手術痕のあるお腹が張って痛む―腸閉塞を疑ったら、最初の一手は「立位と臥位の単純写真」
第105回医師国家試験 F問題 第21問
国試問題にチャレンジ
72歳の男性。3日前から持続する腹痛と嘔吐とを主訴に来院した。徒歩にて来院したが,その後,腹痛が増悪し,外来処置室で横になっている。歩行はかろうじて可能である。40歳時に胃潰瘍で胃切除術を受けた。意識は清明。腹部は膨隆し,正中線上に手術痕がある。腸蠕動音は亢進し腹部全体に圧痛を認める。 まず行うべき検査はどれか。
- a.腹部エックス線撮影
- b.腹部血管造影
- c.上部消化管バリウム造影
- d.腹部MRI
- e.下部消化管内視鏡検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹痛・嘔吐・腹部膨隆・腸蠕動音の亢進に開腹手術歴が加われば、術後癒着による腸閉塞をまず考えます。初期検査は簡便・迅速で低侵襲な腹部エックス線撮影(立位・臥位)で、鏡面像や拡張した腸管ガス像から腸閉塞の有無と閉塞部位の目安を、横隔膜下の遊離ガスから穿孔の有無を評価します。腸閉塞疑いでのバリウム経口造影や、腸管洗浄を要する下部消化管内視鏡は禁忌で、造影が必要なら水溶性造影剤を用い、原因や絞扼の評価には造影CTを行います。絞扼性では単純写真の所見が乏しいこともあるため、激しい持続痛や腹膜刺激症状、アシドーシスなどがあれば早急に精査し手術を検討します。検査の侵襲性・迅速性・禁忌を踏まえて順序を組み立てる考え方は、急性腹症の診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・72歳の男性、3日前から続く腹痛と嘔吐があり、来院後に腹痛が悪化している ・40歳時に胃潰瘍で胃切除術を受けており、腹部正中に手術痕がある(開腹手術歴) ・腹部膨隆、腸蠕動音の亢進、腹部全体の圧痛 ・意識は清明で、かろうじて歩行可能
診断へのプロセス
腹痛・嘔吐・腹部膨隆に腸蠕動音の亢進が加わる組み合わせは、腸閉塞(イレウス)の典型的な所見である。閉塞部より口側の腸管が内容物を先へ送ろうとして強く動くため、蠕動音は亢進し、金属音(metallic sound)として聴こえることもある。開腹手術歴があることから、最も考えやすい原因は術後の癒着による機械的腸閉塞(癒着性腸閉塞)である。癒着性腸閉塞は開腹術後、数十年たってからも起こりうる。なお、日本の急性腹症診療ガイドラインでは、腸管の機械的閉塞を「腸閉塞」、腸管麻痺など閉塞を伴わないものを「イレウス」と区別して呼ぶことが推奨されているが、国家試験では従来どおり両者を合わせて「イレウス」と呼ぶことも多い。 一方で、痛みが増悪していることから、血流障害を伴う絞扼性腸閉塞(複雑性腸閉塞)への進展や、消化管穿孔の有無にも注意が必要である。
設問の考え方
腸閉塞を疑ったときにまず行う検査は、簡便で迅速に施行でき、患者への負担が少なく、診断に直結する情報が得られるものがよい。腹部エックス線撮影(立位と臥位)は、拡張した腸管ガス像や鏡面像(ニボー)により腸閉塞の有無と閉塞部位の目安を、立位胸部・腹部像では横隔膜下の遊離ガス(free air)により消化管穿孔の有無を評価できる。これが初期検査として最も適切である。その後、閉塞の原因・部位や絞扼の有無の評価には、腹部CT(可能なら造影CT)を行うのが現在の標準的な流れである。
選択肢考察
- ○a. 腹部エックス線撮影
正しい。腸閉塞を疑ったときに最初に行う画像検査である。立位では腸管内のガスと液体の境界が水平に並ぶ鏡面像(ニボー)が、臥位では拡張した腸管ガスの分布が確認でき、小腸ではKerckring(ケルクリング)ひだ、大腸ではハウストラの有無から閉塞部位の推定にも役立つ。立位で横隔膜下の遊離ガス(free air)があれば消化管穿孔の診断にもつながる。簡便・迅速で侵襲がほとんどない点でも初期検査に適している。
- ×b. 腹部血管造影
誤り。カテーテルを動脈に入れて行う侵襲的な検査であり、消化管からの大量出血の部位診断・止血(塞栓術)や、上腸間膜動脈閉塞症などの血管性病変の評価・治療の際に考慮される。本症例のような腸閉塞疑いに対して最初に行う検査ではない。腸管の血流評価が必要な場合も、まずは造影CTが用いられる。
- ×c. 上部消化管バリウム造影
誤り。腸閉塞が疑われる患者へのバリウム(硫酸バリウム)経口投与は禁忌である。閉塞部の口側にバリウムが停滞して水分を失い固まり、閉塞を悪化させうる。また嘔吐を繰り返している患者では誤嚥の危険があり、穿孔があった場合には腹腔内に漏れたバリウムが重篤な腹膜炎を起こす。腸閉塞で消化管造影が必要な場面では、バリウムではなく水溶性造影剤(ガストログラフィン)を用いる。
- ×d. 腹部MRI
誤り。撮像に時間がかかり、腸管の蠕動や呼吸による動きで画質が低下しやすく、急性腹症の初期評価には適さない。腹痛が増悪している患者を長時間検査室に置くことにもなる。腸閉塞の原因や絞扼の評価にはCTが優先され、MRIは妊婦などCTを避けたい特殊な状況で考慮される程度である。
- ×e. 下部消化管内視鏡検査
誤り。検査前の腸管洗浄剤(大量の下剤)の内服は腸閉塞では禁忌であり、送気によって腸管内圧が上がれば穿孔の危険もある。本症例は開腹術後の癒着による小腸の閉塞が考えやすく、大腸内視鏡で得られる情報は乏しい。例外として、S状結腸軸捻転症では内視鏡による整復(減圧)が行われることがあり、大腸癌による閉塞では原因精査やステント留置に用いられることもあるが、いずれも最初に行う検査ではない。
腸閉塞の分類
・機械的腸閉塞 単純性(閉塞性):血流障害を伴わない。原因は術後癒着が最多で、ほかに腫瘍、糞便、胆石など。 複雑性(絞扼性):腸管の血流障害を伴い、腸管壊死に至りうる。内ヘルニア、索状物による絞扼、腸重積、軸捻転などが原因で、緊急手術が必要になることが多い。 ・機能的イレウス 麻痺性:腹膜炎、開腹術後、電解質異常(低カリウム血症)、薬剤などで腸管運動が低下する。蠕動音は減弱・消失する。 痙攣性:鉛中毒などでまれにみられる。
腹部エックス線所見
・立位:鏡面像(ニボー)、階段状に並ぶ鏡面像、横隔膜下の遊離ガス(穿孔) ・臥位:拡張した腸管ガス像の分布。小腸はKerckringひだ(腸管を横切る細かいひだ)、大腸はハウストラ(腸管壁の一部から出る粗いくびれ)が特徴。 ・S状結腸軸捻転ではコーヒー豆様の拡張像(coffee bean sign)がみられる。 ・絞扼性では腸管内に液体が多くガスが少ないため、所見に乏しい(gasless abdomen)ことがあり、単純エックス線のみで安心してはならない。
絞扼を疑う所見
持続的で激しい痛み、腹膜刺激症状(筋性防御、反跳痛)、発熱、頻脈、ショック、白血球増加、CK・乳酸・代謝性アシドーシスの進行など。造影CTでの腸管壁の造影不良、closed loop、腸間膜の浮腫、腹水などが診断に役立つ。
単純性腸閉塞の治療
絶飲食、輸液(脱水・電解質の補正)、経鼻胃管またはイレウス管による減圧が基本である。保存的治療で改善しない場合や絞扼が疑われる場合は手術を行う。水溶性造影剤は、診断とともに癒着性腸閉塞の改善に役立つことがある。
POINT
・腹痛・嘔吐・腹部膨隆・腸蠕動音亢進に開腹手術歴があれば、癒着性腸閉塞を考える。 ・腸閉塞疑いでまず行う検査は腹部エックス線撮影(立位・臥位)で、鏡面像や腸管拡張、遊離ガスを確認する。 ・原因・部位・絞扼の評価には次に腹部CT(造影CT)を行う。 ・腸閉塞疑いでのバリウム経口造影、腸管洗浄を要する下部消化管内視鏡は禁忌。造影が必要なら水溶性造影剤を用いる。
