紫色の皮疹は免疫不全のサイン―Kaposi肉腫からHIV感染を読み解く
第105回医師国家試験 D問題 第32問
国試問題にチャレンジ
42歳の男性。同性愛者。全身倦怠感,体重減少および皮疹を主訴に来院した。1年前から全身倦怠感と10%の体重減少とがあった。3か月前から痒みのない皮疹が多発してきた。口腔内にも同様の病変を認める。体幹部の写真を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.二期梅毒
- b.皮膚結核
- c.悪性黒色腫
- d.Kaposi肉腫
- e.悪性リンパ腫
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
男性間性交渉者という背景、年単位の倦怠感と体重減少、皮膚と口腔粘膜に多発する紫紅色の結節・局面がそろえば、AIDSに合併したKaposi肉腫をまず考えます。Kaposi肉腫はHHV-8感染を背景に細胞性免疫低下で生じる血管系腫瘍で、AIDS指標疾患の一つであり、体幹では割線に沿った楕円形、口腔では硬口蓋に好発します。病理では紡錘形細胞の増殖とスリット状血管腔、赤血球漏出が特徴で、二期梅毒・悪性黒色腫・悪性リンパ腫・皮膚結核とは色調や形態、経過で区別できます。治療の基本は抗レトロウイルス療法による免疫回復で、進行例では化学療法を併用し、診断時にはHIVに加えて梅毒など重複しやすい性感染症の検査も行うことが重要です。皮疹を全身状態や背景と結びつけて考える姿勢は、免疫不全に伴う疾患を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・42歳男性、男性間性交渉者(MSM:men who have sex with men)であり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の高リスク群に属する。 ・1年前からの全身倦怠感と10%の体重減少:慢性の消耗状態を示し、HIV感染が進行して免疫不全に陥りつつある経過として説明できる。 ・3か月前から多発する痒みのない皮疹があり、口腔内にも同じ性状の病変がある。 ・体幹部の写真:紫紅色〜暗赤褐色の、やや隆起した小結節や楕円形の局面が散在性に多発している。一部は皮膚の割線(皮膚の張力の方向)に沿って長軸をもつ楕円形を呈している。
診断へのプロセス
HIV感染リスクの高い背景、年単位の消耗症状(倦怠感・体重減少)、そして皮膚と口腔粘膜に多発する紫紅色の結節・局面という組み合わせは、後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併したKaposi肉腫の典型像である。Kaposi肉腫はAIDS指標疾患の一つであり、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8、別名KSHV:Kaposi肉腫関連ヘルペスウイルス)の感染を背景に、細胞性免疫の低下によって発症する血管系の腫瘍である。口腔内、とくに硬口蓋は好発部位として知られ、皮膚と口腔の両方に紫色の病変があることは強い手がかりとなる。 鑑別としては、同じく性感染症である二期梅毒の皮疹(バラ疹・丘疹性梅毒疹)や口腔粘膜疹が挙がるが、色調(紫紅色)や結節状の形態、1年に及ぶ消耗症状の経過は合わない。他の選択肢も色調・形態・経過のいずれかで説明がつかない。
設問への考え方
「同性愛者+慢性の消耗症状+紫紅色の皮膚・口腔粘膜病変」という三点がそろえば、まずAIDS関連Kaposi肉腫を想起する。実臨床では、診断確定のため皮膚生検(紡錘形細胞の増殖とスリット状の血管腔、赤血球の漏出、HHV-8 LANA-1免疫染色陽性)を行い、同時にHIV抗体検査とCD4陽性T細胞数・HIV RNA量の評価を行う。
選択肢考察
- ×a. 二期梅毒
二期梅毒は感染後およそ3か月前後から出現し、痒みの乏しい淡紅色斑(バラ疹)、赤銅色の丘疹(丘疹性梅毒疹)、手掌・足底の落屑を伴う皮疹、口腔の粘膜斑、扁平コンジローマなどを呈する。MSMに多い性感染症であり、痒みがない点や口腔病変がある点は共通するため鑑別には挙がる。しかし写真の病変は紫紅色で結節状に隆起しており、バラ疹や丘疹性梅毒疹の色調・形態とは異なる。また1年に及ぶ倦怠感と10%の体重減少という慢性消耗の経過も二期梅毒では説明しにくい。なお、HIVと梅毒は重複感染が多いため、実際には梅毒血清反応も確認しておくべきである。
- ×b. 皮膚結核
皮膚結核には、顔面に好発する尋常性狼瘡(リンゴゼリー様の結節)、頸部リンパ節結核から皮膚に波及する皮膚腺病(瘻孔形成)、結核疹である硬結性紅斑(下腿の有痛性硬結)や丘疹壊疽性結核疹などがある。いずれも好発部位や形態が本例とは異なり、体幹に紫紅色の結節が散在性に多発し、口腔粘膜にも同じ病変が生じるという像にはならない。
- ×c. 悪性黒色腫
悪性黒色腫はメラノサイト由来の悪性腫瘍で、通常は単発の黒色〜黒褐色の色素斑・結節として発生し、形の非対称性、境界不整、色調の濃淡不均一、径の増大などが特徴である。日本人では足底や爪部(末端黒子型)に多い。本例のように紫紅色の結節が体幹に短期間で多発し、口腔にも同様の病変がみられる像とは合致しない。転移により多発することはあるが、その場合も原発巣が存在し色調は黒色調が主体である。
- ○d. Kaposi肉腫
Kaposi肉腫はHHV-8感染を背景に生じる、血管内皮(リンパ管内皮)系由来の腫瘍である。AIDS関連型では体幹・顔面・口腔粘膜(とくに硬口蓋)などに、紫紅色〜暗赤褐色の斑、局面、結節が多発し、体幹では皮膚割線に沿った楕円形を示すことが多い。痒みや痛みは通常乏しい。MSMという背景、1年に及ぶ倦怠感と体重減少(HIV感染の進行による消耗)、皮膚と口腔に多発する紫色病変という所見がすべて合致し、最も考えられる。AIDS指標疾患であり、治療の基本は抗レトロウイルス療法(ART)による免疫回復で、進行例にはリポソーム化ドキソルビシンやパクリタキセルなどの化学療法を併用する。
- ×e. 悪性リンパ腫
悪性リンパ腫もAIDS関連悪性腫瘍(非Hodgkinリンパ腫はAIDS指標疾患)であり、体重減少などのB症状を呈しうる点は共通する。しかし通常はリンパ節腫脹が主体で、本例ではその記載がない。皮膚に病変をつくるリンパ腫(菌状息肉症など皮膚リンパ腫)もあるが、紅斑・局面・腫瘤が主体で、本例のような紫紅色の小結節が皮膚と口腔に散在する典型像とは異なる。
Kaposi肉腫の病型
・古典型:地中海沿岸・東欧系の高齢男性に多く、下肢に緩徐に進行する。 ・アフリカ(地域流行)型:サハラ以南アフリカの小児・若年成人にみられ、リンパ節型は進行が速い。 ・医原性(免疫抑制関連)型:臓器移植後など免疫抑制薬の使用中に生じ、免疫抑制の減量で退縮しうる。 ・AIDS関連型:MSMのHIV感染者に多く、皮膚・口腔粘膜だけでなく消化管や肺など内臓にも病変をつくりうる。進行が速い。
病因・病理
・原因ウイルスはHHV-8(KSHV)。唾液などを介して感染し、MSMで感染率が高い。 ・病理では、異型の乏しい紡錘形細胞が束状に増殖し、その間に裂隙状(スリット状)の血管腔と赤血球の血管外漏出、ヘモジデリン沈着がみられる。HHV-8の潜伏感染関連核抗原(LANA-1)免疫染色が陽性となる。 ・HHV-8は原発性滲出液リンパ腫(PEL)や多中心性Castleman病の原因にもなる。
AIDSに合併する主な悪性腫瘍(AIDS指標疾患に含まれるもの)
・Kaposi肉腫 ・非Hodgkinリンパ腫(中枢神経原発リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、Burkittリンパ腫など) ・浸潤性子宮頸癌
HIV感染症の経過
急性感染期(伝染性単核球症様の症状)→ 無症候期(数年〜10年程度)→ CD4陽性T細胞数の低下とともにAIDS発症(日和見感染症・悪性腫瘍)。本例の1年に及ぶ倦怠感と体重減少はAIDS発症期に近づいた消耗を反映すると考えられる。HIV消耗症候群(意図しない10%以上の体重減少に慢性の下痢や発熱を伴うもの)もAIDS指標疾患の一つである。
POINT
・MSM+慢性の倦怠感・体重減少+紫紅色の皮膚・口腔粘膜病変 → AIDS関連Kaposi肉腫を考える。 ・Kaposi肉腫の原因はHHV-8(KSHV)で、AIDS指標疾患の一つである。 ・皮疹は紫紅色の斑・局面・結節で、体幹では皮膚割線に沿った楕円形になりやすく、口腔では硬口蓋に好発する。 ・病理では紡錘形細胞の増殖とスリット状血管腔、赤血球漏出が特徴。 ・治療の基本はARTで、進行例では化学療法(リポソーム化ドキソルビシンなど)を併用する。 ・Kaposi肉腫を疑ったらHIV検査(および梅毒など他の性感染症の検査)を行う。
