肺を使わない心臓の設計図―3つの短絡路で読み解く胎児循環
第105回医師国家試験 E問題 第8問
国試問題にチャレンジ
胎児循環で正しいのはどれか。
- a.臍帯静脈は2本ある。
- b.左右心室は卵円孔で交通している。
- c.Arantius静脈管は下大静脈に流入する。
- d.臍帯動脈血は臍帯静脈血よりも酸素分圧が高い。
- e.左心室から拍出された血流の大部分は動脈管を通る。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
胎児は胎盤でガス交換を行うため、酸素に富む血液は1本の臍帯静脈で胎児に戻り、酸素に乏しい血液は2本の臍帯動脈で胎盤へ送られます。Arantius静脈管は臍帯静脈血の一部に肝臓を迂回させて下大静脈へ流入させ、卵円孔は左右の心房をつないで酸素の多い血液を左心系から脳・心筋へ優先的に送り、動脈管は右心室拍出の大部分に肺を迂回させて下行大動脈へ流します。出生後は肺血管抵抗の低下や左心房圧の上昇、酸素分圧の上昇とプロスタグランジンの低下によってこれらの短絡路が閉鎖し、静脈管索・卵円窩・動脈管索などの遺残構造となります。動脈管開存症へのNSAIDs投与や動脈管依存性心疾患へのプロスタグランジンE1製剤投与など、胎児循環の知識は新生児医療の治療選択を理解する土台になります。
解答・解説
正解はcです
問われていること
胎児循環の経路と、出生前にだけ存在する短絡路(シャント)の位置・役割を正しく理解しているかを問う問題である。
考え方
胎児は肺で呼吸しておらず、ガス交換は胎盤で行われる。そのため、「酸素を多く含む血液が胎盤から戻ってくる血管」と「酸素の少ない血液を胎盤へ送る血管」が、成人とは逆の名前・性質になる。また、働いていない肺を迂回し、酸素の多い血液を優先して脳・心臓へ送るために、3つの短絡路が存在する。 1. 静脈管(Arantius管): 臍帯静脈の血液の一部に肝臓を通過させずに下大静脈へ直接流す。 2. 卵円孔: 右心房と左心房の間の心房中隔にある孔で、下大静脈から来た酸素の多い血液を左心房へ流す。 3. 動脈管(Botallo管): 肺動脈と大動脈弓(左鎖骨下動脈分岐部より遠位)をつなぎ、右心室から出た血液の大部分に肺を迂回させる。
血流の順序
胎盤 → 臍帯静脈(1本、酸素に富む)→ 臍部から胎児の肝臓へ → 一部は静脈管を経て下大静脈へ、残りは門脈と合流して肝臓を灌流し肝静脈から下大静脈へ → 右心房 → 下大静脈からの血流の多くは卵円孔を通って左心房 → 左心室 → 上行大動脈 → 冠動脈・頭頸部・上肢(酸素の比較的多い血液が脳と心筋へ届く)。 一方、上大静脈から戻る酸素の少ない血液は右心房 → 右心室 → 肺動脈へ向かい、胎児期は肺血管抵抗が高いため、その大部分は動脈管を経て下行大動脈へ流れる → 下半身 → 内腸骨動脈から分かれる臍帯動脈(2本、酸素に乏しい)→ 胎盤。 この流れを押さえると、静脈管は下大静脈に流入する(直接、または肝静脈との合流部を介して)ことがわかり、正解はcである。
選択肢考察
- ×a. 臍帯静脈は2本ある。
臍帯には臍帯静脈が1本、臍帯動脈が2本含まれる(2A1V)。発生初期には臍帯静脈も左右1対あるが、右臍帯静脈は早期に退縮し、左臍帯静脈のみが残る。臍帯動脈が1本しかない単一臍帯動脈は、胎児の染色体異常や心奇形・腎尿路奇形などの合併と関連するため、超音波検査で確認すべき所見である。
- ×b. 左右心室は卵円孔で交通している。
卵円孔は心房中隔(一次中隔と二次中隔の重なりの隙間)に開いた孔で、左右の「心房」をつなぐ。正常な胎児では左右の心室間に交通はない(心室間の交通は先天異常である心室中隔欠損にあたる)。胎児期は右心房圧が左心房圧より高いため、右心房から左心房へ血液が流れる。出生後に肺呼吸が始まり左心房圧が上昇すると、一次中隔が弁のように押し付けられて機能的に閉鎖し、のちに癒着して卵円窩となる。
- ○c. Arantius静脈管は下大静脈に流入する。
Arantius静脈管(静脈管)は、肝臓内(肝門部)で臍帯静脈と門脈左枝の合流部から起こり、肝臓の実質を通らずに下大静脈へ直接、または肝静脈が下大静脈に注ぐ部位を介して流入する。これにより、胎盤から戻った酸素に富む血液の一部が肝臓で消費されずに心臓へ届く。静脈管を通る血液は流速が速く、下大静脈内で下半身からの酸素の少ない血液と完全には混ざらずに流れ、卵円孔へ優先的に向かう。出生後は臍帯血流が途絶えることで数日〜数週で閉鎖し、静脈管索となる。
- ×d. 臍帯動脈血は臍帯静脈血よりも酸素分圧が高い。
臍帯静脈は胎盤で酸素を受け取った血液を胎児へ運ぶため酸素に富み、臍帯動脈は胎児の全身で酸素を消費した後の血液を胎盤へ戻すため酸素に乏しい。したがって酸素分圧は臍帯静脈血の方が高い(目安として臍帯静脈血で約30mmHg前後、臍帯動脈血で約20mmHg前後)。胎児の動脈血の酸素分圧は成人よりかなり低いが、酸素親和性の高い胎児ヘモグロビン(HbF)と高いヘモグロビン濃度によって組織への酸素供給が保たれている。なお出生時の臍帯動脈血ガス分析は、分娩時の胎児の酸素化・アシドーシスの評価に用いられる。
- ×e. 左心室から拍出された血流の大部分は動脈管を通る。
動脈管は肺動脈と下行大動脈側の大動脈弓をつなぐ血管であり、そこを通るのは「右心室」から肺動脈へ拍出された血液である。胎児期は肺が液体で満たされ肺血管抵抗が高いため、右心室拍出の大部分が肺を通らず動脈管を経て下行大動脈へ流れる。左心室から拍出された血液は上行大動脈に入り、主に冠動脈・頭頸部・上肢へ供給され、動脈管は通らない。出生後は動脈血酸素分圧の上昇とプロスタグランジンの低下により動脈管が収縮して機能的に閉鎖し、のちに動脈管索となる。
胎児期の構造と出生後の遺残
・臍帯静脈(肝外部分)→ 肝円索 ・静脈管(Arantius管)→ 静脈管索 ・卵円孔 → 卵円窩 ・動脈管(Botallo管)→ 動脈管索 ・臍帯動脈(遠位部)→ 臍動脈索(内側臍ヒダ)。近位部は上膀胱動脈として残る
出生時の循環の切り替え
1. 第一呼吸で肺が膨らみ、酸素分圧上昇などにより肺血管抵抗が急激に低下する → 肺血流が増加し、左心房への還流が増えて左心房圧が上昇する。 2. 臍帯結紮で低抵抗の胎盤循環がなくなり、体血管抵抗が上昇する。下大静脈への還流が減り右心房圧が低下する。 3. 左心房圧>右心房圧となって卵円孔が機能的に閉鎖する。 4. 動脈血酸素分圧の上昇とプロスタグランジンE2の低下により、動脈管が通常生後数日以内に機能的に閉鎖する。
臨床との関連
・動脈管開存症: 早産児で多い。閉鎖を促すためにインドメタシンやイブプロフェン(プロスタグランジン合成阻害薬)が用いられる。 ・動脈管依存性の先天性心疾患(肺動脈閉鎖、大動脈縮窄・大動脈弓離断、左心低形成症候群など): 動脈管を開いておくためにプロスタグランジンE1製剤を投与する。 ・新生児遷延性肺高血圧症: 出生後も肺血管抵抗が下がらず、卵円孔・動脈管を介した右→左短絡が続きチアノーゼを呈する。 ・妊娠後期のNSAIDs使用: 胎児動脈管の早期収縮を来すおそれがあるため、原則として避ける。
POINT
・臍帯は臍帯静脈1本(酸素に富む)と臍帯動脈2本(酸素に乏しい)からなる。 ・静脈管(Arantius管)は臍帯静脈血の一部に肝臓を迂回させ、下大静脈へ流入させる。 ・卵円孔は左右の心房をつなぎ、下大静脈からの酸素に富む血液を左心系へ送る。 ・動脈管は肺動脈と大動脈をつなぎ、右心室拍出の大部分に肺を迂回させる。 ・出生後の遺残: 臍帯静脈→肝円索、静脈管→静脈管索、卵円孔→卵円窩、動脈管→動脈管索、臍帯動脈→臍動脈索。
