StudyMed医師国家試験

MRSA・手洗い・カルバペネム―三つの報告が指し示す委員会はどこ?

第105回医師国家試験 C問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第105回 C問題 第18問

病院内のある委員会の様子を示す。 委員長  :これから委員会を開催します。まず,MRSAの分離状況について検査部から報告をお願いします。 検査部委員:1月はMRSAの感染率,罹患率とも前月までと比較して大きく上回っていました。 委員長  :それは好ましくない状況ですね。手洗いの状況はどうですか。看護部から報告をお願いします。 看護部委員:先月は手洗い実施の程度を表す消毒用アルコールの消費量が少なかったようです。さっそく手洗いを各部署に徹底させたいと思います。 委員長  :よろしくお願いします。抗菌薬の使用状況はどうですか。薬剤部から報告をお願いします。 薬剤部委員:先月はカルバペネム系抗菌薬の長期使用件数が増加していました。 委員長  :それは好ましくない状況ですね。広域抗菌薬の使用は最小限にとどめ,抗菌薬を適正に使用するよう,各部署への通知をお願いします。  この委員会の名称として考えられるのはどれか。

  1. a.倫理審査委員会
  2. b.病院運営委員会
  3. c.医療安全委員会
  4. d.環境保全委員会
  5. e.院内感染対策委員会

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は臨床医学の知識というより、病院という組織の仕組みを問う問題だ。会話の中で三つの部署がそれぞれ何を報告しているか、その共通点を拾えば答えにたどり着ける。まず、議題を整理してみようか。
医学生医学生
検査部がMRSAの分離状況、看護部が手洗いの状況、薬剤部が抗菌薬の使用状況を報告しています。全部、感染に関係している気がします。
ドクタードクター
いい整理だね。MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌で、入院患者に発症・伝播しやすい代表的な薬剤耐性菌だ。では、MRSAは主にどうやって院内で広がるか覚えているかな。
医学生医学生
微生物学の講義で、医療従事者の手指を介した接触感染が中心だと習いました。
ドクタードクター
その通り。だから手指衛生は対策の基本中の基本になる。看護部が報告していた消毒用アルコールの消費量は、手指衛生がどれだけ実施されているかを客観的に把握する指標として広く使われているんだ。
医学生医学生
アルコールの量で手洗いの頻度を見ているんですね。OSCEで手指衛生の手順は練習しましたが、病院全体でそういう測り方をしているとは知りませんでした。
ドクタードクター
面白いところだよね。そして薬剤部のカルバペネム系抗菌薬の長期使用。カルバペネムは最も広域なβラクタム系抗菌薬の一つだ。なぜ広域抗菌薬の長期使用が問題になると思う?
医学生医学生
感受性のある菌ばかりが死んで、耐性菌が生き残りやすくなるから、でしょうか。
ドクタードクター
そう、それが選択圧だ。加えてClostridioides difficile感染症などのリスクも高める。つまり、耐性菌の発生状況の監視、手指衛生の徹底、抗菌薬の適正使用という三本柱は、いずれも院内感染対策の中心的なテーマなんだ。だから答えは院内感染対策委員会になる。
医学生医学生
医療安全委員会と迷いました。院内感染も患者さんの安全に関わる問題ですよね。
ドクタードクター
迷うのはもっともだ。医療安全委員会は医療安全管理委員会とも呼ばれ、医療事故やヒヤリ・ハット事例を収集・分析して再発防止策を立てる場だ。医療法上、院内感染対策委員会と並んで設置が求められている委員会だけれど、感染症の発生状況や手指衛生、抗菌薬使用を専門的に扱うのは院内感染対策委員会のほうなんだ。
医学生医学生
倫理審査委員会は、臨床研究の計画を審査するところですよね。基礎配属で研究に参加したとき、申請書を出しました。
ドクタードクター
いい経験だね。倫理審査委員会は、人を対象とする研究について被験者の人権や安全、インフォームド・コンセント、個人情報保護などの観点から妥当性を審査する場だ。耐性菌の状況を議論するところではない。病院運営委員会は予算や人員配置、診療体制といった経営・管理全般を扱うので、これも合わない。
医学生医学生
環境保全委員会は、医療廃棄物の処理を扱うなら感染とも関係しそうですが。
ドクタードクター
確かに感染性廃棄物の処理は感染対策とつながる部分がある。でも環境保全委員会の主眼は廃棄物の適正処理、省エネルギー、二酸化炭素排出削減といった環境負荷の軽減だ。耐性菌の発生状況や抗菌薬の使用状況を扱う場ではないね。
医学生医学生
検査部・看護部・薬剤部という多職種が集まって、データを共有して各部署に改善を通知している。この組織横断的な形も感染対策らしいということですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、委員会の実働部隊も押さえておこう。ICT、つまり感染制御チームは医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師などで構成され、院内ラウンドやサーベイランス、アウトブレイク対応、職員教育を現場で担う。ASTは抗菌薬適正使用支援チームで、カルバペネム系や抗MRSA薬の使い方を監視し、薬剤選択や投与期間が適切になるよう主治医を支援する。委員会はこれらの報告を受けて病院としての方針を決めるんだ。
医学生医学生
臨床実習中、カルバペネムを使っている患者さんについてASTから主治医に連絡が来ていたのを見ました。あれがそうだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれだ。ちなみにMRSAの発生率が急に上がったら、アウトブレイクの可能性を考えて原因調査と対策強化に動く必要がある。今回の委員会で手洗いの徹底と広域抗菌薬の制限を同時に打ち出したのは、伝播を断つことと耐性菌を生み出さないことの両面から手を打つ、理にかなった対応なんだよ。
医学生医学生
研修医になったら、手指衛生と抗菌薬の選び方が病院全体の耐性菌の状況につながっていると意識します。

まとめ

MRSAなどの耐性菌の分離状況(サーベイランス)、手指消毒用アルコール消費量で評価する手指衛生の遵守状況、カルバペネム系など広域抗菌薬の使用状況は、いずれも院内感染対策委員会の代表的な議題です。MRSAは主に医療従事者の手指を介した接触感染で広がり、広域抗菌薬の長期使用は選択圧によって耐性菌を増やすため、手指衛生と抗菌薬適正使用が対策の両輪となります。院内感染対策委員会は医療法で病院・有床診療所に設置が義務づけられており、現場ではICT(感染制御チーム)とAST(抗菌薬適正使用支援チーム)が実働を担います。医療安全委員会はインシデントの分析と再発防止、倫理審査委員会は研究計画の審査、病院運営委員会は経営・運営方針、環境保全委員会は廃棄物処理や環境負荷の軽減を扱う点と区別しておきましょう。個々の医師の日々の手洗いや抗菌薬選択が病院全体の感染管理につながることを理解するのは、チーム医療の一員として働くうえでの基本です。

解答・解説

正解はeです

会話の内容の整理

本問の委員会で取り上げられている議題は次の3つである。 1. 検査部:MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の分離状況。当月は感染率・罹患率が前月までより大きく上昇している。 2. 看護部:手洗いの実施状況。その指標として、手指消毒用アルコールの消費量が少なかった。 3. 薬剤部:抗菌薬の使用状況。カルバペネム系抗菌薬(最も広域なβラクタム系抗菌薬の一つ)の長期使用が増えている。

どの委員会かを考える

MRSAは、入院患者に発症・伝播しやすい代表的な薬剤耐性菌であり、主に医療従事者の手指を介した接触感染で広がる。そのため、院内での耐性菌の発生状況の監視(サーベイランス)、手指衛生の徹底、広域抗菌薬の不必要な長期使用の抑制(抗菌薬適正使用)は、いずれも院内感染対策の柱である。 検査部(微生物検査による耐性菌の検出状況)、看護部(手指衛生の遵守状況)、薬剤部(抗菌薬の使用量)という多職種から報告を受け、各部署に改善策を通知している点も、院内感染対策を組織横断的に担う委員会の典型的な運営の姿である。 以上から、この委員会は院内感染対策委員会であると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  倫理審査委員会

    人を対象とする医学系研究(臨床研究、疫学研究、治験など)の計画について、被験者の人権・安全、インフォームド・コンセント、個人情報の保護などの倫理的・科学的な妥当性を審査する委員会である。院内の耐性菌の発生状況や手指衛生、抗菌薬の使用状況を議論する場ではない。

  2. ×b.  病院運営委員会

    病院全体の経営・管理に関する事項(予算・決算、人員配置、診療体制、今後の運営方針など)を協議する委員会である。個々の感染症の発生状況や感染防止策を専門的に検討するものではなく、本問の議題とは合わない。

  3. ×c.  医療安全委員会

    医療安全管理委員会とも呼ばれ、医療事故やヒヤリ・ハット(インシデント)事例の収集・分析、再発防止策の立案、職員研修などを通じて患者の安全を確保する委員会である。医療法上、院内感染対策委員会とともに病院に設置が求められる委員会であり、院内感染も広い意味では患者安全に関わるが、感染症の発生状況・手指衛生・抗菌薬使用を専門的に扱うのは院内感染対策委員会である。

  4. ×d.  環境保全委員会

    施設から排出される廃棄物(医療廃棄物を含む)の適正処理、省エネルギー、二酸化炭素排出量の削減など、環境負荷の軽減を検討する委員会である。感染性廃棄物の処理は感染対策とも関係するが、耐性菌の発生状況や抗菌薬の使用状況を扱う場ではない。

  5. ○e.  院内感染対策委員会

    院内で発生する感染症の状況を把握し、その予防・拡大防止策を決定する委員会である。本問で報告されているMRSAの分離状況(耐性菌サーベイランス)、手指消毒用アルコール消費量(手指衛生の遵守状況の指標)、カルバペネム系抗菌薬の長期使用(抗菌薬適正使用の評価)は、いずれも院内感染対策委員会の中心的な議題である。医療法により病院および有床診療所には設置が義務づけられている。

医療機関に求められる安全管理体制

医療法とその施行規則により、病院・有床診療所には、医療安全管理体制と並んで院内感染対策の体制整備が義務づけられている。院内感染対策としては、主に次の事項が求められる。 ・院内感染対策のための指針の策定 ・院内感染対策委員会の開催(病院・有床診療所) ・職員研修の実施 ・感染症の発生状況の報告と、それに基づく改善策の実施

実働組織:ICT と AST

・ICT(Infection Control Team、感染制御チーム):医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師などで構成され、院内ラウンド、サーベイランス、アウトブレイク(集団発生)への対応、職員教育などを現場で実施する。 ・AST(Antimicrobial Stewardship Team、抗菌薬適正使用支援チーム):広域抗菌薬(カルバペネム系など)や抗MRSA薬の使用状況を監視し、適切な薬剤選択・投与量・投与期間となるよう主治医を支援する。 委員会はこれらのチームからの報告を受け、病院としての方針を決定する役割を担う。

本問の議題と院内感染対策の関係

・MRSAの分離状況:耐性菌のサーベイランス。発生率の急な上昇はアウトブレイクの可能性を示し、原因調査と対策強化が必要になる。 ・手指衛生:MRSAを含む多くの院内感染は医療従事者の手を介して伝播するため、標準予防策(スタンダードプリコーション)の基本である。アルコール製剤の使用量は、遵守状況を客観的に把握する指標として広く用いられる。 ・抗菌薬適正使用:広域抗菌薬の長期使用は、感受性菌を減らして耐性菌を選択的に生き残らせる(選択圧)ほか、Clostridioides difficile 感染症などのリスクも高める。

主な院内委員会の役割

・倫理審査委員会:研究計画の倫理的・科学的妥当性の審査 ・病院運営委員会:経営・運営方針の決定 ・医療安全(管理)委員会:医療事故・インシデントの分析と再発防止 ・院内感染対策委員会:感染症の発生状況の把握と予防策の決定 ・環境保全委員会:廃棄物処理、省エネルギー、環境負荷の軽減

POINT

・MRSAの分離状況、手指衛生(アルコール消費量)、抗菌薬(特に広域抗菌薬)の使用状況は、院内感染対策委員会の代表的な議題である。 ・病院・有床診療所には院内感染対策委員会の設置が医療法で義務づけられている。 ・実働部隊として ICT(感染制御チーム)と AST(抗菌薬適正使用支援チーム)がある。 ・手指衛生は接触感染対策の基本であり、広域抗菌薬の乱用は耐性菌を増やす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。