StudyMed医師国家試験

つまんだ皮膚が戻らない―ツルゴールで読み解く脱水のサイン

第105回医師国家試験 C問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第105回 C問題 第1問

脱水の診断に有用な所見はどれか。

  1. a.体温の低下
  2. b.呼吸数の減少
  3. c.心雑音の出現
  4. d.肺肝境界の上昇
  5. e.皮膚緊張度の低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脱水を身体診察でどう見抜くかという問題だ。着眼点はシンプルで、「体の水が減ると、体のどこに何が起きるか」を考えること。選択肢の中から、水分が減ったことで直接生じる所見を探してみよう。
医学生医学生
脱水というと、口が渇くとか、尿が少ないとか、そういうイメージがあります。
ドクタードクター
いいね。脱水の所見は大きく二つの方向から考えると整理しやすい。一つは組織の水分が減る所見、もう一つは循環血液量が減る所見だ。前者には皮膚や粘膜の乾燥、皮膚の張りの低下、乳児なら大泉門の陥凹、眼球の陥凹がある。後者には頻脈、起立性の血圧低下、毛細血管再充満時間の延長、尿量減少などがある。
医学生医学生
そうすると、皮膚緊張度の低下は前者ですね。OSCEの練習で、手の甲の皮膚をつまんで戻りを見る手技をやった気がします。
ドクタードクター
それがツルゴール、つまり皮膚緊張度の評価だ。手背や前腕、前胸部などの皮膚をつまんで離したとき、健康な人ならすぐに戻る。脱水では皮下の間質液が減って弾力が失われるので、皺がしばらく残る。これが脱水の代表的な身体所見で、今回の正解になる。
医学生医学生
逆に、体温の低下はどうでしょう。水が減ると体が冷えるような気もしたのですが。
ドクタードクター
そう考える人もいるけど、脱水そのものに特徴的な体温低下はないんだ。むしろ発熱は、皮膚や気道から自覚なく失われる水分、つまり不感蒸泄を増やすし、だるくて飲水量も減るから、脱水の原因や増悪因子になる。高齢者の熱中症のように、脱水と高体温が並ぶ場面のほうが臨床ではよく出会うね。
医学生医学生
呼吸数の減少も違いそうですね。重症になると、逆に呼吸が速くなるんでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。重症脱水では循環不全や代謝性アシドーシスが起き、それを代償するために呼吸数はむしろ増える。小児の重症脱水で深く速い呼吸がみられるのはそのためだ。呼吸が速くなれば気道からの不感蒸泄も増えて、さらに脱水が進むという悪循環にもなる。
医学生医学生
心雑音はどうですか。循環血液量が減ると心臓にも影響が出そうですが。
ドクタードクター
脱水で出る循環器の所見は、頻脈、脈の減弱、血圧低下、頸静脈の虚脱といったものだ。新たな心雑音は弁膜症や先天性心疾患、あるいは貧血・発熱・甲状腺機能亢進症のような心拍出量が増える状態での機能性雑音で聴かれることが多く、脱水の診断所見としては使わない。
医学生医学生
肺肝境界は、診断学の講義で打診を習ったときに出てきました。右鎖骨中線上で共鳴音が濁音に変わる位置ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。通常は第5〜6肋間あたりにある。これが上昇するのは横隔膜が持ち上がっているときで、腹水や高度の鼓腸、妊娠などで腹腔内圧が上がった場合、右肺の無気肺、横隔神経麻痺などで起こる。逆に肺気腫のような肺の過膨張では下降する。脱水とは関係しない所見だ。
医学生医学生
結局、水が減ったことで直接起きる所見は皮膚緊張度の低下だけ、ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。ここから発展知識も押さえておこう。まず注意点として、高齢者は加齢で皮膚の弾力が落ちているから、ツルゴールが偽陽性になりやすい。口腔粘膜や舌、腋窩の乾燥など、他の所見と組み合わせて判断することが大切だ。
医学生医学生
臨床実習の総合診療科で、指導医の先生が高齢の患者さんの腋窩を触って乾いているかを確認していたのは、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。検査所見では、尿比重の上昇、BUN/クレアチニン比の上昇、ヘマトクリットや総蛋白の上昇といった血液濃縮の所見が参考になる。それから脱水には病型があって、水の喪失が主体の高張性脱水は血清Na高値で口渇が強く、Naの喪失が主体の低張性脱水は細胞外液が大きく減るから頻脈や血圧低下、ツルゴール低下などの循環不全所見が目立つ。
医学生医学生
低張性のほうが口渇は目立たないのに、循環の所見は強く出るんですね。見逃さないようにしないと。
ドクタードクター
その通り。小児は体重あたりの水分必要量が多くて脱水になりやすいから、体重減少率で重症度を評価することも覚えておこう。つまむ、触る、測るという基本の診察が、脱水の早期発見に直結するんだ。

まとめ

脱水の身体所見は、組織の水分が減ることによる所見(皮膚・粘膜の乾燥、皮膚緊張度の低下、眼球陥凹、乳児の大泉門陥凹)と、循環血液量が減ることによる所見(頻脈、起立性低血圧、毛細血管再充満時間の延長、尿量減少)に分けて整理できます。皮膚をつまんで離したときに皺がすぐ戻らないツルゴールの低下は、その代表的なサインです。一方、発熱や呼吸数の増加は不感蒸泄を増やして脱水を悪化させる要因であり、心雑音や肺肝境界の上昇は脱水の診断には用いられません。高齢者ではツルゴールが加齢で低下しやすいため口腔粘膜や腋窩の乾燥などと合わせて評価し、高張性・低張性といった病型の違いも意識することが大切です。基本的な身体診察で脱水を見抜く力は、救急から在宅医療まであらゆる場面で役立ちます。

解答・解説

正解はeです

テーマ

脱水とは、水分摂取の不足や、尿・汗・下痢・嘔吐などによる喪失の増加によって体液(とくに細胞外液)が欠乏した状態である。本問は、身体診察で脱水を示唆する所見を問うている。

脱水で生じる身体所見の考え方

体液が減ると、次の二つの方向から所見が現れる。 1.組織の水分が減る所見:皮膚・粘膜の乾燥(口腔粘膜、舌、腋窩)、皮膚緊張度(ツルゴール、skin turgor)の低下、乳児では大泉門の陥凹、眼球の陥凹、涙の減少。 2.循環血液量が減る所見:頻脈、起立性の血圧低下・脈拍増加、毛細血管再充満時間(CRT: capillary refill time、爪床を圧迫して離したあと色が戻るまでの時間)の延長、尿量減少。重症では脈が速く弱くなり、血圧低下、意識障害、ショックに至る。 したがって、選択肢の中から「体の水分が減ったことで直接起こる所見」を選べばよい。体温・呼吸数の変化や心雑音、打診上の肺肝境界は、脱水を診断する所見としては用いられない。

選択肢考察

  1. ×a.  体温の低下

    脱水そのものに特徴的な体温変化はない。むしろ発熱は、発汗や呼気からの不感蒸泄(自覚されずに皮膚・気道から失われる水分)を増やし、倦怠感による飲水量の低下も招くため、脱水の原因や増悪因子となる。高齢者の熱中症のように脱水と高体温が並存することはあるが、体温の低下が脱水の診断に役立つ所見ではない。

  2. ×b.  呼吸数の減少

    脱水で呼吸数が減ることはない。重症脱水では循環不全や代謝性アシドーシスを代償するために呼吸数はむしろ増加する(小児の重症脱水では深く速い呼吸がみられる)。また、呼吸数が増えると気道からの不感蒸泄が増え、脱水を悪化させる要因にもなる。

  3. ×c.  心雑音の出現

    脱水による循環器系の所見は、頻脈、脈の減弱、血圧低下、頸静脈の虚脱などであり、心雑音は脱水の診断所見ではない。新たな心雑音は弁膜症や先天性心疾患のほか、貧血・発熱・甲状腺機能亢進症などの高心拍出状態で生じる機能性(無害性)雑音で聴取される。

  4. ×d.  肺肝境界の上昇

    肺肝境界は、胸部の打診で共鳴音(肺)が濁音(肝)に変わる位置であり、右鎖骨中線上でおよそ第5〜6肋間にある。境界の上昇は横隔膜の挙上を示し、腹水・高度の鼓腸・妊娠などによる腹腔内圧上昇、右肺の無気肺、横隔神経麻痺、横隔膜下膿瘍などでみられる。逆に下降は肺気腫など肺の過膨張で生じる。脱水とは関係しない。

  5. ○e.  皮膚緊張度の低下

    皮膚緊張度(ツルゴール)は、手背・前腕・前胸部・腹壁などの皮膚をつまみ上げて離したとき、皮膚がすぐ元に戻るかどうかで評価する。脱水では皮下の間質液が減って皮膚の弾力が失われるため、つまんだ皺がすぐに戻らず、しばらく残る(ツルゴールの低下)。軽度の脱水では口腔粘膜のわずかな乾燥程度にとどまるが、中等度以上になるとツルゴール低下が明らかになり、さらに重症では涙の欠乏などもみられる。脱水の代表的な身体所見である。なお高齢者では加齢による皮膚の弾力低下で偽陽性となりやすく、口腔粘膜・腋窩の乾燥など他の所見と合わせて判断する。

脱水の病型

・高張性(水欠乏性)脱水:水の喪失が主体。血清Na高値。口渇が強く、細胞内脱水による精神症状(興奮・意識障害)が出やすい。飲水できない高齢者、発熱、尿崩症など。 ・低張性(Na欠乏性)脱水:Naの喪失が主体。血清Na低値。細胞外液が大きく減るため、血圧低下・頻脈・ツルゴール低下など循環不全の所見が強い。口渇は目立ちにくい。嘔吐・下痢で失った分を水だけで補った場合など。 ・等張性脱水:水とNaが同じ割合で失われる。急性の下痢・嘔吐・出血など。

脱水を示唆する所見のまとめ

・身体所見:口腔粘膜・舌・腋窩の乾燥、ツルゴール低下、眼球陥凹、大泉門陥凹(乳児)、CRT延長(2秒超)、頻脈、起立性低血圧、重症では血圧低下・意識障害・四肢冷感。 ・検査所見:尿量減少と尿比重上昇、BUN/クレアチニン比の上昇(20以上が目安)、ヘマトクリット・総蛋白の上昇(血液濃縮)、尿中Na低値(腎外性喪失の場合)。

小児の脱水

小児は体重あたりの水分必要量が多く、脱水になりやすい。体重減少率で重症度を評価し、おおむね軽症3〜5%未満、中等症5〜10%、重症10%以上とされる。

POINT

・脱水の代表的な身体所見は、皮膚緊張度(ツルゴール)の低下と、口腔粘膜・舌・腋窩の乾燥である。 ・循環血液量減少の所見として、頻脈、起立性低血圧、CRT延長、尿量減少がみられる。 ・発熱や呼吸数の増加は不感蒸泄を増やし、脱水の原因・増悪因子となる。 ・肺肝境界の上昇は横隔膜の挙上(腹水など)を示す所見であり、脱水とは無関係である。 ・高齢者ではツルゴールが加齢で低下しやすいので、ほかの所見と合わせて評価する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。