StudyMed医師国家試験

痛みが出る前に飲む―「by the clock」で考えるがん疼痛治療の原則

第105回医師国家試験 G問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第27問

癌性疼痛緩和のための薬物療法の原則について正しいのはどれか。

  1. a.静注薬から開始する。
  2. b.時刻を決めて投与する。
  3. c.弱オピオイドから開始する。
  4. d.原発巣を確定する前には開始しない。
  5. e.オピオイドと鎮痛薬との併用は避ける。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がんの痛みに対する薬物療法の基本原則を問う知識問題だ。土台になるのはWHO方式がん疼痛治療法。鎮痛薬の使い方の原則を知っていれば、選択肢を一つずつ照らし合わせるだけで答えにたどり着けるよ。
医学生医学生
臨床医学総論の講義で「5原則」を習った気がします。英語のフレーズだったような。
ドクタードクター
そう、伝統的には5つ挙げられている。by the mouth(経口で)、by the clock(時刻を決めて)、by the ladder(除痛ラダーに沿って)、for the individual(患者ごとに)、with attention to detail(細かい配慮を)だ。まず投与経路から考えよう。静注薬から開始するという考え方はどうかな。
医学生医学生
がんの痛みは強いので、確実に効く静注から始めたほうがいい気もしますが…。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、原則は経口投与だ。経口薬は侵襲がなく、在宅でも続けやすく、患者さん自身で管理できる。飲み込めない、消化管閉塞がある、嘔吐が強いといった場合に、坐薬、フェンタニル貼付剤、持続皮下注や静注などへ切り替える。最初から静注を選ぶのは原則に反するんだ。
医学生医学生
では、時刻を決めて投与するというのがby the clockですね。痛いときに飲む頓用ではだめなんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。がんの痛みの多くは持続痛だから、痛くなってから飲むと、血中濃度が下がるたびに痛みがぶり返し、効くまでの間ずっと苦しむことになる。薬の作用時間に合わせて一定間隔で定時投与し、有効血中濃度を保って痛みを予防的に抑えるのが原則だ。これが正解になる。
医学生医学生
緩和ケア科の実習で、徐放性のオキシコドンを12時間ごとに飲んでいる患者さんがいました。それでも急に痛むときは別の薬を使っていました。
ドクタードクター
それがレスキュー薬だね。定時投与中に一時的に強まる突出痛には、速放性製剤を臨時に追加する。レスキューは1日量のおよそ1/6程度を目安にすることが多く、その使用回数をみて定時量を調整していく。次は薬の選び方。弱オピオイドから開始する、というのはどうだろう。
医学生医学生
三段階除痛ラダーだと、非オピオイド、弱オピオイド、強オピオイドと順番に上がっていくので、正しいように思えます。
ドクタードクター
そこが落とし穴。ラダーは「必ず下から上る階段」ではなく、痛みの強さに応じて最初の段を選ぶものなんだ。軽度ならNSAIDsやアセトアミノフェン、軽度〜中等度ならコデインやトラマドール、中等度〜高度ならモルヒネやオキシコドン、フェンタニルなどの強オピオイド。痛みが強ければ最初から強オピオイドを使ってよい。
医学生医学生
原発巣が確定する前には開始しない、というのは、診断がつく前に痛みを取ると症状がわからなくなるからでしょうか。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、誤りだ。除痛は原発巣の確定や転移の有無、病期、予後にかかわらず、できるだけ早く始めるべきだとされている。痛みはQOLを大きく損ない、検査を受けること自体の負担にもなる。緩和ケアは診断時から並行して行う、というのが今の考え方だよ。
医学生医学生
最後の、オピオイドと鎮痛薬の併用を避けるというのも、ラダーの表を思い出すと違いますね。第2・第3段階でも非オピオイドが併用されていました。
ドクタードクター
その通り。作用機序が違うから、併用で鎮痛効果が増し、オピオイドの必要量も抑えられる。さらに神経障害性疼痛のようにオピオイドが効きにくい痛みには、プレガバリンやデュロキセチン、ステロイドなどの鎮痛補助薬を加える。どう組み合わせるかは痛みの性状や副作用を見て患者ごとに決める、まさにfor the individualだ。
医学生医学生
経口で、定時に、痛みの強さに応じて、併用もためらわず、診断を待たずに始める、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後にwith attention to detail、つまり副作用対策も押さえておこう。オピオイドの便秘はほぼ必発で耐性がつきにくいから、開始時から下剤を併用する。悪心・嘔吐や眠気は初期に多いけれど、数日から2週間ほどで慣れることが多い。呼吸抑制は痛みに応じて適切に増量していればまれだが、過量時の拮抗薬としてナロキソンがある。
医学生医学生
オピオイドには天井効果がないとも習いました。
ドクタードクター
そう、痛みがとれて副作用が許容できる範囲まで増量できる。それと、2018年のWHOガイドライン改訂ではby the ladderが原則から外れて4原則に整理され、ラダーは薬剤選択の目安という位置づけになった。試験では5原則で問われることが多いから、両方知っておくといいね。

まとめ

がん疼痛の薬物療法はWHO方式に基づき、経口投与(by the mouth)、定時投与(by the clock)、痛みの強さに応じた薬剤選択(by the ladder)、患者ごとの調整(for the individual)、細かな配慮(with attention to detail)が原則です。持続痛には時刻を決めて定時投与して血中濃度を保ち、突出痛には速放性製剤のレスキュー薬で対応します。痛みが強ければ最初から強オピオイドを用いてよく、除痛は原発巣の確定を待たずに開始し、非オピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬との併用もむしろ推奨されます。オピオイド使用時は便秘対策を必ず行い、2018年改訂でラダーが原則から外れたことも補足として押さえておきましょう。これらの原則は、どの診療科でもがん患者の苦痛を和らげるための基本的な素養となります。

解答・解説

正解はbです

がんの痛み(癌性疼痛)に対する薬物療法は、世界保健機関(WHO)が示した「WHO方式がん疼痛治療法」の考え方が基本となる。鎮痛薬使用の原則として伝統的に挙げられてきたのは次の5つである。 1. by the mouth(経口投与を基本とする) 2. by the clock(時刻を決めて規則正しく投与する) 3. by the ladder(除痛ラダーに沿って、痛みの強さに応じた薬を選ぶ) 4. for the individual(患者ごとに必要な量・薬剤を調整する) 5. with attention to detail(副作用対策や細かな配慮を怠らない) 本問はこの原則を知っていれば解ける知識問題である。各選択肢を原則と照らし合わせ、「経口が基本」「定時投与」「痛みの強さに応じて段階を選ぶ(必ずしも弱オピオイドから始めない)」「診断の確定を待たずに速やかに除痛する」「必要に応じて複数の鎮痛薬・鎮痛補助薬を組み合わせる」という考え方に合致するものを選べばよい。持続する痛みに対しては、痛みが出てから飲む頓用中心ではなく、血中濃度を一定に保つよう時刻を決めて投与するのが原則であり、これに合致するのは「時刻を決めて投与する」である。

選択肢考察

  1. ×a.  静注薬から開始する。

    誤り。原則は by the mouth、すなわち経口投与から始めることである。経口薬は簡便で侵襲がなく、在宅でも継続しやすく、患者が自分で管理できる利点がある。嚥下困難、消化管閉塞、強い悪心・嘔吐などで内服できない場合に限り、坐薬、経皮貼付薬(フェンタニル貼付剤など)、持続皮下注、持続静注などの経路を選択する。最初から静注を選ぶのは原則に反する。

  2. ○b.  時刻を決めて投与する。

    正しい。by the clock の原則である。がんの痛みの多くは持続的であり、痛みが出てから投与すると鎮痛薬の血中濃度が下がった時点で痛みがぶり返し、効果が出るまで患者は苦痛にさらされる。薬の作用時間に合わせて一定間隔(例: 徐放性製剤なら12時間ごと、あるいは24時間ごと)で定時投与し、有効血中濃度を維持して痛みを予防的に抑える。なお、定時投与中に一時的に強まる痛み(突出痛)に対しては、速効性製剤によるレスキュー薬(臨時追加投与)を併用する。頓用のみで対応するのは原則として避ける。

  3. ×c.  弱オピオイドから開始する。

    誤り。WHO三段階除痛ラダーでは、痛みの強さに応じて最初に用いる段階を決める。軽度の痛みには第1段階の非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs〔非ステロイド性抗炎症薬〕、アセトアミノフェン)、軽度〜中等度の痛みには第2段階の弱オピオイド(コデインリン酸塩、トラマドールなど。低用量のオキシコドンを用いることもある)、中等度〜高度の痛みには第3段階の強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォンなど)を用いる。痛みが強ければ最初から強オピオイドを使ってよく、一律に弱オピオイドから始める必要はない。

  4. ×d.  原発巣を確定する前には開始しない。

    誤り。痛みの治療は、原発巣が確定しているかどうか、転移の有無、病期や予測される余命などにかかわらず、痛みの強さや性状に応じてできるだけ早く開始すべきである。疼痛は患者の生活の質(QOL)を大きく損ない、検査を受けること自体の負担にもなる。診断の確定を待って除痛を先延ばしにする理由はなく、緩和ケアは診断時から並行して行うというのが現在の考え方である。

  5. ×e.  オピオイドと鎮痛薬との併用は避ける。

    誤り。除痛ラダーの第2・第3段階では、オピオイドに非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs やアセトアミノフェン)を併用することが推奨されている。両者は作用機序が異なり、併用により鎮痛効果の増強やオピオイド必要量の抑制が期待できる。さらに、神経障害性疼痛などオピオイドが効きにくい痛みには、鎮痛補助薬(抗けいれん薬のプレガバリン・ガバペンチン、抗うつ薬のデュロキセチン・アミトリプチリン、ステロイドなど)を加える。併用の要否は痛みの強さ・性状や副作用を見て患者ごとに判断する(for the individual)。

WHO三段階除痛ラダー

第1段階(軽度の痛み): 非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)±鎮痛補助薬 第2段階(軽度〜中等度): 弱オピオイド(コデイン、トラマドール)+非オピオイド±鎮痛補助薬 第3段階(中等度〜高度): 強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、ヒドロモルフォン、タペンタドールなど)+非オピオイド±鎮痛補助薬

ガイドラインの改訂

2018年に改訂された WHO のがん疼痛ガイドラインでは、鎮痛薬使用の原則から by the ladder が外され、「経口投与」「時刻を決めて」「患者ごとに」「細かい配慮」の4原則に整理された。三段階除痛ラダーは現在、厳密な治療手順というよりも、痛みの強さに応じた薬剤選択の考え方を示す教育的な目安と位置づけられている。国家試験では5原則として出題されることが多いため、両方の整理を知っておくとよい。

オピオイドの主な副作用と対策(attention to detail)

・便秘: ほぼ必発で耐性がつきにくい。開始時から下剤(酸化マグネシウム、センノシド、ナルデメジンなど)を併用する。 ・悪心・嘔吐: 投与初期に多く、数日〜2週間程度で耐性ができることが多い。制吐薬(ドパミン拮抗薬など)で対処する。 ・眠気: 初期や増量時にみられ、多くは数日で軽減する。 ・呼吸抑制: 痛みに応じて適切に増量している限りまれだが、過量投与では注意が必要で、拮抗薬としてナロキソンがある。

定時投与とレスキュー

徐放性製剤で痛みのベースラインを抑え、突出痛には速放性製剤(1日量のおよそ1/6程度を目安とすることが多い)をレスキューとして用いる。レスキューの使用回数を参考に定時量を調整する。オピオイドに鎮痛の天井効果はなく、痛みがとれ副作用が許容できる範囲まで増量できる。

POINT

・WHO方式がん疼痛治療の原則: by the mouth(経口)、by the clock(定時投与)、by the ladder(痛みの強さに応じて)、for the individual(患者ごと)、with attention to detail(細かい配慮)。 ・持続痛には時刻を決めて定時投与し、突出痛にはレスキュー薬で対応する。 ・痛みが強ければ最初から強オピオイドを用いてよい。 ・原発巣の確定や病期にかかわらず、除痛は速やかに開始する。 ・オピオイドと非オピオイド鎮痛薬・鎮痛補助薬の併用は推奨される。 ・オピオイド使用時は便秘対策を必ず行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。