StudyMed医師国家試験

卵巣が「作る」ホルモンと「受け取る」ホルモン―名前にだまされない性腺軸の基本

第105回医師国家試験 E問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第7問

正常卵巣から分泌されないホルモンはどれか。

  1. a.アクチビン
  2. b.インヒビン
  3. c.エストロゲン
  4. d.プロゲステロン
  5. e.卵胞刺激ホルモン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、視床下部-下垂体-卵巣系で、それぞれのホルモンがどこで作られているかを問う問題だ。ポイントは、卵巣が分泌するホルモンと、卵巣に作用するホルモンを区別すること。まず性腺軸の3段階を言えるかな。
医学生医学生
視床下部からGnRH、下垂体前葉からFSHとLH、そして卵巣から性ステロイドホルモン、という流れですね。
ドクタードクター
よく整理できているね。GnRHはパルス状に分泌されて下垂体前葉を刺激し、ゴナドトロピンであるFSHとLHを出させる。卵巣はその刺激を受けてホルモンを分泌し、それが視床下部や下垂体にフィードバックをかけて全体を調節しているんだ。
医学生医学生
そうすると、卵胞刺激ホルモンは下垂体から出るので、卵巣からは分泌されませんね。
ドクタードクター
正解。卵胞刺激ホルモン、つまりFSHは名前の通り卵胞を刺激する側のホルモンで、下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞から分泌される。卵巣の顆粒膜細胞に作用して、卵胞発育とエストロゲン産生を促すんだ。名前に「卵胞」とついているからといって、卵巣が作るわけではない。
医学生医学生
生化学の講義で、FSHはLHやTSH、hCGとαサブユニットが共通だと習いました。
ドクタードクター
その通り。共通のαサブユニットに、ホルモンごとに異なるβサブユニットがついて特異性が決まる。では残りを確認しよう。エストロゲンはどこで作られるかな。
医学生医学生
卵胞ですよね。莢膜細胞と顆粒膜細胞が協力して作る、two-cell説というのがあった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。LHの刺激で莢膜細胞がコレステロールからアンドロゲンを合成し、FSHの刺激で顆粒膜細胞のアロマターゼがそれをエストロゲンに変換する。これがtwo-cell, two-gonadotropin theoryだ。主な活性型はエストラジオールで、排卵後は黄体からも分泌される。
医学生医学生
プロゲステロンは黄体ホルモンなので、排卵後の黄体から出るんですよね。基礎体温の高温相をつくるホルモンだと産婦人科の実習で教わりました。
ドクタードクター
その通り。プロゲステロンは子宮内膜を分泌期に変えて着床に備え、体温中枢に作用して基礎体温を上げる。妊娠が成立すると初期は黄体が、その後は胎盤が主な産生源になるよ。
医学生医学生
インヒビンとアクチビンは正直あまり自信がありません。卵巣以外で作られるホルモンかと思っていました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。どちらも卵巣の顆粒膜細胞から分泌されるペプチドで、TGF-βスーパーファミリーに属している。インヒビンはαとβのサブユニットから成り、下垂体に直接作用してFSHを選択的に抑える。一方アクチビンはβサブユニット2つの二量体で、逆にFSHを促進する。アクチビンは下垂体や胎盤など卵巣以外でも作られるけれど、正常卵巣からも分泌されることに変わりはない。
医学生医学生
名前の通り、インヒビンは抑制、アクチビンは活性化ということですね。
ドクタードクター
そう覚えて大丈夫。ちなみにフォリスタチンはアクチビンに結合してその作用を打ち消すから、結果的にFSHを抑える方向に働く。フィードバックでもう一つ大事なのがエストロゲンだ。通常は負のフィードバックだけれど、卵胞期後期に高濃度が一定期間続くと正のフィードバックに転じて、LHサージ、つまり排卵の引き金を起こすんだ。
医学生医学生
月経周期で次の卵胞が育ち始めるのは、黄体が退縮して抑制が外れるからでしょうか。
ドクタードクター
その理解でいい。黄体期の終わりに黄体が退縮すると、エストロゲン、プロゲステロン、インヒビンAが下がってFSHへの抑制が外れ、その上昇が次の周期の卵胞発育を始動させる。臨床で応用すると、閉経や早発卵巣不全では卵胞が枯渇してエストロゲンとインヒビンが下がるから、FSHが著明に上昇する。FSH高値は卵巣性の無月経を示す重要な所見だ。
医学生医学生
インヒビンが腫瘍マーカーになる腫瘍もあると聞いたことがあります。
ドクタードクター
顆粒膜細胞腫だね。エストロゲンやインヒビンを産生し、不正性器出血や子宮内膜増殖症を来すことがある。それから、顆粒膜細胞が出す抗ミュラー管ホルモンは、卵巣予備能の指標として不妊診療でよく使われているよ。

まとめ

性腺軸は、視床下部のGnRH、下垂体前葉のFSH・LH、卵巣のホルモンという3段階で構成され、卵巣由来のホルモンがフィードバックで上位を調節します。卵胞刺激ホルモン(FSH)は下垂体前葉から分泌されて卵巣に作用するホルモンであり、卵巣では産生されません。卵巣はエストロゲン(卵胞・黄体)、プロゲステロン(黄体)、アンドロゲン(莢膜細胞)、インヒビンやアクチビン(顆粒膜細胞)などを分泌し、インヒビンはFSHを抑制、アクチビンはFSHを促進します。エストロゲンは通常負のフィードバックですが、卵胞期後期には正のフィードバックでLHサージを起こします。閉経や早発卵巣不全でのFSH上昇、顆粒膜細胞腫でのインヒビン産生など、ホルモンの産生部位とフィードバックの理解は婦人科内分泌の診療に直結します。

解答・解説

正解はeです

問われていること

視床下部-下垂体-卵巣系(女性の性腺軸)において、各ホルモンがどこで産生されるかを正しく区別できるかを問う問題である。

考え方

性腺軸は次の3段階で構成される。 1. 視床下部: ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)をパルス状に分泌する。 2. 下垂体前葉: GnRHの刺激を受けて、ゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)である卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)を分泌する。 3. 卵巣: FSH・LHの刺激を受けて、ステロイドホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、アンドロゲン)と、ペプチドホルモン(インヒビン、アクチビンなど)を分泌する。卵巣由来のホルモンは視床下部・下垂体にフィードバックをかけ、ゴナドトロピン分泌を調節する。 選択肢のうち、エストロゲン・プロゲステロン・インヒビン・アクチビンはいずれも卵巣で産生される。卵胞刺激ホルモン(FSH)は名前の通り「卵胞を刺激する」側のホルモンであり、卵巣ではなく下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞から分泌される。したがって正解は卵胞刺激ホルモンである。 なお、FSHは卵巣を標的とするホルモンであり、卵巣が「作る」ホルモンと「受け取る」ホルモンを混同しないことが本問の要点である。

選択肢考察

  1. ×a.  アクチビン

    アクチビンはTGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)スーパーファミリーに属するペプチドで、インヒビンと共通のβサブユニットが2つ結合した二量体である。卵巣の顆粒膜細胞のほか、下垂体、胎盤など多くの組織で産生される。下垂体前葉に作用してFSHの合成・分泌を促進するほか、卵巣局所ではFSH受容体の発現を高めるなど、卵胞発育を調節する局所因子(オートクリン・パラクリン因子)としても働く。正常卵巣から分泌されるため、本問の答えではない。

  2. ×b.  インヒビン

    インヒビンはαサブユニットとβサブユニットからなる糖蛋白質ホルモンで、女性では主に卵巣の顆粒膜細胞(排卵後は黄体)、男性では精巣のSertoli細胞から分泌される。下垂体前葉に直接作用して、LHにはほとんど影響せずFSHの分泌を選択的に抑制する。ヒトではインヒビンBが卵胞期前半〜中期に小胞状卵胞の顆粒膜細胞から、インヒビンAが卵胞期後期の主席卵胞と黄体から主に分泌される。正常卵巣から分泌される。臨床的には顆粒膜細胞腫の腫瘍マーカーとしても用いられる。

  3. ×c.  エストロゲン

    エストロゲン(卵胞ホルモン)は、発育中の卵胞で産生されるステロイドホルモンである。LHの刺激で莢膜細胞がコレステロールからアンドロゲン(アンドロステンジオンなど)を合成し、FSHの刺激で顆粒膜細胞のアロマターゼがそれをエストロゲンに変換する(two-cell, two-gonadotropin theory)。主な活性型はエストラジオール(E2)である。排卵後は黄体からも分泌される。名称の由来は、動物に発情(estrus)を起こすホルモンであることによる。正常卵巣から分泌される。

  4. ×d.  プロゲステロン

    プロゲステロン(黄体ホルモン)は、排卵後の卵胞から形成される黄体で主に産生されるステロイドホルモンである。子宮内膜を分泌期に変化させて受精卵の着床に備えるほか、体温中枢に作用して基礎体温を上昇させる(高温相)。妊娠が成立すると、妊娠初期は黄体、その後は胎盤が主な産生源となる。正常卵巣から分泌される。

  5. ○e.  卵胞刺激ホルモン

    卵胞刺激ホルモン(FSH)は、下垂体前葉のゴナドトロピン産生細胞から分泌される糖蛋白質ホルモンであり、卵巣では産生されない。LH、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と共通のαサブユニットをもち、ホルモン固有のβサブユニットで特異性が決まる。卵巣の顆粒膜細胞に作用して卵胞の発育とアロマターゼ活性(エストロゲン産生)を促す。男性では精巣のSertoli細胞に作用して精子形成を支える。卵巣が分泌するホルモンではなく、卵巣に作用する側のホルモンである。

卵巣で産生される主なホルモン

・エストロゲン: 卵胞の顆粒膜細胞(莢膜細胞由来のアンドロゲンをアロマターゼで変換)、黄体 ・プロゲステロン: 黄体(排卵直前の顆粒膜細胞からも少量) ・アンドロゲン: 莢膜細胞、間質細胞 ・インヒビン(A・B): 顆粒膜細胞、黄体 ・アクチビン: 顆粒膜細胞(下垂体などでも産生) ・抗ミュラー管ホルモン(AMH): 前胞状卵胞・小胞状卵胞の顆粒膜細胞。卵巣予備能の指標として用いられる ・リラキシン: 黄体(妊娠中に増加)

フィードバックの整理

・エストロゲン: 通常は視床下部・下垂体に負のフィードバックをかけるが、卵胞期後期に高濃度が一定期間持続すると正のフィードバックに転じ、LHサージ(排卵の引き金)を起こす。 ・プロゲステロン: 主に視床下部のGnRHパルス頻度を低下させ、負のフィードバックとして働く。 ・インヒビン: 下垂体に直接作用し、FSHを選択的に抑制する。 ・アクチビン: 下垂体に直接作用し、FSHを促進する。 ・フォリスタチン: アクチビンに結合してその作用を打ち消し、結果的にFSHを抑制する。

月経周期との関連

黄体期の終わりに黄体が退縮すると、エストロゲン・プロゲステロン・インヒビンAが低下し、FSHに対する抑制が外れる。このFSH上昇が次の周期の卵胞群の発育を開始させる。

臨床との関連

・閉経では卵胞が枯渇し、エストロゲンとインヒビンが低下するため、FSH(LHも)が著明に上昇する。FSH高値は卵巣性無月経(早発卵巣不全など)の指標となる。 ・顆粒膜細胞腫ではエストロゲンやインヒビンが産生され、不正性器出血や子宮内膜増殖症を来すことがある。

POINT

・FSH・LHは下垂体前葉から分泌されるゴナドトロピンであり、卵巣では産生されない。 ・卵巣はエストロゲン(卵胞)、プロゲステロン(黄体)、アンドロゲン(莢膜細胞)、インヒビン・アクチビン(顆粒膜細胞)などを分泌する。 ・インヒビンはFSHを選択的に抑制し、アクチビンはFSHを促進する。いずれも下垂体に直接作用する。 ・エストロゲンは負のフィードバックが基本だが、卵胞期後期には正のフィードバックでLHサージを起こす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。