「壊れ具合」ではなく「働ける余力」を測れ―肝予備能を示す2つの検査値
第105回医師国家試験 E問題 第34問
国試問題にチャレンジ
肝予備能を示す指標はどれか。2つ選べ。
- a.ALP
- b.ALT
- c.アルブミン
- d.γ-グロブリン
- e.総ビリルビン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝予備能とは肝臓に残っている機能的な余力のことで、肝硬変の重症度判定や肝細胞癌の治療法選択、肝切除範囲の決定に欠かせません。肝予備能を表すのは合成能と代謝・排泄能の指標であり、選択肢の中ではアルブミンと総ビリルビンが該当し、いずれもChild-Pugh分類(脳症・腹水・ビリルビン・アルブミン・プロトロンビン時間)の項目です。ALTは肝細胞の壊れ具合、ALPは胆汁うっ滞を示し、γ-グロブリンは慢性炎症で増える形質細胞由来の蛋白なので、肝予備能の指標ではありません。臨床ではこれらに加え、プロトロンビン時間、ICG停滞率、コリンエステラーゼ、MELDスコアなどを組み合わせて評価します。検査値を「何を見ているか」で分類する習慣は、肝疾患の病態把握と治療判断の基礎になります。
解答・解説
正解はc, eです
テーマ
肝予備能とは、肝臓に残っている機能的な余力のことである。肝硬変の重症度判定、肝細胞癌の治療法(肝切除・ラジオ波焼灼療法・肝動脈化学塞栓療法など)の選択、肝切除の範囲の決定、肝移植の適応判断に欠かせない。
正解を導く考え方
肝機能検査は、何を見ているかで次のように分けて考える。 ・肝細胞の障害(壊れ具合)を示す:AST、ALT ・胆汁うっ滞を示す:ALP、γ-GTP ・肝臓の合成能を示す:アルブミン、プロトロンビン時間(凝固因子)、コリンエステラーゼ、総コレステロール ・肝臓の代謝・排泄能を示す:総ビリルビン、ICG(インドシアニングリーン)停滞率、アンモニア ・炎症や線維化に伴う免疫反応を示す:γ-グロブリン 肝予備能を表すのは、「どれだけ壊れているか」ではなく「どれだけ働けるか」を示す指標、つまり合成能と代謝・排泄能の指標である。代表的な重症度分類であるChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類には、血清アルブミンと血清総ビリルビンの二つが含まれている。したがって、選択肢のうちこの二つが肝予備能の指標となる。
選択肢考察
- ×a. ALP
ALP(アルカリホスファターゼ)は、胆管の上皮細胞や骨・小腸・胎盤に多く含まれる酵素である。肝胆道系では、胆汁うっ滞(閉塞性黄疸、原発性胆汁性胆管炎など)で上昇する。胆汁の流れの障害を示すが、残っている肝機能の量を示すものではない。Child-Pugh分類にも含まれず、肝予備能の指標ではない。
- ×b. ALT
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は肝細胞の中に多い逸脱酵素である。肝細胞が壊れると血液中に漏れ出して上昇し、現在進んでいる肝細胞障害の強さを示す。しかし、残っている肝細胞の量や機能は示さない。たとえば肝硬変が進行して肝細胞が大きく減ると、壊れる細胞自体が少なくなるため、ALTは正常に近い値になることもある。したがって肝予備能の指標ではない。
- ○c. アルブミン
アルブミンは肝細胞だけで作られる血漿蛋白であり、肝臓の蛋白合成能を反映する。肝予備能が下がると血清アルブミンは低下し、膠質浸透圧が下がって腹水や浮腫の原因になる。Child-Pugh分類の評価項目の一つであり(3.5g/dL超で1点、2.8〜3.5g/dLで2点、2.8g/dL未満で3点)、肝予備能の指標として使われる。ただし、半減期が約3週間と長いため、急性肝障害での急な機能低下は反映しにくい。急性期の合成能の評価には、半減期の短い凝固因子を反映するプロトロンビン時間のほうが適している。また、低栄養やネフローゼ症候群などの蛋白喪失でも低下するため、解釈には注意が必要である。
- ×d. γ-グロブリン
γ-グロブリン(免疫グロブリン)は肝臓ではなく形質細胞で作られる。慢性肝炎や肝硬変では、腸管から門脈を通って入る抗原を肝臓で処理しきれなくなり、さらに慢性炎症もあるため、多クローン性に増加する。このためアルブミン/グロブリン比(A/G比)が低下する。自己免疫性肝炎ではIgGが著しく上昇する。肝臓の線維化や炎症の程度を推測する手がかりにはなるが、肝予備能の指標ではなく、Child-Pugh分類にも含まれない。
- ○e. 総ビリルビン
ビリルビンは主にヘモグロビンが分解されてでき、肝細胞に取り込まれてグルクロン酸抱合を受け、胆汁中に排泄される。肝予備能が下がると取り込み・抱合・排泄の能力が落ちて血清総ビリルビンが上昇するため、肝臓の代謝・排泄能の指標となる。Child-Pugh分類の評価項目の一つであり(2.0mg/dL未満で1点、2.0〜3.0mg/dLで2点、3.0mg/dL超で3点)、肝予備能の判定に用いられる。ただし、閉塞性黄疸や溶血でも上昇するため、それらを除外したうえで評価する。
Child-Pugh分類
次の5項目を1〜3点で採点し、合計点で分類する。 ・肝性脳症:なし 1点/軽度(Ⅰ〜Ⅱ度)2点/昏睡(Ⅲ度以上)3点 ・腹水:なし 1点/軽度 2点/中等度以上 3点 ・血清ビリルビン(mg/dL):2.0未満 1点/2.0〜3.0 2点/3.0超 3点 ・血清アルブミン(g/dL):3.5超 1点/2.8〜3.5 2点/2.8未満 3点 ・プロトロンビン時間(活性値%):70超 1点/40〜70 2点/40未満 3点 合計5〜6点がA(代償性)、7〜9点がB、10〜15点がC(非代償性)である。
肝障害度(日本肝癌研究会)
肝細胞癌の治療方針の決定に用いられる分類である。腹水、血清ビリルビン、血清アルブミン、ICG停滞率(15分値:ICG R15)、プロトロンビン活性値の5項目で、A・B・Cに分ける。Child-Pugh分類と比べると、肝性脳症の代わりにICG R15が入っている点が特徴である。
その他の肝予備能の指標
・ICG停滞率(15分値):静脈に注射した色素が15分後に血中にどれだけ残っているかを測る。正常は10%未満である。肝血流と肝細胞の取り込み・排泄能を反映し、肝切除範囲の決定に重要である。 ・プロトロンビン時間:凝固因子(とくに第Ⅶ因子)の半減期は数時間と短いため、急性肝不全の重症度を鋭く反映する。 ・コリンエステラーゼ、総コレステロール:合成能を反映し、肝予備能が低下すると下がる。 ・アシアロ糖蛋白受容体シンチグラフィ(99mTc-GSA):働いている肝細胞の量を画像で評価する。 ・血小板数、血中アンモニア:門脈圧亢進や解毒能の低下を反映する補助的な指標である。 ・MELDスコア:血清ビリルビン、血清クレアチニン、PT-INRから計算し、肝移植の優先度判定などに用いる。
POINT
・肝予備能は合成能(アルブミン、プロトロンビン時間、コリンエステラーゼ)と代謝・排泄能(ビリルビン、ICG)で評価する。 ・Child-Pugh分類の5項目:脳症、腹水、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間。 ・肝障害度(肝癌の治療方針に使う)では、脳症の代わりにICG R15が入る。 ・AST・ALTは肝細胞の壊れ具合、ALP・γ-GTPは胆汁うっ滞を示し、肝予備能の指標ではない。 ・γ-グロブリンは慢性肝疾患で上昇するが、肝予備能の指標ではない。
