「眠っている」と「亡くなっている」の境界線―植物状態・脳死・尊厳死・安楽死を言葉で区別する
第105回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
死に係わる事柄の説明で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.植物状態では大脳と脳幹機能とが消失する。
- b.我が国では尊厳死は法律に基づいて行われる。
- c.脳死判定に自発呼吸の消失は必須条件である。
- d.安楽死とは末期患者が延命治療を拒否して死することである。
- e.リビングウィルは終末期医療に関する患者の意思表明文書である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
植物状態は大脳機能が失われても脳幹機能が保たれ自発呼吸がある状態で、脳死は脳幹を含む全脳機能の不可逆的停止であり、法的脳死判定では無呼吸テストによる自発呼吸の消失確認が必須で最後に行われます。尊厳死は本人の意思で延命治療を差し控え・中止して自然な死を迎えることで、苦痛除去のために死期を早める安楽死とは異なります。日本には尊厳死・安楽死を定めた法律はなく、終末期医療は厚生労働省のガイドラインに基づき、本人の意思を中心とした話し合いで方針が決められます。リビングウィルは意思決定能力のあるうちに終末期医療の希望を示す文書で、法的拘束力はないものの本人意思の重要な根拠となり、繰り返し話し合うACPとあわせて理解しておくことが大切です。これらの概念の正確な区別は、終末期の患者や家族と向き合う臨床現場での対話の基盤となります。
解答・解説
正解はc, eです
本問は、死とその周辺にある概念(植物状態、脳死、尊厳死、安楽死、リビングウィル)を正確に区別できるかを問う一般問題である。 整理のポイントは次の通りである。 ・植物状態と脳死の違い: 植物状態は大脳の機能が広く失われているが脳幹機能は残っている状態であり、自発呼吸がある。脳死は脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止した状態であり、自発呼吸はない。 ・尊厳死と安楽死の違い: 尊厳死は、回復の見込みのない末期患者が本人の意思により延命治療を差し控え・中止し、自然な経過で死を迎えることである。安楽死は、耐えがたい苦痛を取り除く目的で死期を早める行為(特に積極的安楽死は致死的薬物の投与など)を指す。 ・日本の法的状況: 尊厳死・安楽死のいずれについても、それを認める法律は存在しない。 ・リビングウィル: 意思決定能力のあるうちに、終末期にどのような医療を受けたいか(受けたくないか)を表明しておく文書である。 これらの定義に照らして各選択肢の記述を検討すれば、脳死判定に関する記述とリビングウィルの定義が正しいとわかる。
選択肢考察
- ×a. 植物状態では大脳と脳幹機能とが消失する。
誤り。植物状態(遷延性意識障害)は、大脳の広範な障害により意識や意思疎通、自発的な運動が失われている状態だが、脳幹の機能は保たれている。そのため自発呼吸があり、循環も保たれ、睡眠・覚醒のリズムや開眼、咀嚼・嚥下運動などがみられることがある。人工呼吸器なしで長期間生存しうる点が脳死と大きく異なる。大脳と脳幹の両方の機能が不可逆的に失われた状態は脳死である。
- ×b. 我が国では尊厳死は法律に基づいて行われる。
誤り。日本には尊厳死を定めた法律は存在しない。尊厳死の法制化はたびたび議論されているが、成立には至っていない。実際の終末期医療では、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」などに沿って、本人の意思を尊重しつつ医療・ケアチームと家族等が話し合って方針を決める。つまり法律ではなくガイドラインと合意形成のプロセスに基づいて行われている。
- ○c. 脳死判定に自発呼吸の消失は必須条件である。
正しい。脳死は脳幹を含む全脳機能の不可逆的な停止であり、呼吸中枢は延髄にあるため、自発呼吸の消失は脳死判定に欠かせない項目である。法的脳死判定では、ほかの項目(深昏睡、瞳孔固定・散大、脳幹反射の消失、平坦脳波)をすべて確認した後、最後に無呼吸テストを行う。人工呼吸器を外して十分な酸素を投与しながら観察し、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が60 mmHg以上に上昇しても自発呼吸が出現しないことを確認する。
- ×d. 安楽死とは末期患者が延命治療を拒否して死することである。
誤り。この記述は尊厳死の説明である。安楽死は、死期が迫り耐えがたい苦痛のある患者に対し、苦痛から解放する目的で死期を早める(あるいは結果的に早める)ことをいう。致死的な薬物を投与して直接死をもたらす積極的安楽死、苦痛緩和の結果として死期が早まりうる間接的安楽死、延命措置を行わない消極的安楽死などに分類されることがある。日本では安楽死を認める法律はなく、医師が積極的安楽死を行えば殺人罪などに問われうる。
- ○e. リビングウィルは終末期医療に関する患者の意思表明文書である。
正しい。リビングウィル(living will)は、本人が意思決定能力を有しているうちに、将来自分が意思表示できなくなった場合に備えて、延命治療(人工呼吸、心肺蘇生、経管栄養など)を受けるか否かなど終末期医療についての希望を書面で表明しておくものである。事前指示(advance directive)の一形態であり、尊厳死を実現するための本人意思の根拠となる。日本では法的拘束力は定められていないが、本人の意思を推定するうえで尊重される。
植物状態と脳死の比較
・障害部位: 植物状態は主に大脳(脳幹機能は残存)、脳死は大脳+小脳+脳幹(全脳)。 ・自発呼吸: 植物状態ではあり、脳死ではない(人工呼吸器が必要)。 ・脳幹反射: 植物状態では保たれ、脳死では消失。 ・回復の可能性: 植物状態ではまれに回復がありうるが、脳死は不可逆で、人工呼吸器を用いても多くは比較的短期間で心停止に至る。
法的脳死判定の項目(臓器移植法に基づく)
1. 深昏睡(JCS 300、GCS 3) 2. 両側瞳孔の固定・瞳孔径4 mm以上 3. 脳幹反射の消失(対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射の7つ) 4. 平坦脳波 5. 自発呼吸の消失(無呼吸テスト) 以上を確認し、6時間以上(6歳未満の小児では24時間以上)の間隔をおいて2回目の判定を行う。2回目の判定終了時刻が死亡時刻となる。前提条件として、原因となる器質的脳障害が確実に診断され回復不能と判断されること、除外例(急性薬物中毒、低体温、代謝・内分泌障害など)に当たらないことが必要である。
尊厳死・安楽死に関する日本の状況
・法律による規定はない。 ・東海大学安楽死事件(1995年、横浜地裁判決)では、積極的安楽死が許容されうる要件として、耐えがたい肉体的苦痛、死が避けられず死期が迫っていること、苦痛除去のための他の手段が尽くされ代替手段がないこと、患者本人の明示の意思表示、の4つが示された。 ・終末期の医療方針は、厚生労働省のガイドラインに基づき、本人の意思を中心に医療・ケアチームや家族等と繰り返し話し合って決める。こうした話し合いの過程をアドバンス・ケア・プランニング(ACP、愛称「人生会議」)という。
関連する国際的宣言
世界医師会のリスボン宣言(患者の権利に関する宣言)には、尊厳を得る権利として、尊厳を保ったまま、できる限り安楽に死を迎えるためのあらゆる援助を受ける権利が含まれている。
POINT
・植物状態: 大脳機能は失われるが脳幹機能は保たれ、自発呼吸がある。 ・脳死: 脳幹を含む全脳機能の不可逆的停止。無呼吸テストによる自発呼吸の消失確認は必須で、判定の最後に行う。 ・尊厳死: 本人の意思で延命治療を差し控え・中止し、自然な死を迎えること。 ・安楽死: 苦痛除去のため死期を早めること。尊厳死とは異なる。 ・日本では尊厳死・安楽死ともに法律の規定はない。 ・リビングウィル: 意思決定能力のあるうちに作成する、終末期医療に関する事前の意思表明文書。
