歳女性で、主訴は発熱と発疹である。 ・3日前から微熱(前駆症状)があり、前日から全身に小さな丘疹が出て、それが水疱に変わってきた。 ・薬剤歴に特記事項はない(薬疹は考えにくい)。 ・顔面を含む全身と口腔内に、小水疱が散在している。 ・顔面の写真では、額・両頬・鼻・口周囲・下顎に、紅色丘疹、紅暈(周囲の赤み)を伴う小水疱、痂皮になりかけた皮疹が左右両側に散らばり、混在している。
診断のプロセス
発熱を伴う全身性の発疹では、まず発疹の性状(紅斑・丘疹か、水疱か)と分布を確認する。本例の決め手は「水疱」である。選択肢のうち、麻疹・風疹・伝染性単核球症は紅斑・丘疹が主体で、水疱が主役になる疾患ではない。水疱をつくるのは水痘と帯状疱疹で、どちらも水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による。 この2つは分布で区別する。帯状疱疹は神経節に潜伏したVZVが再活性化して起こるため、原則として片側の一つの皮膚分節(デルマトーム)に沿って帯状に並ぶ。本例は顔面・体幹を含む全身と口腔粘膜に散らばっている。さらに、紅斑→丘疹→水疱→痂皮と進む皮疹が同時に混在している。これはVZVの初感染である水痘の典型像である。 成人の水痘は小児より重症化しやすく、発熱が強く皮疹も多くなりやすい。水痘肺炎などの合併症にも注意が必要で、抗ウイルス薬による治療の適応となる。
選択肢考察
- ×a. 麻疹
麻疹ウイルスによる。カタル期(発熱・咳・鼻汁・結膜充血)の終わりに、頬粘膜にコプリック斑(Koplik斑:白色の小斑点)が現れる。いったん下がりかけた熱が再び上がる二峰性の発熱とともに、紅色の斑状丘疹が耳後部・顔面から体幹・四肢へ広がる。発疹は融合する傾向があり、消えた後に色素沈着を残す。水疱はつくらないので、本例とは合わない。
- ×b. 風疹
風疹ウイルスによる。発熱と同時期に、小さな淡い紅色の斑状丘疹が顔面から全身へ広がる。発疹は融合しにくく、約3日で色素沈着を残さずに消える(「三日ばしか」)。耳介後部・後頭部のリンパ節腫脹が特徴的である。水疱は形成しない。妊娠初期の感染は先天性風疹症候群の原因となる点も重要である。
- ○c. 水痘
VZVの初感染で起こる。潜伏期は約2週間(10〜21日)で、軽い発熱などの前駆症状に続いて、紅斑→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と数日のうちに変化する皮疹が現れる。皮疹は体幹・顔面・頭皮を中心に全身へ散在し、口腔粘膜にも水疱やびらんができる。新しい皮疹が次々に出るため、異なる段階の皮疹が同時にみられるのが特徴である。本例の「前駆する微熱」「丘疹から水疱への変化」「顔面を含む全身と口腔内の散在性小水疱」「片側性・分節性でない分布」はいずれも水痘に合致する。
- ×d. 帯状疱疹
水痘の治癒後に感覚神経節(脊髄後根神経節・三叉神経節など)に潜伏したVZVが、加齢・免疫低下などで再活性化して起こる。神経痛のような痛みが先行し、片側の一つのデルマトームに沿って紅斑と集まった小水疱が帯状に並ぶ。免疫不全者では、全身に水疱が散らばる汎発性帯状疱疹になることがある。その場合も、通常はまず分節状の病変があり、それに続いて散布疹が出る。本例は分節状の病変がなく、最初から全身に散在しているので合わない。
- ×e. 伝染性単核球症
主にEBウイルス(Epstein-Barrウイルス)の初感染で起こる。発熱、白苔を伴う咽頭扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、末梢血の異型リンパ球増加が特徴である。発疹は一部の患者にみられる程度で、紅斑・丘疹が主体であり、水疱はつくらない。アンピシリンなどのアミノペニシリン系抗菌薬を投与すると、高い頻度で薬疹が出ることも知られている。
水痘の要点
・病原体:水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV、ヘルペスウイルス科)。 ・感染経路:空気感染・飛沫感染・接触感染。感染力が非常に強い。 ・潜伏期:約2週間(10〜21日)。 ・感染性のある期間:発疹が出る1〜2日前から、すべての発疹が痂皮になるまで。 ・臨床像:皮疹が紅斑→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と進み、新旧の皮疹が混在する。頭皮や口腔粘膜にも出現し、強いかゆみを伴う。 ・診断:主に臨床像で行う。補助的に、水疱内容の迅速抗原検出(イムノクロマト法)、PCR、Tzanck試験(水疱底の擦過標本でウイルス性巨細胞を確認する。単純ヘルペスとは区別できない)、血清抗体(IgM抗体、ペア血清のIgG上昇)を用いる。 ・合併症:皮膚の二次細菌感染、水痘肺炎(成人・妊婦・免疫不全者で重症化しやすい)、小脳失調・脳炎、ライ症候群(小児ではアスピリンを避ける)がある。妊娠初期の感染は先天性水痘症候群、分娩前後の母体感染は新生児の重症水痘の原因になる。 ・治療:アシクロビル、バラシクロビルなどの抗ヘルペスウイルス薬を用いる。成人例や重症化リスクのある例では積極的に投与する。 ・予防:水痘生ワクチン(小児の定期接種、2回接種)。曝露後72時間以内の緊急ワクチン接種も有効とされる。 ・学校保健安全法:第2種感染症で、すべての発疹が痂皮化するまで出席停止となる。 ・感染症法:5類感染症(定点把握。入院例は全数把握)。
発熱と発疹をきたす主なウイルス感染症の比較
・麻疹:コプリック斑、二峰性発熱、融合性の紅斑・丘疹、色素沈着を残す。 ・風疹:淡い紅色の小斑状丘疹で融合しにくい。耳後部リンパ節腫脹、約3日で消える。 ・水痘:全身に散在する水疱で、新旧の皮疹が混在し、口腔・頭皮にも出る。 ・帯状疱疹:片側・デルマトームに沿った集まった小水疱で、痛みが先行する。 ・伝染性単核球症:咽頭炎、リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球。アミノペニシリン系による発疹がある。 ・手足口病(参考):手掌・足底・口腔内の小水疱。コクサッキーウイルス、エンテロウイルスによる。
POINT
・発熱+全身(顔面・頭皮・口腔内を含む)に散在する小水疱で、新旧の皮疹が混在 → 水痘 ・同じVZVでも、片側・デルマトームに沿った水疱なら帯状疱疹 ・麻疹・風疹・伝染性単核球症の発疹は紅斑・丘疹が主体で、水疱はつくらない。 ・成人の水痘は重症化しやすく、水痘肺炎に注意し、抗ウイルス薬で治療する。 ・水痘の出席停止期間は、すべての発疹が痂皮化するまでである。
