StudyMed医師国家試験

「みんなで少しずつ」が国を変える―健康日本21を貫く3つの柱

第105回医師国家試験 E問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第18問

健康日本21で重視されているのはどれか。

  1. a.二次予防
  2. b.薬物乱用防止
  3. c.ハイリスクアプローチ
  4. d.全国一律のアプローチ
  5. e.健康課題ごとの目標設定

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の行政施策から、健康日本21の基本的な考え方を問う問題だ。選択肢はどれも予防医学の用語が並んでいて紛らわしいけれど、「何を重視した運動か」という骨格をつかんでいれば迷わず解ける。まず、健康日本21がどんな目的で始まったか覚えているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。2000年に始まった国民健康づくり運動で、健康寿命を延ばすのが目的だったと思います。
ドクタードクター
その通り。壮年期死亡の減少、健康寿命の延伸、生活の質の向上を目指して始まり、2003年施行の健康増進法で法的な裏付けを得た。では、その運動の柱は何だと思う?
医学生医学生
がん検診や健診の受診率を上げることが大事なので、二次予防でしょうか。
ドクタードクター
そこが典型的な引っかけだね。健診で早く見つけて早く治すのは確かに二次予防だけれど、健康日本21が重点を置いたのは、食生活・運動・喫煙などの生活習慣を改善して病気そのものを起こさない一次予防なんだ。予防の3段階を整理しておこう。一次予防は健康増進と発病予防、二次予防は早期発見・早期治療、三次予防は悪化防止とリハビリテーションによる社会復帰だ。
医学生医学生
なるほど、生活習慣病の運動なので、発病前に手を打つことが中心なんですね。では、高リスクの人を選んで指導するハイリスクアプローチはどうですか。特定保健指導がそれにあたると習いました。
ドクタードクター
よく知っているね。特定健診・特定保健指導はハイリスクアプローチの代表だ。でも健康日本21が基本に据えたのは、集団全体に働きかけてリスクの分布そのものを好ましい方向へずらすポピュレーションアプローチなんだ。
医学生医学生
一人ひとりへの効果は小さそうですが、それで本当に病気が減るんですか。
ドクタードクター
いい疑問だ。Roseの予防のパラドックスという考え方がある。実際の患者の多くは、極端な高リスク者ではなく「少しリスクが高い」大多数の中から出てくる。だから集団全体の血圧や喫煙率を少し下げるほうが、全体としては多くの発症を防げる。もちろん両方のアプローチは組み合わせて使うけれど、運動の中心は後者だよ。
医学生医学生
全国一律のアプローチも、国の運動だから一律かなと一瞬思いました。
ドクタードクター
国は全体の方針と目標を示すけれど、都道府県や市町村は地域の健康課題に合わせて独自の健康増進計画をつくる。健康増進法では都道府県は策定が義務、市町村は努力義務だ。地域ごとに課題が違うから、画一的な施策ではうまくいかないという発想だね。
医学生医学生
薬物乱用防止は、健康づくりとしては大事そうですが……。
ドクタードクター
大事なテーマだけれど、第一次の健康日本21の9分野、つまり栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、がんには含まれていない。薬物乱用対策は薬物乱用防止五か年戦略という別の枠組みで進められているんだ。
医学生医学生
そうすると、正解は健康課題ごとの目標設定ですね。
ドクタードクター
正解。分野ごとに成人の喫煙率や1日の歩数といった具体的な数値目標を掲げ、中間評価・最終評価で達成度を確かめて施策を見直す。この目標管理型の手法こそ健康日本21の大きな特徴で、第二次、第三次にも引き継がれている。
医学生医学生
整理すると、一次予防、ポピュレーションアプローチ、地域の実情に応じた計画、そして数値目標。誤りの選択肢はちょうどその反対側を並べていたんですね。
ドクタードクター
見事な整理だ。最後に変遷も押さえておこう。第二次は2013年度からで、健康寿命の延伸と健康格差の縮小を最上位の目標に掲げ、発症予防に加えて重症化予防も基本的方向に入った。第三次は2024年度から始まり、社会環境の質の向上やライフコースアプローチを踏まえた健康づくりが打ち出されている。
医学生医学生
臨床実習で糖尿病内科を回ったとき、外来の患者さんを見ているだけでは見えない部分を、こうした施策が支えているんだと感じます。
ドクタードクター
そうだね。臨床医は目の前の患者さんを治すのが仕事だけれど、患者さんが暮らす地域や社会の環境が健康を大きく左右する。保健指導や地域の健康づくりに関わる機会があったら、この考え方を思い出してほしい。

まとめ

健康日本21は2000年度に始まった国民健康づくり運動で、健康増進法を法的根拠とし、健康寿命の延伸などを目的としています。柱は、生活習慣改善による一次予防の重視、集団全体のリスク分布を下げるポピュレーションアプローチ、地域の実情に応じた地方計画の策定、そして健康課題(分野)ごとの具体的な数値目標の設定と評価です。二次予防、ハイリスクアプローチ、全国一律という語はいずれもこれらの方針の反対側にあたり、薬物乱用防止は第一次の9分野に含まれません。第二次では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が最上位目標となり、第三次ではライフコースアプローチなども加わりました。予防の段階とアプローチの種類を正しく区別することは、公衆衛生の問題全般を解く基礎であり、臨床医が地域保健に関わるうえでも欠かせない視点です。

解答・解説

正解はeです

健康日本21とは

健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)は、2000年度に厚生労働省(当時は厚生省)が開始した国民的な健康づくり運動である。壮年期死亡の減少、健康寿命(介護などを要せず自立して生活できる期間)の延伸、生活の質(QOL)の向上を目的とし、2003年施行の健康増進法によって法的な裏付けが与えられた。

基本的な考え方

第一次の健康日本21は、次のような特徴をもっていた。 ・一次予防の重視: 病気の早期発見・早期治療(二次予防)よりも、生活習慣を改善して病気そのものを発生させないこと(一次予防)に重点を置いた。 ・ポピュレーションアプローチ: 疾病リスクの高い人だけを選び出して介入するのではなく、集団全体のリスク分布を好ましい方向へ動かす働きかけを重視した。 ・目標の設定と評価: 生活習慣や生活習慣病について9つの分野を設け、分野ごとに具体的な数値目標を定め、中間評価・最終評価で達成度を検証する仕組みとした。 ・多様な実施主体の連携と環境整備: 国だけでなく、都道府県・市町村が地域の実情に応じた地方計画を策定し、職場・学校・医療保険者・民間団体などと連携して、個人の健康づくりを支える社会環境を整えることを求めた。

考え方

選択肢のうち、上記の特徴に合致するのは「健康課題ごとの目標設定」である。二次予防、ハイリスクアプローチ、全国一律という語は、いずれも健康日本21が重視した方針(一次予防、ポピュレーションアプローチ、地域の実情に応じた計画)の反対側にあたることに気付けば、正解を選べる。

選択肢考察

  1. ×a.  二次予防

    誤り。二次予防は健診・検診などによる疾病の早期発見・早期治療を指す。健康日本21が重点を置いたのは、食生活・運動・喫煙などの生活習慣を改善して発病を防ぐ一次予防(健康増進・発病予防)である。

  2. ×b.  薬物乱用防止

    誤り。第一次の健康日本21の9分野(栄養・食生活、身体活動・運動、休養・こころの健康づくり、たばこ、アルコール、歯の健康、糖尿病、循環器病、がん)に薬物乱用防止は含まれていない。薬物乱用対策は、薬物乱用防止五か年戦略など別の枠組みで推進されている。

  3. ×c.  ハイリスクアプローチ

    誤り。ハイリスクアプローチは、リスクの高い個人を選び出して重点的に介入する手法である(特定健診・特定保健指導はその代表)。健康日本21が基本としたのは、集団全体に働きかけてリスクの分布そのものを下げるポピュレーションアプローチである。両者は組み合わせて用いられるが、運動の中心に据えられたのは後者である。

  4. ×d.  全国一律のアプローチ

    誤り。国が全体の方針と目標を示す一方、都道府県・市町村は地域の健康課題や実情を踏まえて独自の健康増進計画を策定する。健康増進法でも、都道府県には健康増進計画の策定が義務づけられ、市町村には策定の努力義務が課されている。全国で画一的に同じ施策を行う方式ではない。

  5. ○e.  健康課題ごとの目標設定

    正しい。健康日本21の大きな特徴は、たばこ・アルコール・身体活動・糖尿病などの分野(健康課題)ごとに、成人の喫煙率や1日の歩数などの具体的な数値目標を設定し、その達成度を評価して施策を見直すという目標管理型の手法をとった点にある。この考え方は第二次、第三次にも引き継がれている。

健康日本21の変遷

・第一次(2000〜2012年度): 当初は2010年度までの計画であったが、医療制度改革などとの整合を図るため2012年度まで延長された。9分野・約70項目の数値目標を設定した。 ・第二次(2013〜2023年度): 健康寿命の延伸と健康格差の縮小を最上位の目標とし、生活習慣病の発症予防と重症化予防、社会生活を営むために必要な機能の維持・向上、健康を支え守るための社会環境の整備などを基本的方向とした。重症化予防も加わった点に注意する。 ・第三次(2024〜2035年度): 「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現」をビジョンに掲げ、健康寿命の延伸と健康格差の縮小、個人の行動と健康状態の改善、社会環境の質の向上、ライフコースアプローチを踏まえた健康づくりを基本的方向としている。

予防の段階

・一次予防: 健康増進と発病予防(生活習慣改善、予防接種など) ・二次予防: 早期発見・早期治療(がん検診、健康診断など) ・三次予防: 疾病の悪化防止と機能回復、社会復帰(リハビリテーションなど)

ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチ

・ハイリスクアプローチ: 高リスク者に絞って介入する。対象が明確で個人への効果は大きいが、集団全体への波及効果は限られる。 ・ポピュレーションアプローチ: 集団全体に働きかける。一人ひとりへの効果は小さくても、集団のリスク分布全体が低い方へ移るため、集団全体として予防できる患者数は多い(Roseの予防のパラドックス)。

POINT

・健康日本21は一次予防の重視、ポピュレーションアプローチ、健康課題(分野)ごとの数値目標の設定と評価が柱である。 ・地方自治体は地域の実情に応じた計画を策定する(全国一律ではない)。 ・法的根拠は健康増進法。第一次は9分野で、薬物乱用防止は含まれない。 ・第二次・第三次では健康寿命の延伸と健康格差の縮小が中心的な目標となっている。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。