暴力に目を奪われるな―思春期の強迫性障害、まず選ぶべき薬は
第105回医師国家試験 G問題 第63問(連問)
国試問題にチャレンジ
連問の共通文
次の文を読み,62~64の問いに答えよ。 15歳の女子。いらいらして暴力を振るうことを心配した母親に伴われて来院した。 現病歴:中学2年になり,友人関係でトラブルが起こったころから食欲がなくなり,学校を休みがちになった。自分の部屋でいやな友人の顔が浮かぶと,そのときしていた行為を最初からやり直すようになった。不潔になったことを気にして頻回に手を洗うようになった。その後も学校では普通の生活を送っていたが,家では自分だけでなく母親に同じ言葉や行動を繰り返させ,母親が正確にやり直せないとパニックを起こしたり,暴力を振るったりするようになった。 生育歴:3歳時に両親が離婚し,母親と弟との3人暮らし。小学校では成績も優秀で友人も多く,何事にも積極的な性格であった。中学で進学校に入学し,学業とスポーツに打ち込んでいた。 現症:意識は清明。身長156 cm,体重49 kg。体温36.2℃。呼吸数16/分。脈拍72/分,整。血圧98/60 mmHg。皮膚は冷たく乾燥している。手が荒れている。 検査所見:尿・血液検査所見に異常を認めない。
薬物治療として第一選択になるのはどれか。
- a.選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉
- b.非定型抗精神病薬
- c.中枢神経刺激薬
- d.気分安定薬
- e.睡眠導入薬
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
不合理と分かっている強迫観念と、それを打ち消すための強迫行為がそろっていれば強迫性障害と診断でき、思春期では家族を儀式に巻き込み、拒まれると暴力やパニックに至ることがあります。薬物療法の第一選択はSSRIで、わが国ではフルボキサミンとパロキセチンが適用をもち、うつ病より多めの用量・長めの期間が必要なことが多く、若年者では賦活症候群や自殺関連行動に注意します。非定型抗精神病薬はSSRI効果不十分時の増強療法、中枢神経刺激薬はADHD・ナルコレプシー、気分安定薬は双極性障害の薬であり、睡眠導入薬も強迫症状を改善しません。治療のもう一つの柱は曝露反応妨害法を中心とする認知行動療法で、家族の巻き込みを減らす心理教育も重要です。目立つ症状に惑わされず病態の本体に作用する治療を選ぶ姿勢は、精神科薬物療法全般に通じる基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理と診断
15歳の女子が、中学2年時の友人関係のトラブルを契機に症状を呈している。いやな友人の顔が浮かぶとその時の行為を最初からやり直し、「不潔になった」という考えにとらわれて頻回に手を洗う(手荒れあり)。家では母親にも同じ言葉や動作を繰り返させ、正確にできないとパニックや暴力に至る。 不合理と分かっていても浮かんでくる考え(強迫観念:不潔恐怖、嫌な友人のイメージ)と、それによる不安を打ち消すためにやめられない行為(強迫行為:洗浄、やり直し)がそろっており、強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD)と診断できる。家族に儀式への参加を強要する「巻き込み型」でもある。幻覚・妄想はなく、明らかな契機の後に発症している。このため、統合失調症や自閉スペクトラム症のこだわりは考えにくい。いらいらや暴力は、強迫行為が妨げられたことで生じた不安・パニックの表れと理解できる。躁状態など気分障害を示す所見はない。また、明らかな不眠の訴えもない。
設問の考え方
強迫性障害の治療の2本柱は、薬物療法と認知行動療法(特に曝露反応妨害法)である。薬物療法の第一選択は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である。強迫性障害の病態には脳内セロトニン系の機能異常が関わると考えられており、セロトニン再取り込み阻害作用をもつ薬剤で症状が改善することが示されている。一方、ノルアドレナリン系など他の系に主に作用する抗うつ薬の効果は乏しい。暴力やいらいらといった目立つ症状に目を奪われず、根本にある疾患を治療する薬剤を選ぶことが求められる。
選択肢考察
- ○a. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬〈SSRI〉
SSRIは強迫性障害の薬物療法の第一選択である。わが国ではフルボキサミンとパロキセチンが強迫性障害に保険適用を有し、フルボキサミンは小児(8歳以上)の強迫性障害にも適用がある。強迫性障害では、うつ病の治療より多めの用量と長めの期間を要することが多く、効果判定には通常8〜12週程度の十分量での投与が必要である。なお、24歳以下の若年者では投与初期に不安・焦燥・衝動性が高まる賦活症候群(アクチベーション症候群)や、自殺関連行動の増加に注意が必要であり、慎重に経過をみる。三環系抗うつ薬のクロミプラミンも強力なセロトニン再取り込み阻害作用をもち有効であるが、抗コリン作用などの副作用が多いため、SSRIが優先される。
- ×b. 非定型抗精神病薬
非定型抗精神病薬(リスペリドン、アリピプラゾールなど)は、SSRIを十分量・十分期間使用しても効果が不十分な難治例で、効果を高める目的の併用(増強療法)として少量用いられることがある。また、興奮や暴力が激しい場合に、鎮静目的で一時的に使用されることもある。しかし、単独で強迫性障害を治療する第一選択薬ではない。
- ×c. 中枢神経刺激薬
中枢神経刺激薬(メチルフェニデートなど)は、主に注意欠如・多動症(ADHD)やナルコレプシーの治療に用いられる薬剤である。強迫性障害には適応がなく、ドパミン系の刺激によりかえって不安・焦燥や常同的な行動を悪化させるおそれもあるため、用いない。
- ×d. 気分安定薬
気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなど)は、主に双極性障害の治療や再発予防に用いられる薬剤である。本例のいらいらや暴力は強迫行為が妨げられたことによる不安・パニックに伴うもので、躁状態や気分の波を示す所見はない。強迫性障害に対して有効性が確立した治療ではなく、第一選択とはならない。
- ×e. 睡眠導入薬
本例には不眠の訴えは記載されておらず、睡眠導入薬を使う根拠がない。仮に不眠があったとしても、それは対症療法にすぎず、強迫症状そのものを改善する治療ではない。また、ベンゾジアゼピン系薬剤は依存形成のおそれがあり、若年者に漫然と用いるべきではない。
強迫性障害の概要
・強迫観念:自分でも無意味・過剰と分かっていながら、繰り返し浮かんでくる考えやイメージ(不潔・汚染、加害、確認、対称性・正確さへのこだわりなど)である。 ・強迫行為:強迫観念による不安を打ち消すために繰り返す行為(手洗い、確認、数を数える、やり直しなど)である。やめようとすると強い不安が生じる。 ・有病率は1〜2%程度とされ、10歳代〜成人早期に発症することが多い。 ・DSM-5では不安症群から独立し、「強迫症および関連症群」に分類された。 ・うつ病、チック症(特に男性の小児期発症例)、自閉スペクトラム症との併存に注意する。
治療
・薬物療法:SSRI(フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラムなど)が第一選択である。クロミプラミン(三環系)も有効だが、副作用のため次の選択肢となる。SSRIで効果が不十分な場合は、別のSSRIへの変更や、少量の非定型抗精神病薬による増強療法を検討する。 ・精神療法:認知行動療法、中でも曝露反応妨害法(exposure and response prevention:ERP)が中心となる。小児・思春期の軽症〜中等症例では、まず認知行動療法を優先することが推奨されている。重症例や効果不十分例では、SSRIとの併用が勧められる。 ・家族への介入:家族が確認や儀式に付き合う(巻き込まれる)ことは症状を維持・悪化させる。このため、巻き込みを徐々に減らすよう家族に心理教育を行う。
POINT
・強迫性障害の薬物療法の第一選択はSSRIである(わが国ではフルボキサミン、パロキセチンが適用)。 ・非定型抗精神病薬は第一選択ではなく、SSRIの増強療法として用いる。 ・若年者へのSSRI投与では、賦活症候群や自殺関連行動に注意する。 ・薬物療法と並ぶ治療の柱は、認知行動療法(曝露反応妨害法)である。
