何もしなくても見える「フェンシング姿勢」―自発運動に現れる非対称性緊張性頸反射
第105回医師国家試験 E問題 第16問
国試問題にチャレンジ
正常新生児において自発的な動きのなかで観察できる反射はどれか。
- a.背反射
- b.歩行反射
- c.足底把握反射
- d.パラシュート反射
- e.非対称性緊張性頸反射
対話形式の解説
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ドクターまとめ
新生児・乳児の原始反射の多くは検者の刺激や姿勢保持で誘発されますが、非対称性緊張性頸反射(ATNR)は児が自分で顔を横に向けるだけで現れ、顔面側の上下肢伸展・後頭側の上下肢屈曲という「フェンシング姿勢」として自発運動のなかで観察できます。背反射(Galant反射)、歩行反射、足底把握反射はいずれも検者の刺激や操作が必要であり、パラシュート反射は生後7〜9か月ごろに出現して生涯持続する姿勢反応のため新生児にはみられません。消失時期の目安は、歩行反射が約2か月、Galant反射が数か月、ATNRが4〜6か月、足底把握反射が9〜10か月ごろです。原始反射の欠如・左右差・残存は脳性麻痺などの中枢神経障害を疑う手がかりとなるため、「誘発方法」と「出現・消失時期」をセットで整理しておくことが、乳児健診や発達評価の基礎になります。
解答・解説
正解はeです
新生児・乳児期には、脳幹や脊髄レベルで統合される原始反射が認められる。原始反射の多くは、検者が特定の刺激(皮膚をこする、足底を押す、体を支えて床に足をつけるなど)を加えたり、特定の姿勢をとらせたりしたときに初めて誘発される。 本問では「自発的な動きのなかで観察できる」反射、すなわち検者が手を加えなくても、児自身の動作をきっかけに現れる反射が問われている。新生児は仰臥位で自分から顔を左右に向けることが多く、そのたびに頸部の固有受容器からの入力によって四肢の姿勢が変化する。これが非対称性緊張性頸反射(ATNR:asymmetric tonic neck reflex)であり、顔を向けた側の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する「フェンシング姿勢」として、診察時に何もしなくても観察できることがある。 他の選択肢は、いずれも検者による刺激や姿勢保持が必要な反射であるか(背反射・歩行反射・足底把握反射)、そもそも新生児期にはまだ出現していない反射(パラシュート反射)である。各反射について「どうやって誘発するか」「いつ出現し、いつ消失するか」を整理しておくことが解答の鍵となる。
選択肢考察
- ×a. 背反射
背反射(Galant反射)は、児を腹臥位で水平に支え(腹位懸垂)、脊柱のすぐ外側を上から下へ指でこすると、刺激した側へ体幹が弯曲する反射である。検者が皮膚刺激を加えて誘発するものであり、自発的な動きの中で観察される反射ではない。新生児期から認められ、生後数か月(おおむね4か月前後まで)で消失する。
- ×b. 歩行反射
歩行反射(自動歩行)は、児の両腋を後方から支えて立たせ、体をやや前に傾けながら足底を床面につけると、下肢を交互に屈伸させて歩くような動きをする反射である。検者が児を支えて床に足を接触させる必要があり、自発的には出現しない。生後2か月ごろ(遅くとも4か月ごろ)までに消失する。
- ×c. 足底把握反射
足底把握反射は、足趾の付け根(母趾球付近)の足底を指で圧迫すると、全趾が屈曲して握るような動きをする反射である。検者が足底に圧刺激を加えることで誘発されるため、自発的な動きの中で観察される反射ではない。手掌把握反射よりも長く残り、つかまり立ちを始める生後9〜10か月ごろに消失する。
- ×d. パラシュート反射
パラシュート反射は、児を腹臥位で水平に抱き上げ、急に頭部を床へ向けて下降させると、身を守るように両上肢を伸展し手指を開いて床につこうとする反応である。原始反射ではなく、より高位の中枢で統合される保護的な姿勢反応であり、生後7〜9か月ごろに出現して生涯持続する。新生児には認められず、また検者の操作で誘発するものである。
- ○e. 非対称性緊張性頸反射
非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、仰臥位で頭部を一側へ回旋すると、顔が向いた側(顔面側)の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する反射で、フェンシングの構えに似た姿勢となる。検者が頭を回して誘発することもできるが、新生児・早期乳児は自分から顔を横に向けることが多く、その際に自発的な姿勢として観察できるため、題意に合致する。新生児期から出現し、生後1〜2か月ごろに目立ち、4〜6か月ごろまでに消失する。消失しない場合や、常に一定方向にこの姿勢が強く固定される場合は脳性麻痺などの中枢神経障害を疑う。
原始反射の意義
原始反射は、大脳皮質による抑制が未熟な時期に脳幹・脊髄レベルで起こる反射である。中枢神経系の成熟とともに抑制されて消失し、代わりに立ち直り反応やパラシュート反射などの姿勢反応が出現する。原始反射が出現すべき時期に認められない、左右差がある、消失すべき時期を過ぎても残存する、といった場合は中枢神経障害や末梢神経障害を疑う手がかりとなる。
主な原始反射と消失時期の目安
・Moro反射:頭部を急に後屈させる(支えを急に下げる)と、両上肢を伸展・外転し、続いて抱きつくように屈曲する。約4か月で消失。 ・探索反射・吸啜反射:口周囲や口腔内の刺激で出現。4〜6か月ごろに消失。 ・手掌把握反射:手掌の刺激で握る。3〜4か月ごろに消失。 ・足底把握反射:9〜10か月ごろに消失。 ・自動歩行(歩行反射):約2か月で消失。 ・Galant反射(背反射):数か月で消失。 ・非対称性緊張性頸反射(ATNR):4〜6か月ごろに消失。
姿勢反応(生涯持続するもの)
・Landau反応:腹位水平に抱くと頭部・体幹・下肢を伸展する。生後3〜6か月ごろに出現。 ・パラシュート反射(前方):生後7〜9か月ごろに出現し、生涯持続する。 ・ホッピング反応・傾斜反応など:その後に出現する平衡反応。
ATNRと発達
ATNRで顔を向けた側の上肢が伸びることは、視線の先の手を見る経験につながり、目と手の協調の発達に関与すると考えられている。ATNRが消失して頭部が正中位に保たれるようになると、両手を正中で合わせる動作が可能になる(生後4か月前後)。
POINT
・非対称性緊張性頸反射(ATNR)は、児が自分で顔を横に向けるだけで出現し、フェンシング姿勢として自発運動の中で観察できる。4〜6か月ごろに消失する。 ・背反射(Galant反射)、歩行反射、足底把握反射は検者の刺激や操作で誘発する原始反射である。 ・足底把握反射は原始反射の中で消失が遅く、9〜10か月ごろまで残る。 ・パラシュート反射は生後7〜9か月ごろに出現して生涯持続する姿勢反応であり、新生児にはみられない。
