夜中に突然、手足が動かない―若い男性の周期性四肢麻痺は「甲状腺」を疑え
第105回医師国家試験 B問題 第9問
国試問題にチャレンジ
日本人若年男性の周期性四肢麻痺で最も高頻度に異常値がみられるのはどれか。
- a.成長ホルモン
- b.抗利尿ホルモン
- c.甲状腺ホルモン
- d.副甲状腺ホルモン
- e.副腎皮質ホルモン
対話形式の解説
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医学生まとめ
周期性四肢麻痺は血清カリウムの変動に伴って弛緩性の四肢麻痺を発作的に繰り返す病態で、低カリウム血症性が最多です。日本を含む東アジアの若年男性では甲状腺中毒症(主にBasedow病)に伴うものが最も多く、Basedow病自体は女性に多いにもかかわらず、麻痺を合併するのは圧倒的に男性という特徴があります。機序は甲状腺ホルモン・β刺激・インスリンによるNa+/K+-ATPaseの活性化でカリウムが細胞内へ移動することで、総カリウム量は保たれているため、補充しすぎると反跳性高カリウム血症に注意が必要です。治療はβ遮断薬と甲状腺機能の正常化が柱で、高炭水化物食や飲酒、運動後の安静といった誘因の回避も重要です。原発性アルドステロン症も鑑別に挙がりますが、若年男性の周期性四肢麻痺をみたら、甲状腺中毒症状が乏しくても必ず甲状腺機能を確認する姿勢が臨床で役立ちます。
解答・解説
正解はcです
周期性四肢麻痺とは
周期性四肢麻痺は、血清カリウム(K)値の変動に伴って、四肢の弛緩性の筋力低下・麻痺が発作的に起こり、数時間〜数日で回復することを繰り返す病態である。意識障害や感覚障害は伴わず、呼吸筋や脳神経支配筋は通常保たれる。発作時の血清K値によって低K血症性(最も多い)、高K血症性などに分けられ、さらに遺伝性の一次性(家族性)と、他疾患に伴う二次性がある。
日本人若年男性で最も多い原因
日本を含む東アジアでは、低K血症性周期性四肢麻痺の原因として甲状腺中毒症(主にBasedow病)に伴うもの(甲状腺中毒性周期性四肢麻痺)が最も多い。Basedow病自体は女性に多いが、周期性四肢麻痺を合併するのは圧倒的に男性に多く、20〜40歳代の若年〜壮年男性が典型である。したがって、日本人若年男性の周期性四肢麻痺で最も高頻度に異常値を示すのは甲状腺ホルモン(遊離T4・遊離T3の高値、TSHの抑制)である。
発症機序
甲状腺ホルモンは骨格筋細胞膜のNa+/K+-ATPase(ナトリウム-カリウムポンプ)の発現・活性を高める。さらに甲状腺中毒症では交感神経β受容体を介する作用が亢進しており、食後のインスリン分泌やカテコラミンもこのポンプを活性化する。その結果、細胞外のKが急速に細胞内へ移動し、低K血症が生じて筋の興奮性が低下し麻痺に至る。体内の総K量が失われるのではなく、細胞内外の分布が変わる(細胞内シフト)ことが本態である。筋細胞の内向き整流性Kチャネル(Kir2.6)の遺伝子変異など、体質的素因の関与も報告されている。
誘因
炭水化物の多い食事(インスリン分泌を促す)、多量の飲酒、激しい運動後の安静、ストレスなどを契機に、夜間〜早朝に発作が起こりやすい。
選択肢考察
- ×a. 成長ホルモン
成長ホルモンの過剰(先端巨大症)や欠乏は、筋力低下などを来すことはあるものの、血清K値の急激な変動による発作性の四肢麻痺の原因にはならない。周期性四肢麻痺との関連は乏しい。
- ×b. 抗利尿ホルモン
抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)の異常は主に水代謝と血清ナトリウム値に影響する。過剰(ADH不適合分泌症候群:SIADH)では低Na血症、欠乏(中枢性尿崩症)では多尿・高Na血症傾向となる。低Na血症は意識障害やけいれんの原因となるが、低K血症による周期性四肢麻痺とは関係しない。
- ○c. 甲状腺ホルモン
日本人を含む東アジアの若年男性における低K血症性周期性四肢麻痺の原因として最も多いのは甲状腺中毒症、特にBasedow病である。甲状腺ホルモンがNa+/K+-ATPaseの活性を高め、インスリンやβ受容体刺激の作用が加わることでKが細胞内へ移動し、低K血症から弛緩性麻痺が起こる。甲状腺中毒症状(動悸、体重減少、発汗など)が目立たないこともあるため、若年男性の周期性四肢麻痺では甲状腺機能(遊離T4・遊離T3・TSH)を必ず確認する。
- ×d. 副甲状腺ホルモン
副甲状腺ホルモン(PTH)の異常はカルシウム・リン代謝に影響する。原発性副甲状腺機能亢進症では高Ca血症により筋力低下・易疲労感、口渇・多尿などを来し、機能低下症では低Ca血症によりテタニーが起こる。いずれも血清K値の変動による周期性四肢麻痺とは病態が異なる。
- ×e. 副腎皮質ホルモン
副腎皮質ホルモンのうち鉱質コルチコイドであるアルドステロンの過剰(原発性アルドステロン症)では、腎からのK排泄が増えて低K血症を来し、低K血症性の四肢麻痺を起こすことがある。ただし原発性アルドステロン症は高血圧を契機に見つかることが多く、周期性四肢麻痺の原因としての頻度は甲状腺中毒症より低い。したがって「最も高頻度に異常値がみられる」ものとしては甲状腺ホルモンが優先される。
低K血症性周期性四肢麻痺の分類
・一次性(家族性):骨格筋のCaチャネル(CACNA1S)やNaチャネル(SCN4A)の遺伝子異常による常染色体顕性(優性)遺伝の疾患。欧米では比較的多い。 ・二次性:甲状腺中毒症(東アジアで最多)、原発性アルドステロン症、尿細管性アシドーシス、利尿薬、甘草(偽アルドステロン症)などによる。
甲状腺中毒性周期性四肢麻痺の特徴
・アジア人男性に多く、20〜40歳代に好発する。 ・発作は下肢の近位筋から始まることが多く、夜間〜早朝、炭水化物の多い食事や飲酒・運動後の安静を誘因とする。 ・発作時は低K血症だが、体内の総K量は保たれている(細胞内シフト)。 ・心電図では低K血症を反映してT波平低化、U波出現などを認める。
治療
・発作時:K製剤を投与するが、発作が治まると細胞内のKが細胞外へ戻るため、過剰投与は反跳性の高K血症を来しうる。少量で慎重に補正する。非選択的β遮断薬(プロプラノロール)は発作の改善・予防に有効である。 ・根本治療:甲状腺機能を正常化する(抗甲状腺薬、放射性ヨウ素内用療法、手術)。甲状腺機能が正常化すれば発作は起こらなくなる。 ・生活指導:高炭水化物食、過度の飲酒、激しい運動を避ける。
POINT
・日本人(東アジア)の若年男性の低K血症性周期性四肢麻痺の最多原因は甲状腺中毒症(Basedow病)である。 ・Basedow病は女性に多いが、周期性四肢麻痺の合併は男性に多い。 ・機序は甲状腺ホルモン・インスリン・β刺激によるNa+/K+-ATPase活性化で、Kが細胞内へ移動することである(総K量は正常)。 ・誘因は高炭水化物食、飲酒、運動後の安静。治療はK補充(反跳性高K血症に注意)、β遮断薬、甲状腺機能の正常化。 ・原発性アルドステロン症も低K血症性麻痺の原因となるが頻度は低い。
