離島の朝、下壁梗塞と完全房室ブロック―無床診療所の医師が「今すぐ」すべきこと
第105回医師国家試験 E問題 第48問
国試問題にチャレンジ
70歳の男性。離島に居住している。晴天の朝,自宅近くで農作業中に突然の強い胸痛と呼吸困難とを自覚し,島内にある無床診療所を受診した。胸痛は2時間持続している。5年前から高血圧症と脂質異常症のために通院している。意識は清明。表情は苦悶様。心電図で完全房室ブロックとⅡ,Ⅲ,aVF誘導のST上昇とを認める。島内にはこの診療所以外に医療施設はない。 対応として適切でないのはどれか。
- a.家族に連絡する。
- b.三次救急医療機関に連絡する。
- c.地域包括支援センターに連絡する。
- d.ヘリコプター搬送を要請する。
- e.診療情報提供書を作成する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導のST上昇は急性下壁心筋梗塞を示し、房室結節枝の多くを出す右冠動脈の閉塞では完全房室ブロックを合併しやすく、緊急度はきわめて高くなります。STEMIは再灌流までの時間が予後を左右するため、PCIのできない離島の無床診療所では、晴天・日中で運航条件のよいヘリコプター搬送を要請し、三次救急医療機関へ連絡して受け入れを依頼することが最優先です。並行して、診療情報提供書を簡潔に作成し、家族にも病状と搬送について連絡します。一方、地域包括支援センターは介護保険法に基づく介護・福祉・権利擁護の相談窓口であり、救急対応には関与しません。限られた資源の中で重症度を見極め、高次医療機関へ速やかにつなぐ判断は、へき地医療を含むあらゆる初期対応の基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・70歳男性、高血圧症と脂質異常症という冠危険因子をもつ ・農作業中に突然発症した強い胸痛と呼吸困難が2時間持続し、苦悶様の表情 ・心電図でⅡ、Ⅲ、aVF誘導のST上昇と完全房室ブロック ・離島在住で、島内の医療施設は無床診療所のみ。晴天の朝の発症
診断
突然の胸痛・呼吸困難の鑑別には、急性冠症候群、急性大動脈解離、肺塞栓症、緊張性気胸などが挙がる。Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導は心臓の下壁を反映する誘導であり、ここにST上昇があることから急性下壁心筋梗塞(ST上昇型心筋梗塞:STEMI)と診断できる。下壁を灌流する右冠動脈は多くの場合、房室結節枝も出しているため、右冠動脈の閉塞では房室結節が虚血に陥り、完全房室ブロックを合併しやすい。完全房室ブロックは高度の徐脈から心停止や心原性ショックに至るおそれがあり、きわめて緊急度が高い。なお、下壁梗塞では右室梗塞を合併することがあり、大動脈解離が右冠動脈に及んで下壁梗塞を起こすこともあるため、搬送先では鑑別も並行して行われる。
設問の考え方
STEMIは、発症から再灌流療法(経皮的冠動脈インターベンション:PCI など)までの時間が短いほど心筋の救済量が多く、予後がよい。無床診療所ではPCIも一時的ペーシングも行えないため、最優先はPCIが可能な高次医療機関への一刻も早い搬送である。離島からの搬送では、救急車や船舶よりも航空機(ヘリコプター)の方が大幅に時間を短縮でき、晴天の日中であれば有視界飛行によるヘリコプターの運航も可能である。 搬送の準備と並行して、受け入れ先の三次救急医療機関への連絡、診療情報提供書の作成、家族への連絡を行う。一方、介護や福祉の相談窓口への連絡は、救命を目的とする現時点の対応とは無関係である。「適切でないもの」を選ぶ問題であることに注意する。
選択肢考察
- ×a. 家族に連絡する。
適切な対応である。急性心筋梗塞に完全房室ブロックを合併しており、搬送中の心停止を含めて生命の危険が高い。病状の重さと島外の病院へ搬送することを家族に速やかに伝える必要がある。搬送先での治療(緊急カテーテル治療など)に向けた説明・同意、付き添いや入院準備の点でも家族への連絡は欠かせない。
- ×b. 三次救急医療機関に連絡する。
適切な対応である。三次救急医療機関(救命救急センター)は、生命に危険のある重篤な患者を24時間体制で受け入れる医療機関である。急性心筋梗塞に完全房室ブロックを伴う本症例は、緊急のPCIや一時的ペーシングが必要となりうる重篤例であり、その対象となる。到着後すぐに治療を始められるよう、事前に電話で病状を伝えて受け入れを依頼する。
- ○c. 地域包括支援センターに連絡する。
適切でない対応である。地域包括支援センターは介護保険法に基づき市町村が設置する機関で、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)、社会福祉士、保健師などが配置される。高齢者の総合相談、介護予防ケアマネジメント、権利擁護(高齢者虐待への対応を含む)、ケアマネジャーへの支援などを担う。救急搬送や急性期医療の調整は業務に含まれない。救命を最優先すべき本症例で、ここに連絡する必要はない。退院後に介護が必要になった場合などに関わる機関である。
- ×d. ヘリコプター搬送を要請する。
適切な対応である。島内に治療できる施設がなく、STEMIは再灌流までの時間が予後を大きく左右するため、最速の搬送手段を選ぶべきである。救急ヘリコプターの出動基準では、ヘリコプターを使うと救急車や船舶より覚知から病院到着までの時間を短縮できる地域であることが前提とされ、急性心筋梗塞を疑う胸痛は対象となる重篤な疾病に含まれる。晴天の朝の発症であり、天候や時間帯の面でも運航に支障はない。医師が同乗するドクターヘリであれば、搬送中から診療を継続できる。
- ×e. 診療情報提供書を作成する。
適切な対応である。診療情報提供書(いわゆる紹介状)は、患者を他の医療機関へ紹介する際に、病状、既往歴、検査所見、診断、行った処置、紹介の目的などを記載して渡す文書である。搬送先で診療を途切れなく引き継ぐために必要で、心電図の記録なども添えるとよい。ただし、作成のために搬送を遅らせてはならず、要点を簡潔にまとめ、搬送の手配と並行して行う。
下壁梗塞と房室ブロック
・心電図の誘導と梗塞部位:Ⅱ、Ⅲ、aVF=下壁、V1〜V4=前壁中隔、Ⅰ、aVL、V5、V6=側壁 ・下壁の多くは右冠動脈が灌流し、房室結節枝の約9割は右冠動脈から出る。そのため下壁梗塞では、房室結節の虚血や迷走神経の過緊張(Bezold-Jarisch反射)によって洞性徐脈や房室ブロックが起こりやすい。多くは一過性だが、血行動態が不安定なときは一時的ペーシングが必要になる。 ・右室梗塞を合併すると、右心不全による低血圧・頸静脈怒張がみられ、ニトログリセリンの使用には注意を要する。
救急医療体制
・初期(一次)救急:入院を要しない軽症患者(休日夜間急患センター、在宅当番医など) ・二次救急:入院治療を要する患者(病院群輪番制病院など) ・三次救急:生命に危険のある重篤患者(救命救急センター、高度救命救急センター)
ドクターヘリ
救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法(ドクターヘリ特別措置法、2007年)に基づき、救急医療に必要な機器・医薬品を装備し、医師・看護師が搭乗して救急現場から治療を開始できるヘリコプターである。基地病院に待機し、消防機関などからの要請で出動する。原則として有視界飛行で、日中の運航が中心であり、天候に左右される。都道府県の境界を越えた広域での連携も想定されている。離島では、ドクターヘリのほか、自治体や消防・防災ヘリ、自衛隊・海上保安庁の航空機による急患搬送が行われることもある。
へき地医療
へき地・離島では医療資源が限られるため、診療所の医師には、急変時に的確に重症度を判断し、限られた設備で初期治療を行いながら、速やかに高次医療機関へつなぐ役割が求められる。へき地医療拠点病院による支援や遠隔医療(画像・心電図の伝送など)も活用される。
地域包括支援センター
介護保険法に基づき市町村が設置する(委託も可)。主任介護支援専門員、社会福祉士、保健師の3職種を配置し、①総合相談支援、②権利擁護(高齢者虐待への対応、成年後見制度の活用支援など)、③包括的・継続的ケアマネジメント支援、④介護予防ケアマネジメントを担う。地域包括ケアシステムの中核を担う機関である。
POINT
・Ⅱ、Ⅲ、aVFのST上昇は下壁梗塞を示し、右冠動脈の閉塞では完全房室ブロックを合併しやすい。 ・STEMIは再灌流までの時間が勝負である。PCIのできない施設では、高次医療機関への迅速な搬送が最優先となる。 ・離島では、ヘリコプターによる搬送が時間短縮に有効である(晴天・日中は運航条件がよい)。 ・転院搬送時には、受け入れ先への連絡、診療情報提供書の作成、家族への連絡を行う。 ・地域包括支援センターは、介護・福祉・権利擁護の相談窓口であり、救急対応には関与しない。
