耳の皮疹が教えてくれる顔面神経麻痺の犯人―Ramsay Hunt症候群と水痘・帯状疱疹ウイルス
第105回医師国家試験 D問題 第31問
国試問題にチャレンジ
40歳の男性。右耳痛と右顔面神経麻痺とを主訴に来院した。今朝から右難聴,耳鳴および軽い回転性めまいがある。右外耳道入口部に皮疹を認める。 原因として考えられるのはどれか。
- a.EBウイルス感染症
- b.アデノウイルス感染症
- c.サイトメガロウイルス感染症
- d.単純ヘルペスウイルス感染症
- e.水痘・帯状疱疹ウイルス感染症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
一側の耳痛を伴う耳介・外耳道の皮疹、末梢性顔面神経麻痺、難聴・耳鳴・めまいなどの内耳神経症状がそろえばRamsay Hunt症候群(耳性帯状疱疹)であり、原因は膝神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化です。顔面神経と内耳神経は内耳道で並走するため、炎症が波及して内耳症状を伴います。皮疹や内耳症状を伴わないBell麻痺には単純ヘルペスウイルス1型の関与が考えられており、両者を区別して理解することが重要です。治療は早期のステロイドと抗ウイルス薬の併用ですが、Bell麻痺より予後が不良で後遺症が残ることもあるため、皮疹が目立たない例も含めて耳の丁寧な観察で早く見抜くことが臨床では求められます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・40歳の男性。右耳痛と右顔面神経麻痺。 ・今朝から右難聴、耳鳴、軽い回転性めまい:蝸牛(聴覚)と前庭(平衡覚)の両方、すなわち内耳神経(第8脳神経)領域の障害を示す。 ・右外耳道入口部の皮疹:耳介・外耳道の帯状疱疹(小水疱)を示唆する。
診断へのプロセス
一側の「耳痛を伴う耳介・外耳道の皮疹」「末梢性顔面神経麻痺」「難聴・耳鳴・めまいなどの内耳症状」がそろっており、Ramsay Hunt症候群(耳性帯状疱疹)と診断できる。 Ramsay Hunt症候群は、過去の水痘罹患後に顔面神経の膝神経節(側頭骨内にある感覚神経節)に潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、加齢・疲労・免疫低下などを契機に再活性化して起こる。ウイルスによる炎症で顔面神経が狭い骨性の顔面神経管内で腫れて絞扼され、麻痺が生じる。炎症は近接する内耳神経にも波及し(内耳道で両神経は並走する)、感音難聴・耳鳴・めまいを伴う。耳介・外耳道の皮疹は、顔面神経の知覚枝が分布する領域に出現する帯状疱疹である。
設問の考え方
問われているのは原因ウイルスである。Ramsay Hunt症候群の病態(VZVの再活性化)を知っていれば正解を選べる。同じ末梢性顔面神経麻痺でも、皮疹や内耳症状を伴わないBell麻痺とは区別して覚える。
選択肢考察
- ×a. EBウイルス感染症
EBウイルス(Epstein-Barr virus)はヘルペスウイルス科に属し、主にB細胞に感染する。初感染では伝染性単核球症(発熱、咽頭扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増加)を起こし、上咽頭癌やBurkittリンパ腫とも関連する。伝染性単核球症の合併症としてまれに顔面神経麻痺を起こすことはあるが、耳介・外耳道の帯状疱疹や内耳障害を伴う病態は起こさず、本例の原因とは考えにくい。
- ×b. アデノウイルス感染症
アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、急性出血性膀胱炎、乳幼児の胃腸炎、咽頭炎・肺炎などの原因となる。神経節に潜伏して再活性化する性質はなく、顔面神経麻痺や耳の帯状疱疹を起こすことは通常ない。
- ×c. サイトメガロウイルス感染症
サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科に属し、先天感染では感音難聴、小頭症、脳室周囲石灰化などを起こし、先天性難聴の重要な原因である。免疫不全者では網膜炎、肺炎、腸炎などを起こす。しかし成人の耳介・外耳道の皮疹を伴う顔面神経麻痺の原因ではない。
- ×d. 単純ヘルペスウイルス感染症
単純ヘルペスウイルス(HSV)は三叉神経節や仙骨神経節などの感覚神経節に潜伏し、口唇ヘルペスや性器ヘルペスとして再発する。膝神経節に潜伏したHSV-1の再活性化はBell麻痺(原因不明とされてきた急性の末梢性顔面神経麻痺)の主要な原因と考えられており、顔面神経麻痺と無関係ではない。しかし、耳介・外耳道の帯状の皮疹と内耳症状を伴う本例の病像はRamsay Hunt症候群であり、その原因はHSVではなくVZVである。
- ○e. 水痘・帯状疱疹ウイルス感染症
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は初感染で水痘を起こしたのち感覚神経節に潜伏し、再活性化すると帯状疱疹を起こす。顔面神経の膝神経節で再活性化したものがRamsay Hunt症候群であり、耳介・外耳道の帯状疱疹(耳痛を伴う)、末梢性顔面神経麻痺、内耳神経障害(感音難聴、耳鳴、めまい)を三主徴とする。本例はこの三つをすべて満たしているため、原因はVZVと考えられる。
Ramsay Hunt症候群のまとめ
・原因:膝神経節に潜伏したVZVの再活性化。 ・三主徴:①耳介・外耳道の帯状疱疹(耳痛を伴う)、②末梢性顔面神経麻痺、③内耳神経障害(感音難聴、耳鳴、めまい)。 ・皮疹や内耳症状は麻痺より遅れて出たり、はっきりしなかったりすることがある。皮疹を伴わない場合をzoster sine herpete(無疹性帯状疱疹)と呼び、当初Bell麻痺と区別がつかないことがある。 ・所見:末梢性麻痺のため、額のしわ寄せができない、閉眼不全(兎眼)、口角下垂などがみられる。顔面神経の障害部位によっては味覚障害(鼓索神経)、聴覚過敏(アブミ骨筋神経)、涙液分泌低下(大錐体神経)を伴う。 ・診断の補助:血清VZV抗体価(ペア血清でのIgG上昇、IgM陽性)。 ・治療:できるだけ早期に副腎皮質ステロイドと抗ウイルス薬(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビル、アメナメビルなど)を併用する。閉眼不全がある場合は角膜保護(点眼・眼軟膏)を行う。 ・予後:Bell麻痺より完全回復率が低く、後遺症(病的共同運動、顔面拘縮、ワニの涙など)や難聴が残ることがある。
Bell麻痺との比較
・Bell麻痺:末梢性顔面神経麻痺の中で最も多い。主にHSV-1の再活性化が関与すると考えられている。皮疹や内耳症状を伴わず、自然治癒率が高い。治療の中心はステロイドで、重症例では抗ウイルス薬を併用することがある。 ・Ramsay Hunt症候群:VZVの再活性化。皮疹・内耳症状を伴い、予後はBell麻痺より不良。
中枢性と末梢性の顔面神経麻痺
額(前頭筋)は両側の大脳皮質から支配を受けるため、中枢性(核上性)麻痺では額のしわ寄せが保たれる。末梢性麻痺では額を含む顔面の半分全体が麻痺する。
POINT
・耳介・外耳道の帯状疱疹+末梢性顔面神経麻痺+内耳症状(難聴・耳鳴・めまい) → Ramsay Hunt症候群。 ・原因は膝神経節に潜伏したVZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)の再活性化。 ・Bell麻痺は主にHSV-1の関与が考えられており、皮疹・内耳症状を伴わない。 ・治療はステロイド+抗ウイルス薬を早期に。Bell麻痺より予後は不良。 ・末梢性麻痺では額のしわ寄せもできない(中枢性では保たれる)。
