StudyMed医師国家試験

ボールが目に当たったら―「吹き抜ける」眼窩底と上を向けない眼

第105回医師国家試験 H問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第16問

複視をきたすのはどれか。

  1. a.眼窩吹き抜け骨折
  2. b.視神経管骨折
  3. c.下顎骨骨折
  4. d.鼻骨骨折
  5. e.頬骨骨折

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は顔面骨折の中から、複視をきたすものを選ぶ問題だ。ポイントは「複視がなぜ起こるのか」というメカニズムから逆算すること。骨折の部位と、そこに隣接する構造を思い浮かべながら考えていこう。
医学生医学生
複視って、物が二重に見えることですよね。目に近い骨折なら全部起こりそうな気もしますが…。
ドクタードクター
そこを整理しよう。両眼で見たときに二重になり、片眼を隠すと消える両眼性複視は、左右の眼の向き、つまり眼位がずれることで起こる。左右の網膜の対応しない場所に像が結ばれるからなんだ。だから「眼球を動かす外眼筋や、その支配神経が障害される骨折」を探せばいい。
医学生医学生
眼科の講義で、片眼でも二重に見える単眼性複視は白内障や乱視が原因だと習いました。今回は両眼性の話ですね。
ドクタードクター
その区別ができていれば大丈夫。では正解から。眼窩吹き抜け骨折は、ボールや拳が眼部に当たって眼窩内圧が急に上がり、丈夫な眼窩縁は折れずに薄い眼窩壁だけが外へ「吹き抜ける」ように折れる骨折だ。どこの壁が折れやすいと思う?
医学生医学生
解剖実習で見た眼窩の内側壁はすごく薄かった記憶があります。紙様板でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。篩骨紙様板の内側壁も好発部位だけど、最も多いのは下壁、つまり眼窩底だ。眼窩底は上顎洞の天井にあたる。ここが折れると、下直筋やそれを包む組織が上顎洞側へ脱出して骨折部に挟まり、眼球の動きが物理的に制限される。
医学生医学生
下直筋が引っかかって伸びなくなるから、上を見ようとしても眼が上がらない、ということですか。
ドクタードクター
その通り。だから上方視時の複視が典型的なんだ。内側壁骨折なら内直筋が障害されて水平方向の複視が出うる。ほかにも眼球陥凹、眼窩下神経障害による頬部から上口唇のしびれ、鼻をかんだ後に瞼が腫れる眼窩気腫などを伴う。
医学生医学生
では視神経管骨折はどうでしょう。名前からして眼の症状が出そうで迷いました。
ドクタードクター
眼の症状は出るけれど、種類が違う。視神経管は視神経と眼動脈が通る骨の管で、眉毛の外側あたりの打撲で間接的に損傷する。障害されるのは視神経だから、視力低下や視野障害、相対的瞳孔求心路障害(RAPD)が出る。外眼筋は無事なので眼球運動は保たれ、複視は起こらない。
医学生医学生
「見えにくい」と「二重に見える」は別物なんですね。OSCEの対光反射の手技で、交互点滅試験を練習したのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにRAPDを見る検査だね。次に下顎骨骨折は咬合不全や開口障害、下口唇やオトガイ部の知覚低下が主症状で、眼窩とは離れている。鼻骨骨折は顔面で最も多い骨折で、外鼻の変形や鼻出血が中心だ。鼻中隔血腫を見つけたら速やかに切開排膿する点も大事だよ。
医学生医学生
頬骨骨折はどうですか。頬骨は眼窩の外側壁を作っているので、複視が出てもおかしくない気がします。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。実際、頬骨は眼窩外側壁や眼窩底の一部を構成するから、骨片の偏位が大きい場合や眼窩底骨折を合併した場合には複視を生じることがある。ただ主症状は頬部の平坦化、頬部の知覚低下、頬骨弓陥没による開口障害だ。複視を主徴とする骨折の代表という意味では、やはり眼窩吹き抜け骨折を選ぶことになる。
医学生医学生
骨折ごとに「何が障害されるか」を対応させると整理しやすいですね。眼窩吹き抜けは外眼筋、視神経管は視神経、という具合に。
ドクタードクター
そう、その対応づけが大事。最後に臨床の注意点だ。小児では骨がしなやかなので、折れた骨片がばねのように元に戻って筋を強く挟み込む閉鎖型、いわゆるtrapdoor型になりやすい。外見上の腫れは軽いのに眼球運動障害が高度で、嵌頓した筋への刺激で悪心・嘔吐や徐脈を起こすこともある。
医学生医学生
眼心臓反射ですね。吐いているから頭部外傷を疑ってしまいそうです。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。頭部外傷と思い込むと見逃しかねない。閉鎖型は筋の虚血を防ぐため早期の手術が必要になる。診断では眼球運動検査やHess赤緑試験、牽引試験、そしてCTの冠状断で眼窩底の骨折と上顎洞への組織の脱出を確認する。受傷後は眼窩気腫を防ぐため鼻をかまないよう指導することも覚えておこう。
医学生医学生
救急外来で顔を打った子どもを診たら、腫れが軽くても上を見てもらう、というのを習慣にします。
ドクタードクター
いい心がけだね。眼球運動のチェックは数秒でできて、見逃しを防ぐ大切な診察だよ。

まとめ

両眼性複視は眼位のずれによって生じるため、外眼筋や眼球運動神経を障害する骨折が原因となり、その代表が眼窩吹き抜け骨折です。眼部への鈍的外力で眼窩内圧が上昇し、薄い眼窩底や内側壁が骨折して下直筋などが上顎洞側に嵌頓すると、上方視時の複視、眼球陥凹、頬部の知覚低下などをきたします。視神経管骨折は視力・視野障害、下顎骨骨折は咬合不全・開口障害、鼻骨骨折は外鼻変形・鼻出血が主症状で、頬骨骨折は眼窩壁骨折を合併すると複視を伴うこともありますが主徴ではありません。小児の閉鎖型(trapdoor型)は外見が軽くても眼球運動障害や眼心臓反射を伴い、早期手術を要するため特に注意が必要です。骨折部位と障害される構造を対応させて考える習慣は、顔面外傷の初期診療で見逃しを防ぐ土台になります。

解答・解説

正解はaです

複視(物が二重に見えること)のうち、両眼で見たときに生じ片眼を覆うと消える両眼性複視は、左右の眼の向き(眼位)がずれることで起こる。左右の網膜の対応しない部位に像が結ばれるためである。したがって本問では、「外眼筋(眼球を動かす筋)やそれを支配する神経が障害され、眼球運動が制限される骨折」を選べばよい。 顔面骨折のうち、眼窩の壁が折れて眼窩内容(脂肪組織や外眼筋)が隣接する副鼻腔へ脱出・嵌頓するのが眼窩吹き抜け骨折である。外眼筋そのもの、あるいは筋を包む結合組織が骨折部に挟み込まれるため眼球運動が物理的に制限され、複視が生じる。これが複視をきたす骨折の代表である。 一方、視神経管骨折は視神経の障害(視力・視野障害)、下顎骨骨折は咬合・開口の障害、鼻骨骨折は外鼻の変形と鼻出血が主症状であり、眼球運動は通常保たれる。頬骨骨折は顔面の変形や開口障害が中心であるが、眼窩底や眼窩外側壁を含むため複視を伴う場合もある。ただし複視を主要症状とする骨折として最も典型的なのは眼窩吹き抜け骨折である。

選択肢考察

  1. ○a.  眼窩吹き抜け骨折

    ボールや拳などが眼部に当たって眼窩内圧が急に上がると、眼窩の縁(眼窩縁)は折れずに、薄い眼窩壁だけが外に向かって「吹き抜ける」ように骨折する。最も多いのは眼窩下壁(眼窩底、上顎洞の天井)で、次いで内側壁(篩骨の紙様板、篩骨洞側)である。下壁骨折では下直筋や周囲の組織が上顎洞側に嵌頓して上方視が制限され、上方視時の複視が典型的となる。内側壁骨折では内直筋が障害され、外転・内転の制限による水平方向の複視を生じうる。その他、眼球陥凹、眼窩下神経障害による頬部から上口唇の知覚低下、鼻をかんだ後の眼瞼腫脹(眼窩気腫)などを伴う。小児では骨がしなやかなため、骨片が元に戻って筋を強く挟み込む「閉鎖型(trapdoor型)」骨折となりやすく、外見上の腫れが軽くても眼球運動障害が高度で、嵌頓筋の刺激により悪心・嘔吐や徐脈(眼心臓反射)をきたすことがあり、早期の手術を要する。

  2. ×b.  視神経管骨折

    視神経管は視神経と眼動脈が通る骨の管で、眉毛の外側あたりへの打撲などで間接的な外力が伝わって損傷する。障害されるのは視神経であり、受傷側の視力低下・視野障害、相対的瞳孔求心路障害(RAPD、患側眼への光刺激で両眼の縮瞳が弱い所見)がみられる。外眼筋や眼球運動神経は障害されないため、眼球運動は保たれ複視は生じない。治療として副腎皮質ステロイド薬の大量投与や視神経管開放術が検討されるが、有効性は確立していない。

  3. ×c.  下顎骨骨折

    下顎骨は顔面骨折の中でも頻度の高い部位で、関節突起、下顎角、正中部(オトガイ部)などに骨折が生じる。症状は咬合不全(かみ合わせのずれ)、開口障害、骨折部の疼痛・腫脹、下歯槽神経障害による下口唇・オトガイ部の知覚低下などである。眼窩とは離れており、眼球運動障害や複視はきたさない。

  4. ×d.  鼻骨骨折

    鼻骨は顔面で最も突出しており、顔面骨折の中で最も頻度が高い。症状は外鼻の変形(斜鼻・鞍鼻)、鼻出血、鼻閉、腫脹などである。鼻中隔血腫を合併した場合は、鼻中隔軟骨の壊死や鞍鼻を防ぐため速やかな切開排膿が必要となる。眼窩の壁や外眼筋には影響しないため、単独の鼻骨骨折で複視は起こらない(篩骨まで及ぶ鼻篩骨骨折は別である)。

  5. ×e.  頬骨骨折

    頬骨骨折では頬部の平坦化(顔面の変形)、眼窩下神経障害による頬部・上口唇の知覚低下、頬骨弓の陥没が下顎の筋突起の動きを妨げることによる開口障害などがみられる。頬骨は眼窩外側壁と眼窩底の一部を構成するため、骨片の偏位が大きい場合や眼窩底骨折を伴う場合には複視や眼球陥凹を生じることもある。しかし、それは眼窩壁の骨折を合併した結果であり、複視を主徴とする骨折の代表は眼窩吹き抜け骨折である。本問では最も適切な選択肢としてaを選ぶ。

複視の分類

・両眼性複視:片眼を隠すと消える。眼位のずれによる。原因は外眼筋の障害(眼窩吹き抜け骨折、甲状腺眼症、重症筋無力症など)や眼球運動神経の麻痺(動眼神経・滑車神経・外転神経麻痺)。 ・単眼性複視:片眼でも生じる。白内障、乱視、角膜不整など眼球内の光学的な異常による。

眼窩の構造(主な壁と隣接構造)

・上壁:前頭骨など。上方は前頭蓋窩。 ・下壁(眼窩底):主に上顎骨。下方は上顎洞。眼窩下神経が走行する。吹き抜け骨折の好発部位。 ・内側壁:篩骨紙様板など。非常に薄く、内側は篩骨洞。吹き抜け骨折の好発部位。 ・外側壁:頬骨・蝶形骨。比較的厚い。 ・視神経管:蝶形骨小翼に位置し、視神経と眼動脈が通る。

眼窩吹き抜け骨折の診断と治療

・診断:眼球運動検査(Hess赤緑試験で運動制限の評価)、牽引試験(forced duction test)、CT(冠状断で眼窩底の骨折と組織の上顎洞への脱出を確認)。単純X線ではWaters法で上顎洞天井から垂れ下がる軟部陰影(hanging drop sign)がみられることがある。 ・治療:軽症では経過観察。筋の嵌頓による著明な運動障害(特に小児の閉鎖型)、持続する複視、目立つ眼球陥凹などでは整復手術を行う。受傷後は鼻をかまないよう指導する(眼窩気腫の予防)。

顔面骨折の主症状の整理

・眼窩吹き抜け骨折:複視(上方視障害)、眼球陥凹、頬部知覚低下 ・視神経管骨折:視力・視野障害 ・鼻骨骨折:外鼻変形、鼻出血 ・頬骨骨折:頬部平坦化、開口障害、頬部知覚低下 ・上顎骨骨折(Le Fort型):咬合不全、顔面の延長・変形 ・下顎骨骨折:咬合不全、開口障害

POINT

・両眼性複視=眼位のずれ。眼球運動を物理的に制限する骨折が原因となる。 ・眼窩吹き抜け骨折:眼窩下壁(眼窩底)・内側壁に好発。下壁骨折では下直筋などが上顎洞側に嵌頓し上方視時の複視が典型。眼球陥凹・頬部知覚低下も伴う。 ・小児の閉鎖型(trapdoor型)は外見が軽くても緊急手術の対象。 ・視神経管骨折は視力障害(複視ではない)、下顎骨骨折は咬合不全・開口障害、鼻骨骨折は外鼻変形。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。