その病原体はどこに棲む?―自然宿主から見抜く人獣共通感染症
第105回医師国家試験 E問題 第32問
国試問題にチャレンジ
人畜〈人獣〉共通感染症はどれか。2つ選べ。
- a.口蹄疫
- b.天然痘
- c.狂犬病
- d.ブルセラ症
- e.レジオネラ肺炎
対話形式の解説
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ドクターまとめ
人獣共通感染症は脊椎動物とヒトの間で自然に伝播する感染症で、病原体の自然宿主が動物にあるかどうかで判断します。狂犬病はすべての哺乳類が感染しうる咬傷由来の感染症で、発症するとほぼ100%死亡するため、ばく露後のワクチン接種が重要です。ブルセラ症はウシやヤギなどの非加熱乳製品や感染組織との接触でうつり、波状熱や不明熱の原因となります。一方、天然痘はヒトだけが宿主、レジオネラは水の環境に棲む菌、口蹄疫はヒトにほぼ感染しない家畜伝染病であり、いずれも人獣共通感染症には含まれません。動物との接触歴、職業歴、渡航歴、食事歴を丁寧に聞くことが、これらの感染症を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はc, dです
テーマ
人畜(人獣)共通感染症(zoonosis)とは、脊椎動物とヒトの間で自然に伝播する感染症のことである。ヒトは、感染動物による咬傷や接触、動物由来の食品(乳・肉)の摂取、ベクター(蚊・ダニなど)を介して感染する。
正解を導く考え方
選択肢ごとに、病原体の自然宿主(病原体を保有し続ける生物)がどこにあるかを考える。 ・動物が保有し、動物からヒトへ感染する → 人獣共通感染症 ・ヒトだけが宿主である → 人獣共通感染症ではない ・土壌や水などの環境中に病原体が存在する → 環境由来の感染症であり、人獣共通感染症ではない ・動物だけに感染し、ヒトにはほとんど感染しない → 家畜伝染病であり、人獣共通感染症ではない この視点で判断すると、狂犬病(イヌなどの哺乳類からヒトへ)とブルセラ症(ウシ・ヤギ・ヒツジ・ブタなどからヒトへ)の二つが人獣共通感染症にあたる。
選択肢考察
- ×a. 口蹄疫
口蹄疫は、ピコルナウイルス科の口蹄疫ウイルスが原因の感染症である。ウシ・ブタ・ヤギ・ヒツジなどの偶蹄類に起こり、発熱、流涎(よだれ)、口腔・蹄・乳房などの水疱を特徴とする。伝染力が非常に強く、家畜伝染病予防法の法定伝染病として畜産業に大きな被害をもたらす。2010年には宮崎県で大規模に発生し、多数の家畜が殺処分された。一方、ヒトへの感染は極めてまれで臨床的な意義がほとんどないため、公衆衛生上は人獣共通感染症として扱われない。感染した家畜の肉や乳を食べてもヒトに感染する心配はない。
- ×b. 天然痘
天然痘(痘瘡)は痘瘡ウイルスによる感染症で、自然宿主はヒトだけである。飛沫や空気を介して感染し、発熱ののちに全身の発疹が現れ、丘疹→水疱→膿疱→痂皮の順に、すべて同じ段階で進行する。致命率は約20〜50%と高かった。種痘(ワクチン接種)の普及とWHOの根絶計画により、1980年にWHOが世界根絶を宣言した。ヒト以外に宿主がないことが根絶に成功した理由の一つであり、人獣共通感染症ではない。感染症法では一類感染症に分類され、現在はバイオテロで使われる病原体として警戒されている。
- ○c. 狂犬病
狂犬病はラブドウイルス科の狂犬病ウイルスによる感染症である。イヌだけでなく、ネコ、キツネ、アライグマ、スカンク、コウモリなどすべての哺乳類が感染しうる。感染動物にかまれたり、傷口や粘膜に唾液が触れたりすることでヒトに感染する、代表的な人獣共通感染症である。ウイルスは末梢神経をさかのぼって中枢神経に達し、恐水症状(水を飲もうとすると咽頭がけいれんする)、恐風症状、興奮、麻痺などを起こす。発症するとほぼ100%死亡する。日本では1957年以降、国内でかかった例はないが、海外でかまれて帰国後に発症した例がある。ばく露後にはワクチン接種(必要に応じて抗狂犬病免疫グロブリンも併用)を速やかに行う。感染症法では四類感染症である。
- ○d. ブルセラ症
ブルセラ症はブルセラ属菌(グラム陰性小桿菌で、細胞内に寄生する)による人獣共通感染症である。ヒトは主に次の経路で感染する。感染したウシ・ヤギ・ヒツジ・ブタなどの殺菌していない乳やチーズなどの乳製品を摂取する。あるいは、流産胎仔や胎盤などの感染組織・分泌物に触れる、または吸い込む。発熱と解熱を繰り返す波状熱が特徴で、関節炎・脊椎炎、肝脾腫、精巣上体炎なども起こり、不明熱の原因となる。地中海沿岸や中東に多く、マルタ熱とも呼ばれる。獣医師、畜産業者、食肉処理業者、検査室職員に起こる職業性感染症の面もある。感染症法では四類感染症である。
- ×e. レジオネラ肺炎
レジオネラ属菌(Legionella pneumophilaなど)は、土壌や河川・湖沼などの自然環境、冷却塔、循環式浴槽、加湿器、給湯設備などの水の中に生息する。アメーバの体内で増殖する。菌を含むエアロゾル(細かい水滴)を吸い込んで感染するが、ヒトからヒトへはうつらず、動物から感染するものでもない。環境由来の感染症であり、人獣共通感染症ではない。高熱、比較的徐脈、低ナトリウム血症、意識障害などを伴う重症肺炎になりやすい。尿中抗原検査で診断し、β-ラクタム系薬は効かないため、マクロライド系やニューキノロン系の抗菌薬で治療する。感染症法では四類感染症である。
主な人獣共通感染症と感染源
・狂犬病:イヌ、コウモリ、キツネ、アライグマなど(咬傷) ・ブルセラ症:ウシ・ヤギ・ヒツジ・ブタ(乳製品、接触) ・Q熱(Coxiella burnetii):ウシ・ヒツジ・ヤギ・ネコ(出産時の分泌物を吸い込む) ・オウム病(Chlamydia psittaci):鳥類(乾燥した糞を吸い込む) ・猫ひっかき病(Bartonella henselae):ネコ ・パスツレラ症:イヌ・ネコ(咬傷・ひっかき傷) ・レプトスピラ症:ネズミなど(尿で汚染された水) ・トキソプラズマ症:ネコの糞、加熱不十分な肉 ・エキノコックス症:キツネ・イヌの糞(北海道) ・炭疽:ウシ・ヒツジなどの草食動物 ・ペスト:げっ歯類(ノミを介する) ・重症熱性血小板減少症候群(SFTS):マダニ(発症したネコ・イヌからの感染例もある) ・腸管出血性大腸菌感染症、サルモネラ症、カンピロバクター腸炎:家畜(食肉) ・鳥インフルエンザ:鳥類
人獣共通感染症ではないものの例
・ヒトだけが宿主:天然痘、麻疹、ポリオ、梅毒など ・環境由来:レジオネラ症、破傷風(土壌)など ・ヒトにはほぼ感染しない家畜伝染病:口蹄疫、豚熱(CSF)、アフリカ豚熱など
POINT
・人獣共通感染症は、動物からヒトへ自然に伝播する感染症である。 ・狂犬病:すべての哺乳類が感染しうる。咬傷で感染し、発症すればほぼ100%死亡する。ばく露後のワクチン接種が重要。 ・ブルセラ症:殺菌されていない乳・乳製品や家畜との接触で感染する。波状熱・不明熱の原因となる。 ・口蹄疫は家畜の病気であり、ヒトにはほぼ感染しない。 ・天然痘はヒトのみが宿主(1980年に根絶宣言)。 ・レジオネラは水の環境に生息し、エアロゾルで感染する(循環風呂・冷却塔)。
